【R18】復讐を決意した傷もの令嬢は、魅惑の王弟殿下に甘く翻弄される 〜契約結婚の条件に夜伽が含まれていたなんて聞いてません!〜

ウリ坊

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第一王子メルディオ

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(イクシオンは一体どうしちゃったの? これも嫌がらせの内の一つなのかな。もう、歯の浮くようなキザな台詞に、背中がむず痒くて仕方ないんだけどっ)

 これもこの場に合わせる演技なのかと考える。ルードヴィッヒ三世も、イクシオンはその場に合わせて自分を作り出すと言っていた。

「いや……これは信じられない言葉の連続だぞっ。あのイクシオンが、これほど誰かにのめり込むことはなかったのだが。人とは、ここまで変わるものなのか……!」

 イクシオンのこの変わり様に、ルードヴィッヒ三世も驚きを隠せないようだった。
 
 デタラメを並べて羅列られつされるのならば、演技だと思って黙って聞いていられるが、これは明らかに事実も混じっている。
 真に受けないようにしているが、あまりに自然に話している言葉なだけに、本気で自分に言われているような気がして赤面が止まらない。

「いやぁ、素晴らしい美談ですね。それほどの女性を選ばれた叔父上が羨ましいですよ」

 メルディオはイクシオンに対し、とても対抗意識を持っている。叔父と甥の立場だが、歳が五つほどしか離れていない。
 イクシオンがメルディオを相手にしていないことがまた気に入らないのか、メルディオは嫌がらせのようにイクシオンに突っかかってくる。

「おい……勘違いするなよ、メルディオ。俺が妃を選んだのではなく、俺が妃に選ばれたということだ」

 一切笑うこともなく冷ややかな表情でメルディオに話すイクシオンに、言葉の本気さがまざまざと感じられる。

 これにはメルディオも圧倒されていた。

「っ! たしかに、叔父上は本気のようですね……」

 イクシオンは美女と見ればすぐに口説くような軟派なんぱな性格だ。
 ただアフロディーテだけは違っていて何度も言い寄り、遊びではなく本気で口説いていた。
 だがアフロディーテはイクシオンではなく、メルディオを選んだ。
 イクシオンが本気を見せたアフロディーテがメルディオを選んだことで、メルディオはイクシオンに対し強い優越感と敵対心を両方いだいていたのだろう。

(でも、今回のことでイクシオンがもうアフロディーテに気がないとメルディオにもわかったんじゃないのかな? これでメルディオがイクシオンを敵対視する理由もなくなるし、少しは仲が緩和されるといいけど……)

 隣のイクシオンを眺めながらしばし考え、オリビアは一つの考えに至った。
 
(もしかして、それが狙いでイクシオンは私のことを引き合いに出したのかな? 私みたいな平凡な女を妻にしたんだから、いい加減お前も警戒するなって言いたかったのかもしれない!)

 すべてのことが繋がり、オリビアはようやくすっきりとした気分になれた。
 胸につかえていたものが取れたと思っていると、今度はオリビアに質問が寄せられる。

「では、義叔母上はなぜ叔父上に求婚を?」

 この手の質問がくるとは思ったが完全に不意打ちだったので、イクシオンのいいところを頭をフル回転させて探し出した。
 だがどこをどう探してもなかなかいい部分が出てこなかった。 

 領地ではだらだらして外に出れば美女ばかり探して、仕事もすぐに放り投げてオリビアの嫌がることを平気でやって、いつも自由奔放に過ごしている。

 そんなイクシオンの惹かれる部分など、一つしかなかった。

「それはもちろん、殿下の美貌に惹かれたからです」

 オリビアもにこりともせず、メルディオに向かい真顔でハッキリと答えた。

「び、美貌ですか?」

 この答えにはメルディオも意外だったのか、面食らったような顔して言葉を返していた。

「えぇ。世の中にごまんと素敵な男性はいらっしゃいますが、殿下ほどの完璧な美貌を持つ男性を拝見したのは初めてでした。殿下に出会った瞬間、私はその美貌に一目で心を奪われてしまったのです」

 淡々と答えているオリビアの隣で、イクシオンは顔をそむけ、肩を揺らして笑いを耐えているようだ。
 オリビアが真面目な顔をして、淡々と明らかな嘘を話している様子が面白くて仕方ないのだろう。
 時折笑い声が漏れているのが聞こえてくるが、いつものことと気にせず話を続けている。

「それで、叔父上に求婚したと?」

「えぇ。その通りでございます」

 やはり表情は崩さず、さも突然のように言ってのけた。
 イクシオンの美貌に翻弄ほんろうされていることは事実で、毎日拝んでいるオリビアでさえ未だに心を乱されることが多い。

「ははははっ! 叔父上は義叔母上の内面に惚れたというのに、義叔母上は叔父上の外見に心奪われたとは、なんとも対照的で愉快な話ですっ」

 対面のメルディオに嘲笑あざわらうような笑いも含まれていたが、オリビアは気にしなかった。
 どうせ何を言ったところで、マウントを取りたいメルディオは難癖をつけてきたのだろう。

「まぁ、俺の美しさのおかげで妃に選ばれたのならば、この外見も無駄ではないということだ。なぁ、我が妃よ」

「えぇ。殿下の美しさに敵う者など、この世にはいらっしゃらないでしょう」

 茶番だと思ったが、ここはイクシオンに合わせた。
 自分から言い出したことで、すでに訂正することもできなかったからだ。
 普段イクシオンが演じているように、オリビアも道化を演じるように努めた。

「恋は盲目と言うが、まさにその言葉が相応しいなっ」

 明らかにオリビアたちを軽んじる物言いに、黙って聞いていたルードヴィッヒ三世も口を挟んでメルディオに喝を入れている。

「メルディオ、言葉が過ぎるぞっ。慎め!」

「っ! はい、父上。申し訳、ございませんでした」 

 その様子に、オリビアは短く息を吐いた。

(メルディオは考えが足りないな。国王陛下はイクシオンを可愛がっているし、自分より立場も上なのに……わざわざこんな場面で皮肉を連発するなんて。やっぱり次の世代は賢くて温和なコンラートへ譲るべきだと思う)

 未だにメルディオが第一王子と呼ばれているのは、王太子として選ばれていないからだ。

 ルードヴィッヒ三世は、まだ後継者を指名していなかった。
 
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