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第29話

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(さて、どう切抜ける?)

私の目の前には不敵な笑みを浮かべているジェフリー君と、浮かない顔のシュアさん。

ジェフリー君の言い方からして、二人の狙いは私のようだし……
こんな平民誘拐しても身代金取れないのに……
あぁ、どっかに売り飛ばす系?こんな十人並の女を?

どちらにせよ、私にとっては絶体絶命なのには変わりない。

「……何してんの?早くしてくんない?」
「…………俺は…………」

ジェフリー君がシュアさんを急かすように言うが、シュアさんは戸惑っているようだ。

「あぁ~ぁ、もういいよ。僕がやるから」

動かないシュアさんに痺れを切らしたジェフリー君が私に向かってきた。
慌てて踵を返して逃げようとしたら、ドレスの裾を踏んで派手に転んだ。

(おいおい!!マジか!!!)

忘れていたけど今舞踏会の最中で、私はドレスを着ていたんだった。
ジェフリー君はそんな私を見て、ニヤッと微笑むと私の腕を掴もうとしてきたが……

「……何のつもり?」

寸前の所でシュアさんが私の前に出て庇ってくれた。

「……シュアさん……」
「やっぱ、俺には無理だわ。あんたには、こいつは渡せねぇ」
「ふ~ん。僕らを裏切るんだ?」

シュアさんの言葉を聞いたジェフリー君は鋭い目付きに変わり、剣を抜いた。

「シュアさん!!私はいいから逃げてください!!」

嘘です。私も逃げたいです。
けど、このままじゃシュアさんの方が危ない。

「馬鹿言うな。俺は一度欲しいと思った獲物は必ず手に入れるんだよ」

前を見据えながらニヤッと微笑みながらシュアさんも剣を抜いた。

何、この「私の為に戦わないで!!」的な状況……
リリアンがいれば大喜びな場面だな。

(ってそんな事呑気に考えてる場合じゃなかった)

目の前では今まさに、ジェフリー君とシュアさんの攻防が繰り広げられているんだから。

シュアさんは強い。けど、それ以上にジェフリー君が強い。

「──っぐ!!」

必死に食らいついてるけど、ジェフリー君の方が押している。

(このままじゃ……)

そう思った時、ジェフリー君の剣がシュアさんの腹に突き刺さった。

「シュアさん!!!!」
「来るんじゃねぇ!!!」

慌ててシュアさんの元に駆け寄ろうとした私を怒鳴りつけて止めた。
ジェフリー君が剣を抜くとボタボタとシュアさんの足元に血溜まりが出来ていく。
その光景が信じられなくて、自然と涙が出てきた。

「あぁ~ぁ、つまんないなぁ。もうちょっと楽しませてよ。──まあ、僕が君を殺したところで罪に問われることは無いし?むしろこれが僕の仕事だしね」

ジェフリー君が倒れたシュアさんを見下ろしながら言っていた。
確かにジェフリー君はシュアさんが私に接触した時の為の監視役。
だから、今この場に騎士が駆けつけてきても悪人はシュアさんになってしまう。

「あはっ、命懸けで助けようとしてるのに悪人になっちゃうんだもんねぇ。滑稽じゃない?」

蔑むような目をしながら言うジェフリー君に怒りが込み上げてきた。

でも私が証人として発言したところで、騎士であるジェフリー君に勝てるわけが無い。それを彼は知っているから、こんなにも余裕なんだ。

(悔しい……!!何で私平民なの……!!)

初めて、平民であることを恨んだ。

「さて、僕も暇じゃないし、も待ってるし、終わらせるよ?」

そう言うなりシュアさん目掛けて剣を振り下ろした。

「──させない!!!!!」

思わずシュアさんを庇って前に出てしまった。
えぇ、勝算などありません。

ギュッと目を閉じ、斬られるのを覚悟した。

キンッ!!!!

「なに!?」

ジェフリー君の剣は寸前の所で止まり、私は斬られることはなかった。
ジェフリー君は当然のこと、当の本人である自分でも何が起こったのか分からなかったが、ふと胸元が光っていることに気が付いた。

「なに!?」と思い見てみると、引き出しに入っていたはずのルカリオのペンダントが首からかかっていた。

(なにこれ!?怖い怖い怖い!!!)

助けてもらったことには感謝するが、あるはずもない物が急に現れたら恐怖でしかない。

「……これ、あの魔術師の……ふ~ん。そういう事……」

(どういう事!?)

ジェフリー君は驚いた表情と共に何やら納得したように呟いた。

「すみません。分かったなら教えて貰えますか?」

そう言いたかったが、そんな要らんこと言える状況じゃないってことは重々承知してるし、目の前の彼はまだ殺る気です。

チラッと後ろを見ると、苦しそうに腹を押さえているシュアさんが目に入った。
剣が突き刺さったんだから痛いよね……苦しいよね……
人の串刺しなんて二度と見たくない……

シュアさん一人でここから逃げるのは無理だと判断した。となれば、私が囮になってこの場からジェフリー君を離すことしか思い浮かばない。

「よし」と気合を入れてドレスの中でソッとヒールを脱ぎ、走り出そうとした。その時──

「ア--ル--エ--!!」

面倒な奴の声が響き渡った。
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