現実世界への戻りかた

蜜柑

文字の大きさ
4 / 13
イフリートの鎧編

魔女と魔法

しおりを挟む
 何が起きたのかわからなかった。アルドーナの剣がふりおろされ大輔は二度の死を迎える筈だったのだが。
 死んだのは大輔ではなく、アルドーナの方だった。
 何者かにより首が突如切り落とされ、その顔がコロリと転がる。
 地面に倒れている大輔と目があう。その顔には激しい憎悪や悲しみが込められ、大輔は阿鼻叫喚し、目を背けるように固く瞳を閉じた。
 これは夢だと何度も何度も言い聞かせるが、空しくもそれを打ち消すかのごとく聴覚が周りの声を拾う。
 「騎士一人撃退。これでまたローゼン王国の勢力が減ったな。あ、後あれも始末しとくかな」
 黒いローブを被る男は何かを唱え、手をヒュッと軽く振り、飼い主と同様にオルボルクの首をかっ切った。
 バシャバシャと血の雨が大輔へと降り注ぐ。それはとても熱く、ベットリとしていたがそれでも大輔は頑なに目を閉じていた。
 黒ローブの男は血溜まりをピチャピチャと踏み鳴らし、大輔の目の前で腰を屈める。
 三度めの死を覚悟することになりそうだ。大輔は恐る恐る目を開くと黒ローブの男と目があった。
 緑の双桙に目元にかかる白色の髪。顔は大輔よりも幼く、二十代と若く見えた。
 「.... 」
 黒ローブの男は黙ったまま大輔を見つめ、徐に腰にくくりつけた木製の鞘から小刀を抜く。
 あれで皮を一枚一枚剥がされるのか。せめて楽に死にたかった。
 ぐっと歯を食い縛り、男の小刀を凝視する。すらと長い刃が太陽の光に照らされ怪しく光る。
 小刀はすぅーと上にあげられ
 「くっっ!」
 大輔もとい隣に転がる肉塊アルドーナ・ベルトに突き立てられた。
 「な、何を.... 」
 男の予想外の行動に呆気に取られ、大輔は口を半開きに開ける。
 男は大輔に目もくれず一心不乱に肉を切り分けていく。
 内臓は棄て、頭皮を切って血塗れの髪も放り投げる。
 そして塗れた手で脳みそを取り出すと子供の様に目を輝かせ口を大きく開けた。
 「やめろ!!」
 それは自然に次いでていた。大輔自信も何故叫んだのか理解出来なかったが、目の前で起きようとした光景に恐怖よりも怒りが沸いていたのだ。
 声に驚いた男はビクリと震え脳みそをボトリと落とす。
 「.... 」
 男はがしがしとローブ越しに頭をかくと「ごめん」確かにそう呟いた。
 「そうだよな... こんなの間違っている。おっさんが先に仕留めようとした獲物なのにそれを横取りするなんて。でも.... 」
 男が被ったローブを取ると、その素顔をが見えた。ショートカットの白髪、傷一つついてなく、声が低くなければ女性だと勘違いしそうな美しい顔立ち。
 男は顔を歪め悲痛な面持ちで弁明するかのように叫ぶ。
 「でもおっさんも知ってるだろ! 俺達魔女が住む土地は食物が不作なんだ。黄金色に実る麦だって少量しかとれないし、家畜だって疫病で死んでいく。水だって汚染されて飲めたもんじゃない!
 だから仕方なかったんだ。腹が減って死にそうで目の前にある肉を食べたくて。汚いと思ってもついつい.... ごめんなさい!」
  掌をパンと合わせて謝罪するも大輔は何も言えず震えていた。
 アルドーナは魔女を警戒していた。それはてっきり怪しい魔術を使うからだと認識していたがそれだけではなかった。
 魔女は狂っている。命を奪うのも、食人行動にも何の躊躇いも悪気も見せないのだ。
 「おかしい.... こんなの間違ってる」
 「だからごめんって許してよ.... そうだ。これからさ人狩りしない? 俺が仕留めた人間も分けてあげるからさ。ね? そうしようよ」
 「違うそうじゃない!」
 怒りが恐怖に打ち勝った瞬間だった。大輔は沸き上がる感情を抑えきれず、その感情に全てを任せる。
 「人間を殺したのに何で何とも思わないんだよ!! おかしいだろそんなの!」
 「.... おかしい?」
 黒ローブの低調な声が大輔の耳を打った。全身が粟立ち、怒りが急速に割れた風船の様に萎んでいく。
 「おかしいのはオジサンの方だよ。人間を殺すなんて昔からしてきた事なのに、それを今更おかしいと思うだなんて。
 いや、そもそもオジサンは魔女なの? 変な黒い服に身を包んでるけどさ」
 屈めた腰をおこすと男は大輔の背に向かって踵を振り落とした。
 「がぁぁぁぁぁぁ!! 」
 「ねぇ魔女なら魔法を使いなよ。使えるでしょ?魔女なんだからさ。俺を吹き飛ばしてみなよ!」
 黒ローブの男は大輔の苦しむ反応を楽しむかのように執拗に踏みつけ、脇腹を蹴り飛ばした。
 「ぁぁぁぁ.... ぐっ」
 「わかったよ。おっさん魔女じゃないね。あーあ話して損した。もう死になよ」
 黒ローブの男は手を掲げ不気味に笑う。
 「地に眠る屍よ。精霊を喰らい我が魔女に忠誠を示せ!! 
 禁忌の魔ドールズギル」
 大地から屍の呻きが鳴り響き、黒ローブに紫を帯びた妖気が纏う。次の瞬間、黒ローブの周辺にギロチンのようなものが無数に顕現した。
 アルドーナ・ベルトとオルボルクの命を狩った魔法が大輔へと向けられたのだ。
 黒ローブが腕を払うとそれが大輔に向かって降り注ぐ。
 ああ.... 今度こそ死んだ。悪い蓮奈。会いにいけそうにない。
 「風に司る精霊よ。我が刃に纏いて邪悪を凪ぎ払え!!」
 凛と済んだ声。どこからともなく飛ぶ白い衝撃波がギロチンを粉々に砕く。
 吹きわたる風の中彼女は優雅に立ち
 「見つけた.... 食人の魔女カーニバル、悪いですが貴方にはここで死んでもらいます」
 すらりと長い刀を抜き構えた。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

繰り返しのその先は

みなせ
ファンタジー
婚約者がある女性をそばに置くようになってから、 私は悪女と呼ばれるようになった。 私が声を上げると、彼女は涙を流す。 そのたびに私の居場所はなくなっていく。 そして、とうとう命を落とした。 そう、死んでしまったはずだった。 なのに死んだと思ったのに、目を覚ます。 婚約が決まったあの日の朝に。

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

処理中です...