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9】閉鎖だってさ。
しおりを挟む資料室のドアをノックする直前で手を止めた。
人の気配。結構居る。得崎さん以外に居る。
しゃがんで、そっとドアを開けて、こっそり覗いてみた。
カウンター越しで良く見えないが、これ以上開けたらバレる…。
ん? この声には聞き覚えがある。
総務部か…。それに開発の彼と技術の誰かも来てる感じだな…。あれ? 山下さんの声だ…ご愁傷様。また駆り出されてのか。扱き使われてるなぁ…。
本格的にここが閉鎖されるんだな。
サーバールームの端末の一つになるんだな…。ここが情報の引き出しの窓口といったところか。AI得崎さんが担当して、得崎さんはサポートとして修正をしつつ改善していき、情報を更新していく…という流れだろうか…。情報は常に更新されていくからな。
棚のはほとんどなくなってるんだろうなぁ…。
ここ数日忙しくて、ここに来れなかったら中の様子は分からないが、とうとう始まってたらしい。これが終わったら、得崎さんは異動か…。
以前一緒にラーメン食べに行った時に言ってた「これから忙しくなるかも」のがこれって事だな…。
最近の資料収集は、AI得崎さん相手で我慢している。初め頃は弾かれる事もあったが、なんとかコツが分かってきた。学習もさせないといけないだろうから、ちょっとは助けになったかな。
しかし、さすが得崎さんというところだろうか…。仕事が早い。予想より電子化が早く終了したと思う。
得崎さんがしてきた過去データの電子化が終われば、後は自動的に蓄積されていくはず。暫くは修正をこまめにしていけば、なんら問題はないだろう。
問題は、得崎さんの職人芸的な資料抽出技能をどこまで再現できるかという事だ。
今はAIのサポートに得崎さんが関わってるようなので、不足は感じられない。
試験期間はノータッチで見守ってみるのかもしれない。営業の皆さんにも教えておこうか…。
そっとドアを閉めて、その場を後にした。
疲れた…。
連日あちこちからサポートに呼び出されて、出社とほぼ同時に外へ。帰社後は報告書をまとめて帰宅。そんな繰り返しの毎日で、得崎さんと会えてないし、話も出来てない。
得崎さんも忙しいようで、メッセージに既読すらつかない。通知で見てるだけかもしれないが、ちょっと寂しい。
うん、寂しいですよ。
そして、俺は、今、立ち尽くしている。
資料室の前に。
閉鎖の文字と鍵の管理は総務部になった告知用紙が、ガラス部分に貼ってあった。
ちょっと時間が出来たからやってきたのだが、得崎さんからは、何も知らされてない。相変わらず『既読』はつかない。
閉鎖という事は、異動先が決まってるはずだ。だって、鍵が掛かってドアが開かない。中に人の気配もない。完全に閉鎖されてる。
得崎さんが中でサポートの仕事をしてる様子もない。俺の予想が外れた。否、ずっと作業する必要はないのかも。定期的にきて作業して、普段は違う事をしてるのかも。さすがの得崎さんでも畑違いの業務だったら、俺に構ってる暇はないだろう…。でも、ひと言ぐらい…。
異動先は?
掲示板に向かった。
異動告知の形跡はない。デスクに戻り、パソコンで社内の告知や人事情報を検索して、画面を見たまま固まってしまった。
どういう事、だ…?
得崎さんがどこにもいない。
会社から居なくなってしまってる。
…退職した?
俺って…。俺たち、友だちだったよな…。
はあ? なんで? どういう事?
「あっ、吉田っち居たぁ~。不味い事になってるっス」
頭が混乱して固まってる俺に、チャラ男が珍しく若干慌て気味に、俺に座った椅子を滑り寄せてきた。
「へ? 不味い事?」
オウム返し状態の俺。全然気持ちがこもってない。俺の頭も気持ちも得崎さんに向いていた。
俺は得崎さんの事でとっても不味い状態でなんです! この状況はどういう事なんですか?!
「資料部の送ってくる情報の精度が格段に落ちてるっス。そんでもって、誤情報も含まれてるぽいって話になってて…」
「へ? いつも参照先とかつけてくれてませんでした?」
得崎さん関連の情報にチャラ男に意識が向いた。
「そうなんスけど、最近、それのリンクが切れてたり、明らかに違ったのが入ってたりしたっス。大元も怪しいって事で。全部が全部じゃないんスよ。今まで無かった事っス…不味いっス…。吉田っちが、忠告してくれてたから問題は起きてないっスけど…」
得崎さんが居ないから…?
俺が見てる資料は、過去の物からがほとんどだったから、目立った違和感が感じられなかったという事?
そもそも最近AI得崎さんのお世話になってない。サポート営業で出先も会社とは直で意見交換してた…。俺だけ異変に気付けない状態だった、のか…?
一体何が…。分かるのは、得崎さんが居なくなってる事に関係してるって事だ。
「ちょっと出てきます。あっ、前から言おうと思ってたんですけど、資料部じゃなくて、資料室ですよ」
席を立った。
「あー、昔のままに言ってたっスぅ~」
笑い声がしてる。
そっか…。前身は組織的には大きかったのか…。ここはもうダメかもしれない。
スマホに私的メッセージを送った。
フロアの隅に背の低いパーテーションで区切られた待ち合わせや簡易の打ち合わせなどに使われてるテーブルと椅子が設けられたカフェスペースで、紙コップのコーヒーを飲みながら人を待った。
「お待たせ」
自販機で購入してきたコーヒー片手に呼び出した山下さんがやってきた。
「5分以内は待たされた気がしないよ。忙しい人なのは分かってるから」
「その忙しい私を呼び出すとはどういう了見だ?」
椅子に座り脚を組む。なんでもスマートにやりきってくれる。俺が野暮ったく見えるじゃん。実際野暮ったいんだけどね。
「文字だと難しい」
「分かってる。得崎さんは辞めさせられた。自主退職扱いだがね。あの人と仲が良かったのか? 知り合いとは思ってたが」
優雅に紙コップが傾けられる。この人は仕事の捌き方が神技だよな。今もこの片手間に何かを処理してるんだろう。タブレットを操作してる。
「そっか。そんな気はしてた。確認に呼び出した。すまない」
「だから、分かってる。私も近々辞める。決定事項だ。自分の時間が持てると思うから、どっかドライブにでも行こうかと思ってる。ひとりも寂しいから一緒にどうだ?」
「釣りに行くだけだろ? 布教先は別にしてくれ」
「じゃあ、キャンプは?」
「どうせ川釣りだろ?」
舌打ちされた。面白いヤツ。
「俺は暫く忙しい」
「逃げ遅れるなよ」
去っていく後ろ姿を見送りながら、残りのコーヒーを流し込んだ。
=================
得崎さん捜索開始~( ̄▽ ̄;)
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