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疑念
しおりを挟む「殿下、そろそろ降ろしてください。ここまでくれば誰も見ていません」
ひとまず人目につかない場所までイクシオンに抱えられて移動してきた。
王城の廊下に入り、そこには人気はなかった。
「部屋まで運んでやるぞ」
「そこまでしていただかなくて結構ですから、降ろしてくださいっ」
当たり前のことのように言われるが、怪我もしていない今はオリビアのプライドが許さなかった。
「我が妃は頑なだな。さっきまではあんなに素直だったんだが」
文句を言いながらも、イクシオンはすんなりと降ろしてくれた。
「っ! あ、あれはっ……一時の、気の迷いです」
「ふ~ん、そうか」
疑わしげに屈んで顔を覗き込んで近づくイクシオンに、オリビアは避けるように後ろへ後退していく。
だが廊下の壁まで追い込まれて跡がなくなると、怯むようにイクシオンを見上げた。
「――んっ?!」
警戒したとおりに突然唇を奪われ、壁に押し付けるくらい激しく深く重ねられる。
しかもイクシオンの膝がオリビアの足の間に入り、押し付けるように何度も小刻みに揺らしている。
「っ、ん、んっ!」
内股に力を入れて止めようとするが、まったく意味はなく、秘部を擦るように膝で刺激され、甘い痺れが体を駆け巡っていく。
「ふッ! ぅ、んッ!」
離れてはまた深く奪われる唇と膝の刺激に夢中になり始めると、ふと開いた視界の端にある人物が映った。
(あんなところに、ライアン卿がっ……!)
タイミング悪くライアンがこちらに向かって歩いてきている。
慌ててイクシオンの胸を押して唇を離した。
「はっ、ぁ……殿下、人が……ッ!」
「――他人に気を取られるとは、ずいぶん余裕があるんだな?」
無理やり唇を離したことが気に入らなかったのか、低い声で呟いたイクシオンはオリビアの首筋に唇を当て、何ヶ所も痕を刻むようにキツく吸っている。
「ぃ! おやめっ、ぅ、っ!」
「ちょうど良かった。見せつけてやればいいだろう? そうすれば、あいつも諦めがつく」
誰が、とは言わなかったが、イクシオンは見ている人物がライアンだと気づいているようだった。
言葉通り、見せつけるように服の上からオリビアの体を弄り、首筋や胸元の際どい部分にも唇を寄せている。
「なん、のっ……、ぁっ、ん」
「だが、お前のその顔をヤツに見せるのはどうも癪に障るなぁ。余計な考えを持たれても困るから、やはり部屋に移動するか」
そう言うと今度はオリビアの体を持ち上げた。
「あっ!」
「ほら、しっかり捕まってろ」
荷物でも持ち上げるように抱き上げられ、不安定な姿勢に慌ててイクシオンの首に抱き着いた。
「もうっ、さっきからなんですか! 自分で歩けますっ」
不安定な姿勢に怖さを感じ、暴れることもできずに口で反論していた。
「ライアンに襲われたくないのなら、俺にキスでもしておくんだな。あいつの顔を見てみろ」
半信半疑で背後を見ると、ライアンがひどく傷ついた顔をして、呆然とオリビアたちを眺めていた。
目が合うとパッと視線を逸らされ、一礼してその場を走り去ってしまった。
「――ぁ」
「俺の言ったことがよくわかっただろう。お前とライアンの関係性ならあんな表情や態度はしないだろうがな。……だが、ヤツはどうだ?」
オリビアも確信があったわけではない。
しかし、オリビアの部屋をわざわざ訪ねてきた時の、あの行動は忘れることはできなかった。
それでもライアンの好意が恋愛から来るものではないと信じたかった。
すべての行動を繋ぎ合わせると、イクシオンの言葉に信憑性が生まれてくる。
(まさか、本当に……ライアン卿のような人が、なぜ私を? 今でも信じられないし、疑問しか出てこない)
「私の、何がいいのか……理解できません」
イクシオンにというよりは、心の声が漏れたように呟いた。
「理解できないのか?」
「はい」
「じゃあ、しなくていい。理解する必要はない」
答えを求めていたわけではないが、イクシオンはいつになく冷淡に言い放った。
「は? なぜですか?」
オリビアを担いですたすたと歩いているイクシオンに疑問の声を投げかけるが、それ以上の答えは得ることができなかった。
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