25 / 110
異変
しおりを挟む
「い、嫌ではありません、が……本気ですの……?」
「あぁ」
「……っ!」
やはりノアの決意は変わらないようで、返答を聞いたミレールの心臓がおかしいくらい速く動いている。
だが結局は家長命令なのだ。
そこにノアの意思があるわけではない、と自分を宥め、ミレールはなんとか逸る気持ちを落ち着かせた。
「子供が出来てしまえば、離婚はさらに難しくなりますが……」
「あんたも往生際が悪いな。俺は離婚するつもりはないと、さっきから言ってるだろ」
「――っ」
ノアの瑠璃色瞳は揺るぎないものだった。一瞬さえも視線を逸らさず、意思の強い瞳でミレールを見ていた。
ずっと張り詰めていた緊張が解け、思いもかけない嬉しい言葉にじわじわと視界が歪み、ミレールの目尻から涙がこぼれた。
「泣くほど嫌なのか?」
突然泣き出したミレールに、ノアは驚いたように席を立った。
「いえ……違いますわ。貴方の責任感の強さに驚いてしまっただけです」
ガウンの袖口で涙を拭ったミレールは、ノアに向かい綻ぶような笑顔を見せた。
「わたくし、ノアと毎日ずっといたら……貴方から、離れられなくなってしまいますわ……それでも、よろしいのですか?」
「――っ! あんたがそんな感じだと、調子が狂うな……」
ノアは立ち上がったまま視線を逸らし、片手で頭を掻いていた。
これはノアの照れ隠しの仕草だった。小説の描写にも書かれていたから分かる。
そして改めてミレールは思う。
こんなに優しい人を自分に縛りつけてはいけない、と。
自分の夫とは全く違うこの人を……幸せにする自信は自分にはない。
長い長いセックスレス生活を送ってわかったのは、自分は結婚には向いていないということだった。
(わたくしは、やはりノアが好きなんだわ。ですが好きという気持ちだけでは、結婚生活は長くは続きませんから……また子供ができ、わたくしの役目が終えてしまえば……ノアはきっと、一緒になったことを後悔し、新しい相手を見つけるはずですわ。以前の、夫のように……)
愛のない結婚でも、信頼や絆があれば、まだ婚姻を維持できるのだろう。
しかし自分たちの関係はそれに遠く及ばない。
「わかりました。……では、子供が出来たら離婚いたしましょう。それでしたら貴方も体裁を守れますし、オルノス侯爵夫妻も納得してくれますわ」
二人にとってより良い解決策を見つけたミレールは、立っているノアに向かい穏やかに微笑んだ。
「どうしてそうなる? 俺は、離婚はしないと……!」
不意にミレールの体に異変が起こる。ノアの話している最中だが、体がどんどん熱くなっていく。
会話の途中で違和感のようなものはずっと感じていたが、ここに来て急激に動悸と火照りが酷くなる。
「っ! はっ……!」
座ったまま前屈みになったミレール。
ノアはその異変にいち早く気づいたのか、立っていた足を進めミレールの前で立ち止まった。
「どうした? 具合でも悪いのか?」
心配そうに聞いてくれるノアに返答したいのだが、体が熱くて仕方ない。
「なんだか……体が、熱くて……」
「体が?」
ぽつりと呟き、はぁ……と熱い吐息を漏らす。
体の芯が疼き、じっとしていることが辛い。
なぜだかわからないが誰かに触れてほしくて、思わず目の前のノアから瞳を逸した。
「申し訳、ありませんが……先に……休んでも、よろしい、ですか? 疲れが出た、ようで……」
座ったまま自分の体をぎゅっと抱きしめた。
そうでもしていないと耐えられない衝動だった。
「あぁ」
「……っ!」
やはりノアの決意は変わらないようで、返答を聞いたミレールの心臓がおかしいくらい速く動いている。
だが結局は家長命令なのだ。
そこにノアの意思があるわけではない、と自分を宥め、ミレールはなんとか逸る気持ちを落ち着かせた。
「子供が出来てしまえば、離婚はさらに難しくなりますが……」
「あんたも往生際が悪いな。俺は離婚するつもりはないと、さっきから言ってるだろ」
「――っ」
ノアの瑠璃色瞳は揺るぎないものだった。一瞬さえも視線を逸らさず、意思の強い瞳でミレールを見ていた。
ずっと張り詰めていた緊張が解け、思いもかけない嬉しい言葉にじわじわと視界が歪み、ミレールの目尻から涙がこぼれた。
「泣くほど嫌なのか?」
突然泣き出したミレールに、ノアは驚いたように席を立った。
「いえ……違いますわ。貴方の責任感の強さに驚いてしまっただけです」
ガウンの袖口で涙を拭ったミレールは、ノアに向かい綻ぶような笑顔を見せた。
「わたくし、ノアと毎日ずっといたら……貴方から、離れられなくなってしまいますわ……それでも、よろしいのですか?」
「――っ! あんたがそんな感じだと、調子が狂うな……」
ノアは立ち上がったまま視線を逸らし、片手で頭を掻いていた。
これはノアの照れ隠しの仕草だった。小説の描写にも書かれていたから分かる。
そして改めてミレールは思う。
こんなに優しい人を自分に縛りつけてはいけない、と。
自分の夫とは全く違うこの人を……幸せにする自信は自分にはない。
長い長いセックスレス生活を送ってわかったのは、自分は結婚には向いていないということだった。
(わたくしは、やはりノアが好きなんだわ。ですが好きという気持ちだけでは、結婚生活は長くは続きませんから……また子供ができ、わたくしの役目が終えてしまえば……ノアはきっと、一緒になったことを後悔し、新しい相手を見つけるはずですわ。以前の、夫のように……)
愛のない結婚でも、信頼や絆があれば、まだ婚姻を維持できるのだろう。
しかし自分たちの関係はそれに遠く及ばない。
「わかりました。……では、子供が出来たら離婚いたしましょう。それでしたら貴方も体裁を守れますし、オルノス侯爵夫妻も納得してくれますわ」
二人にとってより良い解決策を見つけたミレールは、立っているノアに向かい穏やかに微笑んだ。
「どうしてそうなる? 俺は、離婚はしないと……!」
不意にミレールの体に異変が起こる。ノアの話している最中だが、体がどんどん熱くなっていく。
会話の途中で違和感のようなものはずっと感じていたが、ここに来て急激に動悸と火照りが酷くなる。
「っ! はっ……!」
座ったまま前屈みになったミレール。
ノアはその異変にいち早く気づいたのか、立っていた足を進めミレールの前で立ち止まった。
「どうした? 具合でも悪いのか?」
心配そうに聞いてくれるノアに返答したいのだが、体が熱くて仕方ない。
「なんだか……体が、熱くて……」
「体が?」
ぽつりと呟き、はぁ……と熱い吐息を漏らす。
体の芯が疼き、じっとしていることが辛い。
なぜだかわからないが誰かに触れてほしくて、思わず目の前のノアから瞳を逸した。
「申し訳、ありませんが……先に……休んでも、よろしい、ですか? 疲れが出た、ようで……」
座ったまま自分の体をぎゅっと抱きしめた。
そうでもしていないと耐えられない衝動だった。
応援ありがとうございます!
13
お気に入りに追加
2,583
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる