断罪された挙句に執着系騎士様と支配系教皇様に目をつけられて人生諸々詰んでる悪役令嬢とは私の事です。

甘寧

文字の大きさ
5 / 37

episode.5

しおりを挟む
 ジェフリーは王都に向かいながら先程のベルベットの顔を思い浮かべていた。
 言葉を噛んで顔を赤らめたり、必死に笑顔を取り繕ってるが追い返そうとしているのが丸分かりで帰る素振りを見せたら目を輝かせて喜び、意地悪く指摘すると慌てて否定する様が面白く思えた。

 自分を警戒している事は分かっていたが、あそこまであからさまに態度に出る者も珍しい。

 フッと自然に笑みがこぼれた事にジェフリー自身も驚いた。

 今回ベルベットの元に出向いた理由には賊の他にもう一つ、拭いえない疑問を探る為だった……



 ◈◈◈


 ジェフリーが初めてベルベットと顔を合わせたのは、ヴィンセントの婚約者だと紹介された時だった。第一印象は格段変わり映えしない令嬢だと言う印象で、挨拶だけ交わしてその場を離れた。
 次に耳に入ってきたのは、とんだ我儘姫だと言うこと。まあ、令嬢にはよくある事だったのであまり気にも止めていなかったが、ある日城下を巡回している時に怒鳴り声をあげる令嬢に遭遇した。

 店の前には人集りができ、店の店主は必死に頭を下げている。

「どうかしたのか?」
「あ、ああ、騎士様」

 後ろで見ていた者に声をかけ事情を聞いた所、令嬢が注文していたドレス一式を誤って他の客に売ってしまったらしいという事だった。

「それは店の責任では?」
「まあ、それはそうなんですが、あのご令嬢は昨日も同じ物を買いに来ていて、店の方でも勘違いしていた様なんですよ」
「全く同じ物を!?」
「そうなんです。……同じ物なら一着ぐらい譲ってやってもいいだろうに……」

 確かにこの者の言う通りだ……

「あ~あ、これは長くなりそうだな」
「今日も我儘姫様は絶好調だな」

 周囲の者たちが口々にする”我儘姫”と言う単語を聞いて、怒鳴り散らしている人物がベルベットだと言うことが分かった。

 目を釣りあげ汚い言葉で罵る姿は令嬢らしからぬ姿だった。

(こんな者が殿下の婚約者なのか?)

 率直な意見だった。

 店側に非はあるものの、誠心誠意謝罪している者に対してこの扱いは酷い。それでなくとも、店の前にこれだけの人集りが出来ているのだから、店の評判も少なからず落ちるだろう。仕打ちとしては些か度が過ぎる。

(弱い者はいつも損をするな……)

 流石にこのままにしておく訳にはいかないのでジェフリーが仲裁に入ろうとしたところで、ベルベットの元に一人の青年が駆け寄ってきた。

 その青年と少し話すと、落ち着きを取り戻したのか大人しくその場を後にして行った。正直あまり関わりたくなかったジェフリーは胸を撫で下ろしたのを覚えている。

 そんなことがあった数日後、ジェフリーは再び城下へとやって来た。

「あらあら、団長様お久しぶりです」
「ああ、シスターも元気そうで良かった」

 この日、ジェフリーは孤児院を訪れていた。
 ジェフリーは元々孤児で、この孤児院に世話になっていた。15歳の時に剣の才を認められ、騎士に入団。その後死に物狂いで剣を振っていたらいつの間にか団長と呼ばれるまでになり、その時に伯爵の位も貰い、郊外に大きな屋敷を持つまでには出世した。

「今月の分だ」
「まあ、いつもありがとうございます」

 騎士になれたのもこの孤児院があってこそだと、給金を貰えるようになってから毎月欠かさずこうやって孤児院を訪れ、少しでも恩を返せればと寄付金を渡している。

「これで足りているか?足りなければもう少し……」
「いえいえ十分です。最近は団長様の他に寄付をしてくださる方がおりまして、その方が結構な額を置いていってくださるので、随分と余裕があるんですよ」

 微笑むシスターにジェフリーはそんな者がいる事に驚いた。

「多分そろそろ……ああ、ほら、あの方です」

 シスターの視線の先を見ると、一人の青年が立っていた。

(あの男は……)

 先日ベルベットの元に駆けつけた青年がそこにいた。

「シスター、いつもの持って来たよォ」
「はいはい、只今参ります」

 見た感じどこにでもいる青年だが、どう考えても寄付できるほどの金を持っているようには見えず、不審に思い声をかけることにした。

「……随分な額を寄付をしているようだが、その金は何処から来ているんだ?」
「へぇ?それが人に物を訊ねる態度?随分と高圧的な態度を取るんだねぇ?」

 その言葉にジェフリーの眉間に皺が寄った。

「まあ、別にいいけど。これは僕からじゃない。僕は頼まれて届けてるだけ」
「誰から?」
「それを教える義理は無いね」

(こいつ……!!)

 クスッと嘲笑うかのように言われジェフリーは拳に力がこもった。すぐに察したシスターが間に入ってくれたが、相手は詫び入れる様子がない。

「じゃあ、渡したから僕は行くよ」
「あっ、おい!!」

 ジェフリーが止めるのも聞かず、早急にその場から立ち去ってしまった。

「……シスター、失礼だが彼は?」
「彼はいつも寄付金を届けに来てくれているんです。寄付をしてくれているのは違う方ですよ」

 残されたジェフリーがシスターに問いかけると、そんな応えが返ってきた。

「その者の名は?」
「それが、いつも匿名で本名は明かしてくれないのです」
「匿名でもいい。なんと言っていた?」
「確か……"ビロード"と……」

(ビロードとは随分変わった名を使う)

 その名を聞いてジェフリーはしばらく考えこんだ。
 ビロードとは織物の一つだ。まあ、匿名ならばどんな名でも良かったのだろう。

(いや、ちょっと待て)

 ビロードは他の国では呼び方が違うことに気がついた。
 前に何処ぞの令嬢が自慢気に話していたのを思い出したのだ。

 他の国では確か……"ベルベット"

(まさかな……)

 ジェフリーは先日会った令嬢のことを思い出した。

 自身のドレスを他者に売られ怒鳴り散らしていた者が孤児に寄付をするだろうか。あの手の令嬢は孤児院なんかに興味を示すはずがない。だが、あの男と名の一致。偶然にしては出来すぎている。

 ジェフリーはどうにも答えが出ず、悶々とした気持ちで孤児院を後にした……
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

<完結>溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。 本編完結済み。 続きのお話を、掲載中です。 続きのお話も、完結しました。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

枯れ専令嬢、喜び勇んで老紳士に後妻として嫁いだら、待っていたのは二十歳の青年でした。なんでだ~⁉

狭山ひびき
恋愛
ある日、イアナ・アントネッラは父親に言われた。 「来月、フェルナンド・ステファーニ公爵に嫁いでもらう」と。 フェルナンド・ステファーニ公爵は御年六十二歳。息子が一人いるが三十年ほど前に妻を亡くしてからは独り身だ。 対してイアナは二十歳。さすがに年齢が離れすぎているが、父はもっともらしい顔で続けた。 「ジョルジアナが慰謝料を請求された。ステファーニ公爵に嫁げば支度金としてまとまった金が入る。これは当主である私の決定だ」 聞けば、妹のジョルジアナは既婚者と不倫して相手の妻から巨額の慰謝料を請求されたらしい。 「お前のような年頃の娘らしくない人間にはちょうどいい縁談だろう。向こうはどうやらステファーニ公爵の介護要員が欲しいようだからな。お前にはぴったりだ」 そう言って父はステファーニ公爵の肖像画を差し出した。この縁談は公爵自身ではなく息子が持ちかけてきたものらしい。 イオナはその肖像画を見た瞬間、ぴしゃーんと雷に打たれたような衝撃を受けた。 ロマンスグレーの老紳士。なんて素敵なのかしら‼ そう、前世で六十歳まで生きたイオナにとって、若い男は眼中にない。イオナは枯れ専なのだ! イオナは傷つくと思っていた両親たちの思惑とは裏腹に、喜び勇んでステファーニ公爵家に向かった。 しかし……。 「え? ロマンスグレーの紳士はどこ⁉」 そこでイオナを待ち受けていたのは、どこからどう見ても二十歳くらいにしか見えない年若い紳士だったのだ。

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

【完結】氷狼魔術師長様と私の、甘い契約結婚~実は溺愛されていたなんて聞いていません!~

雨宮羽那
恋愛
 魔術国家アステリエで事務官として働くセレフィアは、義理の家族に給料を奪われ、婚期を逃した厄介者として扱われていた。  そんなある日、上司である魔術師長・シリウスが事務室へやってきて、「私と結婚してください」と言い放った!  詳しく話を聞けば、どうやらシリウスにも事情があるようで、契約結婚の話を持ちかけられる。  家から抜け出るきっかけだと、シリウスとの結婚を決意するセレフィア。  同居生活が始まるが、シリウスはなぜかしれっとセレフィアを甘やかしてくる!? 「これは契約結婚のはずですよね!?」  ……一方セレフィアがいなくなった義理の家族は、徐々に狂い始めて……? ◇◇◇◇  恋愛小説大賞に応募しています。  お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます( . .)"  モチベになるので良ければ応援していただけると嬉しいです! ※この作品は「小説家になろう」様にも掲載しております。 ※表紙はAIイラストです。文字入れは「装丁カフェ」様を使用しております。 ※小説内容にはAI不使用です。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】 23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも! そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。 お願いですから、私に構わないで下さい! ※ 他サイトでも投稿中

処理中です...