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私はウチの庭にラコードと共に降り立った。
降り立った時の音で、ラルス達が次々庭に集まってきた。

「コルネリア!?何ですかこれは!?」

「ほぉ、立派なドラゴンですなぁ」

「これ、コルネリアさんが狩って来たの?」

反応は様々だが、誰もラコードだとは気づいていない。
ここまでバレては、正体を明かすしかあるまい。

「……実は、これはラコー……」

「おい、何だこれは?」

私は意を決して、ラコードの名前を言おうとした。
しかし、言い終わる前に聞きなれた声が聞こえた。

「はっ!?ラコード!?なん……!?じゃあ、これは!?」

私はラコードと、気を失っているドラゴンを交互に見ながら、どういう事なのか軽くパニックになった。

ラコードはそんな私を後目に、ドラゴンへと近づいていき、思っきり顔面を蹴った。

「おい、起きろ!!」

ラコードの声にドラゴンが反応して、ゆっくりと瞼が開かれた。

──こうしてみると、ドラゴンの瞳も綺麗だな。曇りがない。とても綺麗だ……

ドラゴンは目の前のラコードを確認すると、ボロボロ泣き出した。
私達は一様にギョッとした。

「お、おい、どうしたんだ!?あっ!!私が殴った所が痛むのか!?」

ラコードだと思って思いっきり殴ってしまったからな。
いや、しかし、先に攻撃態勢に入ったのはこいつだが……私が悪いのか?

「……おい、泣くな。皆が困っている」

そう言うと、ドラゴンは鼻をすすり何とか泣き止んだ。

一体こいつはなんだ?
ラコードの知り合いのドラゴンやつか?

「ラコード、こいつはお前の知り合いか?」

「ああ、俺の息子だ」

「「…………」」

……ん?今何と……?息子と聞こえたような気が……

「……すまん、もう一度いいか?」

「あ?こいつは、俺の息子だ」

「「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!???」」

二度目は聞き取れた。間違いなく息子だと言い切った。
あまりの衝撃に、私達の声が森全体に響いであろう。

確かに、よく見ればこのドラゴンは成体より多少小さく見える。
子供相手に全力で殴ってしまった……

「ちょっと、貴方!!子供がいるってことは、奥さんがいるってことですよね!?奥さんがいるのに、コルネリア他の女を番だと言ってたんですか!?貴方、そんなこと許されるはずないでしょう!!」

それだ。ラルス、いい事言った。

雄だけでは子供は出来ん。必ず相手がいる。
それなのに、このラコードときたら、私に番になれだと!?
子まで産んでくれた相手に悪いと思わんのか!?
普通ドラゴンは一夫一妻のはずなんだが?

──まあ、こいつはどっから見ても尻軽だからな。

「私には、妻などいない。これは断言する。……こいつは、卵のまま捨てられていたんだ」

「「…………」」

皆が黙ってラコードの話に耳を傾けた。

「ただの気まぐれだった。気まぐれに卵を持ち帰り、育てた。すると、私の事を父と呼び懐かれてな。……捨てるに捨てれなくなった」

ラコードは、優しくドラゴンを撫でている。
その姿は正真正銘、父親だ。

「すみません!!私の勘違いとは言え、大変失礼な事を言ってしまいました!!」

ラルスがラコードに向かって深々と頭を下げて謝った。

……すまん。私もラコードお前の事を勘違いしていた。

「いや、勘違いもするだろう。気にしていない」

ラコードお前、中々出来たドラゴンだったんだな……

「……あの、こんな空気の中申し訳なんですが、ブラウとリラちゃんは?」

爺さんが辺りを見渡し、二人が居ないことに気づいたらしい。

「しまった!!街に置いてきた!!」

私はすぐさま街に戻り、リラとブラウに謝った。

「いや、忘れていたつもりは無かったんだが……すまん」

街はドラゴンの事など無かったかのように、祭りが続行されていた。
私の事も、ブラウが上手く言っといてくれたらしい。

私は追加で二人に駄賃を渡し、好きなの買ってきていいと言うと、先程までの機嫌が嘘のように上機嫌で人混みの中に消えて行った。

──はぁ~、余分な出費だ……
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