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「ほら!!シャキシャキ動きな!!」

「アナグマ使いが酷いだす……」

捕まえたアナグマに首輪をつけ、鎖で繋ぎ逃げられないようにしてから球から出してやり、今は家中を掃除させている最中だ。

「……おや?ここにまだ埃があるようだが?」

テーブルを指でなぞり、埃を見せる。

「はいはい!!分かっただすよ!!お前ら普段掃除してないだすね!?こんな埃まみれの家でよく平気だすな!!」

こいつ、中々掃除好きと見える。
頭巾を被り、叩きと箒を手に家中駆けずり回り、みるみる家の中が綺麗になっていく。
まずい……こいつ、欲しい……

「コルネリア!次、私の屋敷に貸してください!!」

ギュッギュー!!

ラルスはまだ分かるが、ルー母さんまで……

「良かったな。仕事が増えたぞ?」

「お前ら、掃除ぐらいしろだす!!」

文句を言いながらも、手は止まらない。

──プロだな。



「……疲れた……だす……」

ウチを掃除した後、ラルスの屋敷、ルー達の住処と引っ張りだこだったアナグマは、ウチに戻ってきた途端床に倒れ込んだ。

「おお!ご苦労だったな。ほら、飲むか?」

流石に働かさせ過ぎた感があるからな。今日の駄賃代わりに、酒瓶をアナグマの目の前に置く。

「……仕方ないから、貰ってやるだす」

そう言いながら器用に酒を開け、一気に飲み干した。

──ふふっ。まったく、素直じゃない奴だ。

それはそうと……

「ブラウ、こいつ風呂に入れてくれ」

「「えぇぇぇぇぇ!?」」

ブラウとアナグマの声が共鳴した。

「なんだ?何か問題あるか?」

今のアナグマこいつは、全身埃まみれで真っ黒だ。
折角綺麗になった家の中を、このまま歩かれたら堪らん。

「なんで、こんな奴と一緒に風呂入らなきゃいけないんです!?」

「それはこっちの台詞だす!!こんなむさい男嫌だす!!女がいいだす!!この際お前でいいだす!!その胸でオイラの顔を挟ん──グエッ!!」

私が手を出す前に、アナグマの頭にかかと落とししたのはラルス。

「……私ですらコルネリアと風呂に入ったことないのに、何故お前のような獣が一緒に入れると思っているのか不思議ですね?」

ラルスはアナグマの頭を掴み、同じ目線まで持ち上げながら、不気味すぎる笑顔で言った。

「す、すまん、だす……」

黒いオーラを纏ったラルスに、アナグマは震えながら必死に謝っていた。

「お前ら!!私の家で文句は言わせない!!さっさと行ってこい!!」

「「はいっ!!」」

ブラウとアナグマに一喝すると、急いで風呂場に走って行った。
その姿を見送りながら、酒を呷る。

「……コルネリア。あのアナグマ何やら魔法がかけられてますよ?」

「ああ、お前も気づいたか?」

前に来た時から、微量だが魔力の気配がした。
あまり強力なものではないから、ほっておいたんだが……

「追跡魔法ではないようですね。こんな微量では追跡出来ませんから」

「追跡などしなくても居場所は分かってるだろ?|ウチここに寄越してるんだから」

一体、奴の飼い主は何処のどいつなんだ?

「コルネリアさん!!こいつの首から、なんか取れた!!」

アナグマと一緒に風呂に行ったはずのブラウがビショビショのまま、私の元に走ってやって来た。

「なんだ?」

ブラウの手の中には、紫色の石。

──これは

「……魔石ですね」

「だな。そうか、この気配だったのか」

キュル!!クルルルルルル!!!!!!

ブラウの腕に抱えられたアナグマが鳴き喚いているが、何を言っているか分からん。

「なんだ?お前、喋れてないぞ?」

「そうなんです!この石取ったら喋らなくなっちゃって」

……なるほど、この魔石を使ってアナグマの声を変換していたのか。こいつの飼い主は中々の知識の持ち主だな。

「どれ、ブラウそいつを寄越せ。鳴き声が喧しい」

ブラウからアナグマを受けると、首に魔石を取り付けてやった。

「ふぅ、焦っただす」

「お前の飼い主は誰だ?何故、魔石など持っている?」

ビショビショの毛を毛ずくろいしているアナグマに問う。

「オイラも知らんだす。ご主人にこれを付けてもらったら喋れるようになっただす」

こいつに聞いても分かるはずないか。
やはり、飼い主に直接聞くしかないか。

「コルネリアさん、魔石って何ですか?」

「……それより、ブラウ。前を隠した方がいいぞ。リラが困ってる」

「え?」

今のブラウは生まれたままの姿。驚いて何も巻かずに出てきたらしい。
リラが出るに出てこれなくて、顔を真っ赤にしながら柱にくっついている。

「うわぁぁぁぁぁ!!!!!」

ブラウは今の状況を確認するや否や、顔を真っ赤にして前を隠し、急いで風呂場へ走って行った。

「別に恥ずかしがることもないのにな?」

「私はたまに、ブラウが憐れに思う事がありますよ……」

酒を飲みながらラルスに言うと、ラルスは何故か憐れみの目でブラウが駆けて行った方を眺めていた。
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