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2.招待状を貰ったんだ…。
しおりを挟む「この前のパーティーでも、縁を結んで来たんだって?」
兄上が面白がってるのを隠す風もなく、手に封書を持ってやって来た。
オレは窓辺で、母に「刺繍でもしてみる?」と渡されたキットと格闘していたところだった。
花嫁修行はしてこなかったから、これからでも追いつかねばと挑戦はしている。
「オレの縁はなかったけど…ね。痛ッ」
「あっ…。お前に刺繍は向いてないだろう…」
刺した指を咥えながら見遣れば、兄が目の前に手の封書を差し出してくる。なんとなく受け取る。刺繍は横に置いた。多分今日はしない。
上質な封書。
封蝋の印を見て、封書を落としそうになった。持って来た兄上が、軽く持って来たから油断した。
「王宮のパーティーの招待状だよ」
見りゃ判る。
「なんで、オレ? 男爵だし。変な男女だし」
「自分を卑下しない」
ゲンコツが落ちて来た。頭を抱えるほど痛い。
「聞くところによると、陛下の婚活が上手く言ってないようでな。王弟殿下が結婚出来ずに困ってるところにお前の噂をさ」
「宰相の王弟殿下?」
確か、婚約者がいるとかいないとか曖昧だったけど、陛下より先に結婚も出来ずに困ってたんだ…。先に結婚して、子供でも出来たら、ややこしくなりそうだもんね…。
「そう。このご令嬢たちと踊って欲しんだってさ」
ファイルを渡された。
えー、決まってるんだ。
見合い写真が動いてる感じかね。
釣書は吟味されてるのだろう。あとは、陛下がどれかを選んで貰えば、万事上手くいくって感じか?
めんどくさい事に巻き込まないで欲しい。
オレは特定の人を結びつけようとした事はないんだよなぁ。
この年の離れた兄上は、王弟殿下と学生時代の先輩後輩の間柄。めんどくさい事に巻き込まれたのは、兄上の方ですね。
迷ったのだろうな…。迷って吹っ切れてた状態が今のコレですな。でも、ゴネたい。決まってる事だろうけど…。嫌だよ~。
「オレ、多分役に立たないよ。特定の人同士をくっつけた事ないもん。好きでくっつけてる訳でもないよ」
唇尖らせて、ぶちぶち言ってやった。
「ちょっと寂しそうにしてる感じの人と踊ってるだけ。それに…、彼女たちだったら、堂々と踊ってそうだけど?」
ファイルを開き、パラパラと見る。
「それね。言ったんだけどさ。苦肉の策ってヤツらしいよ。お茶の席も設けて、ひと通り顔も合わせても決めれなかったらしくてさ。今回のパーティーは、婚約発表の予定だったらしくてさ。お尻に火がついちゃってるって事。絶対に誰かと踊るって。で、陛下が踊ったご令嬢と婚約」
「踊らなかったら、お流れ?」
錚々たる感じです。
「ここまで来たら踊るでしょう。お前は、有名なキューピッドさんだしさ。それに、ご令嬢とどうこうなる心配もないと思われてるようだし。まぁ、その点はムカついたいけどね。神さまに近しい存在をなんだと思ってんだ…」
兄上も思うところはあるらしい。腹を立ててくれた事は嬉しいが、コレばかりは仕方がない。
稀に現れるオレのような存在は、神さまに近しい姿と言われて、大切にされてる。表向きはね。
差別される事はないとされてるけど、巷では、色々とよろしくない扱いを受けてるらしい。
オレは運良く貴族の家というか、いい家族の下に生まれたからこうして暮らせてるってだけさ。
学生時代も今も陰口はあるけどね。その辺が世間一般の評価なのだろう…。オレは気にしてない。オレの周りはいい人たちでいっぱいさ。
ファイルの中の写真と経歴等の文字の羅列をザッとみる。
面接も終わってるんだ…。お話もして人となりも分かっただろうに…。
どのご令嬢も美しく、家柄もよく、教養も充分。選り取り見取り…だけど、甲乙つけ難いというヤツですかね。なんて贅沢な…。
ファイルを繰りながら、内容をさらっていけばいくほど、悩む状況が分かる気がする。しかも、どのご令嬢も王妃としての教育の下地は既に出来てるんじゃ…。
こんな状態じゃ、目を瞑って引けば?なんて思ってしまった。
一瞬ダーツと思いかけてやめた。想像でも、殺傷武器はダメダメ。
「もしかして、オレと踊ってる様子で決めるって事?」
「お前のダンスの腕は、国でもトップクラスだからな」
キューピッドの話じゃなくて、ダンスの腕を買われたのであればいいか。
「そっちの話だったら引き受けるよ。どうせ、断れないんだろ?」
「そうなんですよ~。ついでに、いい感じの男捕まえて来いよ。王宮だったら、レベル高いと思うよぉ~」
他人事だと思って、お気楽な兄上だ。明るく言ってくれるのは、ありがたい。気分的に楽になる。
いつも兄上には助けられてるから、役に立てるチャンスだね。
確かに、王宮のパーティーなら、参加者は、高位貴族ばかりだ。こんなことがなければ、参加なんて出来ないだろう。
婚約とまでいかなくても、ご縁を繋げるのは、家業にもいいだろう。
この日の為にオーダーメイドの上質な服装を整えた。
引き立て役なので、目立つような派手さはないように。でも、ご令嬢と踊るのに釣り合いの取れない格好も出来ないので、王弟殿下から派遣されたテイラーに仕立てて貰ったから間違いはないはずである。
いざッ!
会場は華やかです。
全てが洗練されてて…オレ、場違いにならないように、澄まし顔で立ち振る舞っている。
先程から、頭に入ってるご令嬢をさりげなく誘い、ダンスを続けている。何人と踊ろうと疲れ知らずなんで、どのご令嬢に対してもフレッシュな感じで対応してます。不公平感はないはず。
オレと踊ったあとは、案の定、様々な殿方に誘われて、断ったりしたり大変そうだ。
この立ち振る舞いも審査されてるのかもしれない。殿方も他にもご婦人方がおられるんですから、そちらとも親睦をね?
彼女たちが王妃候補だとは誰も知らないようだし。もしかして知っててお近づきにと思ってるのか…?
オレも営業した方が…、イヤイヤ、無い無い。オレは依頼を完遂させるだけだってッ。コレ重要ッ!
政治的にも良からぬ輩を近付かせぬ対策だったのだろうけど、ここへの参加者はどの方も身元しっかりの方々。その方々に物の見事に隠し通せてるみたい。王弟殿下の手腕なんだろうね…。
先程から、視線が痛いんだが…。
視線の先の方向をふわっと確認すれば、陛下だった。
見られてて当たり前なんだが、何故かドキマギするような心持ちになる。誰かを選ばないといけないんだがら、視線も熱くなるだろうし。熱心に見るよね。
ダンスのお相手はオレだから目印にもなるか…。
彼女たちも分かってるから、オレのリードに上手く乗って、自分が一番美しく見えるように精一杯踊っていた。
オレとしては、固くなるのをリラックスさせて、彼女たちの自然な美しさを引き出したくて、頑張った。どうせ踊るなら楽しくも踊りたい。
オレはダンスが好きだから、こういうのも苦ではない。場を作るのもダンスの一環さ。彼女たちと短い言葉を交わしながら、笑顔も引き出せた。やはり笑顔はいい。ダンスは楽しい…。
ファイルのご令嬢とひと通り踊り終わり、オレの役目は終わった。
もしかしたら、もう一度誰かと踊らないといけないかもしれない。どっち?とかなるかもだしね~。
取り敢えず、終わった。お疲れ、オレッ!
流石に喉も渇いたので、飲み物を手に取る。
大きくひと口飲んで、『しまったッ』と思った。
背の高いグラスだったので、ジュース系かと思ったが、カクテルだった。
んー、飲みやすいし、度数はそれほどではないか?
仕事も多分終わったし、オレもアルコールにそんなに弱い訳でもないから、多分問題はない。
楽団の生演奏を聴きながら、グラスを傾ける。
さて、自分の婚活でもしようかな…。
踊ってたオレを見てたというか、ご令嬢と踊ってた男として、色々と声を掛けられた。
名刺交換も出来た。
はぁ~、完全にお仕事モードでした。
そんな営業のような事をしてると、急に周りがザワついた。
曲調が変わった。これは、特別な曲。
視線を皆と同じように向ければ、陛下が踊ってた。どうやら婚約が成立したらしい。
ああ、彼女が選ばれたのか…。
彼女は、控えめだけど、交わした言葉が面白く、互いに楽しく踊れた。
良かった良かった。
結果も見届けたし、これで踊る事もなくなった。そろそろ引き上げようか。流石に疲れた。気疲れだね。
拍手の音を背に、大きな扉からそっと外へ出た。扉が閉まると、パーティーの喧騒が夢の出来事のように感じてしまう。
本当に王宮のパーティーは何もかも格が違った。ボロが出ない内に帰るに限る。
会場の外はひんやりして静かだった。石造りの回廊を進む。ふわっと風を感じて、視線を巡らせれば、風通しの小窓から入って来た風のようだったが、その下の大きな窓から見えた庭園に心惹かれた。
ポケットの時計を確認すれば、馬車の迎えが来る時間までもう少しある。ちょっと巡ってあちらに抜けて行けば、時間調整に丁度良いな…。いい考えに思えた。
庭園に出る扉を開けて、小さな段差を数段降りる。
花の香りが風に乗って漂ってくる。
月明かりの下で緑が幻想的だ。
方角を見失わないようにゆっくり歩む。
夜風に吹かれながら、花の香りに酔っていた。
「あの…」
控えめな声が後ろから掛けられた。人がいた事に驚いたが、様子からオレを探していたようだ。王弟殿下の関係者だろか。
「なんでしょう?」
「あの、ぜひ、お会いしたいと…」
少し息を切らしてる。年若い侍従は、随分オレを探し回ってたようだ。申し訳ない。
しかし、王弟殿下から何の話だろうか。オレは直接話した事はないけど、今回の事で、何か話があるのか? 兄上が居てくれたら良かったのだが、仕方がない。頑張って話してこよう。
「はい、分かりました」
侍従の案内で、奥へ向かった。
この時、ちゃんと相手を確認すれば良かったのだ。分かったとしても断れなかっただろうけど…。もっと構えて、あの部屋に入れたと思う。
もしかしたら、オレは、酒に、花の香りに…あのパーティーの空気に少し酔ってたかもしれない。うん、高揚してた。浮ついていたと思う。
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