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イフリートの鎧編
魔女と魔法
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何が起きたのかわからなかった。アルドーナの剣がふりおろされ大輔は二度の死を迎える筈だったのだが。
死んだのは大輔ではなく、アルドーナの方だった。
何者かにより首が突如切り落とされ、その顔がコロリと転がる。
地面に倒れている大輔と目があう。その顔には激しい憎悪や悲しみが込められ、大輔は阿鼻叫喚し、目を背けるように固く瞳を閉じた。
これは夢だと何度も何度も言い聞かせるが、空しくもそれを打ち消すかのごとく聴覚が周りの声を拾う。
「騎士一人撃退。これでまたローゼン王国の勢力が減ったな。あ、後あれも始末しとくかな」
黒いローブを被る男は何かを唱え、手をヒュッと軽く振り、飼い主と同様にオルボルクの首をかっ切った。
バシャバシャと血の雨が大輔へと降り注ぐ。それはとても熱く、ベットリとしていたがそれでも大輔は頑なに目を閉じていた。
黒ローブの男は血溜まりをピチャピチャと踏み鳴らし、大輔の目の前で腰を屈める。
三度めの死を覚悟することになりそうだ。大輔は恐る恐る目を開くと黒ローブの男と目があった。
緑の双桙に目元にかかる白色の髪。顔は大輔よりも幼く、二十代と若く見えた。
「.... 」
黒ローブの男は黙ったまま大輔を見つめ、徐に腰にくくりつけた木製の鞘から小刀を抜く。
あれで皮を一枚一枚剥がされるのか。せめて楽に死にたかった。
ぐっと歯を食い縛り、男の小刀を凝視する。すらと長い刃が太陽の光に照らされ怪しく光る。
小刀はすぅーと上にあげられ
「くっっ!」
大輔もとい隣に転がる肉塊アルドーナ・ベルトに突き立てられた。
「な、何を.... 」
男の予想外の行動に呆気に取られ、大輔は口を半開きに開ける。
男は大輔に目もくれず一心不乱に肉を切り分けていく。
内臓は棄て、頭皮を切って血塗れの髪も放り投げる。
そして塗れた手で脳みそを取り出すと子供の様に目を輝かせ口を大きく開けた。
「やめろ!!」
それは自然に次いでていた。大輔自信も何故叫んだのか理解出来なかったが、目の前で起きようとした光景に恐怖よりも怒りが沸いていたのだ。
声に驚いた男はビクリと震え脳みそをボトリと落とす。
「.... 」
男はがしがしとローブ越しに頭をかくと「ごめん」確かにそう呟いた。
「そうだよな... こんなの間違っている。おっさんが先に仕留めようとした獲物なのにそれを横取りするなんて。でも.... 」
男が被ったローブを取ると、その素顔をが見えた。ショートカットの白髪、傷一つついてなく、声が低くなければ女性だと勘違いしそうな美しい顔立ち。
男は顔を歪め悲痛な面持ちで弁明するかのように叫ぶ。
「でもおっさんも知ってるだろ! 俺達魔女が住む土地は食物が不作なんだ。黄金色に実る麦だって少量しかとれないし、家畜だって疫病で死んでいく。水だって汚染されて飲めたもんじゃない!
だから仕方なかったんだ。腹が減って死にそうで目の前にある肉を食べたくて。汚いと思ってもついつい.... ごめんなさい!」
掌をパンと合わせて謝罪するも大輔は何も言えず震えていた。
アルドーナは魔女を警戒していた。それはてっきり怪しい魔術を使うからだと認識していたがそれだけではなかった。
魔女は狂っている。命を奪うのも、食人行動にも何の躊躇いも悪気も見せないのだ。
「おかしい.... こんなの間違ってる」
「だからごめんって許してよ.... そうだ。これからさ人狩りしない? 俺が仕留めた人間も分けてあげるからさ。ね? そうしようよ」
「違うそうじゃない!」
怒りが恐怖に打ち勝った瞬間だった。大輔は沸き上がる感情を抑えきれず、その感情に全てを任せる。
「人間を殺したのに何で何とも思わないんだよ!! おかしいだろそんなの!」
「.... おかしい?」
黒ローブの低調な声が大輔の耳を打った。全身が粟立ち、怒りが急速に割れた風船の様に萎んでいく。
「おかしいのはオジサンの方だよ。人間を殺すなんて昔からしてきた事なのに、それを今更おかしいと思うだなんて。
いや、そもそもオジサンは魔女なの? 変な黒い服に身を包んでるけどさ」
屈めた腰をおこすと男は大輔の背に向かって踵を振り落とした。
「がぁぁぁぁぁぁ!! 」
「ねぇ魔女なら魔法を使いなよ。使えるでしょ?魔女なんだからさ。俺を吹き飛ばしてみなよ!」
黒ローブの男は大輔の苦しむ反応を楽しむかのように執拗に踏みつけ、脇腹を蹴り飛ばした。
「ぁぁぁぁ.... ぐっ」
「わかったよ。おっさん魔女じゃないね。あーあ話して損した。もう死になよ」
黒ローブの男は手を掲げ不気味に笑う。
「地に眠る屍よ。精霊を喰らい我が魔女に忠誠を示せ!!
禁忌の魔ドールズギル」
大地から屍の呻きが鳴り響き、黒ローブに紫を帯びた妖気が纏う。次の瞬間、黒ローブの周辺にギロチンのようなものが無数に顕現した。
アルドーナ・ベルトとオルボルクの命を狩った魔法が大輔へと向けられたのだ。
黒ローブが腕を払うとそれが大輔に向かって降り注ぐ。
ああ.... 今度こそ死んだ。悪い蓮奈。会いにいけそうにない。
「風に司る精霊よ。我が刃に纏いて邪悪を凪ぎ払え!!」
凛と済んだ声。どこからともなく飛ぶ白い衝撃波がギロチンを粉々に砕く。
吹きわたる風の中彼女は優雅に立ち
「見つけた.... 食人の魔女カーニバル、悪いですが貴方にはここで死んでもらいます」
すらりと長い刀を抜き構えた。
死んだのは大輔ではなく、アルドーナの方だった。
何者かにより首が突如切り落とされ、その顔がコロリと転がる。
地面に倒れている大輔と目があう。その顔には激しい憎悪や悲しみが込められ、大輔は阿鼻叫喚し、目を背けるように固く瞳を閉じた。
これは夢だと何度も何度も言い聞かせるが、空しくもそれを打ち消すかのごとく聴覚が周りの声を拾う。
「騎士一人撃退。これでまたローゼン王国の勢力が減ったな。あ、後あれも始末しとくかな」
黒いローブを被る男は何かを唱え、手をヒュッと軽く振り、飼い主と同様にオルボルクの首をかっ切った。
バシャバシャと血の雨が大輔へと降り注ぐ。それはとても熱く、ベットリとしていたがそれでも大輔は頑なに目を閉じていた。
黒ローブの男は血溜まりをピチャピチャと踏み鳴らし、大輔の目の前で腰を屈める。
三度めの死を覚悟することになりそうだ。大輔は恐る恐る目を開くと黒ローブの男と目があった。
緑の双桙に目元にかかる白色の髪。顔は大輔よりも幼く、二十代と若く見えた。
「.... 」
黒ローブの男は黙ったまま大輔を見つめ、徐に腰にくくりつけた木製の鞘から小刀を抜く。
あれで皮を一枚一枚剥がされるのか。せめて楽に死にたかった。
ぐっと歯を食い縛り、男の小刀を凝視する。すらと長い刃が太陽の光に照らされ怪しく光る。
小刀はすぅーと上にあげられ
「くっっ!」
大輔もとい隣に転がる肉塊アルドーナ・ベルトに突き立てられた。
「な、何を.... 」
男の予想外の行動に呆気に取られ、大輔は口を半開きに開ける。
男は大輔に目もくれず一心不乱に肉を切り分けていく。
内臓は棄て、頭皮を切って血塗れの髪も放り投げる。
そして塗れた手で脳みそを取り出すと子供の様に目を輝かせ口を大きく開けた。
「やめろ!!」
それは自然に次いでていた。大輔自信も何故叫んだのか理解出来なかったが、目の前で起きようとした光景に恐怖よりも怒りが沸いていたのだ。
声に驚いた男はビクリと震え脳みそをボトリと落とす。
「.... 」
男はがしがしとローブ越しに頭をかくと「ごめん」確かにそう呟いた。
「そうだよな... こんなの間違っている。おっさんが先に仕留めようとした獲物なのにそれを横取りするなんて。でも.... 」
男が被ったローブを取ると、その素顔をが見えた。ショートカットの白髪、傷一つついてなく、声が低くなければ女性だと勘違いしそうな美しい顔立ち。
男は顔を歪め悲痛な面持ちで弁明するかのように叫ぶ。
「でもおっさんも知ってるだろ! 俺達魔女が住む土地は食物が不作なんだ。黄金色に実る麦だって少量しかとれないし、家畜だって疫病で死んでいく。水だって汚染されて飲めたもんじゃない!
だから仕方なかったんだ。腹が減って死にそうで目の前にある肉を食べたくて。汚いと思ってもついつい.... ごめんなさい!」
掌をパンと合わせて謝罪するも大輔は何も言えず震えていた。
アルドーナは魔女を警戒していた。それはてっきり怪しい魔術を使うからだと認識していたがそれだけではなかった。
魔女は狂っている。命を奪うのも、食人行動にも何の躊躇いも悪気も見せないのだ。
「おかしい.... こんなの間違ってる」
「だからごめんって許してよ.... そうだ。これからさ人狩りしない? 俺が仕留めた人間も分けてあげるからさ。ね? そうしようよ」
「違うそうじゃない!」
怒りが恐怖に打ち勝った瞬間だった。大輔は沸き上がる感情を抑えきれず、その感情に全てを任せる。
「人間を殺したのに何で何とも思わないんだよ!! おかしいだろそんなの!」
「.... おかしい?」
黒ローブの低調な声が大輔の耳を打った。全身が粟立ち、怒りが急速に割れた風船の様に萎んでいく。
「おかしいのはオジサンの方だよ。人間を殺すなんて昔からしてきた事なのに、それを今更おかしいと思うだなんて。
いや、そもそもオジサンは魔女なの? 変な黒い服に身を包んでるけどさ」
屈めた腰をおこすと男は大輔の背に向かって踵を振り落とした。
「がぁぁぁぁぁぁ!! 」
「ねぇ魔女なら魔法を使いなよ。使えるでしょ?魔女なんだからさ。俺を吹き飛ばしてみなよ!」
黒ローブの男は大輔の苦しむ反応を楽しむかのように執拗に踏みつけ、脇腹を蹴り飛ばした。
「ぁぁぁぁ.... ぐっ」
「わかったよ。おっさん魔女じゃないね。あーあ話して損した。もう死になよ」
黒ローブの男は手を掲げ不気味に笑う。
「地に眠る屍よ。精霊を喰らい我が魔女に忠誠を示せ!!
禁忌の魔ドールズギル」
大地から屍の呻きが鳴り響き、黒ローブに紫を帯びた妖気が纏う。次の瞬間、黒ローブの周辺にギロチンのようなものが無数に顕現した。
アルドーナ・ベルトとオルボルクの命を狩った魔法が大輔へと向けられたのだ。
黒ローブが腕を払うとそれが大輔に向かって降り注ぐ。
ああ.... 今度こそ死んだ。悪い蓮奈。会いにいけそうにない。
「風に司る精霊よ。我が刃に纏いて邪悪を凪ぎ払え!!」
凛と済んだ声。どこからともなく飛ぶ白い衝撃波がギロチンを粉々に砕く。
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