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「紅茶をもう一杯飲むかい?」
「はい、いただきます」

「ケーキは?」
「これ以上はふくよかになってしまいますので、ケーキは遠慮します」


〈ふくよかって、そんな細い腰をしてるくせに。そうかロレッテは体型を気にしているのか。可愛いなぁロレッテ……はぁ、心地よい。やはり君と一緒に過すひとときは私の心を癒す〉


「オルフレット殿下?」
「ん? やはり、欲しいんだね」

 思わず声が出てしまい焦る。
 おずおず頷くと殿下は笑って、手を付けていないご自身のケーキを譲ってくださった。

〈信じてはもらえないだろうが。私が好きなのは君だけなんだよ、ロレッテ、君だけなんだ〉

 殿下、そのお気持ちは本当なの? 

(私もオルフレット様をお慕いしております)


〈はぁ、いまずぐ君を私の部屋に連れて行きたい。部屋で君のドレスを脱がして全てを愛したい〉


(殿下……それは、まだ早いですわ!)


 凛々しい顔と心の声にギャップに恥ずかしくて、オルフレット殿下の顔が見れなくなってしまった。

 
 そこに芝生の上を駆ける、誰かの足音が聞こえた。
 静かな庭園に似合わない声を聞こえてくる。
 
「あっ、いたいた! オルフレット様こんな所にいたのね」

 ぱっちりとした瞳に、派手なピンクの髪を揺らしていた。
 一月以上前にオルフレット様と抱き合っていた、いいえ倒れそうな所を助けられていた男爵令嬢メアリスさんだわ。


〈はぁーくそっ、メアリス嬢!〉

(殿下?)

 初めて聞いたオルフレット殿下の苛立ちを含んだ声。


「「オルフレット殿下すみません!」」


 その後を青い顔をした殿下の側近カウサ様と騎士が続き私達に敬礼をした。
 カウサ様と騎士達の手には箱や紙袋を手一杯に持っていた。

〈くっ、なんだあの荷物は! 父上か兄上がまた彼女に金銭を渡したのかぁ……頭が痛い〉

(国王陛下と第一王太子グレール殿下が彼女にお金を渡した、なぜでしょう?)

 彼女は自信を手で仰ぎ。

「あー暑い。たくさん歩いたら喉乾いちゃった、私にもお茶ちょうだい。でね、オルフレット様、聞いてよ」

 この場の雰囲気を悪くしたのに悪びれることなく。
 殿下と婚約者の私のお茶の時間に挨拶もなく、お構いもなしにオルフレット殿下にフレンドリーに近付き、メイドにお茶を要求した。

「メアリス嬢、君はこの状況が見えないのか!」
「ただ、テラスでお茶してたんでしょ。私も混ぜてよ」

 と、こともあろうか彼女は笑って、テーブルに腰を下ろした。

 なんなのこの子。淑女らしからぬ行動に言語は。
 あなたは王子の、オルフレット殿下をご自分の友達か何かと勘違いしていませんか? 
 
 彼はウルラート国の第二王子ですのよ。

「なに、悪役令嬢さん怖い顔しちゃって。あー怖い怖いまた私に何かするき?」

 やれるものならやってみなさい、とでも言っているのでしょうか。
 そんな見え見えの挑発には乗りませんわ。

「オルフレット殿下、帰る時間ですので私は失礼しますわね」

 席を立つとオルフレット殿下の瞳が悲しげに揺れる。

「そうか、送ろう」

〈ロレッテ、もう帰ってしまうのか?〉
(そんな悲しげな声を出さないでください)

 仕方がありません、恥ずかしいですが……


 私は、胸の前でぽんと手を叩き。

「あ、そうですわオルフレット様。今日の苺ケーキのお礼に、明日は我が家の庭でお茶を致しませんか?」

 そう、伺ってみた。オルフレット殿下の瞳が開く。

〈ロ、ロレッテが私を畏まらず呼び。お茶だと、公爵家でおちゃだとー! ロレッテに誘われた!〉
(きゃっ?)

 勢いよく立ち上がり椅子を倒して、早足でこちらまで近寄ると私の両手をとった。

「私が伺ってもいいのか!」
「はい、オルフレット様がお忙しくなかったらですけど」 

〈明日のお土産は何にするかな? 苺を使ったお菓子、いや大きめな苺を持っていこう。これはたまらん。今日の書類の目通しが捗る! 明日のために今日中に終わらせるしかない!〉

(書類の目通し?)

「ロレッテ嬢悪いのだがこの後、用事ができてしまった」

 と、力強く私を抱きしめた。

〈くっ、柔らかい、いい香り……さらさらな髪、私を見つめる瞳、柔らかい体、柔らかい胸、ふっくらした唇は全部私のものだ……うっ、治っていた熱が蘇ったきたが、離したくない!〉

(あ、当たってます、殿下! 抑えてくださいませぇ!)

 しばらく経ち。

 オルフレット殿下、何かをやりきったいい笑顔ですわ。
 

〈満足だ、ロレッテを充電した〉
(は、恥ずかしかった……)

「では、失礼する」
「ごきげんよう、オルフレット様」

「カウサ、後は任せた」
「かしこまりました」

 オルフレット殿下は心も体も満足して戻っていかれた。


 ♢


 さてと私も屋敷に戻り明日の用意をしましょう。オルフレット殿下の好きなお茶とバタークッキーを用意しなくてわ。

 くすくすと笑う声がした。まだテーブルに腰掛けたままの彼女は私を茶化した。

「あー、やだやだ体使って、オルフレットに取り入っちゃってさ」

 居なくなった途端にオルフレット殿下を呼び捨て⁉︎

「私は取り入ってなどしておりませんわ。オルフレット様と私は婚約者ですもの、あなたとは違いますわ」

「ははっ、違わないよ。すぐにオルフレットも婚約の座も、全部私の物になっちゃうけどね。せいぜい今だけいちゃいちゃしなよ悪役令嬢さん」

 テーブルから飛び降りて、荷物を持った騎士を連れて帰っていった。

(婚約の座があの子の物?)

 そんな簡単なことではないはずなのに。
 彼女はなぜ? あんなに自信があるのかしら。

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