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青い鳥はすぐそこに…

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最後です。


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当てもなく歩いて、整備された公園のような広場が見えた。
子供たちが駆け回ってて、大人が談笑しながら遊歩道のようなところを歩いてる。公園というには広い広場的な感じだな。木立ち。緑がいっぱいだな。
入って暫くすると水音が聴こえてきて、それが噴水の音だと思ったら実物が見えてきて実感した。
いつかテレビでみたヨーロッパの庭園と芝生が広がってる様子にアメリカとかの広場のような公園だと思った。

緑は心を落ち着かせてくれる。

暫く奥へ歩みを進める。

白いベンチが見えた。座り込む。
よく見るともう少し向こうに別の感じのベンチがある。定期的に作り替えられてるのかも知れない。作る度に意匠が変わるのは面白いと思った。

凭れ掛かりながら、空を見上げる。
『ジュラさん、何処?』
糸電話が切れてるので、呼び掛けても返ってくる訳でもない。

近くの診療所的なところで訊いてみるかなぁ。その辺の人を捕まえて、訊けばいいか…。
この世界は基本的の親切で優しく平和だ。

暫く歩いていてもゴミも無いし、目が合えば挨拶してくれる。
大きな街なのに。

空の色がジュラさんを思い出させる。
手に魔素を集めて小鳥を作った。
1羽、2羽……ポン、ポン…とほぼ無意識に作り続けていた。
頭の上、肩に、腕に、膝に、青い小鳥で埋もれてしまった。

うーーーーーーッ!
身体が微妙に重い。イラッとした。

パッと両手を振り上げた。

パッパーーーッと小鳥が飛び上がる。
「行け! ジュラさんを探して!」
イラつきをそのまま押し付けた。
『会いたいぞーーーーーーッ!!!!!』
一斉に飛び立つ青い小鳥たち。

近くにいた子供たちの歓声が上がる。

青い空の小鳥たちが散っていった。

『ここに連れてきて、もしくは、居場所を教えて』
会いたい一心で飛び去って行った空を見上げた。

腹減ったなぁ。
金持ってねぇ。外に出たいとは言ったけど。ポンと放り出されたけど。コレってどういう扱い???

ある意味キッパリと『会いたい人がいるので』って言ったら行き先決まってると思われただろうなぁと振り返り思ったが、後の祭りである。文無しの無計画なんて思われないよなぁ。俺、自信満々に言い切っちゃったし。

お茶菓子しっかり食べたから、ここまでは大丈夫だったけど、どうしようかなぁ。疲れちゃった…。
運動してなかったんだから、当たり前の現状。アレは搾り取られてただけで、運動には当てはまらないからね。



肌寒さに目を覚ました。
ベンチで横になって思いっきり寝てました。
空の雲がほんのり赤み掛かってます。
さっきまで青空だった気がします。

欠伸が出ます。
まだ寝足りない気分です。治安も良さそうですし、もうひと眠りしても良いでしょうか…。
背中が痛いのと少し寒い以外は別段困りません。とても眠いです。このところの搾取で疲れ切ってました。殿下と話してる前後は何だか気が張り切ってましたが、反動ですかね…。気力が沸いてきません。ゴロっと横に向いて、身体を小さくします。
少しでも体温が奪われないように…。

噴水が薄い赤い煌めきを散らしてます。夕闇が星を連れてきています。
ゆっくり目を閉じます。次に目が覚めたら、探しに行こう……そうしよう。……今は休みたい。

スーッと眠りに誘われたところで、甘い香り…の中に求めてる香りを見つけた。



瞼に光が染み込んでくる。
公園での夜明けか。俺野宿しちまったよ……。
硬いベンチで自然の中での目覚め…。

ん? 背中痛くないんですが、むしろあったかいというか、誰かが背中に居るんですが……。

誰か?!

ガバッと起きて後ろを振り返る。
匂いで分かってはいるつもりでもまさかと思ってしまう訳で。

「ジュラ、さん…」
ジュラさんが眠そうにしてます。
部屋のカーテンが半開きで、朝日が眩しく部屋を満たしてます。

「フミ…もう少し寝ましょう。運ぶの大変でした」
手が絡んできて、抱き寄せられます。
逆らうのをやめて力に従い胸に顔を埋めます。ジュラさんの匂いです。
ジュラさんに、『唯一』の話をしないといけません。でも、スースーと寝息を聞いてるとどうでもいいような気がしてきて、一緒に寝てしまいました。

鳥の囀りに目を覚ますとベッドでひとり。
起き上がって、光景に驚き。次に笑いが込み上げてきました。
部屋の中に青い小鳥がいっぱいです。
俺のところに帰らずに、お前らはここで何してんだ。

扉が開き、紙袋を抱えたジュラさんが戻ってきました。匂いから食べ物です。どこかで軽食を買ってきてくれたようです。
ここはジュラさんが泊まってる部屋といったところでしょうか。
小鳥が我先に飛んでいき群がってます。ジュラさん人気者です。

「フミが送ってくれた小鳥さん……嬉しくて…」
顔を赤くして、言葉を濁して、何も言ってくれず、小鳥を撫でて、テーブルに紙袋の中身を並べてます。

パンと手を叩き、青い小鳥を一斉に一瞬で消しました。
こんなに居たらちょっと鬱陶しいですからね。

ジュラさんが、驚いた顔で俺を見て、苦しそうに表情で何か言おうとして下を向いてしまいました。
何か悪い事をしてしまったのでしょうか。
不思議に思いながら、ベッドを降りると、テーブルの上に赤い花を咥えた小鳥が羽ばたき降りてきました。

おや、この子は残ってましたか。

指を出すと、産みの親を無視して飛び立ち、ジュラさんの肩に乗って、花を髪の挿してます。

俺もした事ない事しやがった!

喉を撫でられ、ご機嫌の小鳥。何だか嫉妬です。

「あなたの気持ちが嬉しかった。あんなにいっぱいの…好き、を送られて…心が動かない人が居たら、私は、知りたい」

「へ?」

「あなたが。もう自分に嘘は付きたくないです」
きっと顔が上がった。
うっすら涙で濡れた目が光でキラキラしてる。目が離せなかった。
「あなたが好きです」

ジュラさんとの間に壁がなくなってるのを感じた。
ゆっくりジュラさんに近づいた。
そっと抱きしめた。
顔を肩口に埋めてしまったが、コレでいい。だって、恥ずかしくて、これ以上見つめられなかった。

「俺も好きです」

「いっぱいの想いを、ありがとう…」
俺は大量のラブレターをジュラさんに送りつけてたんだと思い至った。
花を咥えた小鳥が飛んでる。暫くすると花が復活するのか?
テーブルに小さな籠があった。赤い小花がたくさん入ってる。

『いっぱいの想い』

こっちか!
この花がジュラさんの壁を…?
小鳥が俺の手に花を落とすと消えた。
魔素が形作る程の量がなくなったのだ。
心の中で礼を言った。

「ジュラさん、コレが最後の花」
手に乗せた花を見せる。
俺の手ごと花を見つめてる。周りを探してる。
「俺がいるから、許して?」
花を髪に挿した。小鳥たちが消えて寂しかったのだろうか。

「綺麗。ジュラさん、キスしていい?」

返事を待たずに、顎に手を添えた。
そっと目が閉じられた。コレが返事なのだろう。
ゆっくり唇を合わせる。

甘い、甘い香りと味が広がる。
全てがガッチリ嵌った。
ジュラさんが『唯一』だ。
ジュラさんも分かったのだろう。
絡める舌が積極的に動き出した。

全てが満たされていく。整えられていく感覚。

二人が離れた時間を埋めるように、息もつかせぬ甘い口付けはいつまでも続いた。




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