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一
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屋敷のコックに焼いてもらった、待ちに待ったフワフワなパンケーキ、甘ったるい香りに喉が鳴る。
もう、辛抱しなくていいなんて幸せ。
「いただきます」
蜂蜜をたっぷりかけても、バターを多めに乗せても小言を言われない。パンケーキにナイフをスーッと入れて一口の大きさに切り、フォークでさしパクッと食べた。
甘い。
しばらく味わっていなかった懐かしい蜂蜜の甘さと、バターのコクと塩っぱさ、音で言うならモチモチと咀嚼して、ゴクリと飲み込み。
わたしはお行儀悪く足をバタバタさせた。
「んんっ、これよこれ。パンケーキに蜂蜜とバターが程よく染みておいひい。付け合わせの桃も葡萄も苺も最高だわ!」
朝の楽しげな食卓へ、弟がせわしなく食堂に入ってきて、わたしを見つけて呼んだ。
「ヒーラギ姉さん!」
「どうしたにょ、ギリジニャン?」
「まったく、ふわふわパンケーキが美味しいのはわかります。その、リスの様に膨らんだ口の中を食べ切ってから、お話しください」
「なによ、先に話しかけてきたのはギリジアンなのに」
ムスッとしたのがわかったのか。
「そう、プンプン怒らない」
「まあ、そうさせたのはあなたでしょう。それでギリジアン、朝の至福のひとときを邪魔した訳は何?」
「至福? そうでしたか、すみません。ですがヒーラギお姉様。僕は招待状がなくて行けませんでしたが……ローデン王太子が昨夜開かれた異世界から来た女性のお披露目会の舞踏会で、お姉様に婚約破棄を言い渡したのは本当の事ですか?」
「…………モグモグ」
やっぱり、聞いてくると思ってた。
昨夜、八年間の間一度も王城から帰れずにいた、私がいきなり伯爵家に帰ってきたんだもの。昨夜もギリジアンは『どうして?』とうるさく聞いてきたけど、疲れていたから明日にしてと部屋に篭った。
そのあと何が起きたのかを専属メイドに聞いたんだ、昨日は色々ありすぎて疲れていたから、口止めしておくのを失念していた。
でも、必要な荷物を取りに家に帰っただけだし、すぐに出ていくわ。
何も言わずパンケーキを口に運ぶ私に弟はもう一度「婚約破棄は本当ですか?」と聞き、反対側のテーブルに着きメイドに朝食を頼んだ。
朝食の時間にギリジアンだけが、屋敷の食堂に現れたということは両親はいない。よかった……あの二人にバレると面倒だから、婚約破棄の話が耳に入る前に消えちゃおうと思っていたのだけど……伯爵家の全業務を任された、弟がいたのを忘れていたわ。
八年も経つと忘れちゃうわね。
「……姉さん?」
婚約破棄は本当の話だし、ギリジアンに言ってもいいわね。バター、蜂蜜たっぷりをかけて一口大のパンケーキにフォークをさした。
「婚約破棄は本当の事よ。なんでも異世界から来た本物の聖女、アリカと結婚するんですって。国王陛下と王妃、周りの重役の貴族達、騎士団もアリカが本物の聖女だと昨夜の舞踏会で認めたわ」
ギリジアンは食事の手を止めて眉をひそめた、わたしの事を心配してくれているのね。別にしなくても平気よ。
婚約破棄の話は噂好きのメイド達が話しているのを聞いて知っていた。問題はその後、もしアリカに聖女の力がなくても見目の良い彼女に聖女を名乗らさせて、裏でわたしをこき使うという恐ろしい計画を聞いてしまった。
――このままだと王族に飼い殺される。
逃げるなら婚約破棄される舞踏会の日だと決めて、荷物をまとめて王都を出てきたのだ。
「姉さんの婚約破棄の話は本当だったのですね……なんて言ったらいいか、元気を出してください」
「ありがとう、わたしは元気よ。王城の書庫に通えなくなるのは少し寂しけど、好きでもない人のお嫁にならなくていいし。毎日この国の平和を願って、祭壇でお祈りをしなくていいのだもの、ようやく肩の荷が降りたわ」
「それは、よかったのですが……これから、どうするんですか?」
「行き先は決めてあるの。国境そばに両親も忘れているオンボロだけどウチの別荘があったわよね。そこで本を書いたり読んだり、困った人を助けて美味しい物をたらふく食べて、お酒を飲んでゆっくりしょうと思ってる」
「いつ出発するんですか?」
「いまからよ、今から出て行くわ。ごちそうさま!」
ふわふわなパンケーキを全て平らげて、アタッシュケースを握った。これからなにを食べても、王子ローデンに贅沢だとか太ると言われずに済む。
ローデンはわたしに関心がなさ過ぎて知らないでしょうが、魔力は使えば使うほどお腹が空くの。何度言っても信じては下さらなかった。
王子はアリカの豊満な胸にやられたのよね。
彼女は甘えた声でローデンを呼んで、大きな胸を腕に押し付けていたもの。
「どうせ、わたしはペチャパイよ!」
「いきなり、なんて事を言い出すんですか!」
ポッと頬を赤くしたギリジアン。
「ごめんなさい、こっちの話。じゃー後はよろしくねギリジアン、ごきげんよう!」
わたしはリボン付きの帽子を被り、アタッシュケースを手に持ち食堂を出る、わたしにギリジアンは声をかけた。
「姉さん、お気を付けて」
「えぇ、あなたも体には気をつけるのよ。落ち着いたら、貴方宛に手紙を書くわ」
笑顔で、手を振り食堂をでて屋敷を後にした。
もう、辛抱しなくていいなんて幸せ。
「いただきます」
蜂蜜をたっぷりかけても、バターを多めに乗せても小言を言われない。パンケーキにナイフをスーッと入れて一口の大きさに切り、フォークでさしパクッと食べた。
甘い。
しばらく味わっていなかった懐かしい蜂蜜の甘さと、バターのコクと塩っぱさ、音で言うならモチモチと咀嚼して、ゴクリと飲み込み。
わたしはお行儀悪く足をバタバタさせた。
「んんっ、これよこれ。パンケーキに蜂蜜とバターが程よく染みておいひい。付け合わせの桃も葡萄も苺も最高だわ!」
朝の楽しげな食卓へ、弟がせわしなく食堂に入ってきて、わたしを見つけて呼んだ。
「ヒーラギ姉さん!」
「どうしたにょ、ギリジニャン?」
「まったく、ふわふわパンケーキが美味しいのはわかります。その、リスの様に膨らんだ口の中を食べ切ってから、お話しください」
「なによ、先に話しかけてきたのはギリジアンなのに」
ムスッとしたのがわかったのか。
「そう、プンプン怒らない」
「まあ、そうさせたのはあなたでしょう。それでギリジアン、朝の至福のひとときを邪魔した訳は何?」
「至福? そうでしたか、すみません。ですがヒーラギお姉様。僕は招待状がなくて行けませんでしたが……ローデン王太子が昨夜開かれた異世界から来た女性のお披露目会の舞踏会で、お姉様に婚約破棄を言い渡したのは本当の事ですか?」
「…………モグモグ」
やっぱり、聞いてくると思ってた。
昨夜、八年間の間一度も王城から帰れずにいた、私がいきなり伯爵家に帰ってきたんだもの。昨夜もギリジアンは『どうして?』とうるさく聞いてきたけど、疲れていたから明日にしてと部屋に篭った。
そのあと何が起きたのかを専属メイドに聞いたんだ、昨日は色々ありすぎて疲れていたから、口止めしておくのを失念していた。
でも、必要な荷物を取りに家に帰っただけだし、すぐに出ていくわ。
何も言わずパンケーキを口に運ぶ私に弟はもう一度「婚約破棄は本当ですか?」と聞き、反対側のテーブルに着きメイドに朝食を頼んだ。
朝食の時間にギリジアンだけが、屋敷の食堂に現れたということは両親はいない。よかった……あの二人にバレると面倒だから、婚約破棄の話が耳に入る前に消えちゃおうと思っていたのだけど……伯爵家の全業務を任された、弟がいたのを忘れていたわ。
八年も経つと忘れちゃうわね。
「……姉さん?」
婚約破棄は本当の話だし、ギリジアンに言ってもいいわね。バター、蜂蜜たっぷりをかけて一口大のパンケーキにフォークをさした。
「婚約破棄は本当の事よ。なんでも異世界から来た本物の聖女、アリカと結婚するんですって。国王陛下と王妃、周りの重役の貴族達、騎士団もアリカが本物の聖女だと昨夜の舞踏会で認めたわ」
ギリジアンは食事の手を止めて眉をひそめた、わたしの事を心配してくれているのね。別にしなくても平気よ。
婚約破棄の話は噂好きのメイド達が話しているのを聞いて知っていた。問題はその後、もしアリカに聖女の力がなくても見目の良い彼女に聖女を名乗らさせて、裏でわたしをこき使うという恐ろしい計画を聞いてしまった。
――このままだと王族に飼い殺される。
逃げるなら婚約破棄される舞踏会の日だと決めて、荷物をまとめて王都を出てきたのだ。
「姉さんの婚約破棄の話は本当だったのですね……なんて言ったらいいか、元気を出してください」
「ありがとう、わたしは元気よ。王城の書庫に通えなくなるのは少し寂しけど、好きでもない人のお嫁にならなくていいし。毎日この国の平和を願って、祭壇でお祈りをしなくていいのだもの、ようやく肩の荷が降りたわ」
「それは、よかったのですが……これから、どうするんですか?」
「行き先は決めてあるの。国境そばに両親も忘れているオンボロだけどウチの別荘があったわよね。そこで本を書いたり読んだり、困った人を助けて美味しい物をたらふく食べて、お酒を飲んでゆっくりしょうと思ってる」
「いつ出発するんですか?」
「いまからよ、今から出て行くわ。ごちそうさま!」
ふわふわなパンケーキを全て平らげて、アタッシュケースを握った。これからなにを食べても、王子ローデンに贅沢だとか太ると言われずに済む。
ローデンはわたしに関心がなさ過ぎて知らないでしょうが、魔力は使えば使うほどお腹が空くの。何度言っても信じては下さらなかった。
王子はアリカの豊満な胸にやられたのよね。
彼女は甘えた声でローデンを呼んで、大きな胸を腕に押し付けていたもの。
「どうせ、わたしはペチャパイよ!」
「いきなり、なんて事を言い出すんですか!」
ポッと頬を赤くしたギリジアン。
「ごめんなさい、こっちの話。じゃー後はよろしくねギリジアン、ごきげんよう!」
わたしはリボン付きの帽子を被り、アタッシュケースを手に持ち食堂を出る、わたしにギリジアンは声をかけた。
「姉さん、お気を付けて」
「えぇ、あなたも体には気をつけるのよ。落ち着いたら、貴方宛に手紙を書くわ」
笑顔で、手を振り食堂をでて屋敷を後にした。
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