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第10話
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王子が出したチケットの芝居にはリリアンも行っている。
遭遇したらとんでもない事になってしまう。
私はスゥーと深呼吸してから、やんわりと王子にお断りする事にした。
「……申し訳ありませんが、これは受け取れません」
「なぜだ!?」
「そもそも、お礼をされるような事はしておりません。あのパンだって売り物にならない……要は二等品の物をあげたんですから気になどなさらないください」
売り物にならないパンで芝居のチケットを貰ったら、まるでわらしべ長者よ。
「それでは私の気が済まんのだ!!」
「だから、当の本人が要らないって言ってるんだからそれで良しにしなさいよ!!」
あまりにもしつこくて、ついつい王子だと言うことも忘れて怒鳴ってしまった。
「……中々強情だな」
「お互い様よね?」
お互いに受け取れ受け取らんで睨み合っていると、王子が吹き出した。
「──……ぷっ。あはははは!!気に入った!!お前、私の正体には気づいているんだろう?」
「……えぇ、まあ、それだけ目立つ容姿はそうそうおりませんからね」
ウソ。本当はリリアンから聞いたから知っているだけ。
リリアンから聞いてなきゃ、ニートで外の世界に疎い私には絶対気づけなかった。
「私の正体を知っていて断ってくる娘がいるとはな」
「王子だろうが神だろうが、受け取れないものは受け取りません」
なんだろう……王子の様子が若干違って見えるんだが……
「……仕方ない。今回は諦めるとしよう」
王子がようやく諦めたようで、チケットを胸ポケットに戻した。
(よしっ!!勝った!!)
気づかれないように小さくガッツポーズをしたんだが、しっかり王子に見られたらしくクスクスと笑っている。
「私にそんな態度を取るのはお前ぐらいだぞ?」
「私は平民なんで、媚び売る要素がありませんからね」
私が貴族だったら、多分お家の為に物凄く媚びを売っていただろうが、今の私は平民中の平民。媚びを売った所で「平民如きが」と言われるのが関の山。
「……いいな、お前……」
ゾワッと悪寒が走った。
「今日は帰るが、近々また会おう」
「いえ、全力でお断りします」
両手で大きくバツ印を作り全身で拒否したが、王子は笑いながら店を出て行った。
(疲れた……)
◆◆◆
今日はリリアンが楽しみしていたお芝居の日。
そんな私は部屋でのんびりニート中。
「今日は店番もないし、リリアンも来ないし久しぶりにのんびり出来るわ~」
今日は絶対ベッドから出ない。そう決めている。
しかし、現実は容赦なく私を襲ってきた。
「アルエ!!貴方指名で配達が入ってるんだけど!!」
「はぁぁぁ!?」
何その風俗仕様の配達システム。
聞いたことないわよ……
(どこのどいつよ、私の優雅な一日を邪魔した奴は!?)
母の逆鱗に触れる前に大人しく階下に降りて行った。
「──貴方、いつの間に殿下と知り合いになったの?」
「へ?」
「この配達、殿下直々の注文よ。なんでもお芝居を見ながら食べるからって……」
あ゛ぁぁ~なるほどね。そう来たの。
ここぞとばかりに権力かざしてきたよねぇ。
(汚ったない手使いやがって……)
まあ、いいわ。そっちがその気ならその企みに乗っかてあげる。
私だって伊達に平民やってないわよ。
(平民舐めんなよ!?)
私は母からパンの入った籠を受け取り、意気揚々と王子が待つ劇場へと向かった。
しかし、その意気も長くは続かなかった──……
「……まずい、迷った……」
前世の劇場と同じ作りだろうと思って、ズンズン歩き進めた結果迷った。
思った以上に広くて入り組んでいるので、まるで迷路。
リリアンに出会えないかとキョロキョロしながら先を進んでいたが、行き着いた先が行き止まりだった。
「あ~、これはダメだ。全く分からん」
館内の見取り図でもあればいいのだが、そんなもの平民の私が持っているはずもないし、くれる訳もない。
「なんて平民に冷たい世界!!」
もうその場にしゃがみこみ、誰か通るのを待つことにした。
(こういう時に限って誰も通らないのよねぇ)
膝を抱えちっちゃく縮こまっていると、頭上から声が掛けられた。
「おや?こんな所に置物ですかね?」
見上げると赤茶色の髪に片眼鏡をした、無駄に知性を感じる男が立っていた。
「助かった!!あの、すみません、道に迷ってしまって……パンを届けに来たんですが……」
これを見よとばかりにパンを見せると「あぁ~」と何やら納得した様子。
「……殿下は此方です。随分お待ちになられていますので、急いでください」
「いえ、私はこれで失礼致します」
このまま王子に会えばあちらの思うツボ。
私はそんな思い通り動くような人間ではないと、ここでしっかり知らしめておかなければならない。
私はパンの入った籠を目の前の男に手渡そうとしたが、男はその籠を受け取ろうとはしなかった。
「殿下は貴方を指名したのでしょ?ならば、貴方が殿下の元まで運ぶのが筋じゃないですか?」
「いえ、私が承ったのは劇場までの配達なので。そもそも平民の私がお近付きになれるような方ではありませんので」
ニッコリ微笑みながら完璧な言い訳を述べてやった。
しかし、目の前の男は一筋縄では行かないらしい。
「それはおかしいですね。私はちゃんと殿下からの指名でとお伝えしたのですが?指名されておきながら依頼主に会わないなど聞いたことありませんよ?それとも……貴方の店ではこんな簡単な事も出来ないのですか?」
私、こういう自分の思い通りに動かない人間を毛嫌いするような奴が前世を通して一番嫌い。
(何様なんだこいつは!?)
遭遇したらとんでもない事になってしまう。
私はスゥーと深呼吸してから、やんわりと王子にお断りする事にした。
「……申し訳ありませんが、これは受け取れません」
「なぜだ!?」
「そもそも、お礼をされるような事はしておりません。あのパンだって売り物にならない……要は二等品の物をあげたんですから気になどなさらないください」
売り物にならないパンで芝居のチケットを貰ったら、まるでわらしべ長者よ。
「それでは私の気が済まんのだ!!」
「だから、当の本人が要らないって言ってるんだからそれで良しにしなさいよ!!」
あまりにもしつこくて、ついつい王子だと言うことも忘れて怒鳴ってしまった。
「……中々強情だな」
「お互い様よね?」
お互いに受け取れ受け取らんで睨み合っていると、王子が吹き出した。
「──……ぷっ。あはははは!!気に入った!!お前、私の正体には気づいているんだろう?」
「……えぇ、まあ、それだけ目立つ容姿はそうそうおりませんからね」
ウソ。本当はリリアンから聞いたから知っているだけ。
リリアンから聞いてなきゃ、ニートで外の世界に疎い私には絶対気づけなかった。
「私の正体を知っていて断ってくる娘がいるとはな」
「王子だろうが神だろうが、受け取れないものは受け取りません」
なんだろう……王子の様子が若干違って見えるんだが……
「……仕方ない。今回は諦めるとしよう」
王子がようやく諦めたようで、チケットを胸ポケットに戻した。
(よしっ!!勝った!!)
気づかれないように小さくガッツポーズをしたんだが、しっかり王子に見られたらしくクスクスと笑っている。
「私にそんな態度を取るのはお前ぐらいだぞ?」
「私は平民なんで、媚び売る要素がありませんからね」
私が貴族だったら、多分お家の為に物凄く媚びを売っていただろうが、今の私は平民中の平民。媚びを売った所で「平民如きが」と言われるのが関の山。
「……いいな、お前……」
ゾワッと悪寒が走った。
「今日は帰るが、近々また会おう」
「いえ、全力でお断りします」
両手で大きくバツ印を作り全身で拒否したが、王子は笑いながら店を出て行った。
(疲れた……)
◆◆◆
今日はリリアンが楽しみしていたお芝居の日。
そんな私は部屋でのんびりニート中。
「今日は店番もないし、リリアンも来ないし久しぶりにのんびり出来るわ~」
今日は絶対ベッドから出ない。そう決めている。
しかし、現実は容赦なく私を襲ってきた。
「アルエ!!貴方指名で配達が入ってるんだけど!!」
「はぁぁぁ!?」
何その風俗仕様の配達システム。
聞いたことないわよ……
(どこのどいつよ、私の優雅な一日を邪魔した奴は!?)
母の逆鱗に触れる前に大人しく階下に降りて行った。
「──貴方、いつの間に殿下と知り合いになったの?」
「へ?」
「この配達、殿下直々の注文よ。なんでもお芝居を見ながら食べるからって……」
あ゛ぁぁ~なるほどね。そう来たの。
ここぞとばかりに権力かざしてきたよねぇ。
(汚ったない手使いやがって……)
まあ、いいわ。そっちがその気ならその企みに乗っかてあげる。
私だって伊達に平民やってないわよ。
(平民舐めんなよ!?)
私は母からパンの入った籠を受け取り、意気揚々と王子が待つ劇場へと向かった。
しかし、その意気も長くは続かなかった──……
「……まずい、迷った……」
前世の劇場と同じ作りだろうと思って、ズンズン歩き進めた結果迷った。
思った以上に広くて入り組んでいるので、まるで迷路。
リリアンに出会えないかとキョロキョロしながら先を進んでいたが、行き着いた先が行き止まりだった。
「あ~、これはダメだ。全く分からん」
館内の見取り図でもあればいいのだが、そんなもの平民の私が持っているはずもないし、くれる訳もない。
「なんて平民に冷たい世界!!」
もうその場にしゃがみこみ、誰か通るのを待つことにした。
(こういう時に限って誰も通らないのよねぇ)
膝を抱えちっちゃく縮こまっていると、頭上から声が掛けられた。
「おや?こんな所に置物ですかね?」
見上げると赤茶色の髪に片眼鏡をした、無駄に知性を感じる男が立っていた。
「助かった!!あの、すみません、道に迷ってしまって……パンを届けに来たんですが……」
これを見よとばかりにパンを見せると「あぁ~」と何やら納得した様子。
「……殿下は此方です。随分お待ちになられていますので、急いでください」
「いえ、私はこれで失礼致します」
このまま王子に会えばあちらの思うツボ。
私はそんな思い通り動くような人間ではないと、ここでしっかり知らしめておかなければならない。
私はパンの入った籠を目の前の男に手渡そうとしたが、男はその籠を受け取ろうとはしなかった。
「殿下は貴方を指名したのでしょ?ならば、貴方が殿下の元まで運ぶのが筋じゃないですか?」
「いえ、私が承ったのは劇場までの配達なので。そもそも平民の私がお近付きになれるような方ではありませんので」
ニッコリ微笑みながら完璧な言い訳を述べてやった。
しかし、目の前の男は一筋縄では行かないらしい。
「それはおかしいですね。私はちゃんと殿下からの指名でとお伝えしたのですが?指名されておきながら依頼主に会わないなど聞いたことありませんよ?それとも……貴方の店ではこんな簡単な事も出来ないのですか?」
私、こういう自分の思い通りに動かない人間を毛嫌いするような奴が前世を通して一番嫌い。
(何様なんだこいつは!?)
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