エンディングを終えたヒロインに憑依したらしいけど、私が添い遂げたいのはこの人じゃない

甘寧

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 ゼノに好かれる為に奮闘しているが、それよりもまず解決すべき問題があった……それは、婚約を破棄させる事。

 順調に妃教育も進んでいるし、レオンとの関係も良好。なんなら婚姻の日程まで決まりかけている。
 流石にここまで来たら焦りが募り始める訳で……

「お願い!!私と駆け落ちして!!」
「はぁ!?」

 突如そんな突拍子もない事を言われたゼノは、分かりやすく狼狽えていた。

「一生のお願い!!悪いようにはしないから!!」
「その言い方……いや、そんなことより、少し落ち着こう?ね?」

 必死の形相で迫るローズにゼノは落ち着くように言うが、ローズはそのまま押し倒さん勢いで詰め寄ってくる。流石にまずいと思ったゼノはローズを抱き上げ、自分の方を意識するように仕向けた。

 その結果、見事にローズの意識はゼノに向けられた。

「少しは落ち着いたかい?急にどうしたのさ?」

 ゆっくりとその場に下ろしながら問いかけるが、俯いたまま黙っている。それでもこの人を離さないと服の裾を掴んでいるのを見て、ゼノはクスッと頬が緩んだ。

 ローズがこんなことを言い出した理由は聞かなくても分かってる。

「殿下の何が気に入らないの?それとも、マリッジブルーってやつかい?」

 頭を撫でながら言われたが、その自然に言われた言葉が癪に障った。
 ゼノはローズの想いには既に気づいているはずなのに、それでもレオンと一緒になることを願っている。それが悲しくて苛立った。

「レオンが気に入る気に入らないの問題じゃない。私は好きな人と一緒になりたいだけなの!!だけど、それを伝えたところで、いつもはぐらかさせるだけじゃない!!」

 目頭が熱くなり涙が溢れそうになるのを堪えながら怒鳴りつけた。

 睨みつけるローズの目を真剣な表情で見つめていたゼノは、暫く黙って何かを考えていた。キュッと唇を噛みしめるとローズに向き合った。

「あんたは殿下と一緒になって幸せになるべきだ。……俺じゃ幸せにできない」
「それでも構わない!!あなたと一緒なら!!」

 縋るように言うと、ゼノは辛そうな顔をしながら抱きしめてくれた。そして、耳元で「ごめんね」と伝えられた……


 ◈◈◈


「ああ~……泣いたわ……」

 完全に玉砕させられ、夜通し泣きじゃくったローズの目は真赤に腫れて見れたものじゃなかった。

 人を好きになるとこんなにも苦しくて辛いものだと思い知らされたが、簡単に吹っ切られるものでもないし諦められない。

「あ~あ、酷い顔してるね」
「……誰のせいだと思ってんの……」

 何事もなかったように話しかけられ、自分だけ悩んでいるのかと思うと悔しくて意趣返ししてやりたくなった。

「先に言っておくけど、私は貴方を諦めたつもりはないから」
「あのねぇ……」
「貴方の気持ちは分かってる。だから、貴方の中でそんなことどうでもいいと思えるほど、私の存在を刷り込ませることにするわ」

「覚悟しておいて」と口角を上げて挑発するとゼノは一瞬目を見開いたが、すぐに「参ったね」と苦笑いを浮かべた。

 正直、ゼノの中で私の存在がどれほどのものかは分からない。元より修道院入りを覚悟しているから、これで駄目だったら諦めようと最後の悪あがきでもある。

 ローズの決意表明が終わると、ゼノはカーテンを開け窓を開放すると窓枠に腰掛けた。

「それはそうと、今日は城に行かないといけない日だから、俺が一日いないけど……分かってるよね?」
「分かってる。この屋敷からは出ないようにしてる」
「ならいいけど」

 今はローズの護衛に就いているとはいえ、レオンの影には変わりないので、他の仕事も請け負っている。他の仕事を疎かにも出来ないので、月に一度決まった日にだけ城へ行って報告書を纏め、他の仕事にも目を配らせ対応できそうなものは対応するようにしている。

 その為、ゼノがいない日は屋敷に引き籠っているか、城で妃教育を受けているかレオンとお茶を飲んだりして時間を潰していた。

「出来るだけ早く帰ってくるから、いい子にしててよ?」
「子供じゃないんだから大丈夫よ」

 いつものように他愛のない会話を交わして、ゼノを見送った。
 いつものように部屋で読書でもしていようと思ったタイミングで、兄であるアシェルがやって来た。

「やあ、久しぶりに外でお茶でもしないかい?」

 外に出るのは少し躊躇する。ゼノは案外過保護な所があるから、敷地内だろうと自分がいない時に外に出られるのを嫌う。
 まあ、今回は一人ではなくアシェルもいるから大丈夫だろうと、暫く考えてから快く承諾した。



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