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会食前の準備
しおりを挟むそして二日後。
移動に時間がかかるため、イヤリングやネックレスなどの装飾品は鞄に詰め、ドレスはイクシオンの瞳の色と合わせ、広がりの少ない落ち着いた色合いのものを用意した。
ロイズや屋敷の使用人たちに見送られ、二人で馬車に乗り込む。
「殿下。大まかでいいので、王家の方々のご紹介をお願いしてもよろしいですか?」
馬車に乗ることの少ないイクシオンと共に、対面で座っていた。
馬車だと移動に丸一日という時間がかかるため、この時間を有効活用してイクシオンに説明を求めた。
「あぁ、そうだな。……まず王妃殿下はご病気のため離宮で療養されている。元々持病をお持ちだそうだが、ここ最近は俺も会っていない。なので今回の会食には姿は現さないな。そして異母兄上の子供には第一王子メルディオと第二王子コンラートがいる。メルディオは婚約していて、おそらくその婚約者も会食には出席するだろう。コンラートは婚約自体していないので、こちらは単体での出席となる」
ざっくりとわかりやすく説明してくれるイクシオンの話を聞き、自分が予め知っていた情報と誤差がないことに安心した。
「王子殿下方について、何か気をつける点はございますか?」
「コンラートはとくに気をつけることはない。温厚な性格で頭も良く人当たりもいい。……問題は第一王子のメルディオだ。あいつは気が強く攻撃的な性格だ。異母兄上もいらっしゃるからあからさまな態度は取らないだろうが、お前に対しても嫌味の一つくらいは言って来るだろう。いい気はしないと思うが、黙って聞き流していればいい」
「……承知、いたしました」
攻略対象者第一王子のメルディオ、そして第二王子のコンラート。
イクシオンの言う通り、ゲームでのメルディオも勝ち気で気性も荒く気も短い。
嫡男だからかとくに王太子の座を狙う意欲が強く、未だに王位継承を決めかねているルードヴィッヒ三世に対し、自分が後継者だとアピールしていた。
ゲームだと積極性もあり俺様キャラで人気もあったが、現実だと関わりたくない相手だ。
反対にコンラートは賢く控え目な性格で、兄との摩擦を無くすためか、王位を狙っている素振りはない。
優しい性格で物腰も柔らかいが、腹の底は読めない雰囲気がある。
兄のメルディオとは間逆な性格だが、油断もできない相手だった。
(たしか、メルディオはイクシオンと五つ違いの二十四歳、コンラートはさらに三つ下の二十一歳。どっちも私よりは年下だ)
年齢で態度を変えるわけではないが、オリビア自身、年下にはまったく興味が沸かない。
攻略対象者だからか、二人とも見目は完璧に整っている。
だが、それを上回る美貌の王弟殿下を毎日眺めているのだから、オリビアの心が一ミリたりとも動くことはないだろう。
「どうした? 急に黙って」
「いえ。やはり自分の選択は間違っていなかったのだと、再確認していただけです」
真面目な顔をして応えたオリビアに、イクシオンはわからない顔で問いかけている。
「――今の会話から導き出される答えとしては脈絡がなさすぎるが」
「申し訳ございません。私自身に対し改めて確認しただけで、殿下のご説明に対しての返答ではありませんでした」
イクシオンの美貌を見ながら淡々と答えるが、性格、地位、現在の立ち位置、すべてにおいてオリビアが求める条件に完璧に合っている人物はやはりイクシオンしかいない。
それを改めて納得していただけだった。
「やはりお前は変わっているな。時々何を考えているのかさっぱりわからん」
「私のことはどうでもいいのです。あと余談ですが、第一王子殿下のご婚約者様について教えてください。もしかしたらお話しする機会があるかもしれませんので」
ここで素知らぬ振りをしてアフロディーテについて聞いてみることに。
イクシオンがどこまでアフロディーテに未練を抱いているのか、オリビアとしてはとても気になっていた。
「……メルディオの婚約者はアフロディーテ嬢だ。侯爵家の出だが、医師を目指している珍しい女性だ。未来の第一王子妃として頻繁に王城に出入りしている。それ以外ではよく町へ出向き、孤児院や病院を回っては救済活動している」
普通に考え、甥っ子の婚約者の情報をここまで詳しく知っているのはおかしい。
もちろんオリビアは知っていて聞いているのだが、思っていた以上にアフロディーテのことをよく知っているイクシオンに、真顔で鋭い一言を放つ。
「ずいぶん、お詳しいのですね?」
「っ! まぁ、な。一応親族として、頭に入れておかないと……」
いつもの美貌に翳りが見え、歯切れの悪い返事に心の奥がもやもやする。
イクシオンの気持ちは誰よりもよくわかっているはずなのに、実際本人から話を聞くと、どこか腹立たしくて渦巻くような苛立ちを感じる。
「――わかりました。ありがとうございます。殿下のご説明も踏まえ、自分なりに対処してまいりますので、ご心配には及びません」
苛立ちを抑えきれず、つい冷淡な口調で突き放すような態度を取ってしまう。
オリビアは現実のアフロディーテには会ったこともなく、地方出身ということもあり存在すら知りはしない。
そういう態度でいなければいけないのに、イクシオンへの恋心に気づいてしまったからか、どうしても冷静ではいられなかった。
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