4 / 26
4
しおりを挟む
(ん、暖かい…)
リーゼは夢の中で暖かい温もりに包まれていた。
花のように甘い香りが全身を包み、とても心地が良かった。
だが、その温もりはリーゼから離れていこうする。リーゼは手放したくない一心で、その温もりにしがみついた。
「随分と積極的だな」
やけにハッキリと聞こえた声に、リーゼの意識が浮上してきた。それでも、まだ頭ははっきりせずボヤ~としている。
「目が覚めたか?」
優しく頭を撫でられる感触がして、あまりの気持ちよさについつい身体を預けてしまった。
(頭を撫でられるなんていつぶりだろう……)
ニマニマしながら顔を埋めていた所で、ようやくハッとした。
勢いよく体を起こすと、そこには残念そうにしながらも満足気に微笑むウィルフレッドの姿があった。
「な、な、な、ななななななッ!!!!!!!!」
顔面蒼白なになりながら、声にならない声で訴える。
シャツがはだけ、逞しい胸板が間から見え隠れして目のやり場に困る。更に、髪を下ろして無防備なウィルフレッドは控えめに言っても色気が半端ない。深夜帯にあるべき姿で寝起きに見ていいもんじゃない。
そんなウィルフレッドを目の前にして、リーゼの顔は次第に青から赤へと変わっていった。
「ふっ、朝から忙しない顔だな」
「だ、誰のせいだと思ってるんですか!?──と言うか、なんでいるんです!?いくら仮の婚約者とはいえ、女性の寝室に断りなく入るのは紳士ではありませんよ!!」
冗談でもやりすぎだと力強く訴えたが、ウィルフレッドは詫びいれる様子はこれっぽちもないらしい。
「手を出した訳ではないんだし、一緒に寝るぐらいいいだろ?それに、離してくれなかったのはそちらだろ」
起きる前に離れるつもりだったと言い訳まがいの事を言われても説得力がない。
「そんなに俺から離れるのが惜しかったか?」
「──ッ!!」
口元を吊り上げながら言われて、思わず言葉に詰まってしまった。
正直なところ、あんなによく眠れたのは久々かもしれない。人の温もりなんて幼い頃以来で、その心地よさすらも忘れていた。
「なんなら、毎日一緒に寝てやろうか?」
「ッ!!け、結構です!!」
(完全に遊んでやがる!!)
リーゼは真赤に染まった顔を隠しながら、ウィルフレッドの背中を押して部屋を出るように促した。
鍵がかかってるから大丈夫じゃなかったの!?と思いながら、ウィルフレッドの私室に繋がるドアを開けると部屋に無理矢理押し込んだ。
「もう、許可なく入ってこないでください!!」
バンッ!!と勢いよくドアを閉めると、隣からクスクス笑う声が聞こえてきた。
リーゼは壁に背中を預け、力なくその場にしゃがみこみ「朝から疲れた……」と誰もいない部屋を眺めながら呟いた。
❊❊❊
「叔父上!!」
ウィルフレッドが城の中を歩いていると、背後から大声で引き留める声が聞こえた。
振り返ると、焦っているような怒っているような表情のロドルフが駆け寄って来た。
「ロドルフか。なんだ?」
「なんだじゃありません!!本気でリーゼと婚約するつもりですか!?」
「するんじゃなく、したんだ」
「何故リーゼなのです!?叔父上ならば他の者がもっといたはずだ!!」
叫ぶロドルフにウィルフレッドは目を細め、冷たい視線を向ける。その視線に怯んだ様子を見せたが、後には退かないらしい。
「彼女ほど魅力的でいい女はいない」
「あの女はアリアナを陰で虐げていた卑劣な女ですよ!?」
今だにそんな事を言っているロドルフにウィルフレッドは溜息が出た。
こう言えば諦めるとでも思っているのか、ロドルフは顔を引き攣らせながも笑みを浮かべている。
これが甥だと思うと頭が痛い。
「私は叔父上を心配して…」
「黙れ」
腹の底に響くような低い声と凍てつくような冷たい視線に、ロドルフはゾクッと背筋が凍る感覚に陥った。
「いつからお前は俺を心配する側になったんだ?」
「あ…」
「これでも人を見る目はしっかりしている。……少なくともお前よりは目利きは効くと思うが?」
騎士団長であるウィルフレッドの言葉は説得力があり、ロドルフは悔しそうに唇を噛み締める事しか出来ずにいる。
「だが、そのおかげで彼女と出会えた。その点では感謝はしている」
婚約破棄をしてくれたおかげで今があるのだから。
「未練がましい事をするな。自分が決めた事だろ?俺を心配していると言うが、傍から見れば見苦しいだけだ。──それに、彼女とは既に一夜を共にしている」
「は?」
ロドルフは目玉が落ちそうなほど目を見開いている。
「き、騎士団長ともあろう者が、無理矢理ことに及んだんですか!?」
「失礼な事を言うな。朝まで離してくれなかったのは彼女の方だぞ?」
クスッと困った様に笑うと、ロドルフは信じられないとブツブツ呟きながらその場にへたりこんでしまった。
(牽制するつもりで言ったが…)
まあ、嘘は言っていないし、勘違いしたのはロドルフの方だ。
言葉というのは恐ろしい。
「そんな訳で今更返せと言われても無理だな」と付け加え、恨めしそうに睨みつけるロドルフに背を向けて、その場を後にした。
中庭の見える回廊を歩いていると「ウィルフレッド様」と呼び止められた。
今度は何だ?と見ると、中庭からアリアナが顔を出した。
「宜しければ、お茶をご一緒なさいません?」
甘えるような上目遣いで、ウィルフレッドの傍に寄ってきた。
(次から次へと…)
ウィルフレッドは皺の寄る眉間に手をやった。
リーゼは夢の中で暖かい温もりに包まれていた。
花のように甘い香りが全身を包み、とても心地が良かった。
だが、その温もりはリーゼから離れていこうする。リーゼは手放したくない一心で、その温もりにしがみついた。
「随分と積極的だな」
やけにハッキリと聞こえた声に、リーゼの意識が浮上してきた。それでも、まだ頭ははっきりせずボヤ~としている。
「目が覚めたか?」
優しく頭を撫でられる感触がして、あまりの気持ちよさについつい身体を預けてしまった。
(頭を撫でられるなんていつぶりだろう……)
ニマニマしながら顔を埋めていた所で、ようやくハッとした。
勢いよく体を起こすと、そこには残念そうにしながらも満足気に微笑むウィルフレッドの姿があった。
「な、な、な、ななななななッ!!!!!!!!」
顔面蒼白なになりながら、声にならない声で訴える。
シャツがはだけ、逞しい胸板が間から見え隠れして目のやり場に困る。更に、髪を下ろして無防備なウィルフレッドは控えめに言っても色気が半端ない。深夜帯にあるべき姿で寝起きに見ていいもんじゃない。
そんなウィルフレッドを目の前にして、リーゼの顔は次第に青から赤へと変わっていった。
「ふっ、朝から忙しない顔だな」
「だ、誰のせいだと思ってるんですか!?──と言うか、なんでいるんです!?いくら仮の婚約者とはいえ、女性の寝室に断りなく入るのは紳士ではありませんよ!!」
冗談でもやりすぎだと力強く訴えたが、ウィルフレッドは詫びいれる様子はこれっぽちもないらしい。
「手を出した訳ではないんだし、一緒に寝るぐらいいいだろ?それに、離してくれなかったのはそちらだろ」
起きる前に離れるつもりだったと言い訳まがいの事を言われても説得力がない。
「そんなに俺から離れるのが惜しかったか?」
「──ッ!!」
口元を吊り上げながら言われて、思わず言葉に詰まってしまった。
正直なところ、あんなによく眠れたのは久々かもしれない。人の温もりなんて幼い頃以来で、その心地よさすらも忘れていた。
「なんなら、毎日一緒に寝てやろうか?」
「ッ!!け、結構です!!」
(完全に遊んでやがる!!)
リーゼは真赤に染まった顔を隠しながら、ウィルフレッドの背中を押して部屋を出るように促した。
鍵がかかってるから大丈夫じゃなかったの!?と思いながら、ウィルフレッドの私室に繋がるドアを開けると部屋に無理矢理押し込んだ。
「もう、許可なく入ってこないでください!!」
バンッ!!と勢いよくドアを閉めると、隣からクスクス笑う声が聞こえてきた。
リーゼは壁に背中を預け、力なくその場にしゃがみこみ「朝から疲れた……」と誰もいない部屋を眺めながら呟いた。
❊❊❊
「叔父上!!」
ウィルフレッドが城の中を歩いていると、背後から大声で引き留める声が聞こえた。
振り返ると、焦っているような怒っているような表情のロドルフが駆け寄って来た。
「ロドルフか。なんだ?」
「なんだじゃありません!!本気でリーゼと婚約するつもりですか!?」
「するんじゃなく、したんだ」
「何故リーゼなのです!?叔父上ならば他の者がもっといたはずだ!!」
叫ぶロドルフにウィルフレッドは目を細め、冷たい視線を向ける。その視線に怯んだ様子を見せたが、後には退かないらしい。
「彼女ほど魅力的でいい女はいない」
「あの女はアリアナを陰で虐げていた卑劣な女ですよ!?」
今だにそんな事を言っているロドルフにウィルフレッドは溜息が出た。
こう言えば諦めるとでも思っているのか、ロドルフは顔を引き攣らせながも笑みを浮かべている。
これが甥だと思うと頭が痛い。
「私は叔父上を心配して…」
「黙れ」
腹の底に響くような低い声と凍てつくような冷たい視線に、ロドルフはゾクッと背筋が凍る感覚に陥った。
「いつからお前は俺を心配する側になったんだ?」
「あ…」
「これでも人を見る目はしっかりしている。……少なくともお前よりは目利きは効くと思うが?」
騎士団長であるウィルフレッドの言葉は説得力があり、ロドルフは悔しそうに唇を噛み締める事しか出来ずにいる。
「だが、そのおかげで彼女と出会えた。その点では感謝はしている」
婚約破棄をしてくれたおかげで今があるのだから。
「未練がましい事をするな。自分が決めた事だろ?俺を心配していると言うが、傍から見れば見苦しいだけだ。──それに、彼女とは既に一夜を共にしている」
「は?」
ロドルフは目玉が落ちそうなほど目を見開いている。
「き、騎士団長ともあろう者が、無理矢理ことに及んだんですか!?」
「失礼な事を言うな。朝まで離してくれなかったのは彼女の方だぞ?」
クスッと困った様に笑うと、ロドルフは信じられないとブツブツ呟きながらその場にへたりこんでしまった。
(牽制するつもりで言ったが…)
まあ、嘘は言っていないし、勘違いしたのはロドルフの方だ。
言葉というのは恐ろしい。
「そんな訳で今更返せと言われても無理だな」と付け加え、恨めしそうに睨みつけるロドルフに背を向けて、その場を後にした。
中庭の見える回廊を歩いていると「ウィルフレッド様」と呼び止められた。
今度は何だ?と見ると、中庭からアリアナが顔を出した。
「宜しければ、お茶をご一緒なさいません?」
甘えるような上目遣いで、ウィルフレッドの傍に寄ってきた。
(次から次へと…)
ウィルフレッドは皺の寄る眉間に手をやった。
434
あなたにおすすめの小説
[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。
《完》わたしの刺繍が必要?無能は要らないって追い出したのは貴方達でしょう?
桐生桜月姫
恋愛
『無能はいらない』
魔力を持っていないという理由で婚約破棄されて従姉妹に婚約者を取られたアイーシャは、実は特別な力を持っていた!?
大好きな刺繍でわたしを愛してくれる国と国民を守ります。
無能はいらないのでしょう?わたしを捨てた貴方達を救う義理はわたしにはございません!!
*******************
毎朝7時更新です。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
[完結中編]蔑ろにされた王妃様〜25歳の王妃は王と決別し、幸せになる〜
コマメコノカ@女性向け
恋愛
王妃として国のトップに君臨している元侯爵令嬢であるユーミア王妃(25)は夫で王であるバルコニー王(25)が、愛人のミセス(21)に入り浸り、王としての仕事を放置し遊んでいることに辟易していた。
そして、ある日ユーミアは、彼と決別することを決意する。
【完結】毒殺疑惑で断罪されるのはゴメンですが婚約破棄は即決でOKです
早奈恵
恋愛
ざまぁも有ります。
クラウン王太子から突然婚約破棄を言い渡されたグレイシア侯爵令嬢。
理由は殿下の恋人ルーザリアに『チャボット毒殺事件』の濡れ衣を着せたという身に覚えの無いこと。
詳細を聞くうちに重大な勘違いを発見し、幼なじみの公爵令息ヴィクターを味方として召喚。
二人で冤罪を晴らし婚約破棄の取り消しを阻止して自由を手に入れようとするお話。
今さら遅いと言われる側になったのは、あなたです
有賀冬馬
恋愛
夜会で婚約破棄された私は、すべてを失った――はずだった。
けれど、人生は思いもよらない方向へ転がる。
助けた騎士は、王の右腕。
見下されてきた私の中にある価値を、彼だけが見抜いた。
王城で評価され、居場所を得ていく私。
その頃、私を捨てた元婚約者は、転落の一途をたどる。
「間違いだった」と言われても、もう心は揺れない。
選ばれるのを待つ時代は、終わった。
一夜限りの関係だったはずなのに、責任を取れと迫られてます。
甘寧
恋愛
魔女であるシャルロッテは、偉才と呼ばれる魔導師ルイースとひょんなことから身体の関係を持ってしまう。
だがそれはお互いに同意の上で一夜限りという約束だった。
それなのに、ルイースはシャルロッテの元を訪れ「責任を取ってもらう」と言い出した。
後腐れのない関係を好むシャルロッテは、何とかして逃げようと考える。しかし、逃げれば逃げるだけ愛が重くなっていくルイース…
身体から始まる恋愛模様◎
※タイトル一部変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる