口煩いと婚約破棄されまして~今更助けてくれ?見返りに貴方のお兄様を紹介しなさい~

甘寧

文字の大きさ
8 / 17

8

「で?その騎士に言い負かされたと」
「言い負かされたんではなく、正論パンチを食らっただけですけど?」
「……同じじゃね?」

 翌日、私はアーネストの元を訪れ、事の次第を話して聞かせた。
 別に愚痴りに来たんじゃない。こんな事、前世では日常茶飯事だったし、愚痴るような事じゃない。ただ、ヴィクトル団長が責められるのはおかしいと思っただけ。

「兄上が言い負かされたのは面白くないけど、僕はその騎士の意見に同感だね」

 行儀悪く片肘をつき、シェンナ特製レモネードを音を立てながらストローで啜りながら言ってきた。

「仕事である以上、女だからと優遇される理由にはならない。兄上は優しい方だから守りたくもなるんだろうけど、周りから見たら特別扱いしてる様に見えるだろ」

 悔しいけど言い返せない。

「そうなると、批判は兄上に向かう。まあ、兄上の事だから上手く言いくるめると思うけどね」

 レモネードのおかわりを要求しながら更に付け加えてくる。

「そもそも君さぁ、兄上とどうなりたいの?仕事として側にいたいの?それとも女として傍にいたいの?」
「え?」
「それによって答えは変わってくるんじゃないか?」

 面倒くさそうに顔を顰めながら諭された。

 どうなりたいって?そりゃ、あんなに理想な人そうそういないから出来ることなら婚約したいって気持ちはある。向こうは歳が一回りも離れた小娘なんか眼中にないだろうが、私が二度目の人生を送っているように人生何が起こるか分からない。もしかしたら、突然恋に落ちるかもしれない。

 まあ、それは神のみぞ知るところ。そんな事より……

「……驚いた」
「なに?」
「……貴方、真面目な話が出来るんですね」
「はぁ!?」

 シェンナが口元を手で覆い、驚いた表情で返すと眉を顰め不機嫌顔を浮かべた。

「お前さぁ……それ、相談した相手に言う台詞?僕だって一応は侯爵家としての教育受けてるんですけど」
「いや、助言を貰えるとは思ってなかったので……正直、貴方にそこまで期待していませんでした。愚痴の捌け口ぐらいには丁度良いかと」

 バカ正直に答えると、アーネストは盛大に溜息を吐きながら肘を抱えた。

「お前なぁ……流石の僕も傷つくぞ?」
「それは申し訳ありません。傷つく心があったとは存じ上げておりませんでした」
「だからさぁ!……──ッもういい!」

 何を言っても言い返されるとでも思ったのだろう。不貞腐れながらそっぽを向いてしまった。その姿を見て「クスクス」と笑いが込み上げてくる。

「……何だ、まだ揶揄い足りないのか?」

 横目で睨みつけながら笑う私の姿を映し問いかけてくる。子供様な態度にさらに笑いが込み上げるが、これ以上は可哀想だと、口元を隠すように頭を下げた。

「いいえ。話を聞いてくれてありがとうございました」

「……ほんの少しだけ見直しましたよ」と付け加えながら礼を言った。

「少しだけは余計だ」

 照れ隠しなのか、鼻を鳴らしながら言い返されたが、その耳は真っ赤に染まっていた。



 ***



 窓際に座るヴィクトルは、雲の合間から金色の光を照らす月を眺めていた。その手には酒の入ったグラスが握られている。

 夜風が肌に纏わりついてくる。

(明日は雨だな)

 風の匂いと強さで大体の予測はできる。原始的だが、コレが結構当たる。

「……明日は来ないだろうな」

 ポツリと呟きながら思い浮かべたのは、シェンナの笑顔。

 彼女のことは当然知っていた。あのアーネストが婚約者なんて、とんだ貧乏くじを引いた令嬢がいたと哀れに思っていた。もし、彼女が耐えきれなくなった時は兄である私が力を貸そうと思っていたが、彼女は強かった。

 慈悲深く、聡明な彼女はアーネストの自堕落な生活を矯正しようと試みてくれた。
 本来ならば、両親なり使用人らが正すべき所を、自分たちよりも若い女性に責を背負わせていたなんて、恥でしかない。

 彼女が私に会いたいと言った時、てっきりアーネストに耐えられ無くなったのだと思ったが、音を上げたのはアーネストの方だと聞いた時は驚いた。それと同時に、恩を仇で返す所業に怒りで頭が沸騰したようだった。

『一族郎党血祭りに上げてやる』

 私が出来る唯一の償いだと彼女に進言した。だが、彼女はそれを望まなかった。それどころか、我々騎士の面倒まで見ると宣言してきた。

 彼女が来てから、騎士たちは目に見えて変わった。体調面もそうだが、動きが今までよりも軽やかになった。それは、私自身も感じている。体が随分と軽くなり、朝起きた時もスッキリしている。

 一人一人に向き合い話を聞き、適切な答えを出してくれる。本当に有難い事だが、どうも彼女は他人ばかりを気にして自分を犠牲にするタイプらしい。

 疲れを見せないように気を使っているようだが、目の下は隠せない。

『過保護なのどうかと思うよ?仕事だって言うなら割り切らなきゃ。この子だけ特別なんて言えないでしょ』

 カイエンの言葉が脳裏に響く。

「……過保護で特別か……」

 我々の為に時間を割く彼女を心配して何が悪い?一回りも違う彼女に変な気は起こさない。彼女の善意を無碍にはしたくない。……そう思っているのに、彼女を思うと胸がざわついて仕方ない。

「……はぁ~…参ったねこりゃ……」

 嘲ながら呟いた。

感想 0

あなたにおすすめの小説

この婚約は白い結婚に繋がっていたはずですが? 〜深窓の令嬢は赤獅子騎士団長に溺愛される〜

氷雨そら
恋愛
 婚約相手のいない婚約式。  通常であれば、この上なく惨めであろうその場所に、辺境伯令嬢ルナシェは、美しいベールをなびかせて、毅然とした姿で立っていた。  ベールから、こぼれ落ちるような髪は白銀にも見える。プラチナブロンドが、日差しに輝いて神々しい。  さすがは、白薔薇姫との呼び名高い辺境伯令嬢だという周囲の感嘆。  けれど、ルナシェの内心は、実はそれどころではなかった。 (まさかのやり直し……?)  先ほど確かに、ルナシェは断頭台に露と消えたのだ。しかし、この場所は確かに、あの日経験した、たった一人の婚約式だった。  ルナシェは、人生を変えるため、婚約式に現れなかった婚約者に、婚約破棄を告げるため、激戦の地へと足を向けるのだった。 小説家になろう様にも投稿しています。

年下の婚約者から年上の婚約者に変わりました

チカフジ ユキ
恋愛
ヴィクトリアには年下の婚約者がいる。すでにお互い成人しているのにも関わらず、結婚する気配もなくずるずると曖昧な関係が引き延ばされていた。 そんなある日、婚約者と出かける約束をしていたヴィクトリアは、待ち合わせの場所に向かう。しかし、相手は来ておらず、当日に約束を反故されてしまった。 そんなヴィクトリアを見ていたのは、ひとりの男性。 彼もまた、婚約者に約束を当日に反故されていたのだ。 ヴィクトリアはなんとなく親近感がわき、彼とともにカフェでお茶をすることになった。 それがまさかの事態になるとは思いもよらずに。

隠れ蓑婚約者 ~了解です。貴方が王女殿下に相応しい地位を得るまで、ご協力申し上げます~

夏笆(なつは)
恋愛
 ロブレス侯爵家のフィロメナの婚約者は、魔法騎士としてその名を馳せる公爵家の三男ベルトラン・カルビノ。  ふたりの婚約が整ってすぐ、フィロメナは王女マリルーより、自身とベルトランは昔からの恋仲だと打ち明けられる。 『ベルトランはね、あたくしに相応しい爵位を得ようと必死なのよ。でも時間がかかるでしょう?だからその間、隠れ蓑としての婚約者、よろしくね』  可愛い見た目に反するフィロメナを貶める言葉に衝撃を受けるも、フィロメナはベルトランにも確認をしようとして、機先を制するように『マリルー王女の警護があるので、君と夜会に行くことは出来ない。今後についても、マリルー王女の警護を優先する』と言われてしまう。  更に『俺が同行できない夜会には、出席しないでくれ』と言われ、その後に王女マリルーより『ベルトランがごめんなさいね。夜会で貴女と遭遇してしまったら、あたくしの気持ちが落ち着かないだろうって配慮なの』と聞かされ、自由にしようと決意する。 『俺が同行出来ない夜会には、出席しないでくれと言った』 『そんなのいつもじゃない!そんなことしていたら、若さが逃げちゃうわ!』  夜会の出席を巡ってベルトランと口論になるも、フィロメナにはどうしても夜会に行きたい理由があった。  それは、ベルトランと婚約破棄をしてもひとりで生きていけるよう、靴の事業を広めること。  そんな折、フィロメナは、ベルトランから、魔法騎士の特別訓練を受けることになったと聞かされる。  期間は一年。  厳しくはあるが、訓練を修了すればベルトランは伯爵位を得ることが出来、王女との婚姻も可能となる。  つまり、その時に婚約破棄されると理解したフィロメナは、会うことも出来ないと言われた訓練中の一年で、何とか自立しようと努力していくのだが、そもそもすべてがすれ違っていた・・・・・。  この物語は、互いにひと目で恋に落ちた筈のふたりが、言葉足らずや誤解、曲解を繰り返すうちに、とんでもないすれ違いを引き起こす、魔法騎士や魔獣も出て来るファンタジーです。  あらすじの内容と実際のお話では、順序が一致しない場合があります。    小説家になろうでも、掲載しています。 Hotランキング1位、ありがとうございます。

夫に用無しと捨てられたので薬師になって幸せになります。

光子
恋愛
この世界には、魔力病という、まだ治療法の見つかっていない未知の病が存在する。私の両親も、義理の母親も、その病によって亡くなった。 最後まで私の幸せを祈って死んで行った家族のために、私は絶対、幸せになってみせる。 たとえ、離婚した元夫であるクレオパス子爵が、市民に落ち、幸せに暮らしている私を連れ戻そうとしていても、私は、あんな地獄になんか戻らない。 地獄に連れ戻されそうになった私を救ってくれた、同じ薬師であるフォルク様と一緒に、私はいつか必ず、魔力病を治す薬を作ってみせる。 天国から見守っているお義母様達に、いつか立派な薬師になった姿を見てもらうの。そうしたら、きっと、私のことを褒めてくれるよね。自慢の娘だって、思ってくれるよね―――― 不定期更新。 この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

婚約破棄されたら騎士様に彼女のフリをして欲しいと頼まれました。

屋月 トム伽
恋愛
「婚約を破棄して欲しい。」 そう告げたのは、婚約者のハロルド様だ。 ハロルド様はハーヴィ伯爵家の嫡男だ。 私の婚約者のはずがどうやら妹と結婚したいらしい。 いつも人のものを欲しがる妹はわざわざ私の婚約者まで欲しかったようだ。 「ラケルが俺のことが好きなのはわかるが、妹のメイベルを好きになってしまったんだ。」 「お姉様、ごめんなさい。」 いやいや、好きだったことはないですよ。 ハロルド様と私は政略結婚ですよね? そして、婚約破棄の書面にサインをした。 その日から、ハロルド様は妹に会いにしょっちゅう邸に来る。 はっきり言って居心地が悪い! 私は邸の庭の平屋に移り、邸の生活から出ていた。 平屋は快適だった。 そして、街に出た時、花屋さんが困っていたので店番を少しの時間だけした時に男前の騎士様が花屋にやってきた。 滞りなく接客をしただけが、翌日私を訪ねてきた。 そして、「俺の彼女のフリをして欲しい。」と頼まれた。 困っているようだし、どうせ暇だし、あまりの真剣さに、彼女のフリを受け入れることになったが…。 小説家になろう様でも投稿しています! 4/11、小説家になろう様にて日間ランキング5位になりました。 →4/12日間ランキング3位→2位→1位

婚約破棄されたトリノは、継母や姉たちや使用人からもいじめられているので、前世の記憶を思い出し、家から脱走して旅にでる!

山田 バルス
恋愛
 この屋敷は、わたしの居場所じゃない。  薄明かりの差し込む天窓の下、トリノは古びた石床に敷かれた毛布の中で、静かに目を覚ました。肌寒さに身をすくめながら、昨日と変わらぬ粗末な日常が始まる。  かつては伯爵家の令嬢として、それなりに贅沢に暮らしていたはずだった。だけど、実の母が亡くなり、父が再婚してから、すべてが変わった。 「おい、灰かぶり。いつまで寝てんのよ、あんたは召使いのつもり?」 「ごめんなさい、すぐに……」 「ふーん、また寝癖ついてる。魔獣みたいな髪。鏡って知ってる?」 「……すみません」 トリノはペコリと頭を下げる。反論なんて、とうにあきらめた。 この世界は、魔法と剣が支配する王国《エルデラン》の北方領。名門リドグレイ伯爵家の屋敷には、魔道具や召使い、そして“偽りの家族”がそろっている。 彼女――トリノ・リドグレイは、この家の“戸籍上は三女”。けれど実態は、召使い以下の扱いだった。 「キッチン、昨日の灰がそのままだったわよ? ご主人様の食事を用意する手も、まるで泥人形ね」 「今朝の朝食、あなたの分はなし。ねえ、ミレイア? “灰かぶり令嬢”には、灰でも食べさせればいいのよ」 「賛成♪ ちょうど暖炉の掃除があるし、役立ててあげる」 三人がくすくすと笑うなか、トリノはただ小さくうなずいた。  夜。屋敷が静まり、誰もいない納戸で、トリノはひとり、こっそり木箱を開いた。中には小さな布包み。亡き母の形見――古びた銀のペンダントが眠っていた。  それだけが、彼女の“世界でただ一つの宝物”。 「……お母さま。わたし、がんばってるよ。ちゃんと、ひとりでも……」  声が震える。けれど、涙は流さなかった。  屋敷の誰にも必要とされない“灰かぶり令嬢”。 だけど、彼女の心だけは、まだ折れていない。  いつか、この冷たい塔を抜け出して、空の広い場所へ行くんだ。  そう、小さく、けれど確かに誓った。

【完結】傷モノ令嬢は冷徹辺境伯に溺愛される

中山紡希
恋愛
父の再婚後、絶世の美女と名高きアイリーンは意地悪な継母と義妹に虐げられる日々を送っていた。 実は、彼女の目元にはある事件をキッカケに痛々しい傷ができてしまった。 それ以来「傷モノ」として扱われ、屋敷に軟禁されて過ごしてきた。 ある日、ひょんなことから仮面舞踏会に参加することに。 目元の傷を隠して参加するアイリーンだが、義妹のソニアによって仮面が剥がされてしまう。 すると、なぜか冷徹辺境伯と呼ばれているエドガーが跪まずき、アイリーンに「結婚してください」と求婚する。 抜群の容姿の良さで社交界で人気のあるエドガーだが、実はある重要な秘密を抱えていて……? 傷モノになったアイリーンが冷徹辺境伯のエドガーに たっぷり愛され甘やかされるお話。 このお話は書き終えていますので、最後までお楽しみ頂けます。 修正をしながら順次更新していきます。 また、この作品は全年齢ですが、私の他の作品はRシーンありのものがあります。 もし御覧頂けた際にはご注意ください。 ※注意※他サイトにも別名義で投稿しています。

襲ってきた王太子と、私を売った婚約者を殴ったら、不敬罪で国外追放されました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。