竜人さまに狂愛される悪役令嬢には王子なんか必要ありません!

深月カナメ

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第三章 獣人の国に咲いた魔女の毒花編

閑話 青桜の木

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「ありがとうシャルちゃん。リズ君、リオ君はシーラン君とシャルちゃんをよろしく頼みます」
「はい、わかりました」
「畏まりました」
 魔力を切らして眠ってしまった、シャルちゃんをリオ君に預けた。

「エシャロット転送の準備をして、場所は魔法協会、癒やしの木でお願いする」

「わかった、転送の準備をするからチビ竜達はシャルちゃんを連れて来て、竜人王様は竜人の騎士達に任せるわ、マリーさんも早く、私の周りにいらっしゃい」

 結構な人数を一気に転送する為に、エシャロットは魔力を練り始めた。

「いいわ、準備できた【転送】」

 エシャロットが唱えると、みんなの頭上に魔法陣が現れた。

「直ぐに私達も行くから先に休んでいてね」
「はーい、アルボル後でね! 【開始】」

 魔法陣が頭上からみんなを通り過ぎて、足元まで降りるとみんなの姿は消えた。
 魔法協会の癒やしの木まで転送されたのだろう。
 ここに残ったのは私に師匠、ラーロだけ。外のうるさい連中なんかはどうでもいいのですよ。勝手に騒げばいい。

『みんな消えちゃった』

「ええ、次は私達の番ですね。さて、やりますか」
「はい、アル様」
「任せろ」

「あ、精霊さんは師匠の肩に乗ってくださいね」

 青桜の精霊が言われた通りに師匠の肩に座る。
 私はどうこの木を安全に運ぶかを頭の中でシュミレートした。

 ラーロに精霊の木を守る【水玉】を水魔法で出してもらい、師匠には【木の分析】で地面に這う根っこ全てを探り当ててもらう。

 それが終わりしだい、私は緑魔法【緑の守り】で師匠が出した分析を元に、切り株や、新芽、木の根っこを守る緑の枝を周りに這わす。

 その後は【水玉】に入れて転送をすればいい。

 転送先は水龍の森ですね。
 先に水龍様に話は通したので、さほど驚かないでしょう。

「ラーロ、師匠準備は良いですか?」

「大丈夫です」

「ああ、分析は既に終わった」
「え、師匠もうやって終われたのですか?」

 頷きニヒルに笑っております、なんと師匠に先を読まれていましたね。
 流石は師匠とでも言っておきますか。

「アルボル地中深く根が張っている、青桜の木に精霊に傷を付けるなよ」
「重々、わかっております」

 地に手を置き全集中をした。魔力は残り少ないですけど師匠にラーロもいます、2人に魔力を借りれば、水龍の森に転送は出来ますね。
 よし、根っこを全部見つけれました。

「【緑の守り】」

 無数の緑色に光る枝が地面に潜り、師匠の分岐を頼りに枝が木の根っこを覆い尽くす、そして両手を上げて切り株を持ち上げた。
 地面にはえぐられた跡だけが残る。

「ラーロ!」

「はい【水玉】」

 水玉と唱えたラーロが横で息を吸い込み、息を吐くと小さな水玉が空中にぷくりと浮く、それに両手で魔力を加えて、青桜の新芽に切り株、持ち上げた根っこが、覆うくらいの大きな水玉にした。

 その水玉の中に切り株を入れて、青桜の木は守られた。

「これで準備は滞り無く終わりましたね、私達も帰りましょう」
「障壁と外の人達はどうするのですか?」

 まだ、ガヤガヤといますね…先程よりも人が増えた様にも見えます。
 あまり魔力を消耗はしたくありませんが…仕方がないと、私は障壁に触った。

「これでいいでしょう」

 私達が消えると同時に障壁は花びらとなり、風に舞い、ここにいる人間達の記憶をも消し去る。
 この人達にとっては私達の事などは覚えていても、忘れてしまっても、どうでもいい記憶でしょう。

「さあ、帰りましょう【転送】」

 頭上に現れた魔法陣が私達を通り過ぎて、水龍の森に転送が始まる前に、山の方からこの土地の山神様の声が風に乗って聞こえた。

〈青桜の精霊をよろしく頼みました〉

 山神の様の声は師匠にも聞こえたのだろう。

「わかっておる、精霊も青桜の木も大切にする」

 師匠は山神様の声が聞こえた山を見て叫んだ。
 毒花の事が解決出来ましたら、手土産を持参して山神様に会いに行きましょう。
 きっと楽しい話が聞けるでしょう。

「【開始】」

 何事も無く無事に水龍の森に転送した。
 私達が森に着いたことに気づいたのでしょう。水龍様は水面から顔を出して見てはいますが、さほど驚いてはいませんね。

「ラーロこっちです」

 あらかじめ用意して置いた場所に、水玉のまま、ラーロと私とで青桜の木を植えさせてもらった。
 その様子を水龍様は水面をゆらゆらと泳ぎ、精霊を見たり木を眺めていた。

 青桜の精霊は水龍様に気がつくと、師匠の方から降りて湖に近付き、水龍様に小さな体を折り曲げ挨拶をした。

『水龍様これから、よろしくお願いします』

「うむっ、良い挨拶じゃ」

 バシャバシャと湖を泳ぎ、私達を散々濡らすと、満足をして帰って行った。

「水龍め、儂まで濡れたぞ」
『ふふ、楽しいね』

 精霊が笑い、その一言で師匠の機嫌は良くなった。

 師匠に最後の笑顔を忘れたくないと言わせた、師匠が愛してやまなかった青桜の木の精霊か…私にはまだその様の人は現れていませんね。

「なんだか、羨ましい光景ですね」
「ラーロもそう思いましたか、なんと言いますか、やはり羨ましいですね」

 2人のやりとりを見ながら、穏やかに流れる風を頬に感じて、私はこれからの事考えた。

 これで青桜の木が手に入った。
 うまくいけば特効薬が手に入る。
 その為には、この木を成長させて花を手に入れるまで、シャルちゃんの力が必要になる。

 彼女は素直に頷き、笑顔でやると言うだろう。
 チビ竜達は嫌でしょうけど…彼女の近くにいてもらって、しっかり守ってもらうしかありません。

 彼女を見ていると遠い昔を思い出します。

 この森の近くの草原でカモミール、ノコギリソウ、ヨモギなどの薬草を師匠に頼まれてよく取りに来ました。
 そこでルル、君と出会いました。
 その頃の私と兄はまだ子供で、あなたは若いお姉さんでした。

『君達それはバイケイソウと言う、毒花だから気をつけなさい』

『え、毒花⁉︎』

『こんなに綺麗な花のに毒花ですか…』

 ふふっ…ルル、彼女はね、君に似ているよ。

 …そう、君に似ているから心配なんですよ。

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