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日常 3
しおりを挟む夕方頃にお城へ戻ったが、まだイクシオンは帰宅していなかった。
そして戻ったのはその日の深夜だった。
「ん……?」
オリビアがベッドで寝ていると突然、背後から手が伸びて体ごと引き寄せられた。
「でん、か?」
「戻ったぞ」
「あ……、おかえりなさい、ませ」
イクシオンの体は冷たくて、布団で温まっていたオリビアは寒さを感じて身震いする。
「寒いのか?」
「殿下が、冷たくて……どうかされたの、ですか?」
「お前に会いたくて、急いで戻って来たんだ」
背後から腕が回り、オリビアの体ごとイクシオンの腕の中へとぎゅうっと閉じ込められた。
「…………大変でしたね。お疲れ様でした」
「今、サラッと俺の言葉を無視しただろ?」
「気のせいです」
「あぁ……、お前と話してこうしてると、ここに戻って来た気がするっ」
オリビアを背後から苦しいくらいに抱きしめて、吐かれた言葉にとても安堵感が籠もっていた。
いつもと違うイクシオンの様子にオリビアも違和感を感じ、眠気を振り払うように無理やり目を開けた。
「どうかされたのですか? 王城で何かありました?」
初夜を終えてからというもの、定期的に夜伽を求められていた。
その際たまに一緒に寝ることがあっても、基本的にイクシオンは自分の部屋へ戻って寝ている。
とくに王城から戻ったあとのイクシオンは人と接したがらず、そのまま自分の部屋へ籠もることが多かった。
わざわざこのようにオリビアの部屋を訪ねるようなことはしなかった。
「――とくに。何もない」
オリビアを抱きしめたまま、イクシオンは一言話すとそれ以上口を開かなかった。
おそらく話したくないことなのだろう。
本人が話さないものを自分が無理やり聞くわけにもいかない。
「無事に帰宅されたようで安心いたしました。殿下も早めにお休みください」
はじめに一緒に寝た時は抵抗があったが、今では気にならなくなった。
どうせイクシオンの気が済んだら、自分の部屋へと戻るのだろう。
そう思い、オリビアは気にせずにスッと目を閉じて意識を手放す。
しばらく沈黙が続き、またウトウトしてきたところにイクシオンの声が背後から聞こえる。
「お前もすっかり危機感がなくなってしまったな」
「ふあぁ~……殿下に、いちいち警戒していたら、身が、持ちません……」
一日中歩いていたからか、この日はとくに眠かった。イクシオンと話していたが、今にも意識が飛びそうだった。
誰かと触れ合って寝ることにも慣れてきたからかもしれない。
男性と一緒に寝ることなど絶対に無理だと思っていたオリビアだが、イクシオンと触れ合って寝ることに意外なほど抵抗はなく、近頃は心地良ささえ感じてさらに眠気を深めていた。
「ったく、――なやつだ」
「ん……? 何か、おっしゃいましたか……?」
あと少しで寝落ちするところだったからか、断片的にしか言葉を聞き取れなかった。
目を擦りながら後ろを振り返って聞き返したが、イクシオンはオリビアの体を元の位置に戻した。
「なんでもない。早く寝てしまえ」
「あ……はい。おやすみ、な、さい……」
限界だったオリビアは、その言葉を最後に瞳を閉じると、またスゥーっと意識が遠退いていく。
眠りに入る直前に頬に柔らかな感触を感じたが、そのまま眠ってしまった。
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