【R18】復讐を決意した傷もの令嬢は、魅惑の王弟殿下に甘く翻弄される 〜契約結婚の条件に夜伽が含まれていたなんて聞いてません!〜

ウリ坊

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不安 2

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 ――コンコン。

 突然、外からノックの音が聞こえる。

 自分に用のある人間など、イクシオンくらいしか考えられないが、それにしてはノックが控えめすぎる。

「……はい」

 ベッドから起き上がり、扉を見ながら疑心暗鬼で返事を返す。

「あ……オリビア様、私です。ライアンですが、入ってもよろしいでしょうか?」

「ライアン卿ですか?!」

「はい」

 その瞬間、ライアンが引き金でイクシオンと揉めたことを思い出す。

 さすがに若い男性を部屋に入れるわけにはいかない。
 たとえ騎士団長でも、いらぬ誤解を招きかねないからだ。

「今、出るのでお待ちください」

 ベッドから降りると急いで扉まで近づき、ドアノブに手をかけてゆっくりと開いた。
 開いた隙間から顔を出すと、ライアンの姿が目に入る。

「オリビア様! お久しぶりですっ」

 銀色の髪に、深い群青色の瞳。 
 廊下で待ち構えていたライアンも変わりはなく、相変わらず女性を虜にする甘いマスクで嬉しそうに微笑んでいた。 
 ひとまず部屋から出ると、ライアンに挨拶を交わす。

「お久しぶりです、ライアン卿。その節は大変お世話になりました」
 
「と、とんでもございません! 私のほうが色々とお騒がせしてしまいましたので……」
  
 シュンとした表情で申し訳なさそうに話すライアンにオリビアは思い出した。
 おそらく最後の日のことを言っているのだろう。
 
「いいえ。お力添えをいただいたのはこちらのほうです。心より厚くお礼申し上げます」

 にこりと微笑んでその場で一礼をした。

 イクシオンが意味のわからないことで怒っただけで、ライアンには本当に助けてもらった。
 あの時はとてもお礼を言っている場合ではなかったので、急いで帰ってもらったが、オリビアも心の中で気にはかかっていた。

「お礼などは不要ですよ。それより、オリビア様のお怪我は大丈夫なのですか? 安否の確認もできずに王都へ戻らなくてはならず、イクシオン殿下にお伺いしても答えてくださいませんでしたので、ずっと心配しておりました」

「そ、そうでしたか……。私のことなど気になさらずともよかったのです。おかげさまで早い段階で完治することができました。これも急ぎで運んでいただいたライアン卿のおかげです。ありがとうございました」

 ようやくお礼を言うことができ、オリビアの心に引っかかっていたものも、スッと消えて無くなった。

「いえ、元はと言えば、私がお怪我をさせてしまったようなものなので……」

 見上げていたオリビアの手を取ると、ライアンは屈んで手の甲に軽くキスをしている。

「っ」

 この挨拶自体は一般的で、親愛さを込めてするものなので特別な意味などはない。
 しかし、このような場面ですることに違和感を覚えた。
 
(イクシオンはライアン卿が私に気があるようなことを言ってた。そんなの思い過ごしだと思っていたけど、あんなこと言われた後だから考えすぎているの?)

 ライアンの性格は読めない。
 元々が天然の女ったらしな性格なので、様々な女性に勘違いさせるような行動を取っている。
 オリビアがどうということではないのだ。

 一応、周りに人がいないことを確認し、ホッと胸を撫で下ろす。

 だが、再び顔を上げたライアンはわずかに頬を赤く染め、オリビアをとても愛おしそうに見つめていた。

「ライアン、卿?」
 
「貴女が無事で、本当に良かった……」

 オリビアを見る瞳に、明らかな好意と熱が籠められていた。

「ずっと、オリビア様のことが気がかりで……お会いしたかったんです」

「――!」

 ドクンっ、と心臓が嫌な音を立てている。

 ライアンは握った手を離すことなく、今度はオリビアの手のひらに再び唇を当て、キスを送っている。
 手を引こうとしたが、強く握られた手は振り解くことができなかった。
 まさかと思ったが、確証がないため本人に問うことも躊躇ためらわれた。

 ひとまず冷静になり、ライアンに向かって静かに口を開いた。

「見ての通り、私はもうなんともありません。ライアン卿も職務がおありでしょうから、どうぞお戻りください。すでに貴方の任は解かれ、私の護衛騎士ではないのです」

「あっ……、はい。仰る、通りです……」

 オリビアの突き放した言い方に、悲しそうに顔を曇らせたライアンだったが、最後は必死な表情で話しかけてきた。

「オリビア様っ! もし、王城で困ったことなどありましたら、いつでも私にお声をかけてくださいっ!」

 あまりにも切迫した様子に、断ろうとした言葉を飲み込んだ。
 今度は突き放すことはせずに、淡々と差し障りのない返事を返した。

「ありがとうございます。その時はよろしくお願いいたします」

「はいっ。では、失礼いたします!」

 パァッと満面の笑みを浮かべたライアンを見送ると、オリビアはすぐに扉を開けて部屋へと入った。

「はぁぁーー………」

 誰もいない部屋の中でしゃがみ込み、その場で深くて長いため息をついた。

(勘違いだと、思いたい……イクシオンがあんなこと言うから、余計に変な勘ぐりをしてしまう)

 ライアンは元から態度がおかしいのだ。
 オリビアに対して親しげにするのは、ただ懐かれているから。
 今の会話も、怪我を心配して出ただけのこと。
 ただそれだけだ――
 
 しかし、だとしたら今のあの表情は?     
 言葉や行動の意味は?
 
 いくらライアンが天然でも、夫で王弟でもあるイクシオンが側いるのに、困ったことがあったら自分を頼ってほしいなどと言うのだろうか……

 まだ決めつけるのは早い。
 もう少し様子を見てからでも遅くないだろう。
 もし、少しでもオリビアに好意を寄せているとわかったのなら、ライアンと関わらなければいいだけだ。
 会わなければそのうち自分のことなど忘れるだろう。

 そしてまた深いため息をつく。

 思い過ごしであってほしいと、心の底から願って、勢いよくその場から立ち上がった。
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