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王都へ
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今日はいよいよ王城へと向かう。
当初の予定より一週間ほど遅れたが、やはりイクシオンの異母兄であるルードヴィッヒ三世は、未だにベールに包まれた王弟妃の存在が気になるようだ。
「どうした? 表情が硬いぞ」
二人で馬車に乗り、王都へと移動している。
移動中の馬車は時折ガタガタと揺れていた。
国王陛下と初めて会うオリビアは座り心地のいい馬車の椅子に座り、今から緊張で体を硬くしている。
「それは……硬くもなりますよ。私のような地方出身の下級貴族は、国王陛下と直々に対面することなど一生ありませんから」
「以前に言っていただろう。行けと言われればいつでも行けると」
「言いましたが、緊張しないわけではありません。自分で言うのもなんですが、私は元々臆病なんです」
「……お前と臆病がまったく結びつかないが」
足を組んで、意外そうな表情でオリビアの様子を伺っていた。
イクシオンの言葉に思わず笑ってしまう。
「昔は何かあるとすぐに泣いていました。ただ……早くに母が亡くなり、幼い妹もいたので泣いてばかりもいられなくなりました。そこからですかね、可愛げがなくなってきたのは……」
昔を思い出し、フッと自嘲気味に笑った。
母親が儚くなってからというもの、自分がしっかりしなくてはいけないのだと自分自身に言い聞かせていた。
婚約者だったジャンは昔からどうしようもないやつで、様々な面でオリビアがしっかりせざるを得ない状況だった。
領地のこと、妹のこと、婚約者のこと、将来的なこと。
どれ一つ取っても頼れるものなどなく、オリビアがどうにかしなければいけないのだと、強迫観念のように自分を奮い立たせていた。
「もし過去に戻れるのならば、私は昔の自分にこう言うでしょう。今している努力など何一つ報われないのだと。無駄な努力ならしないほうがいいのだと、真っ先に言ってやりたいです」
こんなことをイクシオンに言ったところでなんの意味もないことはわかっていた。
ただ、昔の自分を笑い飛ばしてほしかったのかもしれない。
お前は馬鹿だったのだと、ただ一言軽くあしらってくれれば、やはりそうだったのかとスッキリできるのかもしれない。
だが、イクシオンは意外なほど無言だった。
笑うことも馬鹿にすることもせず、ただ黙ってオリビアを見ていた。
沈黙に耐えられなくなり、オリビアから先に視線を逸らして口を開いた。
「……今日は、どのような設定で、国王陛下とお話しすればよろしいでしょうか?」
イクシオンにとってはどうでもいい話なのかと悟り、ズキッと痛む胸の内を隠すように話を逸らした。
「設定?」
「えぇ。いつもの私で接するには些か問題があると思うので、殿下が決めてください」
そういうとイクシオンは考え込んでしまった。
「殿下にベタ惚れして盲目的に愛する愚かな妃を演じるのか、我がままで傲慢な妃を演じるのか、それとも賢明で慈愛に溢れる妃を演じればいいのか……」
「どれもお前が演じられるとは思えないがな」
「やれと言われればやります。それも契約の内ですから」
あえて契約の部分を強調した。
イクシオンに対して言ったわけではなく、自分に向けて警告のように強めに話した。
「まぁ、それはそれで面白そうだが……今回は普段通りでいい」
「普段通り、で大丈夫なのですか? それではあまりに説得力がないと思うのですが?」
「俺がどういった理由で結婚しようと、異母兄上は気にしないさ。問題があるとすれば、お前が無害か有害かということだけだ」
そう言って横を向いたイクシオンは、いつもの余裕の表情ではなく、どこか物悲しいような達観したような、複雑な顔で話をしていた。
「お前を馬鹿にするつもりはないが、俺みたいなやつにはお前くらいの階級の貴族令嬢のほうが安心されるんだ。だから取り繕うことなどせずに、普段通りにしていればいい」
「そう、ですか……承知いたしました」
思わず垣間見えた本音に、オリビアもそれ以上言葉が続かなかった。
当初の予定より一週間ほど遅れたが、やはりイクシオンの異母兄であるルードヴィッヒ三世は、未だにベールに包まれた王弟妃の存在が気になるようだ。
「どうした? 表情が硬いぞ」
二人で馬車に乗り、王都へと移動している。
移動中の馬車は時折ガタガタと揺れていた。
国王陛下と初めて会うオリビアは座り心地のいい馬車の椅子に座り、今から緊張で体を硬くしている。
「それは……硬くもなりますよ。私のような地方出身の下級貴族は、国王陛下と直々に対面することなど一生ありませんから」
「以前に言っていただろう。行けと言われればいつでも行けると」
「言いましたが、緊張しないわけではありません。自分で言うのもなんですが、私は元々臆病なんです」
「……お前と臆病がまったく結びつかないが」
足を組んで、意外そうな表情でオリビアの様子を伺っていた。
イクシオンの言葉に思わず笑ってしまう。
「昔は何かあるとすぐに泣いていました。ただ……早くに母が亡くなり、幼い妹もいたので泣いてばかりもいられなくなりました。そこからですかね、可愛げがなくなってきたのは……」
昔を思い出し、フッと自嘲気味に笑った。
母親が儚くなってからというもの、自分がしっかりしなくてはいけないのだと自分自身に言い聞かせていた。
婚約者だったジャンは昔からどうしようもないやつで、様々な面でオリビアがしっかりせざるを得ない状況だった。
領地のこと、妹のこと、婚約者のこと、将来的なこと。
どれ一つ取っても頼れるものなどなく、オリビアがどうにかしなければいけないのだと、強迫観念のように自分を奮い立たせていた。
「もし過去に戻れるのならば、私は昔の自分にこう言うでしょう。今している努力など何一つ報われないのだと。無駄な努力ならしないほうがいいのだと、真っ先に言ってやりたいです」
こんなことをイクシオンに言ったところでなんの意味もないことはわかっていた。
ただ、昔の自分を笑い飛ばしてほしかったのかもしれない。
お前は馬鹿だったのだと、ただ一言軽くあしらってくれれば、やはりそうだったのかとスッキリできるのかもしれない。
だが、イクシオンは意外なほど無言だった。
笑うことも馬鹿にすることもせず、ただ黙ってオリビアを見ていた。
沈黙に耐えられなくなり、オリビアから先に視線を逸らして口を開いた。
「……今日は、どのような設定で、国王陛下とお話しすればよろしいでしょうか?」
イクシオンにとってはどうでもいい話なのかと悟り、ズキッと痛む胸の内を隠すように話を逸らした。
「設定?」
「えぇ。いつもの私で接するには些か問題があると思うので、殿下が決めてください」
そういうとイクシオンは考え込んでしまった。
「殿下にベタ惚れして盲目的に愛する愚かな妃を演じるのか、我がままで傲慢な妃を演じるのか、それとも賢明で慈愛に溢れる妃を演じればいいのか……」
「どれもお前が演じられるとは思えないがな」
「やれと言われればやります。それも契約の内ですから」
あえて契約の部分を強調した。
イクシオンに対して言ったわけではなく、自分に向けて警告のように強めに話した。
「まぁ、それはそれで面白そうだが……今回は普段通りでいい」
「普段通り、で大丈夫なのですか? それではあまりに説得力がないと思うのですが?」
「俺がどういった理由で結婚しようと、異母兄上は気にしないさ。問題があるとすれば、お前が無害か有害かということだけだ」
そう言って横を向いたイクシオンは、いつもの余裕の表情ではなく、どこか物悲しいような達観したような、複雑な顔で話をしていた。
「お前を馬鹿にするつもりはないが、俺みたいなやつにはお前くらいの階級の貴族令嬢のほうが安心されるんだ。だから取り繕うことなどせずに、普段通りにしていればいい」
「そう、ですか……承知いたしました」
思わず垣間見えた本音に、オリビアもそれ以上言葉が続かなかった。
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