愛しの侯爵様は、究極の尽くし型ロボットでした。

矢間カオル

文字の大きさ
45 / 110

55話 真相

しおりを挟む
ジェフが生き返った翌日は、王都はそのニュースで持ち切りで、ほとんどの人が喜びの声を上げていたのだが、地団駄踏んで悔しがっている男もいた。

その男フランツは、オルトマン伯爵家の自室で、イライラしながら部屋の中をぐるぐると落ち着きなく歩き回っていた。

そばにいてイライラをぶつけられてはたまらないと、メイドはお茶を置くと、さっさと部屋を出て行く。

フランツは、メイドのその態度も気に入らない。

まるで馬鹿にされたように感じて、さらにイライラをつのらせる。

「くそっ、何故死なない! 上手く行ったと思ったのに・・・。」



話は馬の品評会の前日に遡る。

一度目の殺害計画が失敗したフランツは、次の手段に馬を選んだ。

ローズとスザンヌが、馬の品評会に行く情報は掴んでいた。

ならば、その場を利用してやる。

馬で殺せるかどうかなんてわからないが、大ケガぐらいは負わせられるんじゃないか?

フランツの心の中に、メリッサになじられた言葉が引っかかっていた。

「ほんの少しのけがも負わせられないなんて、あなた、やる気はあるの?」

嫌なことは人にやらせて、自分はいつも綺麗なまま。

それなのに、人の失敗は馬鹿にする。

最低なヤツだと思うのに、結局はメリッサの言いなりになる自分が嫌になる。

ふん、今度は馬鹿になんてさせない。

フランツは王の実を仕込んだニンジンを用意し、自分のカバンに入れた。



王の実が王の実と呼ばれているのは、王様の気分を味わえるからというのが通説なのだが、実は本当の理由は別のところにある。

ただ、それは今の世に伝わっていないだけなのだ。

昔、まだこの大陸の南部が覇権争いで乱れていたころ、シュド王国の王が頭角を現し、長い戦乱の末、南部を統一した。

戦いに勝利するために、王は、当時誰にも知られていなかった王の実を使った。

シュド王国の極限られた場所でしか育たないその実の効果を、王は偶然知ることとなり、戦争に利用することにしたのだ。

王は戦の前に、兵士たちに王の実を食べさせて、恐れを知らぬ勇猛果敢な戦士を作り上げた。

だが、それだけでなく、獣にも王の実を食べさせた。

獣に一定以上の王の実を食べさせると、興奮し、わき目もふらずに一直線に走りだす。

その勢いは王の実の効力が切れるか、もしくは何かにぶつかって死ぬまで続くのである。

王は、牛や豚に王の実を食べさせ、敵陣を攻めさせた。

隙間なく大量に放たれた牛や豚が、怒り狂ったようにまっすぐに、全速力で走って攻めてくる。

恐れをなして逃げ惑う敵兵を、次は王の実を食べた兵士が襲う。

この戦法は功を奏し、やがて南部はシュド王国に統一された。

だが王は、自分以外の者が王の実を使うことを禁止した。

そして、獣を使う戦法を真似されないように、文献にはその事実は記さず、子孫にも伝えなかった。

時が流れ、現在では、王の子孫でさえ獣に対する効果は知らない。

だが、当時、王の実の管理を任された一族の、ごく少数の子孫のみが、その事実を知っているのである。



翌日、フランツは馬の品評会に到着すると、まずスザンヌを探した。

ジェフとローズが楽し気に馬に乗っているのを見たが、肝心のスザンヌがいない。

しばらくすると、スザンヌが戻って来た。

どうやら一人で乗馬を楽しんできたようだ。

疲れたのか二人は木陰に座り、休憩をしている。

ちょうど馬が繋がれている場所からは、二人の後姿が見える。

この馬なら、まっすぐに走れば二人にぶつかる。

今がチャンスだ!

ニンジンを食べさせるのが大人の男だと目立ってしまう。

ここは、子どもに任せる方が良い。

フランツは、用意されたニンジンを取りに来た男の子に、自分が持って来たニンジンを渡した。

「ぼうや。このニンジンを、あの馬に食べさせてあげなよ。」

男の子は喜んでニンジンを受け取り、言われたとおりに馬に食べさせた。

効果が出るのは五分後。

フランツは遠く離れた場所で、時計を見ながらその時を待つ。

「ヒヒヒーン!!」

馬が興奮して大きな鳴き声を発した。

そばにいた子どもたちが驚いて馬から離れた瞬間、馬は勢いよく走りだす。

繋がれた杭を引き倒し、杭から綱が外れて自由になった馬は、ますます速度を上げて一直線に走る。

やった! あいつらにぶつかる!

と思った瞬間、スザンヌはローズに突き飛ばされ、ローズはジェフに庇われて、そのまま馬は走り抜け、最後は大木にぶつかって倒れた。

「チッ・・・、またあいつが邪魔しやがった・・・。」

悔しい思いで倒れたジェフを遠くから見ていたら、様子がおかしい。

起き上がらない。

すこしの間の後、ローズの叫び声が聞こえた。

もしかして、ジェフリーが・・・死んだ?

ジェフの周りに多くの人が寄って来て、口々にジェフの死を告げている。

やった! 二人にけがを負わせることはできなかったが、目の上のたんこぶだったジェフリーを消すことができた。

あいつがいなくなっただけで、ずいぶんと仕事がやりやすくなる。

もう邪魔するヤツはいない、そう思っていたのに・・・。



「チクショー、何で死なない? あいつは不死身か?」

フランツはテーブルの上に置かれていたティーカップを持つと、思いっきり壁にぶつけた。

ガチャンと激しい音と共に、お茶と陶磁器の破片が辺り一面に飛び散る。

「フランツ、荒れてるわね。また失敗したんだもの。当然よね。」

メリッサが部屋の中に入って来た。

「それにしても、お茶に当たるなんて最低だわ。」

「うるさい! それもこれも、お前のせいだろ!」

フランツが、珍しくメリッサにぶつけた暴言に、彼女は不快感を露わにする。

「どうして私のせいになるのよ。すべてはあなたが計画した事なのに・・・。とばっちりもいいところだわ!」

フランツは言い返そうと思ったが、言い返す言葉が見つからない。

メリッサの言い分が、確かであることに変わりはないのだから・・・。

「ふふっ、あなた、いつもジェフリーに邪魔されているわね。まずはジェフリーに焦点を当てた方がいいんじゃない?」

「それはそうだが・・・」

「ねえ、フランツ。絶対に失敗しない方法を教えてあげましょうか?」

メリッサが意地悪い笑みを浮かべる。

「はあ? 失敗しない方法? フン、そんな方法があるのなら、教えて欲しいもんだね。」

半ばやけくそ気味に言うフランツに、メリッサはいたって真面目に囁く。

「本当に聞きたい? でも、私から聞きたいのなら、覚悟が必要よ。」

「はあ? 何をもったいぶって・・・、今までだって覚悟を決めてやってきたんだ。何を今さら・・・。」

「そう。じゃあ、教えてあげる。」

メリッサの目が、蛇のようにギラギラと光る。

「殺そうと思うからダメなのよ。殺せば、必ず誰がやったか調べられる。でも、突然消えてしまったら? 行方不明になって、事故かどうかもわからず、生きているのか死んでいるのかさえもわからない状態で、犯人を捜せる?」

「メリッサ・・・、いったい何を言って・・・」

「フランツ、耳を貸して・・・」

メリッサは周りに誰もいないことを確認してから、フランツにある方法を教えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない

彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。 酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。 「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」 そんなことを、言い出した。

【完結】何もできない妻が愛する隻眼騎士のためにできること

大森 樹
恋愛
辺境伯の娘であるナディアは、幼い頃ドラゴンに襲われているところを騎士エドムンドに助けられた。 それから十年が経過し、成長したナディアは国王陛下からあるお願いをされる。その願いとは『エドムンドとの結婚』だった。 幼い頃から憧れていたエドムンドとの結婚は、ナディアにとって願ってもいないことだったが、その結婚は妻というよりは『世話係』のようなものだった。 誰よりも強い騎士団長だったエドムンドは、ある事件で左目を失ってから騎士をやめ、酒を浴びるほど飲み、自堕落な生活を送っているため今はもう英雄とは思えない姿になっていた。 貴族令嬢らしいことは何もできない仮の妻が、愛する隻眼騎士のためにできることはあるのか? 前向き一途な辺境伯令嬢×俺様で不器用な最強騎士の物語です。 ※いつもお読みいただきありがとうございます。中途半端なところで長期間投稿止まってしまい申し訳ありません。2025年10月6日〜投稿再開しております。

〘完〙なぜかモブの私がイケメン王子に強引に迫られてます 〜転生したら推しのヒロインが不在でした〜

hanakuro
恋愛
転生してみたら、そこは大好きな漫画の世界だった・・・ OLの梨奈は、事故により突然その生涯閉じる。 しかし次に気付くと、彼女は伯爵令嬢に転生していた。しかも、大好きだった漫画の中のたったのワンシーンに出てくる名もないモブ。 モブならお気楽に推しのヒロインを観察して過ごせると思っていたら、まさかのヒロインがいない!? そして、推し不在に落胆する彼女に王子からまさかの強引なアプローチが・・ 王子!その愛情はヒロインに向けてっ! 私、モブですから! 果たしてヒロインは、どこに行ったのか!? そしてリーナは、王子の強引なアプローチから逃れることはできるのか!? イケメン王子に翻弄される伯爵令嬢の恋模様が始まる。

出ていってください!~結婚相手に裏切られた令嬢はなぜか騎士様に溺愛される~

白井
恋愛
イヴェット・オーダム男爵令嬢の幸せな結婚生活が始まる……はずだった。 父の死後、急に態度が変わった結婚相手にイヴェットは振り回されていた。 財産を食いつぶす義母、継いだ仕事を放棄して不貞を続ける夫。 それでも家族の形を維持しようと努力するイヴェットは、ついに殺されかける。 「もう我慢の限界。あなたたちにはこの家から出ていってもらいます」 覚悟を決めたら、なぜか騎士団長様が執着してきたけれど困ります!

男に間違えられる私は女嫌いの冷徹若社長に溺愛される

山口三
恋愛
「俺と結婚してほしい」  出会ってまだ何時間も経っていない相手から沙耶(さや)は告白された・・・のでは無く契約結婚の提案だった。旅先で危ない所を助けられた沙耶は契約結婚を申し出られたのだ。相手は五瀬馨(いつせかおる)彼は国内でも有数の巨大企業、五瀬グループの若き社長だった。沙耶は自分の夢を追いかける資金を得る為、養女として窮屈な暮らしを強いられている今の家から脱出する為にもこの提案を受ける事にする。  冷酷で女嫌いの社長とお人好しの沙耶。二人の契約結婚の行方は?  

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

処理中です...