指南役とお妃教育

甘寧

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嫉妬と煽り

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 少し前、ロゼの部屋を訪れたグィードは、もぬけの殻の室内を見て呆れたように溜息を吐いていた。

「あの方は本気で妃になるつもりはあるんでしょうかねぇ?」

 自分が持ってきた教材を開くが、それが開かれた形跡はない。

「私が見張ってないとすぐにこれだ。本当に手のかかる……」

 愛おしい者を思い浮かべ、クスッと微笑んだ。

 正直、自分の手を煩わせる女性は好きではない。宰相である自分は、常に冷静沈着にもの事を考えなければならない。自分の発言一つで国を脅かす事を知っているから。

 だが、ロゼの事になると、冷静な仮面は外れ心が荒波のよう荒れ狂う。

 ……毒物事件の時もそうだ。彼女がクッキーを口にした時、心臓を刺されたような衝撃だった。

 彼女を失うかもという恐怖と不安がいっぺん襲いかかってきた。

 それなのに彼女は、ヘラッとしながら「無事だったからいいじゃない」とこちらの気持ちをまったく分かっていない。

 無事だったら怪しい物を口にしていいとは言えない。他人を護ろうとする事は悪いことじゃない。が、自分を犠牲にしてまですることじゃない。自分に何かあった時、心配する者がいるという事を彼女は分かっていない。

 そんな彼女に苛立ち、ここ数日は事務的な会話ばかりで目も合わせていない。

(我ながら、子供じみた事だと分かっているが……)

 それもそろそろ限界だ。

「まったく、言いつけの守れない子はお仕置が必要ですね」

 さて、どうしてあげましょうか?

 膝の上に乗せて、指導してあげようか?それとも、逃げれないようにベッドに縛り付けて、自分の立場を教えてあげようか……

 涙を浮かべ、全身を真っ赤に染めながら嫌がるロゼを想像すると、ゾクッとした昂りを感じた。

(いっその事、私の腕の中に閉じ込めて──……ん?)

 ふと、ロゼの声が聞こえた気がして足を止めた。

(殿下の部屋から?)

 見ると、わざとらしく扉が少しだけ開いている。ザワつく胸を抑えつけ目を向けると、そこにはロゼと殿下の姿があった。

「ヒャッ」

 ロゼの甘い声が響く。殿下の手がロゼの頬に触れている。

(は?)

 何が起こっているのか、理解が追い付かない。

 茫然としているグィードの視線に気が付いたジルヴェスターは、クスッと悪戯に微笑みながらロゼの頭に手を回した。

「!!」

 見せつけるように自分の唇を近づけるジルヴェスターに、カッと全身の血が沸騰する。我が主ながら、中々いい性格をしていると睨みつけた。


 ***


 一方のジルヴェスターは──

(あの様子では、本当に口づけているとでも思ったのだろうな)

 堪らずクスクスと笑みがこぼれる。

 グィードから見える角度では、ロゼの顔は見えない。見せつけるように振舞えば、私達はまるで恋人様なキスを交わしている様に見える。

「あ、あの、取れました?」
「ああ、すまない。もう大丈夫だ」

 はなから肩に毛虫なんて付いていない。……というか、王子である私の部屋に毛虫なんていたら大事だ。少し考えれば分かる事だが、こんな手に引っかかる子がいた事に驚きだ。

 ジルヴェスターの視線の先には、存在しない毛虫を未だに探しているロゼがいる。

 警戒心が強い癖に、私の言葉に疑う事もせず簡単に鵜呑みにする。純粋で自分に向けられる好意の眼には気付かない。

 見ているこちらがもどかしく思ってしまうほどに。

(しかしまあ、簡単にはくれてはやれない)

 こんな面白い事、早々あることじゃない。簡単に手放しては面白くない。

(自分でもいい性格をしていると思ってるよ)

 自嘲するようにクスッと微笑んだ。

「ああ、残念だけど、時間切れのようだ」

「お迎えだ」と今しがた気が付いたように振舞いながら指を指した。グィードの姿を見たロゼはあまりの形相に「ヒュッ」と息を飲んでいたが、今のグィードの視界には私しか映っていないよ。

「で、ででででで殿下?あ、あれはヤバい!」

 何も分かっていないロゼは、縋るようにジルヴェスターの胸に自分から飛び込んでいった。それが、火に油を注ぐ行為になっているとも知らず。

「こらこら、グィード。可愛い婚約者を怯えさせないでくれないか?」
「かわ──ッ!?」

 ロゼを抱きしめ頭にキスをすると、黙って睨みつけくる。憎悪と嫉妬。彼から感じた事のない感情だ。

「ロゼさん」
「はいっ!」

 グィードに名を呼ばれると反射的に返事をしてしまう。

「こちらにおいで」
「!?!?」

 いつもとは違う優しい声色で手を差し伸べてくる。急な優しさは人を恐怖へと陥れるとこがあるが、それが今だ。この優しさの裏が汲み取れず、足が一歩も動かない。

「ロゼさん」
「!!」
「二度も言わせる気ですか?」

 睨みつけるように言われ、ああ、いつものグィードだとホッとした。

「くくくっ」と笑うジルヴェスターの腕から出ると、早くしろと言わんばかりに腕を強く引かれグィードの胸に飛び込んだ。

「殿下。彼女は候補です。他の候補者達もいるのですから、言葉の選択には気を付けてください」
「ふっ、気を付けることにしよう」

 忠告とも牽制とも取れる言葉を残し、グィードはロゼを連れてその場を去って行った。

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