3 / 30
三
しおりを挟む
今思えば、当時の私は真面目過ぎ。
朝の祈りの後、書庫で本を読み昼の祈り、そして書庫、夜の祈りの時間そんな毎日を王城の離れで過ごしていた。
力を誉めてくれたのは初めだけ、何年も続けば人は慣れてしまい、傷を癒すのでさえ当たり前になる。
『お疲れ様でした、次の祈りの時間までお寛ぎくださいませ』
最初はご機嫌取りなのか、庭園で開かれるお茶会などに呼ばれていたけど、時期にそれもなくなった。私が文句を言わず、言われた事を従順に従うからだろう。
寂しい、悲しい、家に帰りたい……誰かと話したい。
――私はお祈りをするだけの人形じゃない。
私は与えられた力で国に張られた結界を補強するだけの、毎日を過ごせばよかった。しかし魔物の動きが活発になり、瘴気が森に充満してきた。
『その聖女の力を騎士団にも使ってやれ』
瘴気を祓うため、ポンコツ王子の指令で騎士達の遠征に着いて行くことになり、魔物と戦い傷付いた騎士の傷も奇跡の力で癒した。
切り傷、引っ掻き傷、骨折、一番難しいのは手足の再生、書物で体の仕組みを理解して立体に想像しながら癒やさないと再生できない。私は書庫で本を読みポンコツに気持ち悪いと言われながらも、手帳に絵を描き体の仕組みをたたき込んだ。
魔法に至ってもヒール、広域回復魔法、聖魔法……覚え出したらキリがないし魔力も足りない。自分自身でも利用する回復薬にも関心を持ち、魔術師に錬金術を学びポーション作りにも参加した。森に生えている薬草で薬が作れるとも知った。
やれる事はやり、知ったことは全て手帳に書き留めた。
『いくらでも娘をお使いください』
伯爵家に跡取りの弟もいるからか、両親はお金さえ貰えれば何も言わない。そして十五になった時、私の知らないところで国王陛下と両親は制約が交わして、私はローデン王子の婚約者になっていた。
――ローデン王子に嫌われているのに。
こちらから歩み寄ろうと開いたお茶会でも、舞踏会のエスコートでさえ一言も話さず、目も合わない……口を開けば冷たい言葉、暴言ばかり、そんな人を私も好きになれなかった。
『また、騎士団の遠征について行けと言うのですか? ローデン殿下はどうなさるのですか?』
『僕は私用があってな。君は聖女だ一人でも多くの人を助けたいだろう? 気を付けて行って来るがいい』
十六歳になり私は知った――騎士達が命をかけて魔物と戦うなか。王子は他の令嬢を招待して茶会を開き、のほほんと王城で待っていたことを……
そして、私を毎回遠征に行かせる魂胆も……ローデンは遠征で私が魔物に襲われ、怪我をすればいいと思っていたとメイド達の世間話から知った。
遠征から騎士達と無事に王城に戻り、宴の舞踏会で私が陛下、王妃、貴族達に賛辞を述べられると嫉妬して睨みつけていたものね。
決まってローデンは"断じて、お前の力のおかげではない!"と言っていた。
私が活躍すればするほどローデンは私に意地悪をする。例えば舞踏会でダンス中に足を引っ掛ける、庭園で散歩途中に突き飛ばされる、遊びだと言って笑いながら、真剣を向けられたこともあった。
逃げたくても逃げられない、そんな時にアリカが異世界からこの国にやって来た、私とは違う可憐な乙女。王子は直ぐに綺麗な黒髪の可憐なアリカに夢中になった。
『聖女アリカにもヒーラギと同じく癒しの力があった、国に聖女は二人もいらぬ』
『ヒーラギさん、あとは本物の聖女のわたしがやるから。あなたは出ていってもいいし、ここに残ってもいいわ』
『では、後のことはホンモノの聖女様にお任せいたします』
役目は終わった……こんな場所から出ていける。少しずつ荷物をまとめて、書庫で必要な本を借りメモをとり、着々と出立の準備を始めた。
アリカ聖女のお披露目の日。
舞踏会でローデンに『お前とは婚約破棄だ!』と言われたとき、余りの嬉しさに小躍りしそうだった。
けどこれが表向きの発表で、その裏ではまだ利用価値があるとして、私をどうにか引き止めようとする力が動き始めている事を知っている。
――ヤツらに捕まりたくない。
私は婚約破棄の後に黒のレースで顔を隠し、荷物を持って城から姿を消したのだった。
朝の祈りの後、書庫で本を読み昼の祈り、そして書庫、夜の祈りの時間そんな毎日を王城の離れで過ごしていた。
力を誉めてくれたのは初めだけ、何年も続けば人は慣れてしまい、傷を癒すのでさえ当たり前になる。
『お疲れ様でした、次の祈りの時間までお寛ぎくださいませ』
最初はご機嫌取りなのか、庭園で開かれるお茶会などに呼ばれていたけど、時期にそれもなくなった。私が文句を言わず、言われた事を従順に従うからだろう。
寂しい、悲しい、家に帰りたい……誰かと話したい。
――私はお祈りをするだけの人形じゃない。
私は与えられた力で国に張られた結界を補強するだけの、毎日を過ごせばよかった。しかし魔物の動きが活発になり、瘴気が森に充満してきた。
『その聖女の力を騎士団にも使ってやれ』
瘴気を祓うため、ポンコツ王子の指令で騎士達の遠征に着いて行くことになり、魔物と戦い傷付いた騎士の傷も奇跡の力で癒した。
切り傷、引っ掻き傷、骨折、一番難しいのは手足の再生、書物で体の仕組みを理解して立体に想像しながら癒やさないと再生できない。私は書庫で本を読みポンコツに気持ち悪いと言われながらも、手帳に絵を描き体の仕組みをたたき込んだ。
魔法に至ってもヒール、広域回復魔法、聖魔法……覚え出したらキリがないし魔力も足りない。自分自身でも利用する回復薬にも関心を持ち、魔術師に錬金術を学びポーション作りにも参加した。森に生えている薬草で薬が作れるとも知った。
やれる事はやり、知ったことは全て手帳に書き留めた。
『いくらでも娘をお使いください』
伯爵家に跡取りの弟もいるからか、両親はお金さえ貰えれば何も言わない。そして十五になった時、私の知らないところで国王陛下と両親は制約が交わして、私はローデン王子の婚約者になっていた。
――ローデン王子に嫌われているのに。
こちらから歩み寄ろうと開いたお茶会でも、舞踏会のエスコートでさえ一言も話さず、目も合わない……口を開けば冷たい言葉、暴言ばかり、そんな人を私も好きになれなかった。
『また、騎士団の遠征について行けと言うのですか? ローデン殿下はどうなさるのですか?』
『僕は私用があってな。君は聖女だ一人でも多くの人を助けたいだろう? 気を付けて行って来るがいい』
十六歳になり私は知った――騎士達が命をかけて魔物と戦うなか。王子は他の令嬢を招待して茶会を開き、のほほんと王城で待っていたことを……
そして、私を毎回遠征に行かせる魂胆も……ローデンは遠征で私が魔物に襲われ、怪我をすればいいと思っていたとメイド達の世間話から知った。
遠征から騎士達と無事に王城に戻り、宴の舞踏会で私が陛下、王妃、貴族達に賛辞を述べられると嫉妬して睨みつけていたものね。
決まってローデンは"断じて、お前の力のおかげではない!"と言っていた。
私が活躍すればするほどローデンは私に意地悪をする。例えば舞踏会でダンス中に足を引っ掛ける、庭園で散歩途中に突き飛ばされる、遊びだと言って笑いながら、真剣を向けられたこともあった。
逃げたくても逃げられない、そんな時にアリカが異世界からこの国にやって来た、私とは違う可憐な乙女。王子は直ぐに綺麗な黒髪の可憐なアリカに夢中になった。
『聖女アリカにもヒーラギと同じく癒しの力があった、国に聖女は二人もいらぬ』
『ヒーラギさん、あとは本物の聖女のわたしがやるから。あなたは出ていってもいいし、ここに残ってもいいわ』
『では、後のことはホンモノの聖女様にお任せいたします』
役目は終わった……こんな場所から出ていける。少しずつ荷物をまとめて、書庫で必要な本を借りメモをとり、着々と出立の準備を始めた。
アリカ聖女のお披露目の日。
舞踏会でローデンに『お前とは婚約破棄だ!』と言われたとき、余りの嬉しさに小躍りしそうだった。
けどこれが表向きの発表で、その裏ではまだ利用価値があるとして、私をどうにか引き止めようとする力が動き始めている事を知っている。
――ヤツらに捕まりたくない。
私は婚約破棄の後に黒のレースで顔を隠し、荷物を持って城から姿を消したのだった。
96
あなたにおすすめの小説
ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!
沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。
それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。
失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。
アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。
帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。
そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。
再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。
なんと、皇子は三つ子だった!
アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。
しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。
アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。
一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。
【完結】さようなら。毒親と毒姉に利用され、虐げられる人生はもう御免です 〜復讐として隣国の王家に嫁いだら、婚約者に溺愛されました〜
ゆうき
恋愛
父の一夜の過ちによって生を受け、聖女の力を持って生まれてしまったことで、姉に聖女の力を持って生まれてくることを望んでいた家族に虐げられて生きてきた王女セリアは、隣国との戦争を再び引き起こした大罪人として、処刑されてしまった。
しかし、それは現実で起こったことではなく、聖女の力による予知の力で見た、自分の破滅の未来だった。
生まれて初めてみた、自分の予知。しかも、予知を見てしまうと、もうその人の不幸は、内容が変えられても、不幸が起こることは変えられない。
それでも、このまま何もしなければ、身に覚えのないことで処刑されてしまう。日頃から、戦争で亡くなった母の元に早く行きたいと思っていたセリアだが、いざ破滅の未来を見たら、そんなのはまっぴら御免だと強く感じた。
幼い頃は、白馬に乗った王子様が助けに来てくれると夢見ていたが、未来は自分で勝ち取るものだと考えたセリアは、一つの疑問を口にする。
「……そもそも、どうして私がこんな仕打ちを受けなくちゃいけないの?」
初めて前向きになったセリアに浮かんだのは、疑問と――恨み。その瞬間、セリアは心に誓った。自分を虐げてきた家族と、母を奪った戦争の元凶である、隣国に復讐をしようと。
そんな彼女にとある情報が舞い込む。長年戦争をしていた隣国の王家が、友好の証として、王子の婚約者を探していると。
これは復讐に使えると思ったセリアは、その婚約者に立候補しようとするが……この時のセリアはまだ知らない。復讐をしようとしている隣国の王子が、運命の相手だということを。そして、彼に溺愛される未来が待っていることも。
これは、復讐を決意した一人の少女が、復讐と運命の相手との出会いを経て、幸せに至るまでの物語。
☆既に全話執筆、予約投稿済みです☆
巻き込まれではなかった、その先で…
みん
恋愛
10歳の頃に記憶を失った状態で倒れていた私も、今では25歳になった。そんなある日、職場の上司の奥さんから、知り合いの息子だと言うイケメンを紹介されたところから、私の運命が動き出した。
懐かしい光に包まれて向かわされた、その先は………??
❋相変わらずのゆるふわ&独自設定有りです。
❋主人公以外の他視点のお話もあります。
❋気を付けてはいますが、誤字脱字があると思います。すみません。
❋基本は1日1話の更新ですが、余裕がある時は2話投稿する事もあります。
【完結】追放された元聖女は、冒険者として自由に生活します!
夏灯みかん
ファンタジー
生まれながらに強い魔力を持つ少女レイラは、聖女として大神殿の小部屋で、祈るだけの生活を送ってきた。
けれど王太子に「身元不明の孤児だから」と婚約を破棄され、国外追放されてしまう。
「……え、もうお肉食べていいの? 白じゃない服着てもいいの?」
追放の道中で出会った冒険者のステファンと狼男ライガに拾われ、レイラは初めて外の世界で暮らし始める。
冒険者としての仕事、初めてのカフェでのお茶会。
隣国での生活の中で、レイラは少しずつ自分の居場所を作っていく。
一方、レイラが去った王国では魔物が発生し、大神殿の大司教は彼女を取り戻そうと動き出していた。
――私はなんなの? どこから来たの?
これは、救う存在として利用されてきた少女が、「自分のこれから」を選び直していく物語。
※スピンオフ外伝を連載中です
『悪食エルフと風魔法使いの辺境遺跡探索記』
肉も魔物も食べる“悪食エルフ”エドラヒルと、
老魔法使いオリヴァーの若き日の出会いと冒険を描いた物語です。
▼外伝はこちら
https://www.alphapolis.co.jp/novel/417802211/393035061
※表紙イラストはレイラを月塚彩様に描いてもらいました。
【2025.09.02 全体的にリライトしたものを、再度公開いたします。】
婚約破棄されたので、聖女になりました。けど、こんな国の為には働けません。自分の王国を建設します。
ぽっちゃりおっさん
恋愛
公爵であるアルフォンス家一人息子ボクリアと婚約していた貴族の娘サラ。
しかし公爵から一方的に婚約破棄を告げられる。
屈辱の日々を送っていたサラは、15歳の洗礼を受ける日に【聖女】としての啓示を受けた。
【聖女】としてのスタートを切るが、幸運を祈る相手が、あの憎っくきアルフォンス家であった。
差別主義者のアルフォンス家の為には、祈る気にはなれず、サラは国を飛び出してしまう。
そこでサラが取った決断は?
【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!
チャらら森山
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。
お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。
聖女の妹によって家を追い出された私が真の聖女でした
天宮有
恋愛
グーリサ伯爵家から聖女が選ばれることになり、長女の私エステルより妹ザリカの方が優秀だった。
聖女がザリカに決まり、私は家から追い出されてしまう。
その後、追い出された私の元に、他国の王子マグリスがやって来る。
マグリスの話を聞くと私が真の聖女で、これからザリカの力は消えていくようだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる