竜人さまに狂愛される悪役令嬢には王子なんか必要ありません!

深月カナメ

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第四章 獣人の国に咲いた魔女の毒花(竜人王祭編)

第17話

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 みんなで泣いて、笑った日。
 助けたい一心で必死だった、わたしはこれからも、この世界でシーラン様達と過ごしていくんだ。

 三日程、様子を見てアル様にもう大丈夫だと、太鼓判をもらった。
 みんなと帰り、いつもの城の自室のベッドで、わたしは夢を見ていた。

「シャルロットちゃん、よかった。目を覚ましたのね」
「うむ、よかった」

 ルルさん、セルト様だ、わたしに会いに来てくれた。

「ご心配をおかけしました。ルルさん、セルト様」

「シャルロットちゃんが倒れたあの日。あなたの目を覚まそうと、何度もあなたの体の中に入り話しかけようとしたのだけど、跳ね返され入れなかった」

「そうだったのですか?」

 ルルさんはそうだと頷いた。あの日、わたしの欠片は粉々に砕け散ったから、かな? 

 二人は微笑み寄り添う。

「時間だわ。私の子孫よ、ありがとう」
「獣人の国を助けてくれてありがとう。感謝する」

 ルルさんとセルト様の影が薄くなっていく。
 
「最後にシャルロットちゃんに会えて良かった。あなたのお陰で魔女の毒花は全て消えた……ほんとうにありがとう」

 幸せそうに笑い消えて行く、と同時にわたしは眠りから覚めた。

「ルルさんとセルト様、お二人とも幸せそうだった」

 その余韻に浸っていた、もぞ、もぞ? ベッドの脇に動く影⁉︎
 よく目を凝らすと、わたしの手を握りシーラン様がベッドの脇で寝いた。

 ほっ、なんだ、シーラン様か……って⁉︎

「シーラン様⁉︎」

 名前を呼ぶとシーラン様は目を覚ました。

「シャルロットは起きたの? おはよう」

 まだ眠そうに欠伸をしてた。まさか、一晩中ここにいたの?

「風邪をひいてしまいます。ご自分の部屋で寝てください!」

「やだ」
「やだって、もうすぐマリーも来ますよ、着替えを見るのですか?」

「見る。ずっと側にいる。お、俺は……」

 ガタッと椅子から立ち上がった。
 その、シーラン様の瞳から、ぼたぼたと大粒の涙がこぼれ落ちた。

「くっ、俺は。また、シャルロットが目を覚さなくなったらと思うと、俺は、俺は怖いんだ。あの日、側に倒れていたシャルロットを抱きしめた。だけど、その体には力なく、まるで……の様に体が冷たかった。もう二度と目を覚さず、動かないと……うっ」

 頬を濡らして、泣き崩れるシーラン様。

 ごめん、彼が目を覚まして、側に力無く倒れるわたしを見て、どれくらい恐怖し、絶望したのだろう。

 わたしだってシーラン様達が倒れた時、息が止まり、怖かった。

「来て……側に来てシーラン様。側に来てわたしに触れて、わたしの温かさと鼓動を聞いて、あなたの心ゆくまで、わたしに触れてください」

 ほんとは自分がシーラン様に触れたくて、両手を伸ばした、涙の止まらないシーラン様がくると、しっかりこの胸に抱きしめた。

「あぁ、シャルロット」
「どうですか? わたしは温かいですか? わたしの鼓動はしっかり脈を打っていますか?」

 シーラン様は何度も頷く。

「シャルロットは、温かい……」

 すーっと体の力が抜けていき、胸のなかで寝息をたて始めた。

「ゆっくり眠って。シーラン様」


 この日、お昼過ぎまで誰も動かなかった。

 
 ♢


 それから一週間後、竜人王様とアル様に王の間に呼ばれた。

「みんな集まったかな、国の今の状況を説明するね」

 そう言った、アル様はどこか寂しそうで、シーラン様達と同じく、少しお痩せになっていた。

「皆さんの知る通り。青桜の木、その木に宿る精霊とシャルちゃんのお陰で、毒花、赤花などの毒花は全て枯れた……」

 その後にアル様は、兄ラスターとモフカの話を始めた。

 両方、エルフの森にある、罪人の木の中に幽閉されたと、言った。
 一度その中に埋め込まれると、二度と出ることは許されない。
 記憶、魔力、憎しみ、恨みそれらの全てを木に罪人の木は吸い尽くす。
 白く、何も無くなった状態になったら解放される。その木から解放された時。二人は、もう人とは呼べないかもしれない。
 吸い尽くされるまで、今から何百年かかるか、それ以上。わたし達が生きているうちには、会えないでしょうとも、言われた。

 モフカ……唯一、元の世界の話ができる存在だった。
 彼女が自分をヒロインだと思わず。この世界をゲームだと思わなかったら? 

 もしかしたら、友達になれたかもしれない……

 でも、そんな過ぎたことを言っても、もう遅い。彼女は罪人の気に幽閉されてしまったのだから。

「それとね、一人捕まえる事が出来なかった」

 一度違う国で戦った魔族、マル。そいつだけは最後まで、探したけど見つからなかったらしい。

「また、どこかで会うかもしれない。忘れずに覚えていて欲しい」


 と、報告は終わった。



 ♢



 それから、魔族が出る事もなく、何事もなく、二年の時が過ぎた。

 わたし達の国は一つにまとまり、アル様筆頭に亜人大国となった。
 側近にラーロさんとエシャロットさんを従えてはいるけど、魔法協会と国の集まりで毎日忙しそうだ。

 二年前、シーラン様の両親とわたしの両親で書類を交わして、わたし達はやっと正式な婚約者となれた。

 
 しかし毎日忙しい。


 シーラン様達はコッホ騎士団長達と、竜人隊を作り、この国を守るべく訓練に明け暮れている。
 わたしはというと、すいすい、よっと、森から乗って来たホウキを降りた。

「ふふっ、なかなか、コントロールがうまくなったわね」

 自我自尊である。

 なにせ、シャルロットと一緒になった後から、魔力も安定してホウキにだって、うまく乗れるようになれたのだ。

 わたしの魔法の師匠。ラーロさんにだって、褒められたのだけど。

『シャルちゃん余り調子に乗ると、君はとんでも無い失敗するから、気を付けなさい』と、耳にタコができるくらい言われてる。


 さてと急がないと、今日は月一の報告会の日なんだ。


(あ、あれは?)


 報告会が開かれる、王の間に行く途中、廊下に転がるチビドラちゃんを見つけた。
 シーラン様ったら、また何処かで力を使いすぎたのかな?

 無理はしないでって言ったのに。
 あと他の人に見つからないからって、こんな所で寝ちゃって。

「シーラン様、訓練もほどほどにしてください」

 手を伸ばしてシーラン様を捕まえて、いつもの通りに抱っこをしたとたんに、両手にずっしりとした重みを感じた。

 あれ? チビドラちゃん重く、大きくなった?

『ギャァ?』
「ギャァ?」

 目を覚ましたらしく、チビドラちゃんの大きな目が私を見て首を傾げた。
 いつもはクーッと鳴くのに、鳴き方が違う?
 持ち上げて確認をしようとしたけど。カーンカーンと報告会の始まりの鐘が鳴った。

「やっば、遅刻しちゃう」

 このままチビドラちゃんを抱えて、王の間に走った。扉の前に立つ騎士が、私が来たことに気が付き扉を開けてくれた。

「ありがとう」
「シャルロット様、お着きになられました」

 騎士の声に、話し合い中のみんなが振り向く。

 そのみんなに頭を下げた。

「すみません、遅れました」
「シャルちゃん、報告よろしくね」

「はい」

 アル様に言われて発言をする前、竜人王様、シーラン様、リズ様、リオさんが警戒した。

「シャルロット、誰だ! そいつは⁉︎」


 え、シーラン様がいた⁉︎


「シャルロットちゃん、その胸の子はどこにいたの?」
「えーっと森から戻って来て、王の間に行こうとした途中見つけたの。シーラン様だと思って連れて来たちゃった」

「シャルロット、色を見ろ。俺の種族は黒竜で、そいつは赤竜だ」

 赤竜? と言われて確かめた。

「ほんとうだ。この子、全身が赤いわ」

 シーラン様だと思い込んだからか、色にまで気付かなかった。

『ギャァ、ギャァ……はははっ、今頃、我に気付いのた可愛い娘よ。いや、我の嫁君!』

 チュッと、赤竜のチビドラちゃんは頬にキスをした。

「きゃっ⁉︎」  

「き、貴様、俺のシャルロットに何をする!」
「シャルロットちゃん離れて、誰がお前の嫁だ!」

「やだ、この子離れないわ! しっかり鉤爪がドレスに食い込んでる!」

 いくら掴んで離そうとしても、ドレスの胸の部分が伸びるだけで、これ以上やったらドレスが破けちゃう。

『ふむ。嫁君の名はシャルロットと言うのか、うむ。シャルと呼ぼうか、嫁君』

 周りを気にもせず、堂々とした態度をとる。この子、只者のチビドラちゃんではないわ。

 わたし達はアル様への報告を忘れて騒ぎ出した。

「もう、離れてよ」
『離れぬぞ、嫁君』


「おい、赤竜人王よ。戯れもそこまでにするがよい」

 
 事の成り行きを見ていた、竜人王様が声を上げた。


『ぷっ、はははっ、ようやく我に気付いたか。黒竜人王』

「お主と七百年ぶりに会うたのに、まったくなんて姿だ。どこで力を使い切ったのだ」


 竜人王様の知り合いで、赤竜人王様⁉︎

 
『いいや我の力は有り余っておる。チビドラの姿になっても我の姿が見えて、我を甘やかしてくれる嫁が最近になって、欲しくなってな』

 赤竜のチビドラちゃんが胸元で、ニヤリと笑う、と、ぞくりっとする魔力を感じた。

『そして見つけたのか、可愛い俺の嫁君のシャルだ』

「えっ⁉︎」
 
 わたしの胸元から飛び立ち、赤竜のチビドラちゃんはわたしの首元を加えると。飛び上がった。
 

『嫁はいただいた! さあ、我の国に帰って、祝言をあげようぞ! 嫁君』
  

「シャルロット!」
「シーラン様!」


 もうなんなのよ、色々と問題が解決した今こそ。シーラン様と出かけたり、デートしたり……二人きりの時間が過ごせると、思っていた矢先にこれ⁉︎


「赤竜人王様、シャルロットちゃんを返せ!」
「シャルロット様!」

「シャルロットを連れて行くなぁ!」


「赤竜よ! 小娘を連れて行くな」

『嫌だね、嫁君は返さぬ。今宵は寝かさぬぞ』


(わたしの貞操の危機⁉︎)


 もう、わたし達の時間が取れる日は、いつくるのよ!







 ♢あとがき♢


 これで最後。
 ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

 なんとか書き切れました。
 後はのんびりと手直しとか出来たらいいかな。


 ほんとうに、ほんとうにありがとうございました。

            深月カナメ。
 
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