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第2話
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私が思い描くヒロイン像は、愛らしく朗らかで人々から愛され愛し、困ってる人がいたら手を差し伸べる。そんなヒロインを思い描いていた。今、それが全て妄想だと思い知らされた……
「なんで私の言うことが聞けないのよ!!私はこの世界のヒロインなのよ!!絶対的存在なの!!」
苛立ちを隠せない令嬢はその場で怒鳴り散らしている。
薄々勘づいてたけど、あれだ。この人も転生者だわ。
しかも、私と違いこの世界の内容を把握してる。
まあ、どちらにせよ、このままじゃ埒が明かない。このまま居座られたら営業妨害でしかないし。
「全ての商品の買い占めはお断りしますが、全商品一種類ずつの購入は可能ですよ?」
これが最大限の妥協案だ。
これで聞かなかったら他行ってくれ。
「……まあ、いいわ。それで許してあげる。パンが手に入れば殿下も手に入るもの」
パンはちゃんと買ってください。
それに、パンを買っても王子は付いてきませんよ?
「──……すみません。ちょっと気になったのでお聞きしたいんですが、先程から言ってるヒロインとは……?」
この世界の事を知りたいという好奇心からついつい余計な事を聞いてしまった。
しかし、目の前の自称ヒロインはニヤニヤしながら自慢げに教えてくれた。
どうやらここは乙女ゲームの世界らしく、目の前の性格の悪い……いや、自分に正直な令嬢がこの世界のヒロインで、伯爵令嬢でもあるリリアン・エンバース。対象者は王子、騎士団長、宰相、天才魔術師の四人らしく、この人は逆ハーエンドと呼ばれる全ての男を手に入れるルートを目指しているらしい。
(それはそれはご苦労様なことで……)
そして、まず最初のイベントが、このパンが鍵になってるらしい。
このパンを買って屋敷に戻る時に、お忍びで町にやって来た王子と遭遇。パンの匂いに魅かれた王子にヒロインが「一緒にいかがですか?」と誘ったことで王子ルートが解放。
お礼にと城へ招かれた事で、パンをあげた相手が王子だと判明し「お前のような心の美しい者を初めて見た」と王子の好感度が爆上がり、仲を深めていく。……と言うことらしい。
(王子よ……パン如きで未来の王妃を決めるのは如何なものか)
女は虎を何匹も背負っておるの。そこを見極められなきゃ、幸せな結婚は出来ないわね。
特に目の前のヒロインは虎を何十匹と背負っているご様子。
「──まあ、こんな事話しても貴方には分からないと思うけどね」
一通り話し終えたリリアンは、嘲笑うかのように私に言ってきた。
「私も転生者ですが?」なんて言える雰囲気でもないし、別に言うことでもないから黙っておいた。
とりあえず、このヒロインと話してると精神的負担が大きすぎると思った私は、適当にパンを詰め込み手渡した。
「ありがとう。私が王妃になったら贔屓にしてあげるから楽しみにしててちょうだい」
そう言いながら、颯爽と町の中へ消えていった。
私は「どうか、王子がヒロインと出会いませんように!!」と心から切実に願った。
◆◆◆
「アルエ。ちょっと配達お願い出来る?」
「えっ?配達?」
今日も今日とて部屋でニート生活を満喫していたら、母がやって来た。
籠いっぱいのパンを手に持って。
「ヴェルニク侯爵家にパンを届けて欲しいの」
ヴェルニク侯爵家……
その名に覚えがある。昨日自称ヒロインが言っていた悪役令嬢の屋敷だ。
この世界の悪役令嬢はエリーザ・ヴェルニク。
王子を愛してやまないご令嬢らしく、王子に近づくリリアンを疎ましく思い、あれやこれやの嫌がらせをする。
あのリリアンが素直に虐められるのか疑問だが、虐められなきゃ物語が進まない。
正直、外に出るのは気乗りしないが、リリアンの恋敵である悪役令嬢を見てみたいと言う好奇心の方が勝った。
「──……という訳でやって参りました。ヴェロニク侯爵邸」
流石は侯爵様。屋敷の規模がデカい。
えっ?これどうやって入るの?ピンポンとかないの?
屋敷の門の前で不審者のようにウロウロしているが、衛兵の姿が見当たらない。
勝手に入る訳にもいかず数分考えた結果、諦めることにした。
──うん。仕方ない。……帰ろう。
母には留守だったとでも言っておこう。
踵を返し、屋敷を後にしようとした時「もし──」と声がかかった。
振り返ると、麗しいお嬢様が立っていた。
(あっ、悪役令嬢)
自然とそう思った。
ヒロインは残念だったが、悪役令嬢はどうなんだろうか。
「それはうちが頼んだ品じゃないかしら?」
お嬢様が私の手にしている籠を指さして言ってきた。
良かった、これで母にドヤされずに済むと思いぎっしりパンの入った籠を渡そうとしたが、お嬢様は手を出さない。
(あぁ、なるほどね……)
これは暗に「私に運ばせる気?貴方が屋敷まで運びなさいよ」って事だな。
「……申し訳ありません。配達に伺ったのですのが、初めてでよく分からなくて……案内して頂けますか?」
「……こちらよ」
素っ気ない返事だが、案内はしてくれるらしい。
(早く置いて帰ろ)
その時の私に言いたい。その考えは捨てろと……
「なんで私の言うことが聞けないのよ!!私はこの世界のヒロインなのよ!!絶対的存在なの!!」
苛立ちを隠せない令嬢はその場で怒鳴り散らしている。
薄々勘づいてたけど、あれだ。この人も転生者だわ。
しかも、私と違いこの世界の内容を把握してる。
まあ、どちらにせよ、このままじゃ埒が明かない。このまま居座られたら営業妨害でしかないし。
「全ての商品の買い占めはお断りしますが、全商品一種類ずつの購入は可能ですよ?」
これが最大限の妥協案だ。
これで聞かなかったら他行ってくれ。
「……まあ、いいわ。それで許してあげる。パンが手に入れば殿下も手に入るもの」
パンはちゃんと買ってください。
それに、パンを買っても王子は付いてきませんよ?
「──……すみません。ちょっと気になったのでお聞きしたいんですが、先程から言ってるヒロインとは……?」
この世界の事を知りたいという好奇心からついつい余計な事を聞いてしまった。
しかし、目の前の自称ヒロインはニヤニヤしながら自慢げに教えてくれた。
どうやらここは乙女ゲームの世界らしく、目の前の性格の悪い……いや、自分に正直な令嬢がこの世界のヒロインで、伯爵令嬢でもあるリリアン・エンバース。対象者は王子、騎士団長、宰相、天才魔術師の四人らしく、この人は逆ハーエンドと呼ばれる全ての男を手に入れるルートを目指しているらしい。
(それはそれはご苦労様なことで……)
そして、まず最初のイベントが、このパンが鍵になってるらしい。
このパンを買って屋敷に戻る時に、お忍びで町にやって来た王子と遭遇。パンの匂いに魅かれた王子にヒロインが「一緒にいかがですか?」と誘ったことで王子ルートが解放。
お礼にと城へ招かれた事で、パンをあげた相手が王子だと判明し「お前のような心の美しい者を初めて見た」と王子の好感度が爆上がり、仲を深めていく。……と言うことらしい。
(王子よ……パン如きで未来の王妃を決めるのは如何なものか)
女は虎を何匹も背負っておるの。そこを見極められなきゃ、幸せな結婚は出来ないわね。
特に目の前のヒロインは虎を何十匹と背負っているご様子。
「──まあ、こんな事話しても貴方には分からないと思うけどね」
一通り話し終えたリリアンは、嘲笑うかのように私に言ってきた。
「私も転生者ですが?」なんて言える雰囲気でもないし、別に言うことでもないから黙っておいた。
とりあえず、このヒロインと話してると精神的負担が大きすぎると思った私は、適当にパンを詰め込み手渡した。
「ありがとう。私が王妃になったら贔屓にしてあげるから楽しみにしててちょうだい」
そう言いながら、颯爽と町の中へ消えていった。
私は「どうか、王子がヒロインと出会いませんように!!」と心から切実に願った。
◆◆◆
「アルエ。ちょっと配達お願い出来る?」
「えっ?配達?」
今日も今日とて部屋でニート生活を満喫していたら、母がやって来た。
籠いっぱいのパンを手に持って。
「ヴェルニク侯爵家にパンを届けて欲しいの」
ヴェルニク侯爵家……
その名に覚えがある。昨日自称ヒロインが言っていた悪役令嬢の屋敷だ。
この世界の悪役令嬢はエリーザ・ヴェルニク。
王子を愛してやまないご令嬢らしく、王子に近づくリリアンを疎ましく思い、あれやこれやの嫌がらせをする。
あのリリアンが素直に虐められるのか疑問だが、虐められなきゃ物語が進まない。
正直、外に出るのは気乗りしないが、リリアンの恋敵である悪役令嬢を見てみたいと言う好奇心の方が勝った。
「──……という訳でやって参りました。ヴェロニク侯爵邸」
流石は侯爵様。屋敷の規模がデカい。
えっ?これどうやって入るの?ピンポンとかないの?
屋敷の門の前で不審者のようにウロウロしているが、衛兵の姿が見当たらない。
勝手に入る訳にもいかず数分考えた結果、諦めることにした。
──うん。仕方ない。……帰ろう。
母には留守だったとでも言っておこう。
踵を返し、屋敷を後にしようとした時「もし──」と声がかかった。
振り返ると、麗しいお嬢様が立っていた。
(あっ、悪役令嬢)
自然とそう思った。
ヒロインは残念だったが、悪役令嬢はどうなんだろうか。
「それはうちが頼んだ品じゃないかしら?」
お嬢様が私の手にしている籠を指さして言ってきた。
良かった、これで母にドヤされずに済むと思いぎっしりパンの入った籠を渡そうとしたが、お嬢様は手を出さない。
(あぁ、なるほどね……)
これは暗に「私に運ばせる気?貴方が屋敷まで運びなさいよ」って事だな。
「……申し訳ありません。配達に伺ったのですのが、初めてでよく分からなくて……案内して頂けますか?」
「……こちらよ」
素っ気ない返事だが、案内はしてくれるらしい。
(早く置いて帰ろ)
その時の私に言いたい。その考えは捨てろと……
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