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ルードヴィッヒ三世
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「おぉ! よく来たな、イクシオン。――そしてそなたが王弟妃か!」
開いた扉から中へ入ると、開口一番に笑顔のルードヴィッヒ三世が立ち上がり、両手を広げて出迎えてくれた。
「陛下、もう少し落ち着かれてください。我が妃が驚いています」
少し手前でイクシオンは足を止め、異母兄であるルードヴィッヒ三世を諌めるように話している。
応接室のようなだだっ広い部屋には立派なソファや机が置いてあり、様々な絵が壁に飾られていた。
「いや、あれだけ結婚に興味のなかったお前が、ようやく妃を娶ったのだ! ついにイクシオンの嫁に会えると、興奮してしまった」
金色の髪には白髪も多く混じり髭も白かったが、歳を重ねた風貌は威厳も感じさせる。
だが元々が精悍な顔立ちのルードヴィッヒ三世は、年相応の包容力がありそうな落ち着いた男性だった。
「国王陛下、お初にお目にかかります。私はオリビアと申します」
「オリビアと申すのだな! 会いたかったぞ、義妹よ!」
「――っ!」
勢いよくガバッと抱きつかれ、さすがのオリビアも予測できず、驚愕のあまり硬直してしまった。
ルードヴィッヒ三世は温厚で平和的な性格で、熾烈な王権争いを経験してきたからなのか、とても家族を大切する傾向が強いことは知っていた。
だからこそイクシオンのことも我が子のように可愛がり、親族間での争いが二度と起きないように、王位継承に関する法も厳しく制定し直したのだ。
「異母兄上っ! それはやりすぎですっ!」
隣にいたイクシオンが慌てた様子でオリビアの体を引き離していた。
腕を離したルードヴィッヒ三世はその様子を興味深く見ていた。
「あぁ……、すまない。だが、イクシオンがちゃんと妃を大事にしているようで安心したぞ」
にこりと笑ったルードヴィッヒ三世は顔に皺を刻んでいた。年をとっていても渋さと威厳のある顔つきはむしろオリビアの好みの顔だった。
ファザコン気味のオリビアとしては、このくらい年上の男性のほうが恋愛対象として見れる。
ただ見とれている場合ではなく、オリビアの一挙手一投足を見られていると思って、慎重に行動しなくてはいけない。
「国王陛下……イクシオン殿下は行き場のない私を拾ってくださり、領地にまで招いてくださった心優しきお方です。私のこともとても大切に扱ってくださいます」
「おおっ、そうか! イクシオンは余が細かく聞いても答えてくれないのだ。すぐにはぐらかしよるっ」
「それは陛下が唯一のご兄弟だからでしょう。ご家族だからこそ話しづらいのかもしれません。それだけ陛下を大切に思われている証拠だと私は思います」
実際、イクシオンはこの異母兄をとても慕って尊敬している。
幼少期に怯えた生活を送っていたイクシオンを保護し、助けてくれたのは他でもないルードヴィッヒ三世だ。
だからこそイクシオンは自身をだらしなく見せ、王位を放棄してルードヴィッヒ三世の子供へと王位を引き継げるようにしたのだ。
「おい、勝手なことをベラベラと話すな」
「勝手ではありません。殿下の心情を代わりに陛下へお伝えしているだけです」
「それが勝手だと言っている」
「では私がお伝えするのではなく、殿下が直接陛下へお話してはいかがでしょう?」
諭すように笑顔を向けてイクシオンに促した。
それはもちろん、イクシオンに後悔してほしくないからだ。
「っ」
「お叱りはあとでいくらでも受けます。ですが、やはり大切なことは隠すのではなく、言葉に出して伝えるべきではないでしょうか」
「俺はいつも……、異母兄上に感謝している。そんなことを言葉に出さずとも、異母兄上はなんでもわかってらっしゃるんだっ」
「それは大変失礼いたしました」
オリビアがわざわざイクシオンの秘めたる気持ちを言わせたいのには理由がある。
開いた扉から中へ入ると、開口一番に笑顔のルードヴィッヒ三世が立ち上がり、両手を広げて出迎えてくれた。
「陛下、もう少し落ち着かれてください。我が妃が驚いています」
少し手前でイクシオンは足を止め、異母兄であるルードヴィッヒ三世を諌めるように話している。
応接室のようなだだっ広い部屋には立派なソファや机が置いてあり、様々な絵が壁に飾られていた。
「いや、あれだけ結婚に興味のなかったお前が、ようやく妃を娶ったのだ! ついにイクシオンの嫁に会えると、興奮してしまった」
金色の髪には白髪も多く混じり髭も白かったが、歳を重ねた風貌は威厳も感じさせる。
だが元々が精悍な顔立ちのルードヴィッヒ三世は、年相応の包容力がありそうな落ち着いた男性だった。
「国王陛下、お初にお目にかかります。私はオリビアと申します」
「オリビアと申すのだな! 会いたかったぞ、義妹よ!」
「――っ!」
勢いよくガバッと抱きつかれ、さすがのオリビアも予測できず、驚愕のあまり硬直してしまった。
ルードヴィッヒ三世は温厚で平和的な性格で、熾烈な王権争いを経験してきたからなのか、とても家族を大切する傾向が強いことは知っていた。
だからこそイクシオンのことも我が子のように可愛がり、親族間での争いが二度と起きないように、王位継承に関する法も厳しく制定し直したのだ。
「異母兄上っ! それはやりすぎですっ!」
隣にいたイクシオンが慌てた様子でオリビアの体を引き離していた。
腕を離したルードヴィッヒ三世はその様子を興味深く見ていた。
「あぁ……、すまない。だが、イクシオンがちゃんと妃を大事にしているようで安心したぞ」
にこりと笑ったルードヴィッヒ三世は顔に皺を刻んでいた。年をとっていても渋さと威厳のある顔つきはむしろオリビアの好みの顔だった。
ファザコン気味のオリビアとしては、このくらい年上の男性のほうが恋愛対象として見れる。
ただ見とれている場合ではなく、オリビアの一挙手一投足を見られていると思って、慎重に行動しなくてはいけない。
「国王陛下……イクシオン殿下は行き場のない私を拾ってくださり、領地にまで招いてくださった心優しきお方です。私のこともとても大切に扱ってくださいます」
「おおっ、そうか! イクシオンは余が細かく聞いても答えてくれないのだ。すぐにはぐらかしよるっ」
「それは陛下が唯一のご兄弟だからでしょう。ご家族だからこそ話しづらいのかもしれません。それだけ陛下を大切に思われている証拠だと私は思います」
実際、イクシオンはこの異母兄をとても慕って尊敬している。
幼少期に怯えた生活を送っていたイクシオンを保護し、助けてくれたのは他でもないルードヴィッヒ三世だ。
だからこそイクシオンは自身をだらしなく見せ、王位を放棄してルードヴィッヒ三世の子供へと王位を引き継げるようにしたのだ。
「おい、勝手なことをベラベラと話すな」
「勝手ではありません。殿下の心情を代わりに陛下へお伝えしているだけです」
「それが勝手だと言っている」
「では私がお伝えするのではなく、殿下が直接陛下へお話してはいかがでしょう?」
諭すように笑顔を向けてイクシオンに促した。
それはもちろん、イクシオンに後悔してほしくないからだ。
「っ」
「お叱りはあとでいくらでも受けます。ですが、やはり大切なことは隠すのではなく、言葉に出して伝えるべきではないでしょうか」
「俺はいつも……、異母兄上に感謝している。そんなことを言葉に出さずとも、異母兄上はなんでもわかってらっしゃるんだっ」
「それは大変失礼いたしました」
オリビアがわざわざイクシオンの秘めたる気持ちを言わせたいのには理由がある。
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