いたずら妖狐の目付け役 ~京都もふもふあやかし譚

ススキ荻経

文字の大きさ
41 / 46
第五章 

鴨川デルタの戦い 5

しおりを挟む
「狐坂さん!?」

 紬は仰天して、いつの間にか目の前に来ていた狐番の横顔を見上げた。喬は返事をする代わりにすっとその場に屈むと、地面に落ちた白いものを拾う。それはまるで、複雑に折られた紙飛行機のように見えた。

「はあ……。こいつを実戦で使うのは、もっとテストを重ねてからにしたかったんだけどな……」

 喬はため息交じりに呟く。捨道は眼球が飛び出さんばかりに目を見開いて驚きを口にした。

「その紙は……。まさか、折符おりふと呼ばれる呪具の一種ですか!? しかし、どうして、一介の目付け役に過ぎないあなたがそんなものを……!?」

 喬はその顔に苦々しい笑みを浮かべて答える。

「あー……。あんた、なにか勘違いしてるみたいだけど、別に陰陽道に通じているからといって、目付け役に決まりはないんだぜ? 実は、僕には陰陽師の血が半分流れててね。狐坂っていうのは母方の姓で、父方の姓はかの高名な土御門ってわけさ」
「つ、土御門……!?」

 捨道は信じられないと言わんばかりの表情を浮かべた。が、驚いたのは紬も同じである。

「うそ! 狐坂さんも本当は呪術が使えたんですか!?」

 紬の問いに、喬は頭をかいてきまりが悪そうに言った。

「ま、そういうこと。――あーあ。これで、僕も完全にあいつから敵認定されちゃったな……」

 喬が親指で指し示した捨道の顔は、鬼のような憤怒の形相に変わっている。そこにはもはや一片の愉悦も残っていない。

「いいでしょう……! 鴨が葱を背負って来るとはこのことです! 二人まとめて血祭りに上げてやりますよ!」

 捨道の全身から黒い霧が立ち上ると、それに呼応して、岡丸が唸りながら牙をむき出す。喬は口元をひきつらせて呟いた。

「しっかし、やばいな、こりゃ……。守りに徹したところで、すぐに押し切られてやられちまうぞ。こんなの……」
「そんなっ!? 勝算があるから助けに来てくれたんでしょ!? ど、どどどうするんですかっ!?」

 紬は岡丸がゆっくりと体を屈め、こちらに狙いをつけているのを目の端に捉えながら、喬に向かって叫ぶように尋ねる。喬は真剣な面持ちでショルダーバッグのチャックを開けると、その中から追加の折符を取り出して答えた。

「幸い、守護の折符にはまだストックがある。僕がこいつを使って時間を稼いでいる間に、あんたにはもう一度、邪気の浄化を試してほしい」
「じゃ、邪気の浄化!? でも、どうやって!?」

 私の術が九尾に対して全然効かないのは、さっき狐坂さんも目にして知っているはずだ。同じことを何度繰り返しても結果は変わらないだろうに――。紬が戸惑いを隠せないでいると、喬はいきなり、バッグから引っ張り出した透明な広口瓶をこちらに押し付けてくる。その中には、白い和紙を複雑に折り込んで作った、狐の形の精巧な立体折り紙が一つ入っていた。

「こ、これは……!?」

 目を丸くする紬に喬は早口で説明する。 

「そいつは邪気に染まった妖狐を浄化するために僕が開発した特殊な折符だ。僕の設計が正しければ、この折符はあの九尾の邪気を肩代わりし、浄化の起点になってくれるはず。だが、折符は一つ一つの折り目が電子回路のように働く精密機器みたいな呪具だから、作動するためには極めて繊細な呪術の操作が必要だ」
「妖狐を浄化するための折符……!? じゃあ、狐坂さんがずっとデザインしてた折り紙って、まさか――」

 紬は思わず聞き返したが、喬は黙って離れるように手で合図してきた。と、次の瞬間、喬の向こうから岡丸が大きく弧を描くように跳躍し、鼠狩りさながらの動きで襲いかかってくる。紬が慌てて瓶を手にしたまま後ずさると、再び火花が散る音がして、見えない壁に弾かれた岡丸は悲鳴とともに水際まで飛びさがった。守護の折符を頭上に構えた喬は鋭い声で叫ぶ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

後宮の偽花妃 国を追われた巫女見習いは宦官になる

gari@七柚カリン
キャラ文芸
旧題:国を追われた巫女見習いは、隣国の後宮で二重に花開く ☆4月上旬に書籍発売です。たくさんの応援をありがとうございました!☆ 植物を慈しむ巫女見習いの凛月には、二つの秘密がある。それは、『植物の心がわかること』『見目が変化すること』。  そんな凛月は、次期巫女を侮辱した罪を着せられ国外追放されてしまう。  心機一転、紹介状を手に向かったのは隣国の都。そこで偶然知り合ったのは、高官の峰風だった。  峰風の取次ぎで紹介先の人物との対面を果たすが、提案されたのは後宮内での二つの仕事。ある時は引きこもり後宮妃(欣怡)として巫女の務めを果たし、またある時は、少年宦官(子墨)として庭園管理の仕事をする、忙しくも楽しい二重生活が始まった。  仕事中に秘密の能力を活かし活躍したことで、子墨は女嫌いの峰風の助手に抜擢される。女であること・巫女であることを隠しつつ助手の仕事に邁進するが、これがきっかけとなり、宮廷内の様々な騒動に巻き込まれていく。

白苑後宮の薬膳女官

絹乃
キャラ文芸
白苑(はくえん)後宮には、先代の薬膳女官が侍女に毒を盛ったという疑惑が今も残っていた。先代は瑞雪(ルイシュエ)の叔母である。叔母の濡れ衣を晴らすため、瑞雪は偽名を使い新たな薬膳女官として働いていた。 ある日、幼帝は瑞雪に勅命を下した。「病弱な皇后候補の少女を薬膳で救え」と。瑞雪の相棒となるのは、幼帝の護衛である寡黙な武官、星宇(シンユィ)。だが、元気を取り戻しはじめた少女が毒に倒れる。再び薬膳女官への疑いが向けられる中、瑞雪は星宇の揺るぎない信頼を支えに、後宮に渦巻く陰謀へ踏み込んでいく。 薬膳と毒が導く真相、叔母にかけられた冤罪の影。 静かに心を近づける薬膳女官と武官が紡ぐ、後宮ミステリー。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

幻獣保護センター廃棄処理係の私、ボロ雑巾のような「ゴミ幻獣」をこっそり洗ってモフっていたら、実は世界を喰らう「終焉の獣」だった件について

いぬがみとうま🐾
ファンタジー
「魔力なしの穀潰し」――そう蔑まれ、幻獣保護センターの地下で廃棄幻獣の掃除に明け暮れる少女・ミヤコ。 実のところ、その施設は「価値のない命」を無慈悲に殺処分する地獄だった。 ある日、ミヤコの前に運ばれてきたのは、泥と油にまみれた「ボロ雑巾」のような正体不明の幻獣。 誰の目にもゴミとしか映らないその塊を、ミヤコは放っておけなかった。 「こんなに汚れたままなんて、かわいそう」 彼女が生活魔法を込めたブラシで丹念に汚れを落とした瞬間、世界を縛る最凶の封印が汚れと一緒に「流されてしまう。 現れたのは、月光を纏ったような美しい銀狼。 それは世界を喰らうと恐れられる伝説の災厄級幻獣『フェンリル・ヴォイド』だった……。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

処理中です...