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帰還
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イクシオンと共に馬に乗って、またライアーロードの城まで戻って来た。
「妃殿下っ! 無事に戻られたようで安心いたしました」
執務室にいたロイズが椅子から立ち上がってオリビアの帰還を笑顔で喜んでくれている。
「ロイズさん、ありがとうございます。ご心配をおかけいたしました。その……もう少し、お世話になる、かもしれません」
戻って来たのはいいが、今度は契約期間などは定めていない終身契約だ。
これから上手くやれるか、イクシオンがいつまで自分を好きでいてくれるのか、胸に燻る不安をすべて拭い去ることはできなかった。
「何をおっしゃってるんですか! 妃殿下はこのライアーロードにはなくてはならない存在なんです! もう、様々な意味で居てもらわなくては困りますッ!」
「ロイズの言う通りだ。お前の終の住処はここだからな」
当たり前のように言われて嬉しさもあるが、ここで喜んでしまっては示しがつかない。
「それは殿下次第です」
「じゃあ決まりだな」
屈んだかと思えば、イクシオンは艶やかに笑って横からオリビアの顔を覗いている。
「この先のことなんて、わからないじゃないですか……」
イクシオンの言葉に嘘はないと信じたいが、持続性のない飽きっぽい性格を知っているだけに不安は尽きなかった。
「どうやら我が妃は言葉だけじゃなく、違う形で俺にわからせてほしいようだ」
色を含んだ甘い口調で背後から抱きしめられると心臓がドキッと跳ねる。
「ちょっ……、違います! そういうつもりでは言った訳ではありません」
振り解こうとするが、イクシオンの腕の力は思いのほか力強く、すっぽりと腕の中に収まってしまった。
「そういうつもりとは、どういうつもりだ?」
揶揄いの延長なのか思いが通じ合ったからなのか、今までこんなに自然に触れてくることはなかった。
ちょっとした態度の変化に喜びと恥じらいが交差する。
「それはっ……」
イクシオンは横からオリビアの顔を覗き込みながら、楽しそうに問いかけていた。
ここにはロイズもいるし、口に出して言うことも憚られる。
頬を赤く染めて言い淀んでいると、離れたところで見ていたロイズが控え目に声を上げた。
「えー……、妃殿下も戻られたことですし、私はこれにて失礼させていただきます」
苦笑いをしたロイズが、いたたまれなさそうに机を離れている。
「ロイズさんっ?!」
「どうぞお二人でごゆっくりお過ごしください。ではっ!」
気を利かせてくれたのか、ただ単に自分がいたくなかったのかわからないが、ロイズはそう言ってその場で一礼した。
「待っ……!」
そこからのロイズの行動は早かった。
ドアに近づいたかと思うと、すぐに扉の向こうへと姿を消してしまった。
「邪魔者もいなくなったし、これでゆっくり語り合えるな」
そう言ってオリビアの頬にキスを送っている。
「先ほど十分に語り合いました」
どこまでも甘い触れ合いに慣れず、オリビアは身を捩って逃れようとしている。
「いや? まだお前の気持ちを聞いていないぞ」
オリビアの抵抗などものともせず、イクシオンは腕を回して体をがっちり固定してしまった。
「わ、私の気持ち……? 言ったと思いますが」
「明確に聞いてない。ほら、俺をどう思ってるか言ってみろ」
「ここに残ったのですから、それが証明になると思います」
横から顔を覗いているイクシオンに素っ気なく言い返す。
「お前の口からはっきり聞きたい……」
「ぅっ」
耳元で切なげに言葉を催促されると、強く言えなくなる。
「私は、殿下のように言い慣れていないので」
これまで誰かに面と向かって愛を語ったことも囁いたこともない。
元々自分は好きでもない最悪な男と結婚して、恋愛とはまったく関係ない人生を送るものだと思っていた。
「俺もだ」
意外な一言を呟いたイクシオンに、思わず目が点になる。
「――はっ? 何をおっしゃってるのかわかりません。そんなことあるわけないじゃないですか」
「ほぅ……? なぜお前にそんなことがわかるんだ?」
他の女性とのすべてのやり取りがわかる訳ではないが、少なくともアフロディーテのことは本気で口説いていた。
それに全年齢版のゲームで濡れ場などなかったからわからないが、一夜を共にするくらいなのだから言わないわけがないだろう。
「殿下の女性遍歴はある程度理解しているつもりです。あれだけ数多くの美女を相手にしてきたのですから、口説き文句などお手のものでしょう」
急に冷ややかな態度に変わったオリビアに、イクシオンは少し間をおいてから答えた。
「まぁ、口説きはしてきたが……、愛してると言ったのはお前が初めてだ」
当たり前のようにサラッと話すイクシオンに、オリビアのほうが顔を赤くして動揺している。
「~~っ! ほ、ほらっ、やっぱり慣れてるじゃないですか! そんな自然にあ、あ、愛してる、だなんてっ……!」
「俺くらいの男になると、相手の容姿を褒めるだけで大抵の女は落ちるからな。だから好いてもない女を相手に愛を語るなんて、したことがない」
きっぱりと言い切られるが心中は複雑だった。
つい真顔になり、軽蔑した視線をイクシオンに送る。
「……殿下って、ある意味最低な男ですよね」
「クククッ、俺にはそれが許される」
「はあ、左様でございますか」
当然のことのように笑って話すイクシオンを呆れた様子で見ていた。
「妃殿下っ! 無事に戻られたようで安心いたしました」
執務室にいたロイズが椅子から立ち上がってオリビアの帰還を笑顔で喜んでくれている。
「ロイズさん、ありがとうございます。ご心配をおかけいたしました。その……もう少し、お世話になる、かもしれません」
戻って来たのはいいが、今度は契約期間などは定めていない終身契約だ。
これから上手くやれるか、イクシオンがいつまで自分を好きでいてくれるのか、胸に燻る不安をすべて拭い去ることはできなかった。
「何をおっしゃってるんですか! 妃殿下はこのライアーロードにはなくてはならない存在なんです! もう、様々な意味で居てもらわなくては困りますッ!」
「ロイズの言う通りだ。お前の終の住処はここだからな」
当たり前のように言われて嬉しさもあるが、ここで喜んでしまっては示しがつかない。
「それは殿下次第です」
「じゃあ決まりだな」
屈んだかと思えば、イクシオンは艶やかに笑って横からオリビアの顔を覗いている。
「この先のことなんて、わからないじゃないですか……」
イクシオンの言葉に嘘はないと信じたいが、持続性のない飽きっぽい性格を知っているだけに不安は尽きなかった。
「どうやら我が妃は言葉だけじゃなく、違う形で俺にわからせてほしいようだ」
色を含んだ甘い口調で背後から抱きしめられると心臓がドキッと跳ねる。
「ちょっ……、違います! そういうつもりでは言った訳ではありません」
振り解こうとするが、イクシオンの腕の力は思いのほか力強く、すっぽりと腕の中に収まってしまった。
「そういうつもりとは、どういうつもりだ?」
揶揄いの延長なのか思いが通じ合ったからなのか、今までこんなに自然に触れてくることはなかった。
ちょっとした態度の変化に喜びと恥じらいが交差する。
「それはっ……」
イクシオンは横からオリビアの顔を覗き込みながら、楽しそうに問いかけていた。
ここにはロイズもいるし、口に出して言うことも憚られる。
頬を赤く染めて言い淀んでいると、離れたところで見ていたロイズが控え目に声を上げた。
「えー……、妃殿下も戻られたことですし、私はこれにて失礼させていただきます」
苦笑いをしたロイズが、いたたまれなさそうに机を離れている。
「ロイズさんっ?!」
「どうぞお二人でごゆっくりお過ごしください。ではっ!」
気を利かせてくれたのか、ただ単に自分がいたくなかったのかわからないが、ロイズはそう言ってその場で一礼した。
「待っ……!」
そこからのロイズの行動は早かった。
ドアに近づいたかと思うと、すぐに扉の向こうへと姿を消してしまった。
「邪魔者もいなくなったし、これでゆっくり語り合えるな」
そう言ってオリビアの頬にキスを送っている。
「先ほど十分に語り合いました」
どこまでも甘い触れ合いに慣れず、オリビアは身を捩って逃れようとしている。
「いや? まだお前の気持ちを聞いていないぞ」
オリビアの抵抗などものともせず、イクシオンは腕を回して体をがっちり固定してしまった。
「わ、私の気持ち……? 言ったと思いますが」
「明確に聞いてない。ほら、俺をどう思ってるか言ってみろ」
「ここに残ったのですから、それが証明になると思います」
横から顔を覗いているイクシオンに素っ気なく言い返す。
「お前の口からはっきり聞きたい……」
「ぅっ」
耳元で切なげに言葉を催促されると、強く言えなくなる。
「私は、殿下のように言い慣れていないので」
これまで誰かに面と向かって愛を語ったことも囁いたこともない。
元々自分は好きでもない最悪な男と結婚して、恋愛とはまったく関係ない人生を送るものだと思っていた。
「俺もだ」
意外な一言を呟いたイクシオンに、思わず目が点になる。
「――はっ? 何をおっしゃってるのかわかりません。そんなことあるわけないじゃないですか」
「ほぅ……? なぜお前にそんなことがわかるんだ?」
他の女性とのすべてのやり取りがわかる訳ではないが、少なくともアフロディーテのことは本気で口説いていた。
それに全年齢版のゲームで濡れ場などなかったからわからないが、一夜を共にするくらいなのだから言わないわけがないだろう。
「殿下の女性遍歴はある程度理解しているつもりです。あれだけ数多くの美女を相手にしてきたのですから、口説き文句などお手のものでしょう」
急に冷ややかな態度に変わったオリビアに、イクシオンは少し間をおいてから答えた。
「まぁ、口説きはしてきたが……、愛してると言ったのはお前が初めてだ」
当たり前のようにサラッと話すイクシオンに、オリビアのほうが顔を赤くして動揺している。
「~~っ! ほ、ほらっ、やっぱり慣れてるじゃないですか! そんな自然にあ、あ、愛してる、だなんてっ……!」
「俺くらいの男になると、相手の容姿を褒めるだけで大抵の女は落ちるからな。だから好いてもない女を相手に愛を語るなんて、したことがない」
きっぱりと言い切られるが心中は複雑だった。
つい真顔になり、軽蔑した視線をイクシオンに送る。
「……殿下って、ある意味最低な男ですよね」
「クククッ、俺にはそれが許される」
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当然のことのように笑って話すイクシオンを呆れた様子で見ていた。
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