【R18】復讐を決意した傷もの令嬢は、魅惑の王弟殿下に甘く翻弄される 〜契約結婚の条件に夜伽が含まれていたなんて聞いてません!〜

ウリ坊

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日常 6

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 王城から戻り、また日常が始まった。

 この頃、オリビアは身辺整理をしていた。
 すでに建国祭まで残り半月をきっていたからだ。

 元々少ない荷物だったが、ここに来てから増えた物も少なからずあり、ベッドの上で自分の持って来た鞄に必要なものを詰めている最中だった。

(あっ……これは、前に町に行った時、イクシオンが買ってくれたネックレスだ)

 手のひらには長方形の薄い箱があり、開くと小さな金色の宝石が付いたネックレスが入っていた。
 常に身に着けていろと言われたが、馬にも乗るし、失くすのが怖くて着けられなかった。
 せめてもの思い出に、これだけは持っていこうとそっと箱を鞄にしまった。

 改めて自分が使っていた部屋を見渡す。
 元々私物は少なかったが、増えた物もだいぶ減らしたのでスッキリした室内になった。

 建国祭まで極力自分がいた痕跡を残さないように抑えたつもりだ。
 オリビアが居なくなれば部屋の模様替えもするとは思うが、なるべく来た当時のまま変えないように心掛けている。

 この前王城を訪ねた時も、建国祭の準備が着々と進んでいた。
 同時に、復讐の準備ももう整っている。

(もう建国祭の日を迎えるだけ。あとは、そうだ……イクシオンに一つだけお願いしておかないといけない)

 立ち上がると、まとめた荷物を部屋の隅に隠し、部屋から出た。

 廊下を出て向かった先は、いつもの執務室だ。
 ノックをしてから声を掛ける。

「殿下、私です。入ってもよろしいでしょうか?」

「あぁ、入れ」

「失礼いたします」

 中に入るとロイズはできた書類を机の上でトントンと整えている途中だった。
 イクシオンは自分の机に座り、書類に印を押している。
 最近は珍しく、なぜかまた書類仕事に没頭する日が増えていた。

「どうした?」

 机の少し前で立ち止まると、顔を上げて問いかけてきたイクシオンに、いつもより緊張感を持って話しかけた。

「殿下に、お願いがあってきました」

 いつもと違う雰囲気をいち早く察したのか、書類を片手に持ったロイズが素早く席を立った。

「あっ、私は席を外しますね」

「いえ、ロイズさんがいてもらっても全く問題は――」

「こちらの案件は済みましたから、どうぞお二人でごゆっくりお話しください」

 笑顔でそう言うと、そそくさと部屋から出ていってしまった。
 別にロイズに聞かれてもなんの支障もなかったのだが、気を利かせてくれたのだろう。

「……で? お前が俺にお願いとは珍しいな」

「はい。いよいよ建国祭まで半月を切りました。そこで殿下にお願いなのですが、当日に私を王族の列に並ばなくていいよう、取り計らっていただけないでしょうか?」

「王族の列に?」

「えぇ。曲がりなりにも、今の私は王弟妃です。建国祭当日には国王陛下のお側で、王族として参列しなくてはなりません」

「あぁ。たしかにそうだな」

「私は元婚約者に王弟妃になったことを知られたくないのです。知られてしてしまうと復讐を果たせなくなってしまいます。ですから、これが私の最後の願いです」

「……そうか」

 一言言った切り、イクシオンは黙ってしまった。

「難しい要求なのはわかっています。ですが、どうかお願いいたしますっ!」

 深く頭を下げて、真摯に頼み込んだ。
 こればかりは聞いてもらわないと復讐にならなくなってしまう。
 頭を下げてしばらくすると、黙っていたイクシオンが静かに口を開いた。

「――我が妃たっての願いだ。俺が何とかしよう」

「っ! ありがとうございます、殿下っ!」

 顔を上げて笑顔でお礼を言い、ホッと胸を撫で下ろした。
 これで復讐に必要な条件は全て揃った。

 椅子から立ち上がったイクシオンが、オリビアに近づいてくる。

 見上げているとイクシオンの手が伸び、オリビアの頬をスッと指で撫でた。

「お前がここに来て、もう半年も経つのか?」

「はい」

「気持ちはまだ変わらないか?」

 オリビアを見下ろしているイクシオンの表情に、揶揄っている素振りはない。
 
「何に対しての気持ちでしょうか?」

 答えを求めて真っ直ぐ見つめていたが、イクシオンは答えずに黙ってオリビアの頬を何度も撫でていた。

 ただ、いつもの美貌に翳りが見えている。
 
「私の気持ちはどうあっても変わりません。初めにお話しした通り、建国祭の日に計画を実行するだけです」

「――そうだな。お前はそういうやつだ」

「はい。ご理解いただいているようで安心いたしました」

 ここ最近、夜伽に誘われても適当な理由をつけてすべて断っていた。
 イクシオンに抱かれていると、どうしても復讐心が薄れてしまう。
 
 建国祭が間近に迫った今、胸の奥に燃える復讐の炎を消したくなかったからだ。


 そしていよいよ、建国祭の日は刻一刻と近づいていた。
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