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第30話

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「ア--ル--エ--!!」
「──ぐほっ!!」

弾丸のように私の横腹に飛びついてきたのは、言うまでもなくリリアン。

「探したわよ!!何してんのこんな所で!?……って、あれ?」

はい。やっと気づきましたか?今取り込み中だったんですよ……しかも、ヤバい感じに。

「……えぇ~と、リリアン?一応聞きますけど、貴方は私を助けに来たとかでは……?」
「ないわね」

はい。知ってました。

「何で来たんですか!?今ここは危険です!!貴方みたいなご令嬢は足を踏み入れるような所じゃありません!!今すぐ逃げてください!!」

私はガシッとリリアンの肩を掴み、逃げるように伝えた。
リリアンは一瞬戸惑った顔をしたが、私の肩を掴み返して「嫌よ」と一言。

「いい?私はこの世界のヒロイン様よ?私の為の世界なの。こんなおいしい場面に私がいなくてどうするの!?」

鼻息荒く、目を輝かせてハッキリと言った。

(あぁ~、この人こう言う人だったわ……)

この時点で私が守らなきゃならない人が一人増えたを確信して、頭が痛くなった。

言っちゃなんだがシュアさんも、敵であるジェフリー君ですらも若干引いているのが分かった。

「って言うか、あんたシュアじゃない?何してんの?」
「……お前……この状況で突っ込むのそこか?」

シュアさんが呆れるのも分かります。
でも、この子これが通常運転なんです。すみません。

「あはははは!!何、この令嬢!?超面白いんだけど!!」

リリアンのあまりの態度にジェフリー君が笑いだした。

「……誰よあんた?ガキには興味無いんだけど?」

その言葉にジェフリー君の雰囲気が変わった。

「へぇ、僕にそんなに口聞くの?……気の強い女は嫌いじゃないけど、ちょっとムカつくよねぇ!!」

ジェフリー君がリリアンに斬りかかった。
「しまった!!」と思った時にはもう遅い。

ザシュッ

私の目の前で血飛沫が舞った。
でも、それはリリアンの血じゃない。シュアさんがリリアンを庇ってくれたから……

「シュアさん!!!!!」
「あんた何してんのよ!!」

私とリリアンの叫び声が響き渡った。
私は倒れたシュアさんの元へ駆けつけ、怪我の具合を確かめた。
傷は深く、血はとめどなく溢れてくる。
何とか息はあるが意識はなく、もう動けない。

「ヒロインがなんだか知らないけど、僕はそこにいるアルエに用があるの。いい加減邪魔だから退いてくれる?」
「なに!?何なの!?こんなのシナリオなかった!!」
「シナリオ?何言ってんの?あんたがここで死ぬシナリオを夢見てるの?安心して、ちゃんとシナリオ通りにしてあげる」

ジェフリー君は躊躇なく再びリリアンに剣を向けてきた。

「リリアン逃げて!!」

そう叫んだが、振り向いたリリアンは涙目で首を振っていた。
「動けない……」口がそう動いた。

絶望的瞬間だった。

そんな事はお構い無しジェフリー君の剣はリリアンを襲った……

「──……また君?」

このお馴染みの台詞は……
その台詞と共にある人物がリリアンの前に現れた。

「「ルカリオ!!!」」

驚いた私と、助けに来てくれたと言う嬉しさが全面に出ているリリアン。

「──……っち、魔術師か」
「あれ?君、騎士団の子だよね?こんな所で何してるの?」

その言葉を聞いたジェフリー君はニヤッと不敵な笑みを浮かべた。
いかにもな場面なのに、ルカリオから出てきた言葉はジェフリー君にとって有利なものだったからだ。

「僕は殿下からアルエさんの監視役を承っていまして、今その対象者が接触してきた所だったんです」

(こいつ!!!)

あたかも自分は私達を守った様な言い草に怒りが湧いた。

ルカリオもルカリオで「ふ~ん」とジェフリー君の言葉を聞いてるだけで、こちらの事なんて見向きもしない。

このままじゃシュアさんが悪者になっちゃう!!

そう思った私が口を挟もうとしたところ……

「──……面白いね。君、そんな取って付けた言葉で僕を騙せるつもりだったの?」

ルカリオの纏う空気が変わったことにジェフリー君も気づいたらしく、剣を構えた。

「これでも天才魔術師ウィザードマスターって呼ばれてるんだけどなぁ。君、僕を馬鹿にしてるの?」

ギロッと睨まれ、ジェフリー君は悔しそうに唇を噛み締めていた。

そして、ルカリオ相手じゃ自分の方が分が悪いと思ったのかジェフリー君は舌打ちをして走り去って行った。

その後ろ姿を見ていたルカリオは「……僕に向かってくる度胸はないんだね」なんて呟いてたけど、当たり前です。
貴方、天才魔術師ウィザードマスターですよ?ジェフリー君だってまだ命は欲しいでしょ。

とりあえず危機は脱出出来たと思ったら気が抜けた。
リリアンは自分を助けに来てくれたルカリオに頬を染めて擦り寄っている。

そして、シュアさんは……

「──ごほっ!!」
「シュアさん!!大丈夫ですか!?すぐに手当をしてもらいますから!!」

明らかに瀕死状態のシュアさんを励まし、急いで助けを呼びに行こうとしたが、ルカリオに止められた。

「……それ、犯罪者でしょ?助けを求めたとこで助けてもらえると思う?」
「え?」
「だって、犯罪者でしょ?しかもリーダー。わざわざ助ける意味ないし、君だって怖い目見たんじゃないの?……まあ、もっとも、救護が来る前に命つきそうだけどね」

そう言われればそうかもしれない。
けど、私はシュアさんを助けたい。
シュアさんが私を助けようとしてくれたように。

「……まあ、僕なら助けれるけど?」

ボソッと呟いたのを聞き逃さなかった。

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