一緒に住んでるんだが…

アキノナツ

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すべき事は、、、

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また言われてしまった。

「過去の話ばかりされても困るんだよ。先の話が出来ないじゃないか」
苦々しくイラついた彼の声。

夕食も終わって、風呂も上がってのんびりと一緒にテレビを見ていた。
ソファで彼に凭れかかって、甘い空気を感じつつ、まったりと過ごす。
幸せ…。

テレビに風景に、ふと自分の小さい時に見た不思議な光景を思い出した。
口をついて言ったのは、大した話じゃないと自分でも思ったけど、共有したかっただけなんだが……。

彼にイラつかれては、平穏無事が一番と思う自分は黙ってしまう。

頑張って、共有したかったのだの、面白かった事だの、と言い募ったところで、一度拒否されてしまえば、余計に拗れてしまうのは今までの経験上、嫌という程経験してます。

はい、何度も経験してるんです。

分かってるのに言っちゃうってあるじゃないですかぁ。
緊張感が緩くなってる時など顕著ですよねぇ。

てな事で、今回もやってしまったのです。

あーあ、馬鹿だなぁ。

思い出しただけなんだけどなぁ。
思い出って厄介。

黙って、席を立つ。
やっと会得した事。

今までは、言い訳(?)をして、拗らせていたのだけど、こうやって席を立って顔を合わさないようにしたら、これ以上何かを言われる事はない。

湯を沸かして、コーヒーを入れる。
自分には濃いめのコーヒーを。
彼にはカフェインレスのコーヒーを。

頭をシャキッと覚醒させて、緊張させないと、また彼をイラつかせる。

あと少ししたら寝るって時間に飲んじゃダメな飲み物だって事は重々承知の上で、飲んでますよ。
胃が痛い。
ついでに胃薬も流し込む。

「どうぞ。カフェインレスだから」
自分のもそうだよと暗に匂わせる。
じゃないと、今から飲んだらと話が続いてしまうから。
回避したい。
姑息なんです。

ありがとうはないけど、黙って飲み出したので、どうやら和解らしい。
良かった。

コーヒーを流し込みながら、慎重に耳をそば立ててスタンバイ。
何もなければ、それでいい。

こんなにビクビクしてるんなら、別れた方がいいじゃんて思うよね。
別れられないんだよねぇ。
彼に依存してると思う。
彼が好きで仕方がない。
彼が居ないと全然楽しくない。

この思いが重いんだよ、きっと。
だから、キツく当たってきたりする。

友人とかに話した事もある。
惚気だねって言われた。

なので、愚痴は惚気という事になった。

惚気なんですかねぇ……。
違う気がするが、惚気という事にしておこう。
精神衛生上それがいいだろう。

自分はヒモか?と問われたら、どちらかと言うと彼の方がヒモ?

彼はマジメに働いてるし、食費と言うか、生活費も入れてくれてる。
けど、足りない。
折半と言えば、そうなんだけど。
折半でもね……。

ここ自分の所有物件だし、他のにも所有してて、家賃収入で割と稼いでる。
いい不動産屋といい工務店と長くお付き合い出来てるので、未来投資も出来てまして、リフォームもしっかり、いつも満室。
ありがとうございます。

別れると、彼に出て行ってもらう事になるか。
店子になって貰うって話でもいいかな。
んー、話しづらい。

そもそも自分が彼の事が好きなのだから、一緒に住むのは当たり前なんです。

ちょっと話が食い違っちゃう時があるぐらいで、あとはラブラブなんです。

ーーーーそうだと思いたい。

そうだといいな!

そうなの!

隣で黙って、マグカップを傾けてる彼の空気感が変わった。
そっと肩に頭を寄せる。

テレビは観てたけど、内容は頭に入ってない。
胃がムカムカするけど、いつものことなので放置。
昼間も何かとコーヒーを口にしてる気がする。
コーヒーメーカーで作ってる時もあるが、最近はインスタントが多い。
湯は電気ケトルがすぐ提供してくれるので、いつも丁度いい濃さが飲めるのがいい。

カフェイン中毒だと思う。
それから、もう一つ中毒があった。
重度の活字中毒。

そして、活字中毒だった自分は提供する側になっていた。
売れてるって程ではないが、そこそこファンレターなんてものを頂ける執筆家をしてる。
ファンがいるなんてこそばゆい。

締め切りが迫ってる仕事は今はない。
明日辺りから頑張ればいい。

彼中毒だな。

彼に甘えたい。
なのに、自分の詰まらない思い出話で、彼を不機嫌にしてしまって、ダメだな。

「準備してるよ?」
「ああ…」
言ったきり。動かない。
不機嫌のまま?
「明日休みでしょ? しよ?」
可愛く言って誘ってみるけど、全然こっちをも向いてくれない。
焦れる。
マグカップをローテーブルに置いた。
彼の腕をとって、掌に頬を押し付ける。

彼は、されるがまま。

もう心は離れてしまったのだろうか。
先の話がしたいって言ってた。

事あるごとに、先の話。
『先の話』って何?

自分が女なら、結婚話?って浮き足立つんじゃないだろうか。だが、男の自分には、縁のない話だ。
でも、養子縁組という手もある。

アンタも財産目当て?
なんだかなぁ。
不動産なんて、管理しなけりゃ価値が下がりもするし、上がりもする。
周りの状況を先を観て、切り捨てる事も大事。

さぁ、財産目当てというなら、ちゃんと目の前の男ぐらいご機嫌取らないと、数ある物件の管理なんて出来ないよ?

彼との身体の相性は抜群に良かった。
彼はそうでもないのかなぁ……。

頑張って仕事を終わらせて、このところはエステ行ったりして、目元のクマちゃんは薄くなってる。
顔の造形は悪くないと思うけど、執筆中は、メンテナンスを疎かにしてしまう傾向がある。
これじゃ愛想尽かされちゃうね。

ほら、お肌すべすべだよって、擦り付ける。

コトンとローテーブルにマグカップを置くと、おざなりな手付きで腰に手が回る。
頬の手がゆっくり布の上をサワサワと撫で下がり、裾から脇腹から胸へと肌の感触を確かめるように撫で揉みながら這い上がってくる。
期待で息が上がってくる。

ソファに押し倒される。
もっと触って……。
この煩わしい世界から解き放って。ひと時の夢を見せて。
コレは、あなたにしか出来ない事。

それから、『先の話』を先延ばしにしないで、話してね?

チュッと彼の頬に唇を寄せる。

「愛してる…」
そっと囁く。
クッと喉がなるような音。舐めるような目と絡む。笑ってる。

うん、彼も愛してるって言ってるよね。

そっと目を閉じて、彼の唇を首を感じながら、全てを任せた。


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