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episode.21
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アルベールが執務室を出て向かった場所は……
「総監、どうかしました?」
シルヴィの上司であるグレッグのいる医局部。
この時間の医局にはまだ人が残っているが、目的のシルヴィが居ない。
「……シルヴィ・ベルナールはいるか?」
「シルヴィですか?」
いつも通り振舞っている様だが、心做しか焦燥している様にも感じたグレッグ。
「シルヴィなら実家に帰省する為に本日はもう終業しましたが?総監の元にも行くよう伝えてあったんですがお聞きになってませんか?」
「いや、その話は聞いたんだが……」
珍しく言葉に詰まるアルベールを見て、グレッグは何かあったなと考えた。
グレッグはアルベールがシルヴィを気にしている事には気付いているが、なにせ今まで愛だの恋だのに無関心だった人間だけあって己の気持ちに気付いていない。そこにシルヴィのお見合いの話が舞い込んできた。
グレッグはこの期を逃す手はないと荒療治に出た訳だが、どうやら失敗に終わったらしい。
(まったく、手のかかる人達だ)
呆れながらも、何があったのか聞くだけ聞いてみることにした。
因みに、周りの者達も手を動かしているフリだけして耳はグレッグとアルベールの話に釘付けだ。
「総監はシルヴィがどうして帰省するのかご存知で?」
「ああ、見合いをすると言っていた」
「それで、休暇を許可したんですか?」
「実家に帰省すると聞いて始めは許可したが、見合いをすると聞いて……」
「聞いて?」
「私が婚約者になると言った」
「「!?!?!!!!??!!!」」
黙って聞いていた者達の声にならない悲鳴がグレッグには聞こえた気がしたが、グレッグは至って冷静だ。
それもそのはず、その言葉を望んでシルヴィを向かわせたのはこの人なのだから。
「で、シルヴィはなんと?」
「私は無理だとハッキリ言われた」
「「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!!!!!!」」
その場に居合わせた者全員が驚愕し声を上げた。
しかし、グレッグはそこも想定内。
「推しは恋愛対象にならない。そう言われたんじゃないですか?」
「──ッ!?」
「ははっ、これでも長らくあの子を見てきましたからね。大抵の事は分かりますよ」
グレッグが軽く笑い返すが、直ぐに真剣な顔つきになった。
ここからが正念場だと言うことだ。
「それで?みすみすあの子を手放すんですか?」
「手放すも何も私が口を出すことではないだろう?」
「ほお?あの子がそれで幸せになるとでも?」
「……私の知った事では無い」
なんとも他人事のような返しにグレッグは若干苛立ち始めた。
いくら今まで仕事人間だったとしても、自分の感情ぐらいは薄々勘づいてくれていると思っていたのだが、勘づくどころか手放そうとするとは……
それに加え、自分の部下であるシルヴィをぞんざいに扱う様な発言がどうにも許せなかった。
だが、その思いはグレッグだけでは無かったようで、グレッグが口を開く前にアルベールの前に仁王立ちで睨みつける者がいた。
「それ、本気で言ってるんじゃないわよね?」
シルヴィの先輩であり皆の憧れでもあるレリスだった。
「もし、本気で言っているのなら、私はあんたを心の底から軽蔑するわ」
「なに?」
「そもそも、シルヴィに会って何を言うつもりだったの?引き止める気があるの?」
腰に手を当てたレリスが厳しくアルベールを追求する。
「私が引き止めたとしてもまた断られるだろう」
「じゃあ、なんの用があるの?」
「…………………」
遂に言葉が出てこなくなり黙ってしまった。
普段は物事をはっきり言うアルベールだが、シルヴィの事となるとこんなにもポンコツなのかとレリスは溜息が出た。
「……ほんと、いい加減自覚してくれてもいいと思ったけど無理みたいね。あんたにシルヴィを止める権利はないわ」
「なんだと?」
「って言うか、あんたは人を愛する権利がないわ!!」
レリスは本気でアルベールとシルヴィが一緒になってもらいたいと願っていた。
だが、煮え切らない返事を続けるアルベールにこの人には任せられないと判断した。
それはこの場にいる全員も同意見だったらしく、一様に頷いていた。
気になるのなら意地でも引き止める。そんな簡単なことがなぜ出来ない!!
皆が心の中で叫んだ。
「これだから恋愛不適合者は……」
ボソッとレリスが呟いたが、アルベールの耳には届いていない。
あちらこちらから蔑む様な視線と憐れむような視線が入り交じり、流石のアルベールもいたたまれなくなったようで「チッ」と舌打ちをしてこの場から出て行こうとしていた。
「お待ちください」
出て行こうとするアルベールをグレッグが引き止めた。
「これはあの子の上司としてではなく、個人の意見としてお聞きください」
そう前置してから伝えた。
「大切に思うのなら自分の手で幸せにするという意志をお持ちなさい。目の前からいなくなってから大事なものに気付くなんて馬鹿な事にならないように、少しでも気になっているのなら。ね」
鋭い視線で睨みつけるようにして進言した。
アルベールはその言葉に返事を返すことも無く、踵を返し出て行ってしまった。
「少しでも伝わってくれればいいが……」
アルベールが出て行った扉を見つめながらグレッグが呟いた。
「総監、どうかしました?」
シルヴィの上司であるグレッグのいる医局部。
この時間の医局にはまだ人が残っているが、目的のシルヴィが居ない。
「……シルヴィ・ベルナールはいるか?」
「シルヴィですか?」
いつも通り振舞っている様だが、心做しか焦燥している様にも感じたグレッグ。
「シルヴィなら実家に帰省する為に本日はもう終業しましたが?総監の元にも行くよう伝えてあったんですがお聞きになってませんか?」
「いや、その話は聞いたんだが……」
珍しく言葉に詰まるアルベールを見て、グレッグは何かあったなと考えた。
グレッグはアルベールがシルヴィを気にしている事には気付いているが、なにせ今まで愛だの恋だのに無関心だった人間だけあって己の気持ちに気付いていない。そこにシルヴィのお見合いの話が舞い込んできた。
グレッグはこの期を逃す手はないと荒療治に出た訳だが、どうやら失敗に終わったらしい。
(まったく、手のかかる人達だ)
呆れながらも、何があったのか聞くだけ聞いてみることにした。
因みに、周りの者達も手を動かしているフリだけして耳はグレッグとアルベールの話に釘付けだ。
「総監はシルヴィがどうして帰省するのかご存知で?」
「ああ、見合いをすると言っていた」
「それで、休暇を許可したんですか?」
「実家に帰省すると聞いて始めは許可したが、見合いをすると聞いて……」
「聞いて?」
「私が婚約者になると言った」
「「!?!?!!!!??!!!」」
黙って聞いていた者達の声にならない悲鳴がグレッグには聞こえた気がしたが、グレッグは至って冷静だ。
それもそのはず、その言葉を望んでシルヴィを向かわせたのはこの人なのだから。
「で、シルヴィはなんと?」
「私は無理だとハッキリ言われた」
「「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!!!!!!」」
その場に居合わせた者全員が驚愕し声を上げた。
しかし、グレッグはそこも想定内。
「推しは恋愛対象にならない。そう言われたんじゃないですか?」
「──ッ!?」
「ははっ、これでも長らくあの子を見てきましたからね。大抵の事は分かりますよ」
グレッグが軽く笑い返すが、直ぐに真剣な顔つきになった。
ここからが正念場だと言うことだ。
「それで?みすみすあの子を手放すんですか?」
「手放すも何も私が口を出すことではないだろう?」
「ほお?あの子がそれで幸せになるとでも?」
「……私の知った事では無い」
なんとも他人事のような返しにグレッグは若干苛立ち始めた。
いくら今まで仕事人間だったとしても、自分の感情ぐらいは薄々勘づいてくれていると思っていたのだが、勘づくどころか手放そうとするとは……
それに加え、自分の部下であるシルヴィをぞんざいに扱う様な発言がどうにも許せなかった。
だが、その思いはグレッグだけでは無かったようで、グレッグが口を開く前にアルベールの前に仁王立ちで睨みつける者がいた。
「それ、本気で言ってるんじゃないわよね?」
シルヴィの先輩であり皆の憧れでもあるレリスだった。
「もし、本気で言っているのなら、私はあんたを心の底から軽蔑するわ」
「なに?」
「そもそも、シルヴィに会って何を言うつもりだったの?引き止める気があるの?」
腰に手を当てたレリスが厳しくアルベールを追求する。
「私が引き止めたとしてもまた断られるだろう」
「じゃあ、なんの用があるの?」
「…………………」
遂に言葉が出てこなくなり黙ってしまった。
普段は物事をはっきり言うアルベールだが、シルヴィの事となるとこんなにもポンコツなのかとレリスは溜息が出た。
「……ほんと、いい加減自覚してくれてもいいと思ったけど無理みたいね。あんたにシルヴィを止める権利はないわ」
「なんだと?」
「って言うか、あんたは人を愛する権利がないわ!!」
レリスは本気でアルベールとシルヴィが一緒になってもらいたいと願っていた。
だが、煮え切らない返事を続けるアルベールにこの人には任せられないと判断した。
それはこの場にいる全員も同意見だったらしく、一様に頷いていた。
気になるのなら意地でも引き止める。そんな簡単なことがなぜ出来ない!!
皆が心の中で叫んだ。
「これだから恋愛不適合者は……」
ボソッとレリスが呟いたが、アルベールの耳には届いていない。
あちらこちらから蔑む様な視線と憐れむような視線が入り交じり、流石のアルベールもいたたまれなくなったようで「チッ」と舌打ちをしてこの場から出て行こうとしていた。
「お待ちください」
出て行こうとするアルベールをグレッグが引き止めた。
「これはあの子の上司としてではなく、個人の意見としてお聞きください」
そう前置してから伝えた。
「大切に思うのなら自分の手で幸せにするという意志をお持ちなさい。目の前からいなくなってから大事なものに気付くなんて馬鹿な事にならないように、少しでも気になっているのなら。ね」
鋭い視線で睨みつけるようにして進言した。
アルベールはその言葉に返事を返すことも無く、踵を返し出て行ってしまった。
「少しでも伝わってくれればいいが……」
アルベールが出て行った扉を見つめながらグレッグが呟いた。
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