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第15話

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「アルエ!!!いい加減部屋から出なさい!!」

ダンさん騎士団長疑惑が浮上してから数日。
私は店番を拒否して部屋に立て篭っていたが、遂に母がキレた……

「リリアンちゃんやダンさんが心配してるわよ!?いつまで仮病使うつもりなの!?」
「出来れば死ぬまで仮病でいたい……」

ベッドに潜り込み、カタツムリの殻に閉じこもったような姿になって部屋から出るのを拒み続けたが、そこは母。

「あぁ~そう……貴方がその気ならこっちだって考えがあります。……あと10秒以内に部屋から出なかったら、一年間おばあちゃん家に住み込みで行ってもらいます」
「え゛!?」

おばあちゃんと言うのは母の母。
この婆ちゃん御歳90越えているのに未だに元気で、礼儀作法、生活習慣、言葉遣いに至るまでものすっっっごいうるさい婆ちゃんで、遊びに行ってもすぐに正座で有難いお言葉を聞かされるもんだから婆ちゃん家を『修行場』と呼んでいる。

そんな所に一年も行かされた日には悟りを開いてしまうだろ!?
これはダンさんどうのこうの言っている場合では無い!!

私はすぐに飛び起き、部屋から出た。
その時の母の勝ち誇った顔は忘れられない。

「──さて、無事に部屋から出た所で、はい、これ」

母からそう言われて手渡されたのは例によってパンの入った籠。

「あの、母上?これは?」
「おばあちゃんの所へお願い」
「え゛!?部屋から出たら行かなくてもいいんじゃないの!?」
「あら?住み込みが無くなっただけで、お使いには行ってもらうわよ?」

ニッコリ微笑みながら「お願いね」と力強く籠を握らされた。

……嵌められた……

まあ、いいや。ちょっと婆ちゃんの喝でも貰えば胸のモヤモヤも消えるだろう。

そんなこんなで、久しぶりに婆ちゃん家に行くことが決まったのだけど、婆ちゃん家は森を抜けた所にあって、婆ちゃん家に行くには絶対森を抜けなければ行けない。
もう一度言うが、森を抜けなければ行けないのだ。

──そして、今現在私の目の前には血まみれで胴体と首が離れている人らしきものに、血まみれの剣を手にしてこちらを睨みつけている男と遭遇。

いつの間にか私の周りは男の仲間と思われる方々に取り囲まれ逃げれない状態。
まさに鳥籠の中の鳥状態。

「おいおい頭~、見つかちまったじゃないっすかぁ」
「まさか、この森通る奴がいるとはなぁ~……」

そうですね。この森は滅多に人が通りませんもんね。でもね、ウチの婆ちゃん変わり者なんで、そんな森を抜けた所に家なんぞを建てちゃったんです。

「嬢ちゃんもタイミング悪ぃな。……まっ、運がなかったって事で」
「ひっ!!」

一人の男が私の顔にナイフを当ててきて、思わず悲鳴がこぼれた。
前世28歳で死んで今世18歳で死亡確定!?
こんな事なら最期にダンさんに会っておけば良かった……あとリリアンも。

今更後悔しても遅い。
殺るなら苦しまずに逝きたいから一思いにお願いします!!と願いつつ目を瞑った。

「……まあ、待て。からの連絡がないのをが不審がるのも時間の問題だ。そこで、そこの女を人質として使おうじゃないか」

頭と呼ばれる男が指を指したのは胴体が離れた死体。
服装からして普通の平民だけど、この人達は何を警戒しているの?

……まあ、そのお陰で私の胴体は繋がっているんだけどね。

「流石、頭!!頭いいっすね!!」
「だろ?」

子分らしき男に乗せられて頭の男はドヤ顔でキメていた。

(うん。コイツらあんまり賢くないな)

「んじゃまあ、嬢ちゃん。大人しく俺らと行きましょうかね?」
「おっ!!何だパンなんか持ってるじゃねぇか!!気が利くなぁ」

(ごめん婆ちゃん。私の命と引き換えにパンは諦めてくれ)

こうして私は何が何だか分からぬまま、人質として生きながらえた。

私が逃げないように周りを固められ、森の中を歩いていくと大きな洞窟に出た。

「ここが俺らのアジトだ」

そう言って足を踏み入れた洞窟の先には、広々とした空間があった。

「──まあ、楽にしてな。茶でも飲むか?腹減ったか?」
「おい、そっちにクッションあったろ?それ貸せ」

男達はせっせと私の世話を焼いてくれた。

てっきり逃げられないように牢にでも入れられると思っていたのに、思いもよらぬ高待遇。

(あれ?私って客?人質だよね?)

自分で自分が何者なのか分からなくなってきた……

「……悪ぃな嬢ちゃん。ちっとの間我慢してくれよ?事が済んだらちゃんと帰してやるから」
「えっ?」

頭の男が私に小声で言ってきた言葉に驚いて、ようやく声が出た。

(何この人……)

いい人なのか悪い人なのかどっち!?
これってあれか、人は見かけで判断するな的な!?
いや、でも人殺してたしな……

「あははは!!鳩が豆鉄砲食らったような顔してんな」
「人質として連れてこられたのに、急にそんな事言われたらそうなりません?こっちは色々と覚悟を決めて来たんですよ?」
「そりゃ悪かったな。じゃあ、人質らしく扱ってやるか?」
「いえ、今更人質として扱われるのは本望ではありません」

フカフカのクションの上に座って、目の前には茶菓子や果物が沢山置いてあるのに今更人質だと?それは無理ってもんだ。

キッパリ言い切ると、頭の男は豪快に笑いだした。

「あははは!!面白いなお前!!名前はなんて言うんだ?」
「……アルエ……です」
「アルエか。俺はここの頭でジョシュアってんだ。シュアって呼んでくれ」

シュアは歳の頃は20代後半ぐらい。赤髪で左目に大きな傷があるのが特徴的だった。

「……シュア……さんは、何者なんですか?」
「俺か?俺はな……──」


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