眼鏡をこよなく愛する人畜無害の貧乏令嬢です。この度、見習い衛生兵となりましたが軍医総監様がインテリ眼鏡なんてけしからんのです。

甘寧

文字の大きさ
13 / 37

episode.13

しおりを挟む
スーーーハーーー…………

朝食を終えたシルヴィはアーサーとサラとも別れ、職場である医局部の扉を開けれずにいた。

「あの人、ああ言う性格だから自分が言った言葉なんて一々覚えてないし、相手の事も気にしてないわよ」
「そうだな。何人も泣かされていたのを見た事あるが、当の本人は気にもしていなかったしな」
「そうそう。悩んでいる方が馬鹿を見るのよ」

なんて朝食を食べながら進言された事を思い出した。
二人が言う通り、アルベールは過去は振り返らないタイプの人間だ。そんな事、言われなくたって分かってる。
今、シルヴィの足を止めているのはアルベールのせいでは無い。

(職場で何かやらかした次の日って入りずらいものじゃない!!)

そう、これは自分自身の問題なのだ。

「よしっ!!」

ゴクッと喉を鳴らし、覚悟を決めて、いざ──……

カチャ……

「おはようござい──……?」

扉を開けると、やたら騒がしくいつもの落ち着いた雰囲気が一変していた。

「ああ!!シルヴィ!!」

シルヴィの姿を捉えたグレッグが珍しく血相を変えてこちらにやってくるので、一体何事だ!?と身構えているとガシッと肩を掴まれた。

「総監を知らないか?」
「は?総監様ですか?」
「ああ、実はまだ姿が見えないんだ……」
「なんと!?」

グレッグの言葉で騒がしかった理由が判明した。

アルベールはどんなに徹夜しても朝は必ずこの医局に顔を出すのが日課だった。
そのアルベールが今日はまだ姿を現さないなんて前代未聞。天変地異でも起こるんじゃないか?と騒がれているのも頷ける。

「まあ、あの方も人間だ。寝坊の一つもするだろうが生存確認は必要だよね。って事でシルヴィ見てきて」
「ほわぁ!?」

ポンッと肩を叩かれたシルヴィは満面の笑みのグレッグにあれよあれよと医局の外に追い出された。
「いや、あの!!」と必死に断ろうとするが「まあまあ、いいから」とやんわりと言いくめられ気づいたら医局の外だった。

「生きてるかどうか確認するだけいいから、頼んだよ」

それだけ言うとバタンと扉が閉められた。

何か以前にもこんな様な事があったような……

そんな事を思いながら、アルベールの執務室目指しとぼとぼと歩いて行った。



◈◈◈



スーーーハーーー……

あ、冒頭に戻った訳ではございませんよ。
アルベールの執務室前に到着したはいいが、中々ノックが出来ないでいたのだ。

とりあえず扉に耳を当てて中の様子を伺ってみたが、当然分かるはずもなく……

「えぇぇい!!ままよ!!女は度胸!!いったれ!!!」

意を決してコンコンと二度ノックしてみた。

シーーーン……

応答がない。
まあ、そのはずか……ここで応答があればシルヴィが来た意味がない。
それでも一応ノックしたという実証が欲しかった。

ノブに手を当て、ゆっくり開けてみる。

「……総監様~?……失礼しますよ~……」

小声で顔を覗かせるも、アルベールの姿がない。
「あれ?」と思いつつ、執務室の中へ足を踏み入れた。
相変わらず机の上には書類が山になっており、先が見えない。

「ああ~、こんなところに……」

回り込んでようやくアルベールの姿を発見した。
アルベールは机の下に潜り込むようにして眠っていた。

「総監様!!朝ですよ~!!!」

大声で呼んでも目を覚まさないところを見ると、相当疲れが溜まっていた様だ。
死んだように眠るアルベールを起こすのは忍びないと思いつつ、声をかけ続けた。

「ん~~、こりゃ駄目だ」

一度寝たら起きない人っているけど、ここまで起きない人も珍しいんじゃないだろうか。

「それにしても……」

眠っていても絵になる人は絵になるもんだなぁ……と思いつつアルベールを見つめていた。

眼鏡を外しているのが本当に惜しい……

ふと机の上に外された眼鏡が置いてあることに気が付き、自然とその眼鏡に手がいき寝ているアルベールの顔にそっと乗せた。

(ふぁぁぁぁぁぁ!!!!グッジョブ、私!!!!)

シルヴィは声にならない声を上げながら歓喜した。
いつもはこんなに間近で見られないアルベールだが、寝ている今なら見放題!!

(なんと言うサプライズ……)

シルヴィは鼻息荒くアルベールを見つめていた。傍から見たら完全に痴女。
その異常に暑苦しい視線に気づいたのか、アルベールがようやく目を開けた。

「──うわぁ!!!!」
「ほぁ!!!!」

アルベールは目の前でだらし無く顔を弛めて自分を見るシルヴィに驚き、シルヴィはまだ目を覚まさないと思っていたアルベールが目を覚ましたから驚き退いた。

「な、何をしている!?」
「あ、ご、誤解ですよ!!?誓ってやましい事はしておりません!!グレッグ様に頼まれて総監様の様子を見に来たんです!!」
「……なに?」

必死に誤解を解こうと早口で捲し立てると、アルベールがポケットから懐中時計を取り出し、時間を確認すると盛大に溜息を吐きながら頭を抱えた。

「あの、誰にでも寝坊はありますから。むしろ総監様にも人らしい一面があったんですね!!」
「なんだと?」

フォローしたつもりだったが、どうやら相手の取り方によっては嫌味に聞こえてしまうらしい。
シルヴィが慌てふためいていると、アルベールはフーと息を吐いた。

「いや、すまない。起こしに来てくれたんだな」

カチャといつも通りに眼鏡をし、髪をかきあげる姿はまさに悶絶もの。

むしろこちらがお礼をしたい……!!

そんな事を考えているシルヴィをアルベールはチラッと横目で見て「ゴホンッ」と咳払いをした。

「あぁ~~、昨日の件だが………」

ドキリと胸が跳ねた。

まさか、また何か言われるのだろうか……流石に二度目は爆死出来ますけど?

ハラハラしながらアルベールが口を開くのを待った。
そして──

「……すまなかった」

あれ?

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活

しおしお
恋愛
政略結婚の末、侯爵家から「価値がない」と切り捨てられた令嬢リオラ。 新しい夫となったのは、噂で“冷徹”と囁かれる辺境領主ラディス。 二人は互いの自由のため――**干渉しない“白い結婚”**を結ぶことに。 ところが。 ◆市場に行けばついてくる ◆荷物は全部持ちたがる ◆雨の日は仕事を早退して帰ってくる ◆ちょっと笑うだけで顔が真っ赤になる ……どう見ても、干渉しまくり。 「旦那様、これは白い結婚のはずでは……?」 「……君のことを、放っておけない」 距離はゆっくり縮まり、 優しすぎる態度にリオラの心も揺れ始める。 そんな時、彼女を利用しようと実家が再び手を伸ばす。 “冷徹”と呼ばれた旦那様の怒りが静かに燃え―― 「二度と妻を侮辱するな」 守られ、支え合い、やがて惹かれ合う二人の想いは、 いつしか“形だけの夫婦”を超えていく。

人質姫と忘れんぼ王子

雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。 やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。 お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。 初めて投稿します。 書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。 初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。 小説家になろう様にも掲載しております。 読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。 新○文庫風に作ったそうです。 気に入っています(╹◡╹)

結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた

夏菜しの
恋愛
 幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。  彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。  そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。  彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。  いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。  のらりくらりと躱すがもう限界。  いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。  彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。  これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?  エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

【完結】悪役令嬢は何故か婚約破棄されない

miniko
恋愛
平凡な女子高生が乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった。 断罪されて平民に落ちても困らない様に、しっかり手に職つけたり、自立の準備を進める。 家族の為を思うと、出来れば円満に婚約解消をしたいと考え、王子に度々提案するが、王子の反応は思っていたのと違って・・・。 いつの間にやら、王子と悪役令嬢の仲は深まっているみたい。 「僕の心は君だけの物だ」 あれ? どうしてこうなった!? ※物語が本格的に動き出すのは、乙女ゲーム開始後です。 ※ご都合主義の展開があるかもです。 ※感想欄はネタバレ有り/無しの振り分けをしておりません。本編未読の方はご注意下さい。

没落令嬢は僻地で王子の従者と出会う

ねーさん
恋愛
 運命が狂った瞬間は…あの舞踏会での王太子殿下の婚約破棄宣言。  罪を犯し、家を取り潰され、王都から追放された元侯爵令嬢オリビアは、辺境の親類の子爵家の養女となった。  嫌々参加した辺境伯主催の夜会で大商家の息子に絡まれてしまったオリビアを助けてくれたダグラスは言った。 「お会いしたかった。元侯爵令嬢殿」  ダグラスは、オリビアの犯した罪を知っていて、更に頼みたい事があると言うが…

処理中です...