ココに居ていいですか?

アキノナツ

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8】本当に遅いよな。

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 出来上がった報告書を持って、資料室に向かう。

 営業は向いてないのは嫌という程分かってる。辞めるのも時間の問題だったと思う。飛び込みとか色々やってみたが、上手く行く訳もなくて、他の営業のチャラ男や小畑おばたさんお陰で、延命されて、営業先を得ていたようなものだった。申し訳なく思っていたが、話せば彼らも思うところはあったようなのだ。

 彼らは、上司は「新規を取ってこい」と言ってくるが、売り込んだ先のその後が気になっていた。もっと良い物を薦められるのではと悩んでたようだが、商品の中身を詳しく知る暇がない…。

 そこに開発してた人間がやってきた。初めの数週間、チャラ男以外は、皆さん遠巻きに俺を伺っていたらしい。小畑さんは睨んでたし。俺は嫌われてるぐらいに思っていたのだが。

 はい、気づくのが遅いんですよ。

 チャラ男のお陰で周りに俺の事が周知されたようで、大小さまざまな企業の名前が俺のところに寄せられてきて、営業に行くようになって、サポート営業のようになったという感じである。

 そして、それらの内情資料収集の助けは、得崎えさきさんのおかげなんですよね。

「得崎さん、ちょっと見てもらいたいのが…」

「はい、なんですか? ん? これ読むんですか?」

「ざっと目を通して、違和感のあるところを教えて貰えたら…」

「僕は、収集は得意なんですけど…」

「多くの資料に触れてきた得崎さんだからこそですよ。お願いします」

「分かりました。ちょっと待って下さい」

 得崎さんが読んでくれてる間になんとなく周りを見て、さっき入ってきた時に感じた意味が分かった。

 棚がスッキリしてきてる…。
 廃棄の文字が書かれたダンボールもあった。

 そうか…。ココの閉鎖が近づいてるんだ。

 得崎さんが赤ペンで何か書き込んでる。彼の添削は的確だ。誤字脱字も指摘してくれてるが、下線と「?」とかの記号が書いてるだけだ。

 ふとバイト時代の苦い思い出が浮かんできた。提出前のデータを正社員の人にチェックの為に渡してと言われて、渡したら全消しされて書き換えられた事があった。俺の書いたのがほぼ通ってたから、提出したら怒られたんだよなぁ。
 消すってどういう事なんだよと思ったけど、よくやってる人だったようで、あの時、生データを渡しちゃダメって学んだね。

『あれさ、分かりにくいかったから書き換えといたよ』ってにこやかに言われて、怒られた原因が分かったんだよ。『勝手な事するな』なんて怒られたのが分からなかったから。

 そう言えば、別のバイトで数値の訂正をしてた時、隣りの正社員がしてたはずの仕事が回ってきた事があったなぁ。
『ごめん、これ、訂正されたところを元に戻してくれる。この資料と照らし合わせて、一致してるかチェックして』

 訂正資料と完成資料のようなのが渡された。『違いがあるところにチェックを入れて』とペンも渡される。
 隣りは、ひと仕事終えた感じで『仕事ちょうだい』と言ってる。
 この人がした仕事をチェック?

 他で訂正されたところを、隣りの人が訂正というか古いのに戻していた…。

 渡してきた人の言ってる意味が作業前は分からなかったが、作業をして分かった。

 古い資料に数値だけの訂正をした用紙を渡されたのに、丸々訂正したようだ。

 後で知ったが彼女は何処かの令嬢で、もう少しで寿退社らしいので、あと少しの辛抱と耐えてるという事だった。
 度々こういう事を起こしているとか。注意すればすむと思うが、親御さんの関係で誰も言えないと思ったら、そもそも『聞かない人』らしい。

『何故ですか?』と返ってくるのだとか。説明した猛者も居たが、『分かりました』と言ってすぐに同じ事をするらしい。彼女は作業が速いので、すぐに仕事をよこせとうるさいので、ココだけと渡しても、気を利かせてしておくらしい。正社員だし放置する訳にいかない。渡す物には細心の注意が必要。

 迷惑な話だ。
 正社員だから仕方がないと周りが気を利かすのだとか。今回は納期がバタバタしてるところに『作業が速いから』と社長が押し付けてきたから、うっかりやってしまったらしいく、バイトの俺に最終チェックが回ってきたのだとか。社長は知らないとか…。あの会社は今は無いかもしれない。

 そう言えば、彼女も元データを消す人だった。

 作業をする時は、まず元データを残してコピーしたモノで作業するのが鉄則のはずだが…。

 世の中色々だ…。

「見ました。多分これで、総務部もすんなりだと思いますよ」
 得崎さんの声で嫌な記憶から帰って来れた。

「覚書の草案って言ってませんけど?」
 報告書の形だったと思うのだが…。

「見ればなんとなく…」ニッコリ。

「棚がスッキリして来ましたね」
 渡されるのを受け取りながら、なんとなく棚の様子の感想を伝えた。

「今年度には終了すると思います。あとは適当な時期に異動かな」

「そうですか…」

 お礼を言って、退出した。
 俺は、気づくのが遅い。






============


もうすぐ封鎖です。
「俺」「僕」で会話出来る程に仲良くなってきたですね( ̄▽ ̄;)

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