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第三章 獣人の国に咲いた魔女の毒花編
第5話
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お父様に手紙を出してから、初めてシーラン様と一緒に王都にお買い物に出た、王様が竜人王様に変わったからなのか、街を行き交う人は殆どが貴族から亜人の人達が多くなっていた。
次々に王都には新しいお店も増えて来ていて、前は見なかった干し肉などが吊るされて売られているし、南の国の果物も多く見るようになった。
それらのお店の店主は獣人やエルフの人だ、ゆっくりと一軒ずつ覗きながら王都の中をシーラン様と歩く。
「晩御飯は何にする?」
「そうですね、ソーセージとパンとスープが食べたいです」
目の前に並ぶお店の品を1つずつ言ってみた。シーラン様もそれに気が付いたのかソーセージ屋さんを覗き。
「これなんか分厚くて美味しそうだね、パンは明日の朝の分まで買って、スープの具はどうする」
と聞かれたけど私は決まって
「ひよこ豆のスープがいいです」
と答えると、賛成なのかシーラン様も頷く。
「じゃあ、それで決まりだね」
「はい」
お店を一軒ずつ周り、たくさんの材料を買い終えた。
「シーラン様ちょっと待ってて」
「シャルロット嬢?」
私は一軒のアイスクリーム屋さんの前で足を止めてスカートのポケットの中を探る。
チャリンと出て来た小銭を見た、合計で100リリしか持ってない。
「このイチゴのアイスをコーンで1つください」
「まいど、お嬢ちゃん」
お金を払いイチゴのアイスをもらって、荷物を持って待つシーラン様の所に戻る。
「なんだ、アイスクリームが食べたかったの、言ってくれれば買うのに」
「いいんです、はい口を開けてください」
アイスクリームを前に出すと、少し驚いた表情をしたけど、アイスクリームを一口食べる。
「うん、美味しい」
「じゃあ私も…んっ、あのお店のアイスクリームイチゴの味が濃くて美味しい」
「そうだね、もう一口ちょうだい」
仲良く分け合ってアイスクリームを食べてお城へと戻り、部屋に戻ると部屋の中は暗く、リズ様とリオさんはまだ寝ているみたい。
「マリーがいないか、部屋を覗いてきます」
とロウソクに明かりをつけるシーラン様に断りを入れて、マリーさんの部屋と自分の部屋を覗いたけど、まだ竜人の国にお出かけをしているみたいだ。
「図鑑とノートを持って」
「シャルロット嬢、料理を始めるよ」
「はーい」
お隣から呼ばれてキッチンに向うと、袖捲りをしたシーラン様がまな板や包丁を用意していた。
「さあ、兄上達が寝ている間に夕飯を作ってしまおう」
「はい、私は何を手伝えばいい?」
「この鍋にお湯を沸かして、熱湯にひよこ豆を2時間くらい漬けるから」
お湯を沸かしてひよこ豆を熱湯につけたり、ジャガイモの皮を剥いたり、ソーセージを焼いたりとシーラン様の指示で料理のお手伝いをしていた。
「美味そうな匂いだな、腹減った」
起きたばかりでボサボサ髪のリズ様がキッチンに現れた。
「兄上…いつもよりひどい寝癖だな」
「ほんとひどい寝癖」
「そう、朝起きたらいつもこんなもんだよ」
とお皿から焼きたてのソーセージを摘むと、食べながらキッチンから出て行く。
「あ、シーラン様、リズ様がソーセージ取りましたよ」
「まったく仕方ないな…兄上のは一本減らそう」
お皿に盛り付けを始めていたシーラン様はリズ様のソーセージを減らしていた。
熱湯に浸けたひよこ豆を次は柔らかく煮て、程よい固さになったら作ったスープに入れて夕飯は完成した。
ガチャっと、シーラン様の玄関が開きマリーさんが顔を出す。
「マリーさんおかえり」
「お嬢様、ただいま戻りました」
「夕飯出来たから一緒に食べよう」
リズ様と同じく寝癖のリオさんを交えて、みんなでテーブルを囲み食事を始めた。
みんなのお皿を見てリズ様はソーセージに気付いたけど、ちらっと見ただけで何も言わずに食事を始めた。
そして何かを思い出したのか
「そういや、シーランの誕生日って明日だよな」
「そうですね、兄上達の誕生日は先月でしたよね」
「ああ、そうだったな。俺達の事はいいよ、シャルロットちゃんは?」
私の誕生日…えーっと。
「お嬢様は来月の9日が誕生日です」
「9日か…」
私の誕生日って9日なんだ。15歳になるけど来年の学園はどうなるんだろう?
「学園か…なんだか知らないうちに歳をとったな」
「そうですね…そう言えば竜人王様が学園はどうするかなと、独り言を言っていましたよ」
学園!
色々あって忘れていた、みんなで通いたいな。
「俺は学園にシャルロット嬢と通いたいな、兄上達も年上だけど同じクラスになるだろう」
「そうか…そうなるな」
「同じクラスですか、それは楽しそうですね」
「うん、楽しそう」
みんなで学園に通ったらと話が盛り上がり、楽しい食事の時間を過ごした。明日が早いリズ様とリオさんは部屋へと戻っていく。
後片付けはマリーさんかしてくれると言ったので、私達も今日は早めに寝ることにした。
部屋に戻りベッドに潜り込む。
「明日はシーラン様の誕生日か…」
プレゼントは何にしようかなと考えているうちに寝てしまった。
次の日マリーさんに身支度をしてもらい、シーラン様の部屋に行くと、リズ様とリオさんはこの前に身につけていた鎧を着て腰に剣を指していた。
竜人王様と共に国に出てしまった瘴気を払いに行くのだろう。
「おはようございます」
「おはよう、シャルロットちゃん」
「おはようございます、シャルロット様」
珍しくそこにはシーラン様がいなかった。
「シーランまだ寝ているみたいなんだ、起こしてやってね、じゃあ行ってくるよ」
「行ってきます」
「リズ様、リオさんいってらっしゃい」
マリーさんは朝ごはんを作りにキッチンへ行き、私は2人の見送りをしてシーラン様の部屋をノックした。
「朝ですよ、シーラン様」
「ん、んん」
部屋からは眠そうな返事が返ってきた。
「扉を開けちゃいますよ」
「いいよ、入ってきて」
「本当に、入っちゃいますからね」
扉を開けるとまだベッドの中のシーラン様。
「シーラン様」
「ん、シャルロット嬢ベッドの近くに来て」
眠そうな声で呼ばれて、シーラン様のベッドに近づくと、中から手が伸びてきて布団の中に引き込まれた。
「きゃ、シーラン様!」
「ふふ捕まえた、おはようシャルロット嬢」
目の前でニッコリと微笑んだ。
「あーっ、しっかり起きてるじゃないですか、もう、意地悪をしたの?」
「ううん、プレゼントを貰おうと思ってね」
手が背中に回りぎゅっと、シーラン様の胸の中に抱きしめられた。
「シャルロット嬢、魔女の毒花の採取が終わったら、君の家に挨拶に行く」
挨拶…。
「わかりました、シーラン様」
「うん、もう少しこのままでお願い」
はい、という代わりにシーラン様の背中に手を回した。
「俺達の魔女の毒花の採取が何事もなく、終わりますように…」
シーラン様は私を抱きしめながら、願うように呟いた。
「さあ、朝食が終わったら俺の国に行こう」
「はい」
♢♢♢
「シャルロット嬢ここが変わった俺の国だよ」
マリーさんも一緒に竜人の国へと、竜人王様からいただいた腕輪で城へと飛んだ。
城の前でマリーさんと別れて、シーラン様は私を抱えるとお城の高いところに飛び乗る。
「よく見えるだろう?」
「ええ、凄い竜人の国が見渡せるわ」
この前とは全然違う、青い空にたくさんの花々が咲き、畑では小麦が揺れていた。
「なあ、見違えただろう、竜人王様が「もう障壁はいらぬな」と壊し、全部とは行かないけど元に戻してくれた、国王の父上も王妃の母上も体の調子が良くなった」
シーラン様が前とは違い、嬉しそうに国を眺めている。
「よかったね」
「ああ、よかった」
しばらく2人で平和になった竜人の国を眺めて、私達はお城の中へと入った。
誰がを探しているのか城の中を歩く。
「あ、この時間だとあそこだな」
とシーラン様に案内をされて城の真ん中の庭園に行くと、朝の散歩を楽しむ国王様と王妃様がいた。
「おはようございます父上、母上」
「おはようシーラン。あら、シャルロットちゃんいらしていたの、いらっしゃい」
「おはようございます、国王様、王妃様」
「おはよう、シャルロットさん」
前よりも顔色も良く穏やかな表情の2人。
「そうだわ、シーランお誕生日おめでとう、15歳になったのね」
「はい、母上」
「おめでとうシーラン」
「ありがとうございます、父上」
「リズやリオの誕生日も祝わないとな、いまは忙しそうだから、落ち着いたらみんなの誕生日会をしよう」
「それならば父上。来月の9日に致しましょう、シャルロット嬢の誕生日なんです」
「おお、それは国を挙げて祝わなければな」
「そう、9日ね。張り切らなくちゃね」
なんだか楽しそうなお2人、私の誕生日が凄いことになりそうだわ。
「では、父上、母上。俺達は西の丘に行ってきます」
「西の丘ですか…まだ、そこは元のように戻っていませんよ」
「それでも、俺の好きな場所をシャルロット嬢に教えたいんだ」
「そうか、お前は怒られるといつもそこで泣いていたものな」
「父上、それは言わない約束です」
はははっ、そうだったかなと笑顔ですっとぼける国王様と、少し頬が赤くなったシーラン様。
「シャルロット嬢行こう、父上、母上行ってきます」
「行ってきます」
2人に見送られて私達は西の丘に向う、歩いて行くのもいいが今日はと、シーラン様は私を抱えて飛んだ。
私達が飛ぶ下では畑にせいを出す村の人々が見えた、皆私達を見ると手を振ってくれる。
「シーラン様とシャルロット嬢だ!」
「ありがとう!」
「本当にありがとうございます」
余りにも合う人会う人に言われて恥ずかしくなった。
「みんなシャルロット嬢には感謝をしきれないってさ、9日は覚悟するといいぞ、みんなが君を祝うだろうな」
シーラン様は笑い私を抱えて連れて行くと、少しだけ盛り上がった、まだ何も生えていない所に降りた。
「ここだ、ここが俺の好きな場所だ、竜人王様のお陰でこの土地も浄化されているから、直にシロツメクサで覆われるだろう」
シロツメクサか…四葉のクローバーをよく探したな、でも、私には全然見つからなかった。
「ここでよく父上や母上、兄上、リオの家族でピクニックをしたものだ」
シーラン様はとても懐かしそうにこの土地を見ていた。
あ、そうだプレゼント!
もし、ここにシロツメクサのタネが残っていたら、私の力が使える?
「ふふふ、いいことを思い付いちゃった」
「何?シャルロット嬢」
見ててとシーラン様から離れて
「シロツメクサよ元気に育て!」
私はイメージを膨らませて大きな声で祈った。
「シロツメクサよ育て」
私のイメージは大きくなり西の丘だけではなく、国中のシロツメクサが生えたと後で聞くことになる。
「こ、これは…なんという事だ、ここで兄上と小さな頃に遊んだ、喧嘩をしたそして泣いた、たくさんの思い出が蘇る」
一面に咲いたシロツメクサを見てシーラン様は泣いていた。
「綺麗だ。なんていい誕生日なんだ」
「喜んでいただけて嬉しい」
「シャルロット嬢!」
「え、シーランさまぁ!」
シーラン様は勢いよく私に抱き付いてきた、私より体も身長も違うシーラン様を支えきれずに、私達はシロツメクサの上に倒れた。
「……シーラン様?」
「ありがとう…シャルロット嬢、本当にありがとう」
今朝と同じぎゅっと私を抱きしめた…もうそれはぎゅーっとだ。
段々と腕の力が込められて苦しくなり背中をトントンと軽めに叩くと、ハッとして私の体を離した。
「ごめん、余りにも嬉し過ぎて我を忘れた…」
「ふふ、もうシーラン様は…!」
「あははっ、ごめん、ごめん」
手を掴んで起こしてもらい隣に座った、びっくりしたよと笑って彼を見上げると、目を細めて私を見ていた…その表情が変わる…。
「シャルロット…」
私の名前を愛おしそうに呼び、私の頬に手が伸びて、彼の吐息を近くで感じて目を瞑る。
初めてのキス…だ。
後もう少しでお互いの唇が触れ合おうとした時に、バサバサと羽の音が聞こえてきた。
その音は頭上近くまで来る。
「まじか、西の丘のここにもシロツメクサが戻ってるぞ!」
「本当ですね、リズ様」
リズ様とリオさんの声が聞こえて、空を見上げると朝着ていた鎧で前上を飛んでいた。
「チッ、兄上とリオ」
その声が聞こえたのか、シロツメクサの中に座る私達を見つけて降りてきた。
「あー悪い、シーラン。急に国中のあちこちでシロツメクサが咲いたんだ、みんな驚いちゃってさ、丁度、終わって竜人王様と話している時に聞いて慌てて飛んで帰って来た」
「これは、シャルロット様がやったのですね」
「あははっ…そうみたいです」
悪いけど父上と母上に報告に来て、欲しいと言われて西の丘を後にした。
国王様と王妃様は驚き喜んでいた。
2人にとっても思い出の花。
「また、多くのシロツメクサが見られて幸せです」
と喜んでいただいた。
報告が終わり、今度はマリーさんが作ったサンドイッチを持って、西の丘にみんなで戻りシロツメクサの花冠を作る。
「出来た!」
「俺もだ、シャルロット嬢交換しよう」
「はい、シーラン様」
楽しい休暇となった。
次々に王都には新しいお店も増えて来ていて、前は見なかった干し肉などが吊るされて売られているし、南の国の果物も多く見るようになった。
それらのお店の店主は獣人やエルフの人だ、ゆっくりと一軒ずつ覗きながら王都の中をシーラン様と歩く。
「晩御飯は何にする?」
「そうですね、ソーセージとパンとスープが食べたいです」
目の前に並ぶお店の品を1つずつ言ってみた。シーラン様もそれに気が付いたのかソーセージ屋さんを覗き。
「これなんか分厚くて美味しそうだね、パンは明日の朝の分まで買って、スープの具はどうする」
と聞かれたけど私は決まって
「ひよこ豆のスープがいいです」
と答えると、賛成なのかシーラン様も頷く。
「じゃあ、それで決まりだね」
「はい」
お店を一軒ずつ周り、たくさんの材料を買い終えた。
「シーラン様ちょっと待ってて」
「シャルロット嬢?」
私は一軒のアイスクリーム屋さんの前で足を止めてスカートのポケットの中を探る。
チャリンと出て来た小銭を見た、合計で100リリしか持ってない。
「このイチゴのアイスをコーンで1つください」
「まいど、お嬢ちゃん」
お金を払いイチゴのアイスをもらって、荷物を持って待つシーラン様の所に戻る。
「なんだ、アイスクリームが食べたかったの、言ってくれれば買うのに」
「いいんです、はい口を開けてください」
アイスクリームを前に出すと、少し驚いた表情をしたけど、アイスクリームを一口食べる。
「うん、美味しい」
「じゃあ私も…んっ、あのお店のアイスクリームイチゴの味が濃くて美味しい」
「そうだね、もう一口ちょうだい」
仲良く分け合ってアイスクリームを食べてお城へと戻り、部屋に戻ると部屋の中は暗く、リズ様とリオさんはまだ寝ているみたい。
「マリーがいないか、部屋を覗いてきます」
とロウソクに明かりをつけるシーラン様に断りを入れて、マリーさんの部屋と自分の部屋を覗いたけど、まだ竜人の国にお出かけをしているみたいだ。
「図鑑とノートを持って」
「シャルロット嬢、料理を始めるよ」
「はーい」
お隣から呼ばれてキッチンに向うと、袖捲りをしたシーラン様がまな板や包丁を用意していた。
「さあ、兄上達が寝ている間に夕飯を作ってしまおう」
「はい、私は何を手伝えばいい?」
「この鍋にお湯を沸かして、熱湯にひよこ豆を2時間くらい漬けるから」
お湯を沸かしてひよこ豆を熱湯につけたり、ジャガイモの皮を剥いたり、ソーセージを焼いたりとシーラン様の指示で料理のお手伝いをしていた。
「美味そうな匂いだな、腹減った」
起きたばかりでボサボサ髪のリズ様がキッチンに現れた。
「兄上…いつもよりひどい寝癖だな」
「ほんとひどい寝癖」
「そう、朝起きたらいつもこんなもんだよ」
とお皿から焼きたてのソーセージを摘むと、食べながらキッチンから出て行く。
「あ、シーラン様、リズ様がソーセージ取りましたよ」
「まったく仕方ないな…兄上のは一本減らそう」
お皿に盛り付けを始めていたシーラン様はリズ様のソーセージを減らしていた。
熱湯に浸けたひよこ豆を次は柔らかく煮て、程よい固さになったら作ったスープに入れて夕飯は完成した。
ガチャっと、シーラン様の玄関が開きマリーさんが顔を出す。
「マリーさんおかえり」
「お嬢様、ただいま戻りました」
「夕飯出来たから一緒に食べよう」
リズ様と同じく寝癖のリオさんを交えて、みんなでテーブルを囲み食事を始めた。
みんなのお皿を見てリズ様はソーセージに気付いたけど、ちらっと見ただけで何も言わずに食事を始めた。
そして何かを思い出したのか
「そういや、シーランの誕生日って明日だよな」
「そうですね、兄上達の誕生日は先月でしたよね」
「ああ、そうだったな。俺達の事はいいよ、シャルロットちゃんは?」
私の誕生日…えーっと。
「お嬢様は来月の9日が誕生日です」
「9日か…」
私の誕生日って9日なんだ。15歳になるけど来年の学園はどうなるんだろう?
「学園か…なんだか知らないうちに歳をとったな」
「そうですね…そう言えば竜人王様が学園はどうするかなと、独り言を言っていましたよ」
学園!
色々あって忘れていた、みんなで通いたいな。
「俺は学園にシャルロット嬢と通いたいな、兄上達も年上だけど同じクラスになるだろう」
「そうか…そうなるな」
「同じクラスですか、それは楽しそうですね」
「うん、楽しそう」
みんなで学園に通ったらと話が盛り上がり、楽しい食事の時間を過ごした。明日が早いリズ様とリオさんは部屋へと戻っていく。
後片付けはマリーさんかしてくれると言ったので、私達も今日は早めに寝ることにした。
部屋に戻りベッドに潜り込む。
「明日はシーラン様の誕生日か…」
プレゼントは何にしようかなと考えているうちに寝てしまった。
次の日マリーさんに身支度をしてもらい、シーラン様の部屋に行くと、リズ様とリオさんはこの前に身につけていた鎧を着て腰に剣を指していた。
竜人王様と共に国に出てしまった瘴気を払いに行くのだろう。
「おはようございます」
「おはよう、シャルロットちゃん」
「おはようございます、シャルロット様」
珍しくそこにはシーラン様がいなかった。
「シーランまだ寝ているみたいなんだ、起こしてやってね、じゃあ行ってくるよ」
「行ってきます」
「リズ様、リオさんいってらっしゃい」
マリーさんは朝ごはんを作りにキッチンへ行き、私は2人の見送りをしてシーラン様の部屋をノックした。
「朝ですよ、シーラン様」
「ん、んん」
部屋からは眠そうな返事が返ってきた。
「扉を開けちゃいますよ」
「いいよ、入ってきて」
「本当に、入っちゃいますからね」
扉を開けるとまだベッドの中のシーラン様。
「シーラン様」
「ん、シャルロット嬢ベッドの近くに来て」
眠そうな声で呼ばれて、シーラン様のベッドに近づくと、中から手が伸びてきて布団の中に引き込まれた。
「きゃ、シーラン様!」
「ふふ捕まえた、おはようシャルロット嬢」
目の前でニッコリと微笑んだ。
「あーっ、しっかり起きてるじゃないですか、もう、意地悪をしたの?」
「ううん、プレゼントを貰おうと思ってね」
手が背中に回りぎゅっと、シーラン様の胸の中に抱きしめられた。
「シャルロット嬢、魔女の毒花の採取が終わったら、君の家に挨拶に行く」
挨拶…。
「わかりました、シーラン様」
「うん、もう少しこのままでお願い」
はい、という代わりにシーラン様の背中に手を回した。
「俺達の魔女の毒花の採取が何事もなく、終わりますように…」
シーラン様は私を抱きしめながら、願うように呟いた。
「さあ、朝食が終わったら俺の国に行こう」
「はい」
♢♢♢
「シャルロット嬢ここが変わった俺の国だよ」
マリーさんも一緒に竜人の国へと、竜人王様からいただいた腕輪で城へと飛んだ。
城の前でマリーさんと別れて、シーラン様は私を抱えるとお城の高いところに飛び乗る。
「よく見えるだろう?」
「ええ、凄い竜人の国が見渡せるわ」
この前とは全然違う、青い空にたくさんの花々が咲き、畑では小麦が揺れていた。
「なあ、見違えただろう、竜人王様が「もう障壁はいらぬな」と壊し、全部とは行かないけど元に戻してくれた、国王の父上も王妃の母上も体の調子が良くなった」
シーラン様が前とは違い、嬉しそうに国を眺めている。
「よかったね」
「ああ、よかった」
しばらく2人で平和になった竜人の国を眺めて、私達はお城の中へと入った。
誰がを探しているのか城の中を歩く。
「あ、この時間だとあそこだな」
とシーラン様に案内をされて城の真ん中の庭園に行くと、朝の散歩を楽しむ国王様と王妃様がいた。
「おはようございます父上、母上」
「おはようシーラン。あら、シャルロットちゃんいらしていたの、いらっしゃい」
「おはようございます、国王様、王妃様」
「おはよう、シャルロットさん」
前よりも顔色も良く穏やかな表情の2人。
「そうだわ、シーランお誕生日おめでとう、15歳になったのね」
「はい、母上」
「おめでとうシーラン」
「ありがとうございます、父上」
「リズやリオの誕生日も祝わないとな、いまは忙しそうだから、落ち着いたらみんなの誕生日会をしよう」
「それならば父上。来月の9日に致しましょう、シャルロット嬢の誕生日なんです」
「おお、それは国を挙げて祝わなければな」
「そう、9日ね。張り切らなくちゃね」
なんだか楽しそうなお2人、私の誕生日が凄いことになりそうだわ。
「では、父上、母上。俺達は西の丘に行ってきます」
「西の丘ですか…まだ、そこは元のように戻っていませんよ」
「それでも、俺の好きな場所をシャルロット嬢に教えたいんだ」
「そうか、お前は怒られるといつもそこで泣いていたものな」
「父上、それは言わない約束です」
はははっ、そうだったかなと笑顔ですっとぼける国王様と、少し頬が赤くなったシーラン様。
「シャルロット嬢行こう、父上、母上行ってきます」
「行ってきます」
2人に見送られて私達は西の丘に向う、歩いて行くのもいいが今日はと、シーラン様は私を抱えて飛んだ。
私達が飛ぶ下では畑にせいを出す村の人々が見えた、皆私達を見ると手を振ってくれる。
「シーラン様とシャルロット嬢だ!」
「ありがとう!」
「本当にありがとうございます」
余りにも合う人会う人に言われて恥ずかしくなった。
「みんなシャルロット嬢には感謝をしきれないってさ、9日は覚悟するといいぞ、みんなが君を祝うだろうな」
シーラン様は笑い私を抱えて連れて行くと、少しだけ盛り上がった、まだ何も生えていない所に降りた。
「ここだ、ここが俺の好きな場所だ、竜人王様のお陰でこの土地も浄化されているから、直にシロツメクサで覆われるだろう」
シロツメクサか…四葉のクローバーをよく探したな、でも、私には全然見つからなかった。
「ここでよく父上や母上、兄上、リオの家族でピクニックをしたものだ」
シーラン様はとても懐かしそうにこの土地を見ていた。
あ、そうだプレゼント!
もし、ここにシロツメクサのタネが残っていたら、私の力が使える?
「ふふふ、いいことを思い付いちゃった」
「何?シャルロット嬢」
見ててとシーラン様から離れて
「シロツメクサよ元気に育て!」
私はイメージを膨らませて大きな声で祈った。
「シロツメクサよ育て」
私のイメージは大きくなり西の丘だけではなく、国中のシロツメクサが生えたと後で聞くことになる。
「こ、これは…なんという事だ、ここで兄上と小さな頃に遊んだ、喧嘩をしたそして泣いた、たくさんの思い出が蘇る」
一面に咲いたシロツメクサを見てシーラン様は泣いていた。
「綺麗だ。なんていい誕生日なんだ」
「喜んでいただけて嬉しい」
「シャルロット嬢!」
「え、シーランさまぁ!」
シーラン様は勢いよく私に抱き付いてきた、私より体も身長も違うシーラン様を支えきれずに、私達はシロツメクサの上に倒れた。
「……シーラン様?」
「ありがとう…シャルロット嬢、本当にありがとう」
今朝と同じぎゅっと私を抱きしめた…もうそれはぎゅーっとだ。
段々と腕の力が込められて苦しくなり背中をトントンと軽めに叩くと、ハッとして私の体を離した。
「ごめん、余りにも嬉し過ぎて我を忘れた…」
「ふふ、もうシーラン様は…!」
「あははっ、ごめん、ごめん」
手を掴んで起こしてもらい隣に座った、びっくりしたよと笑って彼を見上げると、目を細めて私を見ていた…その表情が変わる…。
「シャルロット…」
私の名前を愛おしそうに呼び、私の頬に手が伸びて、彼の吐息を近くで感じて目を瞑る。
初めてのキス…だ。
後もう少しでお互いの唇が触れ合おうとした時に、バサバサと羽の音が聞こえてきた。
その音は頭上近くまで来る。
「まじか、西の丘のここにもシロツメクサが戻ってるぞ!」
「本当ですね、リズ様」
リズ様とリオさんの声が聞こえて、空を見上げると朝着ていた鎧で前上を飛んでいた。
「チッ、兄上とリオ」
その声が聞こえたのか、シロツメクサの中に座る私達を見つけて降りてきた。
「あー悪い、シーラン。急に国中のあちこちでシロツメクサが咲いたんだ、みんな驚いちゃってさ、丁度、終わって竜人王様と話している時に聞いて慌てて飛んで帰って来た」
「これは、シャルロット様がやったのですね」
「あははっ…そうみたいです」
悪いけど父上と母上に報告に来て、欲しいと言われて西の丘を後にした。
国王様と王妃様は驚き喜んでいた。
2人にとっても思い出の花。
「また、多くのシロツメクサが見られて幸せです」
と喜んでいただいた。
報告が終わり、今度はマリーさんが作ったサンドイッチを持って、西の丘にみんなで戻りシロツメクサの花冠を作る。
「出来た!」
「俺もだ、シャルロット嬢交換しよう」
「はい、シーラン様」
楽しい休暇となった。
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公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
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