手違いで召喚されたのはポンコツ聖女?─待っていたのは魔王からの溺愛でした─

甘寧

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2話

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魔界に召喚されて早一月。魔王の専属侍女になって二週間が経とうとしていた。

「おい、人間。そこの資料取ってくれ」
「はいはい。これぐらい自分で取ったらどうです?動かないと身体ってどんどん老化してくんですよ?魔王様が何歳か知りませんけど、老いた時のこと考えないと老いなんてすぐですよ!?」

心配されてたのが不思議な程、魔王との仲は良好だった。
最初の頃は人間が専属侍女になるのを嫌がってい魔王だが、レザゼルに説得され渋々了承してくた。

今ではお茶汲みから雑用まで任されることになった。
相変わらず名前は呼んでくれないが、そこはもう諦めた。
飼われている身分でそこまで求めるのは度が過ぎてると思ったからだ。

「おい、これを今すぐギロバスんとこに持って行ってくれ」

そう言って手渡されたのは、何やら分厚い茶封筒だった。
厳重に封がされ、明らからにただの書類じゃない。
そんな重要な物を任されていいものなのか咲は悩んだが「早くしろ!!」と一喝され慌てて手に取った。

その際「いいか、絶対中を見るなよ!!」と釘を刺されたが……

(見るなと言われると見たくなるのが人間の性……)

とは言え、ここは魔界。下手なものを触るとこちらにも被害が及ぶという事は身に染みて分かっている。
その為、自我が保たれている間にとギロバスの元へと急いだ。

ギロバスがいるのは軍の宿舎。
宿舎までの通常ルートは城の中を抜けて、演習場を抜けた更に奥。最短ルートは中庭を抜けて茂みを抜けた所。
当然、咲はショートカットを決めるべく中庭に足を踏み入れた。

この時期は黒薔薇が咲き乱れ、薔薇のいい香りが鼻をくすぐる。
匂いに気を取られ足元の注意が疎かになっていた咲は、飛び出た木の根に足をひっかけ派手に転んでしまった。

「──ッてててて……て、あれ!?封筒は!!」

手に持っていたはずの茶封筒が、転んだ拍子に何処かに飛ばされてしまったらしい。
慌てて探すと、垣根の間に落ちていた。

「ああ~、良かった……ん?」

手に取ると飛ばされた拍子に薔薇の木にでも引っ掛けたらしく封が切れ、数枚封筒から飛び出していた。

「ヤバッ!!!」

咲が慌てて封筒に戻そうとすると、一枚の紙に目が止まった。

「……召喚獣?」

そこにはご丁寧にやり方まで書いてあり、咲はおもむろに読み始めた。
まあ、見るなと言われたが、読むなとは言われなかったしな。

「えっと、なになに……」

声に出して読み進めていると、急に紙に書かれた魔法陣が眩く光だした。

「えっ、えっ、えっ!?もしかしなくても、ヤバい感じ!?」

すぐに紙を捨ててその場から逃げようとしたが、召喚の方が早かった。

ポンッ!!

「キュキュッ?」

魔法陣から出てきたのはそれはそれは愛くるしい目をした、フェネックだった。

「~~~~ッ!!!可愛い!!!この世界でこんな可愛い生き物に出会えるなんて!!」

咲は堪らずそのモフモフした毛に顔を埋めて力ずよく抱きしめた。

「キュッ!?キュッキュッ!!キュッ……!!──……ッ!!いい加減しろや!!」

ドスの効いた声が聞こえ思わず顔を上げると、そこには先程の愛くるしい表情から一変、恐ろしい表情をしたフェネックがいた。

ここは魔界。可愛い生物が可愛いだけなはずがない。
その事実に気付き、咲は顔を青ざめた。

「あ、悪魔……!?」
「まあ、間違っとらんな。それより、お前、人間か?」
「は、はい!!人間です!!すみません!!」

鋭い目付きで言われ、土下座で謝った。

「はあ~……まさか人間に召喚されるとはなぁ」
「いや、本当、その通りでございます!!」
「まあ、召喚されてしまったもんはしゃーない。おい、人間。名は?」
「……え?」
「名前や、な・ま・え!!」
「えっ、あっ、サキと申します!!」

名前を伝えるとフェネックは何やらブツブツ唱え始めたかと思えば、同時に咲の手の甲が淡く光、模様が浮かび上がってきた。
狼狽える咲を他所に、満足気に微笑んでいるフェネックを見て瞬時に察した。

(あっ……なんかマズった……?)

「よっしゃ、契約成立や」
「あの……契約とは……?」

人間である咲にも何が行われたのかは大体察しは付いているが、確認しないとまだ分からない。

「あ?そんなん主従関係に決まっとるやろ?」

確信を付かれ、咲は目を覆った。

まさか、お使い中に召喚獣を召喚しただけでは飽き足らず、主従関係まで結んでしまった。……なんて事が魔王にバレたら……

(あっ、詰んだ……)

「因みに、俺が主やからな。お前は俺の小間使いや」
「ちょ、ちょ、なんでそうなるんですか!?明らかに私の方が飼いぬ──……!?」
「あ゛ん?」
「──……ナンデモアリマセン。ハイ」

まさかフェネックの小間使いになる日が来るとは……

「俺はゾイロク。特別にゾイって呼んでええで」
「あ、ああ……ゾイさん?宜しくお願いします……」

あまりの状況に頭が追いついて行かず、いっその事気を失いたかったが、残念な事に意識はちゃんとあった。

こうなってしまっては仕方ない。シラを切り通そう!!……それはバレた時のリスクが大きすぎる。
ならば、逃げる!!……何処に!?

咲がブツブツ言いながらふらつく足取りで茶封筒を手にし、歩き始めると肩にゾイが乗ってきた。

「おいおい、そんな足取りでどこ行くんや?」
「……ギロバスさんの所です。魔王様のお使いを頼まれているんです」

咲が茶封筒を見せると「ああ~……」とゾイが何やら知ったふうな顔をした。

「まあ、理由は分かったわ。俺が送ったる」
「え?──ッ!?ちょ、ま、いやァァァァァァ………!!!!!」

ゾイの一言で咲の体は宙に浮き、そのまま物凄いスピードで軍宿舎目指して飛ばされて行った。
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