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第1話

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誰もが夢見る『異世界転生』
乙女ゲームや小説の世界でヒロインだったり、悪役令嬢だったり。はたまたモブキャラに転生して、攻略したり断罪回避したりするってのがオーソドックスよね。
私もそんな世界に憧れていた……

◆◆◆

私斎藤玖々莉、現代社会の荒波に抗うのに疲れ自ら人生の終止符を打ちました。享年28歳独身。
そりゃ、飛び降りる時は躊躇したし下に人がいたら巻き込んじゃうかな?とかも考えた。
けど、私は密かに思っている事がある。
それは──……『異世界転生』をする事。

今流行りの異世界転生。その流行りに乗っかりたい。

私の第一希望はモブキャラ。程よい距離で物語を見ていられる一番いいポジションだよね。

ヒロイン希望じゃないのかって?
ヒロインはヤダなぁ。自分で恋愛するのは面倒臭い。他人の色恋沙汰を見て楽しみたい。
嫌な趣味してる?
いいじゃない、他人事だから楽しく見ていられるの。
悪役令嬢は?
悪役令嬢もいいんだけど虐めダメ絶対。何より断罪回避する為に動き回るのが疲れる。

てなことでモブ最高。モブしか勝たん。

まあ、そんな淡い希望を抱きながら飛び降りたわけ。
その思いが講じたのか、異世界転生出来ましたよ。

でもね、でもよ……

「……モブじゃねぇ……」

とある朝、普通に目覚めた時に前世の記憶が頭の中を駆け巡り、全てを思い出し思わず呟いた。

「これ、台本とかにある町娘Aのポジションだよね?」

そう。転生したのはパン屋の娘。名前はアルエ。貴族じゃないから家名もない。
ヒロインでも悪役令嬢でも、モブキャラですらない。
これじゃ色恋沙汰を楽しむどころか、物語の中心である社交の場に行けやしない。

「なんてこったい!!」

異世界転生すれば、誰もがヒロインに関わりのある誰かになれると思っていた。

──大誤算……

頭を抱えた。

しかし、今更頭を悩ましたところでどうにかなるもんじゃなし。
もう一度死んでリセット……はヤダな。
死ぬのって結構度胸いるし、何より痛い。

「……ん~~……──まっ、人生成功ばかりじゃないってことね!!」

吹っ切れた。
特に今の生活に不満がある訳でもないし、前の人生に比べたら楽しく暮らしてる。
それなら、もうこのままでいいんじゃないか?
そう思ってしまった。
贅沢言わせてもらえば、ヒロイン見て見たかった。

(まあ、この世界が本当に物語の世界か分かんないけど)

そんな事を考えていると、階下から母の声がした。

「アル!!アルエ--!!店番お願い!!」

「はぁい!!今行く!!」

今私の歳は18歳。結婚適齢期だけど、平民でこれといった特技も教養もない私に嫁の貰い手なんぞいるはずもなく、今日も今日とて実家暮しの脛かじりとして生きているんだけど、こんな私でも役に立つ事がある。

『店番』

前世、社畜としてサービス残業、休日返上、有給?何それ美味しいの?が当たり前だった私が今世では、ほぼニート生活。

(嫁の貰い手がいないのは、教養云々以前の問題よね)

分かっている。分かっているが、人間一度楽な生活を覚えてしまったら中々抜け出せないのだ。

──そんな訳で、店番開始。

「いらっしゃい。おばちゃんこれ今焼きたてだよ」
「あら、アルエちゃん。じゃあ、それも頂こうかしら?」
「はいね。じゃあ、これおまけ」
「いつも悪いわねぇ」

自慢じゃないが、うちのパン屋は美味しくて評判がいい。
夕方には売り切れてしまうことも多々ある。

(……にしても、今日は客入りが良すぎない?)

いつもは店の中にいるのは多くても2,3人程度。
それが今日は店の中が大渋滞。

(悠長におまけしてる場合じゃなかった)

いつの間にかレジの前には会計待ちの列が出来ていた。

「やあ、アルエ。今日は大繁盛だな」
「あっダンさんいらっしゃい。ごめん、今日は話してる暇ないや」

ダンさんは常連の鍛冶屋。
歳は30半ばぐらいのガタイの良いおっちゃんだ。
実はダンさんの事、ちょっといいなって思ってたりなんかする。どうこうなりたいとかじゃない。
恋愛は面倒臭いし、こんな小娘相手にされないのは目に見えて分かっている。
客と店員位の関係が丁度いい。

「あははは!!景気が良くていいじゃないか」
「何だって今日に限ってこんな盛況なのよ」
「お前知らんのか?」
「何を?」
「ここのパン、王妃様が気に入ってるらしくてな。貴族たちの間で『パンを買うならここじゃないと王妃に嫌われる』ってもっぱらの噂だぞ?」

あぁ~……理解出来たわ。
この世は縦社会。例え白でもトップの人間が黒と言えば黒になる時代だ。

(それで貴族いい所の従者らしき人達が目立つのか)

「しばらく忙しいと思うが、頑張れよ」

ダンさんに励まされた私は一気にやる気が出て次々やってくる人を手早く捌いていったが、中々人の入りは収まらない。

そんな時、一人の令嬢が店に入ってきた。

「……何よ。王妃様のお気に入りの店だからって来てみたけど、大したことないわね」

入るなり早々悪態をついてきた。
普通ならムッとする場面だが、私は内心歓喜に湧いた。

(おぉ!!遂にきた!?これが平民を見下す貴族か!!しかも悪役令嬢ぽい!!)

こんな時じゃなきゃ、こんな場面お目にかかれない。
私は目を輝かせて令嬢を見ていると、その視線に気づいた令嬢が声をかけてきた。

「ちょっと、貴方。ここにあるパン全部頂戴」
「え?全部……ですか?」
「そうよ」
「……すみません。まだお買い求めできていない方がおられますので、全て提供する訳にはまいりません」

見たところ、それなりのご令嬢だと言うのは分かる。
だけど、こちらも商売だ。まだ買えずに待っている人もいる。
いくら貴族だろうと買い占めはマナー違反。
それは認められない。

「……貴方、私を誰だと思ってるの?エンダース家の人間よ?」
「知っていようが知っていまいが、売れないものは売れません」

この言い方よ……この子、絶対悪役令嬢でしょ!!
まあ、悪役令嬢だからって私は引かないわよ。

「──……ちっ、何なの?ゲームと違うじゃない……」

ん?ゲームと仰った?

「何でもいいから全部頂戴!!私はヒロインなのよ!!言うこと聞きなさいよ!!」

まさかのヒロイン……
この世界のヒロイン性悪じゃねぇか……
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