【R18】復讐を決意した傷もの令嬢は、魅惑の王弟殿下に甘く翻弄される 〜契約結婚の条件に夜伽が含まれていたなんて聞いてません!〜

ウリ坊

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「感謝申し上げます。――私は小さな領地で領主の娘として生を受けました。我が家は跡取りとなる男児がいませんでした。そこで長女の私が他の男性と婚約し、その方と共に父の跡を継ぎ、領地を守っていく予定でした。しかし……その婚約者が他の女性を選んでしまったため、私は自分の領地にはいられなくなってしまったのです」

 静かに話し始めたオリビアの話に耳を傾けるように、辺りは静まり返っていた。
 あえて細かくは話さず、ざっくりと話を切り出して話していく。

「他の女を選んだだけならば、そなたが出ていく必要はなかろう?」

「……お恥ずかしい話なのですが、その婚約者は結婚式の当日に別の女性を花嫁として連れてきたのです。式には親類を含め、沢山の人間を呼んでおりました。そこで醜態しゅうたいを晒されてしまった私が領地に留まることはできませんでした。加えて今年で二十六になります。次の婚約者を見つけることは困難な状況でした」

 そしてまた、周りがシーンと静まり返る。
 いったん間を置き、またオリビアは口を開いて話を続けていく。

「そんな行き場のない私を拾ってくださった方こそが、こちらにいらっしゃいますイクシオン殿下だったのです」

 オリビアの言葉に周囲の視線が一気にイクシオンへと集中した。
 ルードヴィッヒ三世からも驚きの声が上がる。

「イクシオンのほうから声をかけていたのか!」

 これは話の経緯いきさつでわかったことだが、イクシオンは国王陛下に自分たちの馴れ初めは話していなかった。

 適当な理由で誤魔化し、結婚の承諾だけ貰って戻って来たのだろう。
 イクシオンの性格からそういったことを話したがらないだろうから、嘘と真実を混ぜながら脚色して話を続けた。

「はい。私は自分の生まれ育った場所を夫となる者と共に統治するために、これまで領地に関する様々な知識やたくさんの言語を学んでまいりました。ですが婚約者の不祥事のせいで全てが無駄になるところだったのです。しかし、殿下は私の能力を高く評価してくださり、陛下から賜った領地を守るためにと、私を自領へと招いてくださいました。殿下には感謝してもしきれません」

「そんな経緯があったのか――」

 ルードヴィッヒ三世がどう思っていたのかわからないが、見た目も平凡でなんの取り柄もなさそうな自分とイクシオンが結婚する理由が思い浮かばなかったのだろう。

 しかし意外な事実を聞くことで、ルードヴィッヒ三世も納得したはずだ。
 自分たちについて変に勘繰られるのは嫌だったし、これでイクシオンの心象も悪くならないだろう。

 イクシオンはかたわらでまた複雑な顔をしていたが、話に割り込むことはしなかった。

「はい。私はとても幸運だったのです。――世の中には素晴らしい能力を持ちながら、それでも女性というだけで発揮する場を持てず、歯痒い思いをされている方が少なからずいらっしゃいます」

 オリビアは静かに話を続けながら、訴えるような真剣な眼差しをルードヴィヒ三世に向けた。

「私は幸いにも殿下に拾っていただけたので、こうして微力ながら殿下や国王陛下のお役に立つことができました。ですから、陛下にその事実を少しでも知っていただければと思い、こうしてお話をさせていただいた次第でございます」

 オリビアの話が終わったあとも周りは静まり返っていた。
 そしてしばらくしてルードヴィッヒ三世が重い口を開いた。

「うむ……そうだったか。イクシオンはいつまでもフラフラとして心配しておったが、余の与えた領地を大事にしてくれていたのだな」
 
 しみじみと話すルードヴィッヒ三世に、オリビアは頷くことで肯定した。

「そなたと共にライアーロードを守るのならば、これからの心配はいらないだろう。イクシオンは突然の婚姻について話したがらなかったが、そなたの説明で納得がいったぞ。オリビアよ……そなたの話、余の胸にしかと留めておくとしよう」

 ルードヴィッヒ三世がオリビアを見下ろし、にこりと顔に皺を刻んでいた。
 
「ありがたき幸せ。陛下のそのお気持ちだけで私も救われました」

 オリビアも微笑むと、ゆっくりと頭を下げた。

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