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第四章 獣人の国に咲いた魔女の毒花(竜人王祭編)

第7話

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 シーラン様の手を握りラベンダー畑まで走った。彼も待てと言いながらも、笑ってついて来てくれる。

「ふぅ、今日はよく走った」
「えぇ久しぶりに走りましたね」
 
 上がった息を整えるために休み、ラベンダーと花々を使う分だけ、採取してその花達を抱えた。

「シーラン様、ありがとうございます。花が集まりました」

「ん? もう、いいのか?」

 わたしは彼に「はい」と頷き。帰りましょうと言ったわたしの手を彼は掴んだ。

 あぁ、やはり。

「シーラン様、わたしは消えたりなんかしませんよ」

「そんなのあたりまえだ!」

 眉間にシワを寄せて、花ごとわたしを抱きしめた。その抱きしめた彼の手と体が震えている。
 ここに来てすぐに繋いだ手も微かに震えていた。

「大丈夫です、無理はしません」
「……うん」

「魔法も使いません」
「……うん」

「シーラン様お願いがあるの。明日は青桜の花を採りに水龍様の湖に行きたいな」

「……ああ、わかった。帰ったら一緒に行こう」

 
「ねぇ、シーラン様……」

「なんだ?」

 彼の腕の中で背伸びをして、頬にするはずが届かず唇の端にキスをした。
 一瞬何が起きたのかわからず、キョトンとした表情をしたシーラン様。

 何をされたのか気付き、表情がみるみる驚きに変わった。

「シャ、シャルロット?」

 その彼に少し意地悪く笑い。

「ふふ、今日のお礼です。わたしはお腹が空きました、みんなのところに帰りましょう」

「そ、そうだな帰ろう」

 森を施錠して来たときと同じく、シーラン様に抱えられて日が暮れた空を飛ぶ。

 今度は難しい顔をしてる。キスしたことを怒ったの?

 彼はしばらくして息を吐いた。

「なぁ、シャルロット」

「なんですか、シーラン様?」

 そう聞くと、シーラン様は少し怒った感じで、頬が少し赤く。

「今度は俺からするからな!」


 今度は俺から? 


「はい?」
「嬉しいが、あんな不意打ちは喰らわん! ……でも、シャルロットの唇は柔らかった」

 私を見て微笑んでそう言った。今度は私の頬が赤くなる。

「やだ、シーラン様。か、感想はいりません」

 本当のことだ! と楽しそうに笑い、みんなのところに帰った。

 
 次の日。みんなが出たあとマリーと一緒に採ってきたラベンダーと花に麻紐を付けて、部屋の日陰で風通しの良い場所に吊るす。

「マリー、どれくらいで乾くかな?」
「そうですね。一週間から十日くらいでしょうか?」

 だったら、十日後にある竜人王祭に間に合うかな?

「あとは私がやりますので、お嬢様はみなさんのところに行ってください」

「わかった。マリーの分もしっかり縫ってくるね」

 部屋を出て、城の一室で竜人王祭の衣装を縫う、チャコちゃん達のところへと向かった。

 ♢
 
 チャコちゃん達はお揃いのワンピースを縫い、その横でわたしはお守袋を一つ一つ刺繍を入れて縫っていた。

 どれもこれも。

「形が……いびつ」

 そう一日や二日で裁縫は上手くならない。でも、シーラン様達やアル様、ラーロさん、エシャロット……お父様、お母様、マリー。

 まだまだ、足りないみんなに作りたい。

 黙々と作業を続けて、夕方に差し掛かる前にみんなと解散をした。


 部屋に戻ると、シーラン様達が帰ってきているとマリーが教えてくれた。

 リビングの扉を開けてソファーで寛ぐみんなに、おかえりなさいのあと。
 今日はどうだった? と聞いても「順調だ」「いつもどおり」「順調ですよ」の他は言わない。

 毒の花についても教えてくれない。

 それはわたしのため、だから……。

 今度、魔法を使用したら? わたしの体はどうなるのかわからないもの。

 
「シーラン様、待ってましたよ」
「ああ、行こうか」

 その私達に「行ってらっしゃい」と、リズ様とリオさんは見送る。

 一緒に来ない二人。

 シーラン様の話ではリズ様とリオさんは「俺抜きで、また二人で何かやってるのだろう」と教えてもらえないのか拗ねていた。

 
 シーラン様に抱えられて空の散歩をしばし楽しみ。水龍様の湖に着くと、シーラン様は青桜の木の近くに降りた。
 そこにはお師匠様とアオさんが来ていて、青桜の木を寄り添い眺めていた。


「ん? 小娘達とチビ竜か」

「こんばんは、お師匠様、アオさん」
「こんばんは」
 
 青桜の花をもらいに来たことを説明した。お師匠様達は【青桜の特効薬】をアル様に届けたあと、ここで散歩をしていたらしい。


「小娘。体はどうだ? 倒れたのだろう?」
「そう、シャルロットちゃん大丈夫?」

 お師匠様とアオさんはわたしの体を心配した、アル様に聞いたのかな?

 わたしは微笑み、頷き「大丈夫です」と答えた。今、アル様が調べているから時期に結果が出る、絶対に魔法は使うなとお師匠様にも念を押された。

「もう、わかってます」

 わかっているのならいい、と暗くなった森に、お師匠様は魔法で灯りを灯した。
 明るくなった青桜の木。「儂達は帰る、小娘、チビ竜またな」「またね」と二人はホウキに仲良くまたがり帰って行った。

「またね」と見送るわたしの横にシーラン様が立つ。

「俺達も青桜の花を拾って帰ろうか」
「えぇ、そうしましょう」

 持ってきた袋を広げて青桜の花を拾った。
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