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最終話
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「――で? お前は俺をどう思ってるんだ?」
話を変えたと思ったが、しつこく聞いてくるイクシオンにため息をついた。
「そんなに聞きたいのですか?」
「あぁ」
「では、もう一生言わないと思うのでよく聞いていてください」
「――そこまで言うのなら、よほどすごい言葉が聞けるんだろうな。一生分の愛を告白してくれるんだろう?」
からかうように耳元で話すイクシオンの顔を手で退かすようにやんわりと押した。
「勝手に持ち上げるのはやめてください。私はこう言った類の言葉は苦手なんです。私がここにいることこそが証明になるのですから、いちいち言葉に出して言わなくてもいいじゃないですか」
「いいから早く言え。前置きが長すぎる」
そしていい加減痺れを切らしたイクシオンが不機嫌そうに催促してくる。
「……ですから、言葉通りです。今この場にいることがすべての私の気持ちです」
「それじゃわからん」
「そもそも王弟妃なんて、私には荷が重すぎるのです」
後ろからイクシオンに抱きしめられたまま、視線を下に落としてポツポツと話していく。
「とてもそうは見えないな。お前ほど上手く立ち回れるやつもそういないだろう」
「私を買い被りすぎです。前にも言ったじゃありませんか、私は元々とても臆病なんです。復讐という目的もありましたし、期間限定の契約だったからこそ、自分を奮い立たせて王弟妃という立場にこれまで立たせていただきました」
半年という契約で、イクシオンの元から離れると思っていたからこそできたことだった。
話し出したら止まらなくなり、オリビアはここぞとばかりに本音を語っていく。
「正直、今後のことを考えると今でも逃げ出したい気持ちでいっぱいです。しょせん、片田舎出身の地方貴族には王弟妃などという高すぎる地位はものすごい重圧なんですよ! 今からでも他国に移り住んで自由気ままに暮らしたいと思うくらい、嫌で嫌で仕方がありませんっ!」
「……そこまで嫌なのか?」
心底嫌そうに気持ちを込めて力説しているオリビアに、イクシオンは複雑そうな顔をして悲観的な言葉を漏らしていた。
「はい、もちろんです」
「――ッ!」
きっぱりと断言したオリビアに、イクシオンは少なからず衝撃を受けたように止まっていた。
「そんなに、ショックを受けることでしたか?」
意外そうな顔でイクシオンを見上げていると、拗ねたように言葉を返してきた。
「当然だろう……」
イクシオンには悪いと思ったが、自分の言葉でここまでショックを受けていることを嬉しく思ってしまう。
やはりこれまで言われた言葉に嘘はなく、自分のことを想ってくれているという実感が湧いてくる。
くるりと体勢を変えたオリビアは、イクシオンの背中に腕を回して抱きついた。
その状態のまま、改めてイクシオンを見上げる。
「ですが……その面倒事、すべて引き受けてもいいと思うくらい、貴方が好きです!」
恥ずかしさはあったが、ドキドキしながら美しい顔を見つめてはっきりと言い切った。
やはり自分の心に誠実になれることは、オリビアにとってスッキリできて嬉しさが先立つ。
「――オリビア……」
意外なほど素直に自分の気持ちを伝えたオリビアに、イクシオンは驚きを隠せないようだった。
言ってからもやはり恥ずかしくて、赤くなった顔を勢いよくイクシオンの胸元に埋めて隠した。
「あぁっ~! もう、言いましたからね! これ以上の苦情は受け付けませんからっ!」
自分の性に合っていないことはよくわかっているし、イクシオンのように上手く言葉にできるわけがないのだ。
「お前は可愛げがないくらいがちょうどいいのかもしれないな」
「――はい? それはどういう……?」
ため息混じりに言われた言葉の意味がわからなくて、再び顔を上げてイクシオンを見上げた。
イクシオンは屈んでオリビアの頬に唇を寄せたかと思うと、胸元に手を伸ばして手慣れた様子で服のボタンを次々と外している。
「素直すぎると、すぐにこうしたくなるという意味だ」
愛しさを隠しきれないように何度も頬にキスを送り、はだけた服の隙間から当然のように手が侵入してきている。
「んっ、ぁ、殿下っ。ちょっ……と、勝手に、脱がさないで、ください」
頬に触れる唇の柔らかな感触に目を細めた。次第に下に降りていくイクシオンの唇を心地よく感じる。
不埒に動くイクシオンの手を自分の手で制止しようとしたが、そんな抵抗はなんの意味もなさなかった。
「互いの気持ちもわかったことだし、今度は体で語り合うとするか。朝まで存分にな……」
耳元で甘く囁かれる言葉に、カァーっと体が熱くなっていく。
「~~ッ! いりませんっ!」
オリビアの叫びが部屋に響くが、抗議の声はどんどん小さくなり、次第に蕩けるような嬌声へと変わっていく。
自分は甘く翻弄されるだけで、この魅惑の王弟殿下に敵うことは一生ないのだろう。
それを悪くないと思ってしまっている自分に呆れながら、オリビアはイクシオンの与えてくれる温もりに胸いっぱいの幸せを感じるのだった。
完
話を変えたと思ったが、しつこく聞いてくるイクシオンにため息をついた。
「そんなに聞きたいのですか?」
「あぁ」
「では、もう一生言わないと思うのでよく聞いていてください」
「――そこまで言うのなら、よほどすごい言葉が聞けるんだろうな。一生分の愛を告白してくれるんだろう?」
からかうように耳元で話すイクシオンの顔を手で退かすようにやんわりと押した。
「勝手に持ち上げるのはやめてください。私はこう言った類の言葉は苦手なんです。私がここにいることこそが証明になるのですから、いちいち言葉に出して言わなくてもいいじゃないですか」
「いいから早く言え。前置きが長すぎる」
そしていい加減痺れを切らしたイクシオンが不機嫌そうに催促してくる。
「……ですから、言葉通りです。今この場にいることがすべての私の気持ちです」
「それじゃわからん」
「そもそも王弟妃なんて、私には荷が重すぎるのです」
後ろからイクシオンに抱きしめられたまま、視線を下に落としてポツポツと話していく。
「とてもそうは見えないな。お前ほど上手く立ち回れるやつもそういないだろう」
「私を買い被りすぎです。前にも言ったじゃありませんか、私は元々とても臆病なんです。復讐という目的もありましたし、期間限定の契約だったからこそ、自分を奮い立たせて王弟妃という立場にこれまで立たせていただきました」
半年という契約で、イクシオンの元から離れると思っていたからこそできたことだった。
話し出したら止まらなくなり、オリビアはここぞとばかりに本音を語っていく。
「正直、今後のことを考えると今でも逃げ出したい気持ちでいっぱいです。しょせん、片田舎出身の地方貴族には王弟妃などという高すぎる地位はものすごい重圧なんですよ! 今からでも他国に移り住んで自由気ままに暮らしたいと思うくらい、嫌で嫌で仕方がありませんっ!」
「……そこまで嫌なのか?」
心底嫌そうに気持ちを込めて力説しているオリビアに、イクシオンは複雑そうな顔をして悲観的な言葉を漏らしていた。
「はい、もちろんです」
「――ッ!」
きっぱりと断言したオリビアに、イクシオンは少なからず衝撃を受けたように止まっていた。
「そんなに、ショックを受けることでしたか?」
意外そうな顔でイクシオンを見上げていると、拗ねたように言葉を返してきた。
「当然だろう……」
イクシオンには悪いと思ったが、自分の言葉でここまでショックを受けていることを嬉しく思ってしまう。
やはりこれまで言われた言葉に嘘はなく、自分のことを想ってくれているという実感が湧いてくる。
くるりと体勢を変えたオリビアは、イクシオンの背中に腕を回して抱きついた。
その状態のまま、改めてイクシオンを見上げる。
「ですが……その面倒事、すべて引き受けてもいいと思うくらい、貴方が好きです!」
恥ずかしさはあったが、ドキドキしながら美しい顔を見つめてはっきりと言い切った。
やはり自分の心に誠実になれることは、オリビアにとってスッキリできて嬉しさが先立つ。
「――オリビア……」
意外なほど素直に自分の気持ちを伝えたオリビアに、イクシオンは驚きを隠せないようだった。
言ってからもやはり恥ずかしくて、赤くなった顔を勢いよくイクシオンの胸元に埋めて隠した。
「あぁっ~! もう、言いましたからね! これ以上の苦情は受け付けませんからっ!」
自分の性に合っていないことはよくわかっているし、イクシオンのように上手く言葉にできるわけがないのだ。
「お前は可愛げがないくらいがちょうどいいのかもしれないな」
「――はい? それはどういう……?」
ため息混じりに言われた言葉の意味がわからなくて、再び顔を上げてイクシオンを見上げた。
イクシオンは屈んでオリビアの頬に唇を寄せたかと思うと、胸元に手を伸ばして手慣れた様子で服のボタンを次々と外している。
「素直すぎると、すぐにこうしたくなるという意味だ」
愛しさを隠しきれないように何度も頬にキスを送り、はだけた服の隙間から当然のように手が侵入してきている。
「んっ、ぁ、殿下っ。ちょっ……と、勝手に、脱がさないで、ください」
頬に触れる唇の柔らかな感触に目を細めた。次第に下に降りていくイクシオンの唇を心地よく感じる。
不埒に動くイクシオンの手を自分の手で制止しようとしたが、そんな抵抗はなんの意味もなさなかった。
「互いの気持ちもわかったことだし、今度は体で語り合うとするか。朝まで存分にな……」
耳元で甘く囁かれる言葉に、カァーっと体が熱くなっていく。
「~~ッ! いりませんっ!」
オリビアの叫びが部屋に響くが、抗議の声はどんどん小さくなり、次第に蕩けるような嬌声へと変わっていく。
自分は甘く翻弄されるだけで、この魅惑の王弟殿下に敵うことは一生ないのだろう。
それを悪くないと思ってしまっている自分に呆れながら、オリビアはイクシオンの与えてくれる温もりに胸いっぱいの幸せを感じるのだった。
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