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花火のあの時
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強姦シーンがあります。
苦手な方は回避お願いします。
ーーーーーーー
夏祭り。
屋台が所狭しと並び、人が行き交い混み合っていた。
先輩がきゅっと手を握ってくれる。
嬉しくて、嬉しくて、オレも握り返す。
人混みがオレを大胆にさせていた。
恋人繋ぎをした。指を絡めて、きゅっと握る。
見上げると先輩が、ちょっと困り顔だったけど、笑っていた。幸せだった。いつまでもこんな時間が続けばいいのに……。
オレは浴衣で来た。
足元は下駄で行きたかったのだが、試し履きして早々に断念した。長時間履けない。スニーカーだけど、気にしない。
先輩は、ポロシャツにスラックスの洋服。
遠出のデート。
ここまで来たら知り合いに会う事もないだろう。
ホテルに行っちゃったり?なんて妄想で顔が赤くなったりしてる。
オレ、悪い子です。
先輩とそういう事したくて、付き合い始めた頃から少しずつ頑張って広げた。今日だって、解してナカにローションを入れて来ちゃったりしてます。
先輩、引いちゃったりするだろうか。
キスは済んでます。
隙さえあれば、キスしてます。
身体の触りっこだってしてる。
だから、だから…期待しても、いいよね?!
ちょっとナカがズクんと疼いて、思わず先輩にくっついちゃった。
もうすぐ花火が始まる。
先輩が肩を引き寄せて、離れないように誘導してくれてたんだけど、手を離したのが不味かった。ドンと人にぶつかって離れ離れ。
頑張ったけど、小柄なオレではもう合流は難しく……。
息苦しさから、人混みから離れるように脇道に入った。
浴衣を整え、人の流れを呆然と見ていたら、巾着の中のスマホが振動してた。
先輩だった。
人の流れから、今から帰るのは難しいから、離れてるけど、花火を見る事にした。
場所は別々だけど、同じ花火を観れる喜びに心臓が喧しい。
ふと見上げると遊歩道?柵があって道のようなのがある。少し高台になった公園の遊歩道のようだった。
小柄なオレだったら、列の流れが緩やかになった今ならあそこまで行けるかも。
ここだったら、人の頭ばかりで、肝心の花火が見えないかもしれない。
よし!と気合いを入れて出発。
漸く到着出来た時、始まりの花火が打ち上がったところだった。
先輩から電話。
見える?と聞かれて、見えるとウソなく答えられて嬉しかった。
ほとんど声は聞こえなかったけど、時々聞こえる声に一緒のいるような気分で花火を観ていた。
爆音と振動に少し寂しく思ってると、不意に後方に引っ張られた。
煙草の臭いが鼻を擽ぐる。
大きな手が口を覆っていたのだ。
オレは、公園の木陰に引き摺り込まれていた。
木に押さえつけられ初めて襲われているのだと分かった。
後ろを見ようにも強い力に身体が動かない。
男の荒い鼻息が耳裏に頸にかかる。
カチャカチャとベルトを外してる音がしてるような気がする。
花火の打ち上がる音が何もかもを打ち消して、オレの声も。
側に落ちてるスマホは通話中。
先輩が聞いてる!
助けてと叫んでたが、浴衣の後ろをたくし上げられ尻を触られて、息を飲み。声を飲んだ。
先輩に聞かれたくない!
きゅっと目を閉じていた。
もう何も見たくなかった。
オレの尻が外気に晒されて、割れ目を開かれ、指が突っ込まれた。
突っ込んだ指がピタリと止まったと思ったら、すぐに引き抜かれた。
すぐに、ビクビクと波打つ熱い物が、穴にピッタリと突き付けられた。
先輩のじゃない物にヤられてしまう。
泣けてきた。
ポロポロと泣いていたが、後ろの男はお構いなしで、突っ込んできた。
先輩の為に準備してきたのに、どこの誰かも分からない男に!
優しさの欠片もない乱暴な欲望のままの激しさで突き上げてくる。
「あ、うぐぅゔぅぅ……ゔぁぐ…」
突き上げられる度に、押し出されるオレの情けない声は、花火と歓声で掻き消される。
揺すられる身体はただただ翻弄され、叩きつけられる凶暴性に耐えていた。
嵐が過ぎ去るのをじっと耐えるように、声を噛み殺し耐えて…。
突如、揺すられる身体に、変な感覚が湧いてきた。
自分で信じられない事に首を激しく横に振った。否定したい。
オレの前が勃ってる。射精したがってる。
いつまで続くのか分からなく、射精欲求に益々訳が分からなくなっていると、男の腕が目の前にあるのに気づいた。
思いっきり噛み付いた。
男はそんな事関係ないのか、腰を振って欲望を吐き出した。
ずるりと肉杭が抜ける。
拘束していた腕を緩められた。
オレは支えがなくなったと同時にずるずると、崩れ落ちた。
男は身支度を整えると、立ち去った。
耳元で最後『淫乱』と言った声がオレの脳裏から離れなかった。
木の根元に暫く蹲っていたが、ゆるゆると立ち上がると、泣きながら浴衣を整え、公園の水道で顔や手についた土を流す。
拾って巾着に入れてたスマホを取り出すと、メッセージアプリを立ち上げる。
『帰ります。もう会えません。別れて下さい。さようなら』
先輩に送る。
ベランダから遠くに閃く花火を眺めていた。
缶ビール片手にぼんやり手摺りに凭れて見ていた。
ビー玉サイズの花火は綺麗だった。
遅れて雷鳴のような音が響いてくる。
遠く離れたこんな場所まで届く音。
煙草の香り。
今はオレが吸っている。
春を売ってる。
『淫乱』
言葉の呪縛。
いや、オレの本性だっただけかもしれない。
あの後、暫くして先輩に捕まった。
逃げ回っていたオレだったが、顔を合わせると好きだと改めて思い知らされて辛くて、泣きじゃくってしまった。
先輩は終始謝っていた。なんとなく分かったんだと思う。付き合おうとも言われたが、辛いからとお願いして別れた。
遠い思い出。
スマホが鳴る。
「今日はお休みぃ」
『酔っててもいいから、来いよ』
客のひとりだった男。
個人の電話を抑えられて、掛けてきて、オレをいいように呼ぶ。
金は破格。もう働かなくてもいい感じだ。
オレの事を情夫だという。
囲ってるつもりかもしれない。
男を好きになって、この状況も受け入れていた。
なのに……。
腕の傷に気づかなかったら、良かったんだろうか。
こうするつもりで、あの時襲ったのだろうか。まさか。アレは突然だった。つけられてとかそんなのではない。
偶々、あそこにオレがいて、あの暴漢がいたってだけだ。
思い出した。
奥底に封じてた記憶。
煙草の臭いとあの声。
ケロイドで薄ら残る腕の傷。
あの古傷は……オレが……。
客だと割り切れたらいいのに。それが出来ない距離感。
彼は……気づいてるのだろうか。
「花火が見える」
答えてくれるだろうか……。
『ーーー淫乱』
ーーー知ってたのか。
「行くよ」
もう汚れた自分には、この男がお似合いなんだろう。
この男とだったら地獄に堕ちたっていい気分だ。
◇◇◇
立ち入り禁止の公園に入り込んで、花火見物をしようと煙草を燻らせつつ、ぼんやり空を見ていた。
病院の辛気臭い気分を吹き飛ばしたかった。
こんな遠いところの病院に入院しやがって、余命宣告受けてやがって、急に俺を呼びつけて。
なんだってんだ。
理不尽だと、勝手だと、周りの男たちに当たり散らして、飛び出てきた。
イライラと歩き続けて、住宅街の坂の上にひっそりあった公園に行き着いた。
公園の入り口に遊歩道の柵が壊れてるとか書いてあった。出入り口にロープも渡して公園自体を封鎖したようだ。ここにくるには徒歩しか来れないだろう。下の道路は封鎖されているし。
黒と黄色の縞模様のロープをくぐり中に入った。
端まで来て遊歩道があるのに気づいた。
下が騒がしい。
お祭りでもあるのだろうか。露天が並んでいる。人通りもある。
そういえば、ここへくる途中に町内会の掲示板か何かに『花火大会』とあったなと思い出していた。
もし別ルートでこの公園に入ってくるとしたら、ここから見えるが、遊歩道へ繋がる細い道だけだ。申し訳程度に柵があるが、アレも壊れてるのか、あるのかないのか分からない状態だ。
会場に向かう通りの人々は会場方向を見ていて、その小径に気付く者などいないだろう。
植え込みにしては、大きな木々の間を縫って遊歩道に出ようとしたら、駆け上がってくる人影に思わず木々に紛れ隠れた。
どどーんと花火が打ち上がった。
大輪の火の粉。
浴衣姿の男がひとり。
スマホで会話をしながら、花火を観ている。
乱れた浴衣を直しながら、通話してる姿に見惚れていた。
短くなった煙草を足元に落とすと、ジリジリと踏み躙って消す。屑々になって、フィルターしか残らない。残骸。
男の向こうに大きな花火が開き、きらきらと散る。
男が遊歩道の柵に手を掛けようとしてる。
咄嗟に手が出た。
もっと花火にでも近づこうとでもしてるのだろうか。
柵から離して、柵が壊れてるから危ないと教えてやれば良かった。
そのつもりだった。
服と違ってどう引っ張ればいいか分からず、一瞬躊躇して、ガバッと腕を回せば、小柄な細い身体はしっくりフィットして、俺の雄を刺激した。
思わず、手で口を覆って引き摺り込んでいた。
高校生かと思ったが、大学生ぐらいだろうか。
妙な色香があった。
経験者か?
俺はこの欲が早く吐き出したかった。
ベルトをイラつきながら外し、前を寛げる。
木に押し付け浴衣を捲る。
ギャーギャー騒いでいるが、花火と歓声で掻き消されて誰にも届かない。
下着を引き下ろしケツを触ると、観念したのか急に大人しくなった。
大人しくしてるなら、少し可愛がってやってもいいかと、尻肉を揉んだ。
即突っ込むつもりだったが、解してやろうと割れ目を開き指を突っ込んだ。
笑いが止まらない。
コイツ準備してやがる。
誰かとよろしくヤるつもりだったのか?
ああ、電話の相手か。
足元にスマホと巾着が落ちてた。
通話中だ。
彼氏だろうな。
聞かせてやるか。
暗い笑いに支配される気分で、指を引き抜く。俺の中の悪い血だ。血筋からは逃れないのだろうか。憎々しい。
ずっぶりと勢いよく串刺しにしてやれば、イイ声で啼くだろう。
ピッタリと後孔に照準を合わせる。
一気にズブンッと奥まで突っ込んでやった。ほら! 啼け!
耐えやがった。
キツイ。初めてか?
何故耐えやがる。耐えれんだ!
声を出さずに、最初のひと突きを耐え、下から激しく突き上げても、泣き叫ばず。
涙しながらくぐもった声が出るだけだった。
苛立ちと腹立たしさに浴衣の男の足が地面から浮く勢いでガツガツと突き上げた。
耐える姿に更に苛立つ。
急にやるせなくなった。
俺の苛立ちなど小さい事のように感じ出した。
血が冷えた。
木に押し付けていた身体を腕に掻い抱く。この男の中に跡を残したくなった。
俺はこの男が欲しいと思った。
思ったが、とんでもない事をした。後戻りが出来ない。
腕に噛みつかれた。
痛みに暗く喜びが湧く。
男との間に俺にも跡が残った。
痕が残る様にキツく噛んでくれと願った。欲望を吐き出す。
男は最後まで呻くだけだった。
一言言いたかった。
すまないというつもりが、溢れた言葉はとんでもなかった。
なんで言ったんだろう。
「淫乱」
俺が淫乱の胎から生まれたと蔑まれたからか。同じように堕ちてきたら、俺と同じところに来てくれたら、手に入るかとでも思ったのだろうか。
足早にその場を後にした。
組長の親父が死んだ。
あそこは故郷だったらしい。
帰りたかったのだろうか。
跡目は遺言で俺に回ってきた。
遺言が無くても、お鉢が回って来るんだったのだろう。若頭は俺のサポートをすると頑として譲らなかった。
腹違いの弟は芸術肌でアトリエに引っこんでる。担ぎ上げようなどという輩は、若頭が潰したらしい。
本妻の子である俺だったが、本妻は淫乱と言われた女だった。駆け落ちして俺を産んでいる。
血が繋がってるか怪しいものだったが、遺言に親子鑑定の用紙も添付されていた。周りの者も文句はないだろうという事らしい。
本当に親父の子だったらしい。
社会人になりたての頃、父親だっていう組長に呼び戻されて、ヤクザ教育だってよく分からんものを教えられ、余命いくばくとバックレを決め込んで、この世からトンズラしやがった。
母に真相を聞きたくてもこちらも俺が大学の頃亡くなっている。父親だと思ってた男は、高校の頃、仕事中の事故で亡くなっている。
誰も俺に真相を語れる者はいない。
若頭に全てを任せて消えてしまおうかと思っていたが、気が変わった。
ヤクザの運営というのをしてやろうじゃないか。腹を括った。
インテリヤクザに舵を切って生き残りを模索した。
どの道ここから逃れられないのなら、思い切ってやってやろうじゃないか。
足掻いて足掻いて、耐えてやる。
頭から離れない姿があった。
あの花火の声を立てずにいた男。
この腕に痕を残した男の姿だった。
数年が経った。
ヤクザ会社の社畜になり、がむしゃらにやってきた。
軌道に乗り俺自身が自由に出来るようになってきた。
余裕ができると、気になることを調べさせた。
あの男の事だった。
結果は直ぐに上がってきた。
やはりあの時は大学生だった。
今はゲイ向けのデルヘルをしてるようだ。
ーーー何故だ?
俺が人生を歪ませたのか?
そうだとしても、ビッチな匂いはなかった。
アレはデートの相手への彼なりのアプローチだったと思う。そんないじらしいさを感じる男だった。
それを踏み躙ったのは俺だが。
苦労して入社した会社が倒産。生活の為に夜の世界に飛び込み、抜けれずズルズルと深みにといった感じか。
両親はどういう訳か縁を切られてるようだ。
じゃあ……、俺が貰ってもイイよな?
ほくそ笑む。
客として近づき、親しくなって、囲った。
愛を囁けば、オレもと答えてくれる。
もう俺のものだ。
電話をしたら、花火を観てると言う。
やっぱり気づいてたか。
白く傷が残ってしまった腕の傷。
最近一緒に風呂に浸かってると、その古傷をあいつは触ってる事が多くなっていた。
身体が温まると薄っすら浮かび上がる傷。
応えてやらないといけないだろう。
謝罪か?
嘲か?
赦しを乞うのか?
「淫乱」とあの時言ってしまった言葉を呟く。
『行くよ』
呟くようなあいつの声。
プツリと通話が切れる。
贖罪……違う。
俺はお前に堕ちてた。
遊歩道で花火を観る浴衣のお前に。
「待ってる」
愛してる。伝わらなくても愛してる。
苦手な方は回避お願いします。
ーーーーーーー
夏祭り。
屋台が所狭しと並び、人が行き交い混み合っていた。
先輩がきゅっと手を握ってくれる。
嬉しくて、嬉しくて、オレも握り返す。
人混みがオレを大胆にさせていた。
恋人繋ぎをした。指を絡めて、きゅっと握る。
見上げると先輩が、ちょっと困り顔だったけど、笑っていた。幸せだった。いつまでもこんな時間が続けばいいのに……。
オレは浴衣で来た。
足元は下駄で行きたかったのだが、試し履きして早々に断念した。長時間履けない。スニーカーだけど、気にしない。
先輩は、ポロシャツにスラックスの洋服。
遠出のデート。
ここまで来たら知り合いに会う事もないだろう。
ホテルに行っちゃったり?なんて妄想で顔が赤くなったりしてる。
オレ、悪い子です。
先輩とそういう事したくて、付き合い始めた頃から少しずつ頑張って広げた。今日だって、解してナカにローションを入れて来ちゃったりしてます。
先輩、引いちゃったりするだろうか。
キスは済んでます。
隙さえあれば、キスしてます。
身体の触りっこだってしてる。
だから、だから…期待しても、いいよね?!
ちょっとナカがズクんと疼いて、思わず先輩にくっついちゃった。
もうすぐ花火が始まる。
先輩が肩を引き寄せて、離れないように誘導してくれてたんだけど、手を離したのが不味かった。ドンと人にぶつかって離れ離れ。
頑張ったけど、小柄なオレではもう合流は難しく……。
息苦しさから、人混みから離れるように脇道に入った。
浴衣を整え、人の流れを呆然と見ていたら、巾着の中のスマホが振動してた。
先輩だった。
人の流れから、今から帰るのは難しいから、離れてるけど、花火を見る事にした。
場所は別々だけど、同じ花火を観れる喜びに心臓が喧しい。
ふと見上げると遊歩道?柵があって道のようなのがある。少し高台になった公園の遊歩道のようだった。
小柄なオレだったら、列の流れが緩やかになった今ならあそこまで行けるかも。
ここだったら、人の頭ばかりで、肝心の花火が見えないかもしれない。
よし!と気合いを入れて出発。
漸く到着出来た時、始まりの花火が打ち上がったところだった。
先輩から電話。
見える?と聞かれて、見えるとウソなく答えられて嬉しかった。
ほとんど声は聞こえなかったけど、時々聞こえる声に一緒のいるような気分で花火を観ていた。
爆音と振動に少し寂しく思ってると、不意に後方に引っ張られた。
煙草の臭いが鼻を擽ぐる。
大きな手が口を覆っていたのだ。
オレは、公園の木陰に引き摺り込まれていた。
木に押さえつけられ初めて襲われているのだと分かった。
後ろを見ようにも強い力に身体が動かない。
男の荒い鼻息が耳裏に頸にかかる。
カチャカチャとベルトを外してる音がしてるような気がする。
花火の打ち上がる音が何もかもを打ち消して、オレの声も。
側に落ちてるスマホは通話中。
先輩が聞いてる!
助けてと叫んでたが、浴衣の後ろをたくし上げられ尻を触られて、息を飲み。声を飲んだ。
先輩に聞かれたくない!
きゅっと目を閉じていた。
もう何も見たくなかった。
オレの尻が外気に晒されて、割れ目を開かれ、指が突っ込まれた。
突っ込んだ指がピタリと止まったと思ったら、すぐに引き抜かれた。
すぐに、ビクビクと波打つ熱い物が、穴にピッタリと突き付けられた。
先輩のじゃない物にヤられてしまう。
泣けてきた。
ポロポロと泣いていたが、後ろの男はお構いなしで、突っ込んできた。
先輩の為に準備してきたのに、どこの誰かも分からない男に!
優しさの欠片もない乱暴な欲望のままの激しさで突き上げてくる。
「あ、うぐぅゔぅぅ……ゔぁぐ…」
突き上げられる度に、押し出されるオレの情けない声は、花火と歓声で掻き消される。
揺すられる身体はただただ翻弄され、叩きつけられる凶暴性に耐えていた。
嵐が過ぎ去るのをじっと耐えるように、声を噛み殺し耐えて…。
突如、揺すられる身体に、変な感覚が湧いてきた。
自分で信じられない事に首を激しく横に振った。否定したい。
オレの前が勃ってる。射精したがってる。
いつまで続くのか分からなく、射精欲求に益々訳が分からなくなっていると、男の腕が目の前にあるのに気づいた。
思いっきり噛み付いた。
男はそんな事関係ないのか、腰を振って欲望を吐き出した。
ずるりと肉杭が抜ける。
拘束していた腕を緩められた。
オレは支えがなくなったと同時にずるずると、崩れ落ちた。
男は身支度を整えると、立ち去った。
耳元で最後『淫乱』と言った声がオレの脳裏から離れなかった。
木の根元に暫く蹲っていたが、ゆるゆると立ち上がると、泣きながら浴衣を整え、公園の水道で顔や手についた土を流す。
拾って巾着に入れてたスマホを取り出すと、メッセージアプリを立ち上げる。
『帰ります。もう会えません。別れて下さい。さようなら』
先輩に送る。
ベランダから遠くに閃く花火を眺めていた。
缶ビール片手にぼんやり手摺りに凭れて見ていた。
ビー玉サイズの花火は綺麗だった。
遅れて雷鳴のような音が響いてくる。
遠く離れたこんな場所まで届く音。
煙草の香り。
今はオレが吸っている。
春を売ってる。
『淫乱』
言葉の呪縛。
いや、オレの本性だっただけかもしれない。
あの後、暫くして先輩に捕まった。
逃げ回っていたオレだったが、顔を合わせると好きだと改めて思い知らされて辛くて、泣きじゃくってしまった。
先輩は終始謝っていた。なんとなく分かったんだと思う。付き合おうとも言われたが、辛いからとお願いして別れた。
遠い思い出。
スマホが鳴る。
「今日はお休みぃ」
『酔っててもいいから、来いよ』
客のひとりだった男。
個人の電話を抑えられて、掛けてきて、オレをいいように呼ぶ。
金は破格。もう働かなくてもいい感じだ。
オレの事を情夫だという。
囲ってるつもりかもしれない。
男を好きになって、この状況も受け入れていた。
なのに……。
腕の傷に気づかなかったら、良かったんだろうか。
こうするつもりで、あの時襲ったのだろうか。まさか。アレは突然だった。つけられてとかそんなのではない。
偶々、あそこにオレがいて、あの暴漢がいたってだけだ。
思い出した。
奥底に封じてた記憶。
煙草の臭いとあの声。
ケロイドで薄ら残る腕の傷。
あの古傷は……オレが……。
客だと割り切れたらいいのに。それが出来ない距離感。
彼は……気づいてるのだろうか。
「花火が見える」
答えてくれるだろうか……。
『ーーー淫乱』
ーーー知ってたのか。
「行くよ」
もう汚れた自分には、この男がお似合いなんだろう。
この男とだったら地獄に堕ちたっていい気分だ。
◇◇◇
立ち入り禁止の公園に入り込んで、花火見物をしようと煙草を燻らせつつ、ぼんやり空を見ていた。
病院の辛気臭い気分を吹き飛ばしたかった。
こんな遠いところの病院に入院しやがって、余命宣告受けてやがって、急に俺を呼びつけて。
なんだってんだ。
理不尽だと、勝手だと、周りの男たちに当たり散らして、飛び出てきた。
イライラと歩き続けて、住宅街の坂の上にひっそりあった公園に行き着いた。
公園の入り口に遊歩道の柵が壊れてるとか書いてあった。出入り口にロープも渡して公園自体を封鎖したようだ。ここにくるには徒歩しか来れないだろう。下の道路は封鎖されているし。
黒と黄色の縞模様のロープをくぐり中に入った。
端まで来て遊歩道があるのに気づいた。
下が騒がしい。
お祭りでもあるのだろうか。露天が並んでいる。人通りもある。
そういえば、ここへくる途中に町内会の掲示板か何かに『花火大会』とあったなと思い出していた。
もし別ルートでこの公園に入ってくるとしたら、ここから見えるが、遊歩道へ繋がる細い道だけだ。申し訳程度に柵があるが、アレも壊れてるのか、あるのかないのか分からない状態だ。
会場に向かう通りの人々は会場方向を見ていて、その小径に気付く者などいないだろう。
植え込みにしては、大きな木々の間を縫って遊歩道に出ようとしたら、駆け上がってくる人影に思わず木々に紛れ隠れた。
どどーんと花火が打ち上がった。
大輪の火の粉。
浴衣姿の男がひとり。
スマホで会話をしながら、花火を観ている。
乱れた浴衣を直しながら、通話してる姿に見惚れていた。
短くなった煙草を足元に落とすと、ジリジリと踏み躙って消す。屑々になって、フィルターしか残らない。残骸。
男の向こうに大きな花火が開き、きらきらと散る。
男が遊歩道の柵に手を掛けようとしてる。
咄嗟に手が出た。
もっと花火にでも近づこうとでもしてるのだろうか。
柵から離して、柵が壊れてるから危ないと教えてやれば良かった。
そのつもりだった。
服と違ってどう引っ張ればいいか分からず、一瞬躊躇して、ガバッと腕を回せば、小柄な細い身体はしっくりフィットして、俺の雄を刺激した。
思わず、手で口を覆って引き摺り込んでいた。
高校生かと思ったが、大学生ぐらいだろうか。
妙な色香があった。
経験者か?
俺はこの欲が早く吐き出したかった。
ベルトをイラつきながら外し、前を寛げる。
木に押し付け浴衣を捲る。
ギャーギャー騒いでいるが、花火と歓声で掻き消されて誰にも届かない。
下着を引き下ろしケツを触ると、観念したのか急に大人しくなった。
大人しくしてるなら、少し可愛がってやってもいいかと、尻肉を揉んだ。
即突っ込むつもりだったが、解してやろうと割れ目を開き指を突っ込んだ。
笑いが止まらない。
コイツ準備してやがる。
誰かとよろしくヤるつもりだったのか?
ああ、電話の相手か。
足元にスマホと巾着が落ちてた。
通話中だ。
彼氏だろうな。
聞かせてやるか。
暗い笑いに支配される気分で、指を引き抜く。俺の中の悪い血だ。血筋からは逃れないのだろうか。憎々しい。
ずっぶりと勢いよく串刺しにしてやれば、イイ声で啼くだろう。
ピッタリと後孔に照準を合わせる。
一気にズブンッと奥まで突っ込んでやった。ほら! 啼け!
耐えやがった。
キツイ。初めてか?
何故耐えやがる。耐えれんだ!
声を出さずに、最初のひと突きを耐え、下から激しく突き上げても、泣き叫ばず。
涙しながらくぐもった声が出るだけだった。
苛立ちと腹立たしさに浴衣の男の足が地面から浮く勢いでガツガツと突き上げた。
耐える姿に更に苛立つ。
急にやるせなくなった。
俺の苛立ちなど小さい事のように感じ出した。
血が冷えた。
木に押し付けていた身体を腕に掻い抱く。この男の中に跡を残したくなった。
俺はこの男が欲しいと思った。
思ったが、とんでもない事をした。後戻りが出来ない。
腕に噛みつかれた。
痛みに暗く喜びが湧く。
男との間に俺にも跡が残った。
痕が残る様にキツく噛んでくれと願った。欲望を吐き出す。
男は最後まで呻くだけだった。
一言言いたかった。
すまないというつもりが、溢れた言葉はとんでもなかった。
なんで言ったんだろう。
「淫乱」
俺が淫乱の胎から生まれたと蔑まれたからか。同じように堕ちてきたら、俺と同じところに来てくれたら、手に入るかとでも思ったのだろうか。
足早にその場を後にした。
組長の親父が死んだ。
あそこは故郷だったらしい。
帰りたかったのだろうか。
跡目は遺言で俺に回ってきた。
遺言が無くても、お鉢が回って来るんだったのだろう。若頭は俺のサポートをすると頑として譲らなかった。
腹違いの弟は芸術肌でアトリエに引っこんでる。担ぎ上げようなどという輩は、若頭が潰したらしい。
本妻の子である俺だったが、本妻は淫乱と言われた女だった。駆け落ちして俺を産んでいる。
血が繋がってるか怪しいものだったが、遺言に親子鑑定の用紙も添付されていた。周りの者も文句はないだろうという事らしい。
本当に親父の子だったらしい。
社会人になりたての頃、父親だっていう組長に呼び戻されて、ヤクザ教育だってよく分からんものを教えられ、余命いくばくとバックレを決め込んで、この世からトンズラしやがった。
母に真相を聞きたくてもこちらも俺が大学の頃亡くなっている。父親だと思ってた男は、高校の頃、仕事中の事故で亡くなっている。
誰も俺に真相を語れる者はいない。
若頭に全てを任せて消えてしまおうかと思っていたが、気が変わった。
ヤクザの運営というのをしてやろうじゃないか。腹を括った。
インテリヤクザに舵を切って生き残りを模索した。
どの道ここから逃れられないのなら、思い切ってやってやろうじゃないか。
足掻いて足掻いて、耐えてやる。
頭から離れない姿があった。
あの花火の声を立てずにいた男。
この腕に痕を残した男の姿だった。
数年が経った。
ヤクザ会社の社畜になり、がむしゃらにやってきた。
軌道に乗り俺自身が自由に出来るようになってきた。
余裕ができると、気になることを調べさせた。
あの男の事だった。
結果は直ぐに上がってきた。
やはりあの時は大学生だった。
今はゲイ向けのデルヘルをしてるようだ。
ーーー何故だ?
俺が人生を歪ませたのか?
そうだとしても、ビッチな匂いはなかった。
アレはデートの相手への彼なりのアプローチだったと思う。そんないじらしいさを感じる男だった。
それを踏み躙ったのは俺だが。
苦労して入社した会社が倒産。生活の為に夜の世界に飛び込み、抜けれずズルズルと深みにといった感じか。
両親はどういう訳か縁を切られてるようだ。
じゃあ……、俺が貰ってもイイよな?
ほくそ笑む。
客として近づき、親しくなって、囲った。
愛を囁けば、オレもと答えてくれる。
もう俺のものだ。
電話をしたら、花火を観てると言う。
やっぱり気づいてたか。
白く傷が残ってしまった腕の傷。
最近一緒に風呂に浸かってると、その古傷をあいつは触ってる事が多くなっていた。
身体が温まると薄っすら浮かび上がる傷。
応えてやらないといけないだろう。
謝罪か?
嘲か?
赦しを乞うのか?
「淫乱」とあの時言ってしまった言葉を呟く。
『行くよ』
呟くようなあいつの声。
プツリと通話が切れる。
贖罪……違う。
俺はお前に堕ちてた。
遊歩道で花火を観る浴衣のお前に。
「待ってる」
愛してる。伝わらなくても愛してる。
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