ニートだった俺が異世界転生したけどジョブがやっぱりニートだった件

滝川 海老郎

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4 領主と話そう

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 俺、アラン・スコットは領主と対面することになった。
 普通の人なら謁見室という威厳あるっぽい場所でするが、俺たちはそんな仲ではなかった。
 私室の一つに通されて、領主ロバルト・ドゥラン・ナレリーナ子爵が待っていた。

「よお、お久しぶり、ロバルト」
「おお、先生、アラン殿、久しいのう」

 俺たちは立ったまま向かい合い、そして右手を差し出し、固く握手する。
 この世界では兄弟とかでないかぎり男同士はハグしたりはしない。
 固い握手が信頼の証だった。

「いつ見ても若いな。うらやましい。この歳になると、俺もニートだったらと思ってしまう」
「ニートだったら、貴族から追放ですよ、追放」
「違いない。ははははは」

 いきなり笑い出すのも相変わらずだ。

「最初に会った覚えがあるのは、俺が6歳ぐらいのときか。珍しい蜂蜜ジュースをくれたので、覚えている」
「ああ、そんなこともあったな」

 領主は今45歳。10年前に先代が死んだ。6歳ということは39年前だから俺は56歳か。
 だんだんこういう計算も面倒になってくるが、俺には前世の記憶があるからか、二桁ぐらいならなんとか暗算も出来た。

「あのときから、顔が全く変わらん。化け物め」
「化け物いうなって、世の中にはエルフだっているじゃないか」
「ああ、エルフな。あいつらも顔が変わらんから歳がわからん」
「でしょうね。俺にもわからないです」

 領主が一息つき、急に真剣な顔になった。

「ところで、今日はせっかくの再会の日だ。アレ出してくれんか」
「そうですね。じゃあどれにしようかな。マルバード1623年。53年物とかどうです」
「おお、俺より年上じゃないか。そんなもの飲めるのか?」
「はい。温度は一定に保って、俺のアイテムボックスなら可能です。他で可能かは知りませんが」
「ありがたい」

 俺は一組のワイングラスとマルバード1623を出した。
 赤ワインのビンテージものである。
 もはや市場価格とか付けられない。もし出ても白金貨が飛ぶようなものだ。

「再会を祝して、アラン」
「再会を祝して、ロバルト」

「「かんぱい」」

 カチン。

 グラスが触れるいい音が鳴った。
 ワインはほどよく冷えている。これはアイテムボックスの保管機能だ。
 時間停止で温度とかも無関係にすることもできるが、ワインは時間経過の冷蔵庫に入れてある。
 このように保管方法を選べるアイテムボックスを持っている人は、他に聞いたことがなかった。
 時間停止は聞いたことがある。冷蔵庫の人もいた。しかし両方はない。

「うむ。深い味わい。素晴らしい」
「ですよね。まあ俺のバカ舌だと、冷えてればエールでもいいんですけど」
「実をいうと俺もそうだ。でもこれは、はっきりわかる。うまい」
「はい」

 しばらく、二人でワインを飲んだ。
 こういう場では執事がワインの管理をしてくれたりするけど、俺たちの間では、かえって邪魔とされるため、引っ込んでもらっている。

 彼が小さい頃から、俺はすでに領主館と村を往復するメッセンジャーとして便利に使われた。
 月に一回ぐらい通っていたので、すっかり知り合いのお兄さんだった。

 そして25年ぐらい前か、一か月ほど、滞在したこともある。

「それにしても長者番付、様様だよ。さすがアラン」
「まあ、大したことないですよ」
「いや、大したことある。これで領の税制がひっくり返った」
「そうですね」

 俺は領主に尋ねられたので、質問に答えただけだ。
 よりよい税制はないかと。
 25年前、十分この領は、入市税、市民税、農民税でそれほど経済状況は悪くなかった。
 しかし、農民税は昔からの制度で麦の三割を納めるのが決まりだった。
 農民からしたらこの税率は、ちょっと重い。
 そして領都ナレリーナの人口が増えたのに、農民ではないから少ない市民税のみでやりくりする必要が出てきていた。
 そこで、長者番付制度を提案したのだ。
 町の商人たちから、税を取る方法を教えた。総売り上げの二割を納めるようにと。
 しかしちゃんとした帳簿とか銀行とかあるわけなく、ごまかしがいくらでも利く。

「いや本当に、名案だったな。長者番付」

 そこで長者番付だった。
 多く納税した商店、商人のうち上位200位までを公表する。
 それも四半期ごとに毎回、御触れを出す。

 御触れで長者番付に掲載されることは、名誉だったのだ。
 業者には、めちゃくちゃ宣伝になった。
 だから二割といわず、儲かりまくって余っている商店は上乗せして、税を納めた。
 小さいところから小銭を稼ぐより、大きなところが大金を払ってくれたほうが、合計金額はぐんと伸びたのだった。

 そうして商人から税金を回収することに、成功した。
 今、この街の繁栄があるのは、これも大きい。

「村のみんなも助かっています。税金が三割から二割に減って」
「よかったな。周りの村の農民の数なんて領都の人口からしたら、大したことないのが実情だからな。少ない人からガメツく取っても、恨まれるだけだ」
「ですよね」

 農村では以前、三割税、三割が現金収入、そして手元には四割が残っていた。
 これが二割税、一割を薬草にして現金収入、手元に七割近くが残るようになった。
 一日二食だった人が三食に増えた農民も多い。残りを売って農具や子育てなどにお金を使う選択肢が増えた。
 子供が安心して育てられるのは大きく、農村の人口もだいぶ増えている。

 そして次男、三男などが領都に雪崩込んでくる。
 領都はそうやってますます人口が増える。

 それゆえに、今のこの活気だった。

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