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10話 ついてきて欲しい
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悪竜討伐の日から三日後、私が神殿で祈りを捧げていると、シューク様が一人で現れた。
護衛もつけずに一人で歩くなんて王族には珍しい。
黒髪に赤い瞳で、美しい彫刻のように整った顔、すらっとした長身で引き締まった身体の彼は、立っているだけでも人目を引いてしまう。
私もつい、見とれてしまったが、首から耳にかけて残る黒い文様が痛々しい。
だけど、その立ち姿に、どこか既視感を覚えた。
シューク様の立ち姿を見たのは、これが初めてなのに・・・。
シューク様は、私のそばまでやって来た。
「エクレーヌ」
「は、はい?」
シューク様のいきなりの名前呼びに驚いた。
そう言えば、お父様が、「幼いころ、殿下に何度か遊んでもらって、エクレーヌ、シューク様と呼び合ってた」って言ってたっけ・・・。
「エクレーヌ、先日は世話になったな。」
その言葉にも驚いた。
私の力は、シューク様のお役に立たなかったのに・・・。
クリード様が何か言ったのだろうか・・・?
「いえ、あの・・・、クリード様は?」
「いや、クリードは・・・」
シューク様は何か言いかけたようだけど、少し怒ったような目をしたように見えた。
まだ自覚はなくても、愛する人の名前を異性の私が口にしたから、機嫌を損ねたのかもしれない・・・。
「今、時間はあるだろうか?」
いたって真面目な顔で尋ねてくるシューク様に、私も真面目な顔で答えた。
「はい。祈りはもう終わりましたので、大丈夫です。」
「そうか。それならついてきて欲しい。」
なぜですか? と聞きたかったが、王太子で、騎士団長で、ソードマスターのシューク様の頼みを、理由を聞いたところで断れるはずがなかった。
私は彼の後姿を追うように歩いた。
と言っても、シューク様は私の歩幅を気にしているのか、ゆっくりと歩いてくれたけれど・・・。
神殿を出て、広い王城内をいったいどこまで歩いて行くのか、多少の不安を感じながら歩いていたら、シューク様は王宮内に入って行った。
私は毎日、侯爵邸と神殿の往復ばかりで、半年たっても、王宮内に入ったことがなかった。
初めて見る王宮の廊下には、ピカピカに磨かれた鎧や、献上品だと思われる異国の壺などが飾られていて、私は物珍しさと、元商社勤めの癖が出て、日本円にしていくらぐらいのお値段かしら・・・なんて値踏みをしながら歩いた。
シューク様はさらに奥へと歩いて行き、やっと目的地に着いたのか、ドアをガチャリと開けた。
「すまないが、ここに入ってくれ。」
言われるままに部屋に入ると、シューク様はドアを閉めた。
部屋の中を見渡すと、必要最低限の家具が置かれてすっきりとまとまっていて、すごく居心地がよさそうだ。
テーブルも椅子も本棚も、壁に掛けられている絵画も、その他もろもろ、どれも落ち着いたデザインであるが、高級感たっぷりで、商社に勤めていた私は、それがどれほどの価値があるのか、およそ見当がついた。
はっきり言ってお高い。
一般庶民が買えるようなものではない。
さすが王族の住まう部屋・・・。
と変なところに感心してしまって、うっかり何故ここに連れてこられたのか聞くのを忘れてしまっていた。
私が壁を背に、ぼうっと立っていると、シューク様は、いきなり壁にドンと手をついた。
えっ? これってまさかの壁ドン?
いったい何故こんなことに・・・?
初めての壁ドンの衝撃に、アワアアワと狼狽えていると、シューク様は私の顎に手を当てて、クイッと持ち上げた。
シューク様の顔が・・・、顔が近づいてくる・・・。
私はどうして良いのかわからず目を瞑ってしまった。
これは一種の現実逃避だったのかもしれない。
だけど・・・、現実は・・・
私の唇がシューク様の唇に覆われてしまった。
生暖かいシューク様の体温とぬめりが、唇を通じて直に私に伝わってくる。
驚いてビクッとしたけれど、王太子を突き飛ばすわけにもいかず、どうしていいのかわからなくて、私はそのままじっとしていたら・・・
シューク様の舌が、まるで別の生き物のように私の唇を嘗め回し、唇をこじ開けようとする。
彼氏いない歴二十五年の私には、あまりに衝撃過ぎて余裕なんてなくて・・・
シューク様の舌の動きに翻弄されて・・・
私は彼の舌を受け入れてしまった。
シューク様の舌が私の口腔内を自由に動き回り、私の舌を絡め取ろうとする。
私は頭が真っ白になって、もう何も考えられなくなって、彼の舌に弄ばれるように絡めとられた。
舌と舌が絡み合う激しく濃厚なキス・・・。
初めてなのに、いつの間にか私も夢中になって、自分からも求めてしまう・・・
キスがこんなにも気持ちのいいものだなんて・・・
ああ、もう立っていられない、足に力が入らない、自分が自分でないみたい・・・
護衛もつけずに一人で歩くなんて王族には珍しい。
黒髪に赤い瞳で、美しい彫刻のように整った顔、すらっとした長身で引き締まった身体の彼は、立っているだけでも人目を引いてしまう。
私もつい、見とれてしまったが、首から耳にかけて残る黒い文様が痛々しい。
だけど、その立ち姿に、どこか既視感を覚えた。
シューク様の立ち姿を見たのは、これが初めてなのに・・・。
シューク様は、私のそばまでやって来た。
「エクレーヌ」
「は、はい?」
シューク様のいきなりの名前呼びに驚いた。
そう言えば、お父様が、「幼いころ、殿下に何度か遊んでもらって、エクレーヌ、シューク様と呼び合ってた」って言ってたっけ・・・。
「エクレーヌ、先日は世話になったな。」
その言葉にも驚いた。
私の力は、シューク様のお役に立たなかったのに・・・。
クリード様が何か言ったのだろうか・・・?
「いえ、あの・・・、クリード様は?」
「いや、クリードは・・・」
シューク様は何か言いかけたようだけど、少し怒ったような目をしたように見えた。
まだ自覚はなくても、愛する人の名前を異性の私が口にしたから、機嫌を損ねたのかもしれない・・・。
「今、時間はあるだろうか?」
いたって真面目な顔で尋ねてくるシューク様に、私も真面目な顔で答えた。
「はい。祈りはもう終わりましたので、大丈夫です。」
「そうか。それならついてきて欲しい。」
なぜですか? と聞きたかったが、王太子で、騎士団長で、ソードマスターのシューク様の頼みを、理由を聞いたところで断れるはずがなかった。
私は彼の後姿を追うように歩いた。
と言っても、シューク様は私の歩幅を気にしているのか、ゆっくりと歩いてくれたけれど・・・。
神殿を出て、広い王城内をいったいどこまで歩いて行くのか、多少の不安を感じながら歩いていたら、シューク様は王宮内に入って行った。
私は毎日、侯爵邸と神殿の往復ばかりで、半年たっても、王宮内に入ったことがなかった。
初めて見る王宮の廊下には、ピカピカに磨かれた鎧や、献上品だと思われる異国の壺などが飾られていて、私は物珍しさと、元商社勤めの癖が出て、日本円にしていくらぐらいのお値段かしら・・・なんて値踏みをしながら歩いた。
シューク様はさらに奥へと歩いて行き、やっと目的地に着いたのか、ドアをガチャリと開けた。
「すまないが、ここに入ってくれ。」
言われるままに部屋に入ると、シューク様はドアを閉めた。
部屋の中を見渡すと、必要最低限の家具が置かれてすっきりとまとまっていて、すごく居心地がよさそうだ。
テーブルも椅子も本棚も、壁に掛けられている絵画も、その他もろもろ、どれも落ち着いたデザインであるが、高級感たっぷりで、商社に勤めていた私は、それがどれほどの価値があるのか、およそ見当がついた。
はっきり言ってお高い。
一般庶民が買えるようなものではない。
さすが王族の住まう部屋・・・。
と変なところに感心してしまって、うっかり何故ここに連れてこられたのか聞くのを忘れてしまっていた。
私が壁を背に、ぼうっと立っていると、シューク様は、いきなり壁にドンと手をついた。
えっ? これってまさかの壁ドン?
いったい何故こんなことに・・・?
初めての壁ドンの衝撃に、アワアアワと狼狽えていると、シューク様は私の顎に手を当てて、クイッと持ち上げた。
シューク様の顔が・・・、顔が近づいてくる・・・。
私はどうして良いのかわからず目を瞑ってしまった。
これは一種の現実逃避だったのかもしれない。
だけど・・・、現実は・・・
私の唇がシューク様の唇に覆われてしまった。
生暖かいシューク様の体温とぬめりが、唇を通じて直に私に伝わってくる。
驚いてビクッとしたけれど、王太子を突き飛ばすわけにもいかず、どうしていいのかわからなくて、私はそのままじっとしていたら・・・
シューク様の舌が、まるで別の生き物のように私の唇を嘗め回し、唇をこじ開けようとする。
彼氏いない歴二十五年の私には、あまりに衝撃過ぎて余裕なんてなくて・・・
シューク様の舌の動きに翻弄されて・・・
私は彼の舌を受け入れてしまった。
シューク様の舌が私の口腔内を自由に動き回り、私の舌を絡め取ろうとする。
私は頭が真っ白になって、もう何も考えられなくなって、彼の舌に弄ばれるように絡めとられた。
舌と舌が絡み合う激しく濃厚なキス・・・。
初めてなのに、いつの間にか私も夢中になって、自分からも求めてしまう・・・
キスがこんなにも気持ちのいいものだなんて・・・
ああ、もう立っていられない、足に力が入らない、自分が自分でないみたい・・・
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