【R18】復讐を決意した傷もの令嬢は、魅惑の王弟殿下に甘く翻弄される 〜契約結婚の条件に夜伽が含まれていたなんて聞いてません!〜

ウリ坊

文字の大きさ
39 / 99

心に秘めた思い 2

しおりを挟む

「もちろんです。父にも言われました。復讐からは何も生まれないと……わかっているんです。こんなことをしても意味はないと。でも、それでは私の腹の虫が収まりませんっ」

「意味は、なくないのだろう。お前がこれまで培った全てを台無しにされ、大事な者たちを貶められたのだろう?」

 俯いたオリビアを見下ろすように、イクシオンが目の前で足を止めた。

「今日のお前を見て、改めて思った。お前の婚約者だった男は、正真正銘のクズだということだ」
 
「……その通りです」

「お前のような優秀な女を捨て、見た目だけの女を選び自分の欲を優先したのだからな」

「殿下が言うと違和感があります……」

 ボソッと呟いたオリビアの言葉が聞こえたのか、イクシオンは笑っている。

「ククッ、まぁな。俺も人のことは言えない」

 わずかに顔を上げたオリビアだが、視線はイクシオンの胸元をぼんやりと見ている。
 今の気分でイクシオンの顔を見ることができなかった。

「私は、男になりたかったんです。父も母も私が初めの子でしたから、やはり男児を望んでいました。ですが産まれたのは私でした。そして次に産まれたのも妹でした……」

 こんな話は今まで誰にも話したことはなかった。
 なんの関係もないイクシオンだからこそ言えたのかもしれない。
 それとも、ずっと誰かに聞いてほしかったのかもしれない。

「だから死に物狂いで領地のことや、語学や財政について勉強しました。男の人に負けないくらい様々な知識を身につければ、いずれ夫となる男性と共に領地を助けられると信じて……」

 オリビアはそのまま後ろを振り返り、イクシオンに背を向けた。

「母が幼い頃に亡くなり、男手一つで私たちを育ててくれた父を、少しでも楽させてあげたかったんです。なのにっ……!」

 オリビアはグッと拳を握りしめ、怒りに体を震わせている。

「式の当日に婚約者には裏切られ……その一家からは、女が、領主の真似事をしているからだと責められ、挙げ句っ……すべて、私のせいだと……莫大な、賠償金まで、請求されましたっ……」

 じわじわと視界が涙で歪み、頬を伝った雫がポタポタと地面に落ちてシミを作っていく。

「私の、してきたことはっ……全部、無駄だったんですっ! こんな、結末のために、今まで、頑張ってきたわけじゃ、ないのにっ! 復讐などではなくっ……、大切な人たちのために、この知識を、役に、立てたかったっ……!!」

 せきを切ったように流れる涙を止めることもできず、オリビアの嗚咽と共に次々と零れてくる。

 イクシオンに慰めを求めているわけではなかった。
 ただ、誰かに自分の気持ちを聞いてほしかった。
 溜まりに溜まっていた行き場のない苦しい思いを、吐き出したかったのかもしれない。

 背を向けて泣いているオリビアの後ろからイクシオンが近づき、声を押し殺して泣いているオリビアの腕を引くと、自分の腕の中へと抱き寄せた。

「――!」

 驚きよりも体を締め付けている腕の力強さに切なさを感じ、堪えきれず声を上げて泣き出した。
 イクシオンは揶揄うわけでもなく、黙ってオリビアが落ち着くまで抱きしめていた。
   
 しばらく泣いて、嗚咽も徐々に治まってきたころ、イクシオンが静かに口を開いた。

「お前のおかげで今日の会談は無事に成功した。我が国とリュビーナ国とは相性が悪いからか、これまでの交渉はすべて決裂し平行線を辿っていたんだ。異母兄上もたいそう喜んでいただろう?」

 イクシオンの腕の中は相変わらず心地良い。
 ぴったり触れ合っているこの温もりに、自分でも知らないうちに癒されていく。

「今日、お前があの場にいなければ、国家間で亀裂が入っていたはずだ。これがきっかけで紛争に発展していたかもしれん」

「そんな……大げさ、です……」

「大げさではない事実だ。だから異母兄上もあそこまで焦っていたのだ」

 慰めてくれているイクシオンの言葉に、悲しかった気持ちも、涙も、次第に薄れていった。

「そうでなれば、普段なら褒美など与えたりしない。さらにお前は明確な褒美を言葉にしなかった……それがまた異母兄上の心を動かした」

 そろっと腕の中から涙に濡れた顔を上げると、イクシオンがオリビアを見下ろして、慈しむように微笑んでいた。

「――ッ」

「おそらく、遠くないうちに法改正が行われるだろう。女性でも爵位継承や起業できる未来が訪れる。これまでお前のように努力しても報われなかった者たちに、お前が希望を与えたんだ」

「私が……?」

「そうだ。それでもまだお前は、自分の努力がすべて無駄だったと言えるのか?」

 止まったはずの涙が、再び瞳いっぱいに溜まり、またオリビアはイクシオンの胸に顔を埋めた。

「~っ! 柄にもないことを、言うのは、やめて、くださいっ……」

「妻が泣いているのに慰めない夫がどこにいる。俺は女にだらしないが、お前の元婚約者のような薄情な人間ではないぞ」

 いつものようにオリビアを揶揄うイクシオンではなく、優しく気遣う感じに、調子が狂ってしまう。

「……そんなことは、知っています」

(私はここに、恋愛をしに来たわけじゃないんだ。私の目的は復讐だから。それを、忘れては、いけない……)

 胸の奥から沸き起こる気持ちをどうにか抑えながら、オリビアは背中に回した腕に力を込めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください

無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――

傲慢な伯爵は追い出した妻に愛を乞う

ノルジャン
恋愛
「堕ろせ。子どもはまた出来る」夫ランドルフに不貞を疑われたジュリア。誤解を解こうとランドルフを追いかけたところ、階段から転げ落ちてしまった。流産したと勘違いしたランドルフは「よかったじゃないか」と言い放った。ショックを受けたジュリアは、ランドルフの子どもを身籠ったまま彼の元を去ることに。昔お世話になった学校の先生、ケビンの元を訪ね、彼の支えの下で無事に子どもが生まれた。だがそんな中、夫ランドルフが現れて――? エブリスタ、ムーンライトノベルズにて投稿したものを加筆改稿しております。

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

【完結】体目的でもいいですか?

ユユ
恋愛
王太子殿下の婚約者候補だったルーナは 冤罪をかけられて断罪された。 顔に火傷を負った狂乱の戦士に 嫁がされることになった。 ルーナは内向的な令嬢だった。 冤罪という声も届かず罪人のように嫁ぎ先へ。 だが、護送中に巨大な熊に襲われ 馬車が暴走。 ルーナは瀕死の重症を負った。 というか一度死んだ。 神の悪戯か、日本で死んだ私がルーナとなって蘇った。 * 作り話です * 完結保証付きです * R18

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結】初恋の彼に 身代わりの妻に選ばれました

ユユ
恋愛
婚姻4年。夫が他界した。 夫は婚約前から病弱だった。 王妃様は、愛する息子である第三王子の婚約者に 私を指名した。 本当は私にはお慕いする人がいた。 だけど平凡な子爵家の令嬢の私にとって 彼は高嶺の花。 しかも王家からの打診を断る自由などなかった。 実家に戻ると、高嶺の花の彼の妻にと縁談が…。 * 作り話です。 * 完結保証つき。 * R18

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

処理中です...