32 / 99
王城
しおりを挟む途中で一泊した後、再び馬車に揺られ辿り着いた王都。
オリビアはこれまでに王都に来ることがなく、初めて訪れる。
謁見用に派手すぎない見栄えの良いドレスを身にまとった。
自分がいかに美しく装飾しても、イクシオンの前では霞んでしまう。
なので潔く、極力控えめな装いに抑えた。
同じく正装したイクシオンはオリビアより年上とは思えないほど若く見える。
全体的に白基調の正装で、もう文句なしに似合っていた。
言葉に出しては言わないが、ずっと眺めていたいほど秀麗さが際立っている。
こうしていると王子にしか見えない。
朝早く出発したせいかイクシオンは早々寝てしまって、オリビアは一人静かに窓の外を眺めていた。
馬車の窓から見る王都の景色に感動していた。
地方で暮らしていたオリビアにとって、王都は大都会で憧れの土地だ。
町並みも整い、美しい景観だった。
馬車道の脇にはたくさんの店が建ち並び、多くの人々が行き交っている。
自分の領地が港町だったからか、人の多さはそこまで変わらないと感じた。
(こんなことでもなきゃ、王都に来ることなんてなかった。けど、浮かれてる場合じゃないよね。私は遊びに来てるわけじゃないんだから)
イクシオンと共にいるせいか、どうしても考えが横へと逸れがちだが、自分の目的は復讐だ。
利用できるものはなんでも利用していかないと、一人で侯爵家に復讐することは叶わない。
そのためにわざわざ利用しやすいイクシオンを選び、契約結婚を申し込んだ。
良心の呵責なのか罪悪感なのか、チクッと胸が僅かに痛む。
だが、あえてその感情には目を向けず、気持ちを切り替えた。
◇◆◇
王城へと着くと、直前で起きたイクシオンが先に出て、手を差し伸べてくれている。
一瞬驚いたが、すぐに手を重ねてエスコートされて歩いていく。
「緊張は解れたのか?」
イクシオンは慣れた様子で庭園を歩き、どんどん城の中へと足を進めている。
「はい。弱音を吐いている場合ではないことを思い出しました」
「つまらんな。すっかりいつもお前に戻ってしまった」
「何がつまらないのかわかりませんが、普段通りでいいとおっしゃったのは殿下です。ですので、いつも通りにさせていただきます」
ブロック塀で出来た城の中は兵士やお仕着せ姿の使用人がたくさん歩いていた。
イクシオンにエスコートされているオリビアにも自然と注目が集まっている。
「やはり盲目的に俺を愛する妃を演じてもらえば良かったか?」
「今さら変更はできませんので、ご了承ください」
念の為、周りに聞こえないくらいの声で会話をしている。揶揄うように話しているイクシオンも、声を潜めて気を使ってくれている。
「では――」
突然、エスコートをしたまま反対の手で腰を引き寄せられた。
「なっ……!」
「俺が妻に溺れている愚かな夫を演じるか?」
スッとオリビアの手を取り、その手に唇を押し当てている。
ドキッと心臓が跳ね、動揺が走る。
「っ! お戯れは、おやめください。人目が多すぎます」
「まぁ、俺は元々が道化のようなものだからな。こんなことをしても誰も驚かない」
周りにいる王城の人間たちの目が多すぎて、下手に振り払えない。
わかっていてわざとやっているのか、オリビアを揶揄うイクシオンはやはり楽しそうだった。
「言っただろう? 俺もいつも通りだ」
「殿下はむしろ、もう少し大人しくしていただいたほうが良さそうです」
パッと手を離してオリビアが促すと、イクシオンもようやく前を向いて歩き出した。
「ククッ、我が妃は相変わらず手厳しいなっ」
「殿下がふざけるからです」
歩いたまま呆れたように返事を返したが、イクシオンのおかげで少しだけ心が軽くなったような気がした。
そしてまたイクシオンにエスコートされ、二人で城内をゆっくりと歩いていく。
すると明らかに肌の色や服装の違う人たちが、すれ違った庭園のベンチで寛いでいた。
「殿下。あちらにいらっしゃるのは、もしかしてリュビーナ国の方々ですか?」
「ん? あぁ……、おそらくそうだ。よくわかったな」
「えぇ。うちの領地にもよく外国の方が出入りされていたので」
オリビアの生まれ育ったコンバート領には海があり、港町では様々な国の人たちであふれていた。
だからだろうか、異国の人を見るとどこか懐かしく思ってしまう。
「この城ではよく各国との会談も行われている。おそらくその国の要人たちだろう」
話しながら歩いていると、兵士が両脇で警備している部屋の前までやってきた。
重厚な扉の前でいったん立ち止まると、オリビアは大きく息を吸って吐いた。
「さぁ、いくぞ」
「はい」
イクシオンと腕を組んだまま、開かれた扉から部屋の中へと入った。
335
あなたにおすすめの小説
愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください
無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――
傲慢な伯爵は追い出した妻に愛を乞う
ノルジャン
恋愛
「堕ろせ。子どもはまた出来る」夫ランドルフに不貞を疑われたジュリア。誤解を解こうとランドルフを追いかけたところ、階段から転げ落ちてしまった。流産したと勘違いしたランドルフは「よかったじゃないか」と言い放った。ショックを受けたジュリアは、ランドルフの子どもを身籠ったまま彼の元を去ることに。昔お世話になった学校の先生、ケビンの元を訪ね、彼の支えの下で無事に子どもが生まれた。だがそんな中、夫ランドルフが現れて――?
エブリスタ、ムーンライトノベルズにて投稿したものを加筆改稿しております。
婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜
紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。
連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。
【完結】体目的でもいいですか?
ユユ
恋愛
王太子殿下の婚約者候補だったルーナは
冤罪をかけられて断罪された。
顔に火傷を負った狂乱の戦士に
嫁がされることになった。
ルーナは内向的な令嬢だった。
冤罪という声も届かず罪人のように嫁ぎ先へ。
だが、護送中に巨大な熊に襲われ 馬車が暴走。
ルーナは瀕死の重症を負った。
というか一度死んだ。
神の悪戯か、日本で死んだ私がルーナとなって蘇った。
* 作り話です
* 完結保証付きです
* R18
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
【完結】初恋の彼に 身代わりの妻に選ばれました
ユユ
恋愛
婚姻4年。夫が他界した。
夫は婚約前から病弱だった。
王妃様は、愛する息子である第三王子の婚約者に
私を指名した。
本当は私にはお慕いする人がいた。
だけど平凡な子爵家の令嬢の私にとって
彼は高嶺の花。
しかも王家からの打診を断る自由などなかった。
実家に戻ると、高嶺の花の彼の妻にと縁談が…。
* 作り話です。
* 完結保証つき。
* R18
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる