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「リーゼ様!!」
「…………カナン」
カナンは、リーゼに覆い被さっているロドルフを睨みつけると、躊躇なく脇腹を蹴り飛ばした。
勢いよく壁に叩きつけられたロドルフは、そのまま気を失った様だった。
ほっとしながら体を起こしたリーゼだが、実はドアが開いた時、飛び込んできたのがウィルフレッドではないことに、一瞬がっかりした自分がいた。
(ウィル様は戦場だって分かっているのに)
助けに来てくれたカナンを否定するようで、そんな自分を恥じた。
「大丈夫ですか!?」
「ええ、なんとか最悪の事態は免れたわ」
必死に笑顔を取り繕って言うが、リーゼの胸には赤く染まった無数の痕が…
それを目にしたカナンは「処分いたします」と、据わった目で小刀を手にしている。
「ま、待った!!」と慌ててリーゼが止めるが、止めるなと言われてしまう。
「こんなクズの為に手を染めることはないのよ!?」
今から人を殺めようとしている人に、一番効力のありそうな言葉をかけた。だが、カナンは「ふっ」とほくそ笑んだ。
「嫌ですねリーゼ様。私の本職忘れてしまいました?」
「…………あ」
この人はシンの部下。侍女が板についていて、すっかり諜報員だという事を忘れていた。
諜報という事は、言わば殺人のプロ。それこそ、全身の血を綺麗に抜いてくれそうな勢い。その表情は完全に暗殺者。
今、まさに人が殺されそうになっている。
そりゃ、こんな事されれば恨み辛みもある…それでも一応元婚約者だったという縁もあるし、何より目の前で人が死ぬ瞬間を見れば目覚めが悪い所の話ではない。
リーゼはカナンを止めようと手を伸ばしたが、その手が届く前に「貴様!!」とロドルフが怒鳴りながら立ち上がった。
「私が誰か分かっての所業か!?」
顔を真っ赤にし、脇腹を押さえながら虚勢を張ってくる。まあ、プライドだけは王子様なので仕方ない。
正直、この場面で起きないで欲しかった…この人が間に入るとややこしくなるというか、確実に命の火が消える…
(折角生かしてやろうとしているのに…この馬鹿は!!)
リーゼは痛む頭を押さえながら、カナンに「あの…」と声を掛けようとした。──が、とても掛けれるような雰囲気ではない。
「侍女風情がふざけた真似を…貴様、楽に死ねると思うなよ!!」
あきらかに侍女の立ち振る舞いではないのに、今だに侍女だと思っている事に呆れる一方、お気楽な奴だなと思ってしまう。
カナンはそんなロドルフの頬を掠めるように「ダンッ」と剣の刃を壁に突き立てた。
「それはこちらの台詞ですね。ああ、自己紹介が遅れました。私、ヴェンデルス家で諜報を主に担っておるカナンと申します」
「な!?」
怖いくらいの笑顔で”ヴェンデルス家”と強調するように言われると、先ほどまで真赤に染まっていた顔は徐々に青に変わっていく。
「き、貴様…叔父上の…!?」
「ええ、我が主は独占欲と嫉妬心が人一倍強いのです。婚約者であるリーゼ様を一人にするはずがないでしょう?そんなこと、甥である貴方が一番ご存じでは?」
嘲笑うように問い詰めるが、ロドルフは聞いているのか聞いていないのか分からない。ようやく自分の置かれた立場を理解できたようだ。
「い、いくら叔父上の手の者だとしても、王子である私に手を出したんだぞ!!タダで済む訳がない!!」
「あははははははは!!なんておめでたい頭しているんでしょう!!」
高笑いをするカナンに「何がおかしい!!」と牙をむく。
「貴方、令嬢を一人誘拐してるのよ?犯罪者が次期国王なんて冗談じゃない。それじゃなくとも、国民が黙っていないわよ」
「そ、それは、お前達が黙っていれば…」
口ごもりながら小さな声で言い返してきたが、その応えは眩暈がするようなものだった。
この期に及んで自分の保身ばかり…もう我々が黙っていた所で無駄な事。この様な事態に陥れのは、他でもない自分だ。
先ほどまで笑顔だったカナンも、ロドルフのあまりの言い分に一瞬で表情が曇った。そして、乱暴にロドルフの胸倉を掴み、鋭い眼光を向けた。
「いい加減にしなさいよ。リーゼ様に手を出した時点で、お前はもうおしまいなのよ」
「違う…私は悪くない!!アリアナが…!!」
「人のせいにしてるんじゃないわよ!!」
ガッ!!とロドルフの顔を殴りつけた。
しっかり胸倉を掴んでいたので吹っ飛ぶことはなかったが、その顔は鼻血と涙でぐしゃぐしゃだった。ロドルフは痛みと恐怖で震えているが、カナンは離そうとはしない。
「…あら?やだ、粗相したの?汚いわね」
よく見ると、ロドルフの足元がぐっしょりと濡れている。これほどまでも恐怖を体験したことがなく、限界を迎えたのだろう。屈辱と羞恥心で更に涙が溢れれている。
「さて、そろそろいいかしら?最期に言い残すことある?」
「…………」
もういっそのこと殺せと言わんばかりに黙っているロドルフを見て、カナンは剣を振り上げた。
「ちょっと―!!」
慌ててカナンを止めようとした所で、ポンと肩を掴まれた。
「カナン。待て」
犬を止めるかのように声を掛けながら、剣を止めるように手を置いているのはシンだった。
そしてリーゼの肩を掴んでいるのは…
「ウィル様!!」
「…………カナン」
カナンは、リーゼに覆い被さっているロドルフを睨みつけると、躊躇なく脇腹を蹴り飛ばした。
勢いよく壁に叩きつけられたロドルフは、そのまま気を失った様だった。
ほっとしながら体を起こしたリーゼだが、実はドアが開いた時、飛び込んできたのがウィルフレッドではないことに、一瞬がっかりした自分がいた。
(ウィル様は戦場だって分かっているのに)
助けに来てくれたカナンを否定するようで、そんな自分を恥じた。
「大丈夫ですか!?」
「ええ、なんとか最悪の事態は免れたわ」
必死に笑顔を取り繕って言うが、リーゼの胸には赤く染まった無数の痕が…
それを目にしたカナンは「処分いたします」と、据わった目で小刀を手にしている。
「ま、待った!!」と慌ててリーゼが止めるが、止めるなと言われてしまう。
「こんなクズの為に手を染めることはないのよ!?」
今から人を殺めようとしている人に、一番効力のありそうな言葉をかけた。だが、カナンは「ふっ」とほくそ笑んだ。
「嫌ですねリーゼ様。私の本職忘れてしまいました?」
「…………あ」
この人はシンの部下。侍女が板についていて、すっかり諜報員だという事を忘れていた。
諜報という事は、言わば殺人のプロ。それこそ、全身の血を綺麗に抜いてくれそうな勢い。その表情は完全に暗殺者。
今、まさに人が殺されそうになっている。
そりゃ、こんな事されれば恨み辛みもある…それでも一応元婚約者だったという縁もあるし、何より目の前で人が死ぬ瞬間を見れば目覚めが悪い所の話ではない。
リーゼはカナンを止めようと手を伸ばしたが、その手が届く前に「貴様!!」とロドルフが怒鳴りながら立ち上がった。
「私が誰か分かっての所業か!?」
顔を真っ赤にし、脇腹を押さえながら虚勢を張ってくる。まあ、プライドだけは王子様なので仕方ない。
正直、この場面で起きないで欲しかった…この人が間に入るとややこしくなるというか、確実に命の火が消える…
(折角生かしてやろうとしているのに…この馬鹿は!!)
リーゼは痛む頭を押さえながら、カナンに「あの…」と声を掛けようとした。──が、とても掛けれるような雰囲気ではない。
「侍女風情がふざけた真似を…貴様、楽に死ねると思うなよ!!」
あきらかに侍女の立ち振る舞いではないのに、今だに侍女だと思っている事に呆れる一方、お気楽な奴だなと思ってしまう。
カナンはそんなロドルフの頬を掠めるように「ダンッ」と剣の刃を壁に突き立てた。
「それはこちらの台詞ですね。ああ、自己紹介が遅れました。私、ヴェンデルス家で諜報を主に担っておるカナンと申します」
「な!?」
怖いくらいの笑顔で”ヴェンデルス家”と強調するように言われると、先ほどまで真赤に染まっていた顔は徐々に青に変わっていく。
「き、貴様…叔父上の…!?」
「ええ、我が主は独占欲と嫉妬心が人一倍強いのです。婚約者であるリーゼ様を一人にするはずがないでしょう?そんなこと、甥である貴方が一番ご存じでは?」
嘲笑うように問い詰めるが、ロドルフは聞いているのか聞いていないのか分からない。ようやく自分の置かれた立場を理解できたようだ。
「い、いくら叔父上の手の者だとしても、王子である私に手を出したんだぞ!!タダで済む訳がない!!」
「あははははははは!!なんておめでたい頭しているんでしょう!!」
高笑いをするカナンに「何がおかしい!!」と牙をむく。
「貴方、令嬢を一人誘拐してるのよ?犯罪者が次期国王なんて冗談じゃない。それじゃなくとも、国民が黙っていないわよ」
「そ、それは、お前達が黙っていれば…」
口ごもりながら小さな声で言い返してきたが、その応えは眩暈がするようなものだった。
この期に及んで自分の保身ばかり…もう我々が黙っていた所で無駄な事。この様な事態に陥れのは、他でもない自分だ。
先ほどまで笑顔だったカナンも、ロドルフのあまりの言い分に一瞬で表情が曇った。そして、乱暴にロドルフの胸倉を掴み、鋭い眼光を向けた。
「いい加減にしなさいよ。リーゼ様に手を出した時点で、お前はもうおしまいなのよ」
「違う…私は悪くない!!アリアナが…!!」
「人のせいにしてるんじゃないわよ!!」
ガッ!!とロドルフの顔を殴りつけた。
しっかり胸倉を掴んでいたので吹っ飛ぶことはなかったが、その顔は鼻血と涙でぐしゃぐしゃだった。ロドルフは痛みと恐怖で震えているが、カナンは離そうとはしない。
「…あら?やだ、粗相したの?汚いわね」
よく見ると、ロドルフの足元がぐっしょりと濡れている。これほどまでも恐怖を体験したことがなく、限界を迎えたのだろう。屈辱と羞恥心で更に涙が溢れれている。
「さて、そろそろいいかしら?最期に言い残すことある?」
「…………」
もういっそのこと殺せと言わんばかりに黙っているロドルフを見て、カナンは剣を振り上げた。
「ちょっと―!!」
慌ててカナンを止めようとした所で、ポンと肩を掴まれた。
「カナン。待て」
犬を止めるかのように声を掛けながら、剣を止めるように手を置いているのはシンだった。
そしてリーゼの肩を掴んでいるのは…
「ウィル様!!」
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