野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ

文字の大きさ
57 / 171
第一章

54話

しおりを挟む
 都市に戻った鬼人の方はヌヌの話すことがわかったが、人からすると遠吠え、威嚇にしか聞こえない。捕まったヌヌの首には太い鉄製の首輪がつけられていた。

 ヌヌが吠えた後、その首輪から電撃が流れヌヌは気絶しなかったものの、丸くなって動かなくなり。ただ涙をポロポロ流し『痛いっす。おれっち、サタナス様に止められているから、人間なんて襲ってないのに』と鳴いていた。

 人間はそんなヌヌを見て声高々に笑い『流石は勇者様の末裔シャルル殿下が作った魔導具だ』『この前なんか凶暴なビッグベアを、一瞬で気絶させていたな』と鬼神族の方はパパに話した。



 ❀



「サタナス様、サタナス様、大変だぁ!!」
 
 この話を聞いたパパは門番の仕事を早めに交代してもらい、急いで家に帰ってきた。

「どうした、タスク。そんなに慌てて?」

「サ、サタナス様……ハァ、ハァ、魔犬ヌヌが人間に捕まった。先程、人里から戻った鬼人族の方が魔法都市の門で、そう話されました」

「なに? ヌヌが人間に捕まった?」

 このときの私達は食卓で、デンプン粉で作った、試作のプリンをまったり食卓で食べていた。もちろんパパの分は残してある。

 アール君は眉をひそめ。

「ヌヌの奴……人里に行っていましたか。僕があれほど『人里は危険だからやめた方がいい』と伝えたのに。ヌヌは嫌だ! サタ様を探すと走っていきました……止めることができず、すみません」

「いいや、アールが謝ることではない。ヌヌは自分で決めて行動した。……まったく、ヌヌはワタシがどこにいるのかもわからず、やみくもに人里を駆け回り……人に捕まったのだな」

「ヌヌはサタナス様命で、サタナス様が大、大、大大好きな奴ですから仕方がありません。サタナス様、鬼人族の方の話ではアルクス王都にある学園で、生徒たちの魔法訓練に使われるとも聞きました」

「魔法訓練? まあ、ヌヌは人間なんかに負けはせぬ、大丈夫だろう」

(ちょっと待って、アルクス王都の学園? その学園って、勇者の末裔、聖女、魔王が通うドキパラ学園のことじゃない?)

 実際にその名前の学園かは、そこに行ってみないと分からないけど……小説ではそんな名前の学園だった。

 私は手をあげて立ち上がった。

「はい! 話の途中ですがみんなに話があります。その魔犬ヌヌ君が捕まった学園に……勇者の末裔、聖女、新魔王様が通っていると言ったらどうしますか?」
 

「「はあ?」」
 

 みんなの瞳がいっきに私に向いた。
 あの小説の内容の通り、サタ様はシュノーク古城に囚われていたのだから、これはもしもの話ではない。

 パパがサタ様に。

「エルバの話も一理あります。鬼人族の方も勇者の末裔シャルル殿下が作った魔導具だと言っていと聞いた……ヌヌが危ないのでは?」

「うむ……ヌヌが捕まった学園に勇者の末裔と新魔王がいると言うのか……それはまずい。一番まずいのは勇者、魔王ではなく、シュノーク古城にいた……聖女だな」

「はい、ぶき……いいえ、変わった性格の女性でしたものね」

 アール君、いま不気味な女性と言おうとしたね。
 あのアマリアって子は、怖いくらいサタ様に執着していた。

「フウッ、あの不気味な女性には会いたくないが……ワタシを探しに出て人間に捕まった、ヌヌを助けにアルクスの王都へ行かなくてはなるまい」

「サタ様が行くというのなら、僕もお供いたします」

「サタ様、アール君……」

 使い魔の2人がヌヌを探しに王都へ行くと言った以上、私も行くしかない。だけど、魔法都市サングリアからアルクスの王都まではかなりの距離。

 しっかり長旅の準備をしなくては。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流

犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。 しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。 遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。 彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。 転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。 そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。 人は、娯楽で癒されます。 動物や従魔たちには、何もありません。 私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!

【完結】 学園の聖女様はわたしを悪役令嬢にしたいようです

はくら(仮名)
ファンタジー
※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にて掲載しています。 とある国のお話。 ※ 不定期更新。 本文は三人称文体です。 同作者の他作品との関連性はありません。 推敲せずに投稿しているので、おかしな箇所が多々あるかもしれません。 比較的短めに完結させる予定です。 ※

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

「クビにされた俺、幸運スキルでスローライフ満喫中」

チャチャ
ファンタジー
突然、蒼牙の刃から追放された冒険者・ハルト。 だが、彼にはS級スキル【幸運】があった――。 魔物がレアアイテムを落とすのも、偶然宝箱が見つかるのも、すべて彼のスキルのおかげ。 だが、仲間は誰一人そのことに気づかず、無能呼ばわりしていた。 追放されたハルトは、肩の荷が下りたとばかりに、自分のためだけの旅を始める。 訪れる村で出会う人々。偶然拾う伝説級の装備。 そして助けた少女は、実は王国の姫!? 「もう面倒ごとはごめんだ」 そう思っていたハルトだったが、幸運のスキルが運命を引き寄せていく――。

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

異世界遺跡巡り ~ロマンを求めて異世界冒険~

小狸日
ファンタジー
交通事故に巻き込まれて、異世界に転移した拓(タク)と浩司(コウジ) そこは、剣と魔法の世界だった。 2千年以上昔の勇者の物語、そこに出てくる勇者の遺産。 新しい世界で遺跡探検と異世界料理を楽しもうと思っていたのだが・・・ 気に入らない異世界の常識に小さな喧嘩を売ることにした。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

処理中です...